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ロシアの進化論裁判 (2007/02/10)


Scienceの2007年2月2日号の「 CREATIONISM IN RUSSIA 」によれば:

A Russian court is scheduled to resume hearing testimony on 21 February in the country's first legal challenge to the teaching of Darwinian evolution.

ロシア法廷は、ロシアではじめてのダーウィン進化論教育に対する法的挑戦において、宣誓証言を2月21日に再開する。

Mariya Shraiber, 16, an 11th grader at public school No. 148 in St. Petersburg, has sued the Russian Ministry of Education and Science, claiming--on the basis of an obscure law governing political parties--that the school's biology textbook offends her religious sentiments because it does not allow for other theories, such as creationism. She also contends that the science in The Origin of Species is unproven and derived from Marxist-Leninist ideology.

16歳のサンクトペテルスブルグ第148公立学校11年生のMariya Shraiberは、政党を規定する目立たない法律に基づいて、学校の生物の教科書が創造論のような理論を許容していないので、彼女の宗教的感情を損なうと主張して、ロシア教育科学省を訴えた。彼女は、さらに種の起源の科学が証明されておらず、マルクス・レーニン主義のイデオロギーに基づくものだと主張した。

The case--dubbed the "Monkey Process" by the Russian press as a nod to the Scopes trial--is being promoted by a maverick Russian public relations agent who set up a Web site called antidarvin.ru. Mariya's father Kirill, who is representing her in court, says his daughter does not belong to any particular faith.

"Scopes Trial"にちんで、ロシアの報道機関が"Monkey Process"と呼ぶこの裁判は、antidarvin.ruというサイトを立ち上げた一匹狼の広報エージェントによってプロモートされている。Mariyaの法定代理人であるMariyaの父Kirillは、娘がどこの宗派にも属していないと言っている。

The plaintiffs have the support of members of the Russian Orthodox Church, some of whom have regularly attended the court proceedings. Russian scientists are less enthusiastic. Nobel Prize-winning physicist Vitaly Ginzburg has characterized the lawsuit as "disgusting obscurantism and delirium."

原告はロシア正教会のメンバーの支持する。そして、その人の何人かは公判に定期的に出席している。ロシアの科学者はあまり熱心ではない。ノーベル賞受賞物理学者Vitaly Ginzburgは、訴訟を「うんざりする反啓蒙主義と精神錯乱」と描写した。

Andrei Fursenko, the country's education and science minister, suggested last month in a radio interview that he is not averse to amending the textbook to include a variety of theories.

Andrei Fursenko教育科学大臣は、先月のラジオ取材で、様々な理論を教科書に含めることに反対ではないと示唆した。

ロシア方面も創造論の侵入が進んでいるもよう。

ロシア創造論の「進化論がマルクス・レーニン主義のイデオロギーに基づく」という主張については、コメントしておくべきだろう。といっても、あまりネタがないので、1965年のノーベル賞受賞のフランスの生物学者Jacques Monod(1910~1976)によるマルキシズムと科学についての論評を見ておくことにする。

で、Jacques Monodは"Chance and Neccesity"において:

弁証法的矛盾をあらゆる運動、あらゆる進化の根本法則に仕立てるのは、やはり自然にかんする主観的解釈を組織化しようと試みることにほかならない。そして、この主観的解釈を行うことで、自然のなかから上昇的・建設的・創造的企てを発見することができ、ついに自然をば、解読可能な、そして道徳的に意味のあるものに仕立てることができるとしている。これは物活説的計画であって、いかなる偽装が施されていようと、それはかならず見破られてしまうだろう。

これは、たんに科学と無縁であるばかりか、科学と両立できない解釈である。そのことは、弁証法的唯物論者がたんなる理論的駄弁ではなく、彼らの考えかたにもとづいて実験科学の道を照らし出そうとするたびに、はっきりしてきたのである。エンゲルス自身(もっとも、彼は同時代の科学について深い薀蓄があったのではあるが)、弁証法の名において、同時代の最大の発見のうち二つを排斥しているのである。すなわち、熱力学の第2法則と、彼がダーウィンを賞賛していたにもかかわらず、進化についての純粋に淘汰の見地に立った解釈とである。

[Jacques Lucien Monod: "Chance and Necessity", 1970; 渡辺格・村上光彦訳: 偶然と必然, 1972] pp.45-46

"科学的"とか"唯物論"といっても、それは名称だけだったらしい。科学の原則たる方法論的自然主義は、経験的に検証可能なものに限定され、超自然は取り扱い対象外とするもの。これに対して、唯物論はふつう形而上学的自然主義すなわち超自然はないとする。しかし、マルクスな"唯物論"は「上昇的・建設的・創造的企てを発見する」ようなもの。

そのような、マルキシズムな唯物論が進化をどう考えるかを、Jacques Monodが次のように表現する:

思考が宇宙的運動の一部であり、しかもその反映であるがゆえに、また思考の運動が弁証法的であるがゆえに、宇宙自体の進化の法則は弁証法的でなくてはならない。自然現象にかんして矛盾・肯定・否定などの用語が用いられるのは、以上のことによって説明がつき、そして正当化される。

弁証法は建設的である。それゆえ、宇宙の進化は、それ自体が上昇的かつ建設的である。その最高の表現は、この進化の必然的所産たる人間の社会・意識・思考である。

宇宙構造を持っている進化する本質に力的をおくばあい、弁証法的唯物論は18世紀の唯物論を根本的に超克したものだと言える。後者は古典的論理にもとづいたもので、不変的であると想定された物体のあいだでの機械論的相互作用しか認めえなかったのであり、したがって進化を思考する能力を持つことできずにいたからである。(p.40)

有神論なインテリジェントデザインと無神論なマルキシズムだが、機械論でない"科学"を自称するところは同じようなもの。




最終更新:2010年01月17日 17:15