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コントロールの回復手段としての妄想


「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」と Whitsonは語った


人々は、迷信から進んで陰謀論に入っていく...

迷信を理解するために、WhitsonとGalinskyは被験者たちに自身の体験を書かせた。半分の被験者にはコントロールできた状況を、残りの被験者には相手側による自動車事故や病気による友人や家族への被害というコントロールできない状況の麻痺状態を詳細に書かせた。それに続く実験で、全被験者に、仕事の会議でアイデアが認められるといった顕著な結果が出るが、その前に足でリズムを3回とるといった無関係な行動をするストーリーを読ませた。コントロールできない状況の経験を書かされた被験者たちは、ストーリーの結末に迷信が関係していると非常に信じ、迷信的行動をしなかったときに将来に起きる出来事への恐怖をより感じた。

足でリズムを取ったり、やラッキーソックスを履いたりするのは、変ではあっても、実害はない。しかし、感情のコントロールが弱まった状態を経験した被験者たちには、より悪意ある陰謀が、何事もない状況の水面下に隠れていると考える傾向があった。たとえば、昇格できなかった従業員について書かれた文を読んだときには、無力な被験者たちは、同僚と上司の間の私的会話のせいだと考える傾向があった。

[ When seeing IS believing (2008/10/02) on Eurekalert]

迷信と言えば野球にもよくみられる...

コントロールが失われると、合理的な人々が実際には存在しないパターンを見出すようになる。この発見が非合理的な行動を説明するかもしれないと米国の研究者が木曜日に発表した。

野球の選手が複雑な儀式的行動をしたり、相場アナリストが何の問題もないデータに不吉の前兆を見たりする理由を説明できるかもしれないと研究者たちは述べた。
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「野球選手がラッキーTシャツを着たり打席に立つ前に特定の動作をしたりすることを知っている」とWhitsonはScienceのサイトの音声インタビューで答えている。


もちろん、相場にも...

最近の研究によれば、混乱した時期は危険な時期であり、これは現在の金融危機への警告でもある。

経済的メルトダウンの可能性は十分に悪い。有力な人間が混乱した世界に"秩序"を必要とするようになると、たとえそれが空想上の“秩序”であっても、そこから性急な反応につながる。

[ Colin Nickerson: "Chaos may make you see 'things'" (2008/10/06) on The Boston Globe]

ストレスのもとでは精神は自然に幻想や迷信を作り出し、これが世界的金融危機を悪化させかねないと科学者たちは言う。
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恐ろしい見出し

別の実験では、被験者たちは2つの見出しを読むよう指示された。

第1の見出しは「投資家に迫り来る荒波」であり、もうひとつの見出しは「投資家に順調な航海」である。

被験者たちは2つの企業に対する記述を与えらた。第1の企業について16の肯定的コメントと8の否定的コメントつきで、第2の企業について8の肯定的コメントと4の否定的コメントつきで。

二つの企業についての肯定と否定のコメントの比率は同じだが、投資先としてどちらを選ぶか問われると、「迫り来る荒波」という見出しを読まされた被験者たちは、第2の企業をほとんど選択しなかった。

さらにボラタイルな市場状況で、再度、肯定的およに否定的コメントを読んでもらうと、投資家たちは第2の企業についての否定的情報の量を過大に評価した。

研究者たちによれば、これは感情の抑制が損なわれると、ネガティブな気分と企業についてのコメントの少なさについての"錯覚な相関関係"が被験者に形成されることを意味する。

[ 'Illusions driving market havoc' (2008/10/03) on BBC]

第2次世界大戦中のロンドンでは...

Northwestern UniversityのKellogg School of ManagementのGalinsky教授は、第2次世界大戦で空襲を受けたときのロンドン市民の反応など歴史事例にも、この傾向は見られると述べた。

「戦後の統計解析では空襲は都市全体にランダムに行われたことが明確に示されているが、人々は都市の特定の場所が狙われ、別の場所は狙われていないと確信していた。狙われていない場所に住む人々は、ナチのシンパだと疑われ、生活や安全を脅かされた。そして、狙われていると思われる地区から人々は、実際に系統的空襲ではないのに、系統的空襲から逃れようと、そこから出て行った。

[ John Tierney: "See a Pattern on Wall Street?" (2008/10/03) on New York Times -- Tierrey Blog]

コントロールの喪失はこのような陰謀論選好へとつながっていく...

その理由は、AustinのUniversity of TexasのJennifer Whitsonと、Northwestern UniversityのAdam Galinskyによれば、理解できない力で制御不可能になったという感情を、パターン認識が埋め合わせていること。パターン認識は、生命はランダムだという感覚を均衡させ、何が起きているか理解し、その事態に自分が影響を及ぼせるという感覚を回復させる。株式市場の崩壊を巨大な陰謀論で説明する方が、金融システムが自分の理解を超えていると考えるよりも安心できる。陰謀論を信じれば事件の原因と動機が定まり、単なる偶発時と考えるよりも合理的だと思えるようになり、乱れて予測のつかない現実をコントロールのもとにおくことができる。

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人間の精神は、世界はランダムであると考えるよりも、神秘的で目に見えない力が秘かに働いていると信じたがる。Whitsonは次のように書いている「あらゆるデータに、人々は誤ったパターンを見出し、株式市場にトレンドを見出し、なじみの人間に陰謀を見出す。コントロールを失うと、たとえそれが空想上の秩序であっても、本能的に秩序を求める。」



コントロールの回復手段としての否定論


否定論を考えるNew Scientistの連載で、 Debora MacKenzie は、「コントロールの回復」という魅力を、人が否定論に引きこまれる理由だと主張している。

ひとつの仮説を提示しよう。否定論は普通の人の考え方から生み出される。大半の否定論者は普通の人々で、自分が信じているものが正しいと考えている。... 何を否定していても、否定運動は使っている戦術のみならず、多くの共通点を持っている。彼らはすべて自らを、真実を抑圧したり、悪意あるウソを人々に押しつけようとする陰謀に加担する腐敗したエリートたちに対して、勇敢に戦いを挑む弱者だとみなしている。陰謀は多くの場合、不吉な政策を推進するものだと主張される。たとえば、過剰福祉国家、世界経済の支配、政府による個人の支配、金融利益、無神論など。...

この共通の場は、否定論の根底にある原因について多くを知らせてくれる。まず知るべきは、否定論が最も繁殖しやすいのは、科学を信じるしかない分野である。抗生物質否定論が存在しないのは、実際に抗生物質が効くのを見れるからだ。しかし、ワクチン否定論は存在する。それはワクチンが病気を予防すると言われているだけだからだ。ワクチンが効いているために、我々の多くはその病気を実際に見ることがない。

同様に、地球温暖化、進化論、タバコと癌の関係も、科学者や医者やその他の専門技術者の言葉を信じるしかない分野である。

自分たちの生活に大きく影響するにもかかわらず、理解の及ばないもの。理解するために払うべきコストはあまりに高く、専門家の言葉を信じるしかない分野。まさに、自分の手に負えないものに翻弄される感覚。

その無力感から逃れる方法が否定論だという。

これを、多くの人々は、自らの生活の重要な面を脅かすものだと見ている。昨年テキサス州では、創造論を学校の理科カリキュラム基準に入れようとした州教育委員は「誰かが専門家に対して立ち上がらなければならない」といったことを述べた。

ここでの問題はコントロールの喪失である。このような状況では、多くの人々は、自分たちの手にコントロールを取り戻すような代替的説明を選好し、専門家の証拠を拒絶する。たとえ、代替的説明が証拠に支持されていなくとも。

すべての否定論者はこのようにして、手の届かない自然に対するコントロールの感覚を取り戻そうとする。たとえば、自閉症について、未知の自然の原因よりもワクチンのせいだと批難する。人間は神の計画によって創られたと言い張る。そして、自分たちがOKだと考えている喫煙や石炭火力が危険なものだとわかったという考えを拒絶する。

これは必ずしも悪意あるものでもなければ、直接的な反科学でもない。実際、代替的説明は多くの場合、科学的だと描写される。そしてまた、意図的な不誠実でもない。多くの人々が使っている逸話と感情と認知のショートカットを使うだけで、否定論者となれる。否定論者の説明は科学っぽい言葉で表現されるが、実際には逸話的証拠と、コントロール回復という感情的に魅力に基づいている。


温暖化否定論やHIV否定論を支持する人々の多くは、おそらく(科学をへし曲げてでも自分たちの業界を守ろうという)悪意などないのだろう。(目の前にある証拠を無視するといった)知的に不誠実なことを意図的にやっているわけではないというのも正しいだろう。

しかし、実際には回転成層流体も大気化学もわかったわけではない。数値計算屋ならわかることだが、土地鑑なきものには真っ当な計算もできないし、結果も評価できない。コントロールを回復したという思いは幻影にすぎない。

コントロールの回復手段としてのインテリジェントデザイン


Bastiaan T. Rutjens et al[2010]は、「コントロールの喪失がインテリジェントデザイン支持を高める」ことを140名の学部学生(女性108名、男性32名、年齢平均21.06歳(標準偏差3.96歳))を被験者として実験を行って確認した。


被験者はランダムに、脅威条件と、非脅威条件に分けられた。脅威側は2段階のタスクで操作された。まず、被験者はコントロールを持っているor失った状態の不愉快な思い出を問われ、その出来事を50~100語でまとめさせられた。続いて、未来が制御可能(不可能)な理由を3つ挙げるように告げられた。

そして、58名がダーウィン進化論(TE)とインテリジェントデザイン(ID)の説明文を見せられて、41名がダーウィン進化論(TE)とConway Morrisの進化論(CMTE)の説明文を見せられて、38名がConway Morrisの進化論(CMTE)とインテリジェントデザイン(ID)の説明文を見せられて、どちらが地球の生命の起源の説明について適切なフレームワークか選択させられた。

見せられた説明文は以下の通り:

ダーウインの進化論(TE)

進化理論は、我々の世界の在り方と、宇宙の働きが進化によるものだと考える。その過程では、遺伝と繁殖と自然選択が重要な役割を果たす。この理論の基礎である自然選択は、一般に非構造的かつランダムな過程であり、予測不可能な自然環境の性質によって生命の進化が決定される。環境の違いによって生命の進化は支配され、偶然が重要な役割を果たす。

インテリジェントデザイン(ID)

インテリジェントデザイン理論は我々の世界の在り方と、宇宙の働きを、神などの高次のパワーの結果としてもっとも良く説明できるとと考える。その高次のパワーは世界をデザインし、そのコントロールために力を使う。地球の生命をランダムな過程の結果と考える進化理論と違って、インテリジェントデザインは地球の複雑さについて、そのデザインは外部のエージェント必要とすると考える。

Conway Morrisバージョンの進化論(CMTE)

最近提唱された進化論のバージョンは、収斂進化を基本的な仮定として発展した。この原理によれば、地球上の生命はランダムな過程の結果ではない。進化を再度実行すれば、必然的に現在と類似した状態に到達する。進化の過程は特定の経路に従うので、特定の構造特性に限定するメカニズムとして進化はもっともよく記述される。

そして結果は...

非脅威条件では
  • 進化論 vs インテリジェントデザインは、インテリジェントデザインのちょっと勝利、
  • Conway Morris進化論 vs インテリジェントデザイン vs 進化論は、インテリジェントデザインのそれなり勝利、
  • 進化論 vs Conway Morris進化論は、 Conway Morris進化論のちょっと勝利。

これが脅威条件で
  • 進化論 vs インテリジェントデザインは、インテリジェントデザインのかなり勝利、
  • Conway Morris進化論 vs インテリジェントデザイン vs 進化論は、インテリジェントデザインのそれなり勝利、
  • 進化論 vs Conway Morris進化論は、 Conway Morris進化論の圧倒的勝利。

「コントロールの回復」を求めて「進化論より、Conway Morris進化論あるいはインテリジェントデザインへ流れた」らしい。感情に応じて、わりと簡単に考えを変えているらしいことを示す研究である。


コントロールの回復と政府支持


コントロールの喪失(今後どうなるかわからない・何をすればいいかわからない)時には、ノイズにパターンを見出したり、陰謀論を信じたりして、コントロールが回復したと思いたがる傾向があるらしいことが、実験研究などで示唆されている。

A.C. Kay et al (2009) のレビュー論文によれば、このコントロールの(見せかけの)回復手段として、他に、政府支持や"自然界に介入する神への信仰"などもあるようだ。


心の中の補償コントロール:パターン認識

もっとも基本的な認識レベルで、我々はコントロールの喪失への反応として、秩序の感覚と環境中の構造を知覚的に再構築を行う。Whitson and Galinsky [2008]は、「人々が目的達成のために、刺激のセットの間に首尾一貫して意味のある関係を特定しようとするパターン認識を行うようになる」という仮説を立てた。

過去の相関および人類学的発見から、Whitson and Galinsky [2008]は「コントロールの喪失が人々を、それが架空のものであっても、環境中の様々パターン認識へ誘うこと」を実験的に示した。彼らは個々人のコントロールの感覚を取り去ることで、人々を(a) 日々の世界の構造の必要性への導き (b) 意味のない画像を見せて (c) ランダムで無関係な行為が、迷信や陰謀論など因果関係があると信じさせた。たとえば、ある研究では、コントロール喪失の経験を思い出させ、指定した迷信的行動を起こすことを動機付けた。世界がランダムではないとみる必要性はあまりに強く、世界を秩序ある状態にもどすために、人々はノイズにパターンを見出した。さらに、コントロールへの脅威は認識をひずめるだけでなく、真のパターンの学習と発見を誘導する[Proulx and Heine in press]。これらのプロセスは、我々が最も基本的な補償コントロールの具体例である。

Proulx, T., & Heine, S.J. (in press). Connections from Kafka: Exposure to schema threats improves implicit learning of an artificial grammar. Psychological Science
Whitson, J.A., & Galinsky, A.D. (2008). Lacking control increases illusory pattern perception, Science, 322, 115–117

存在しない因果関係を見出したり、陰謀論を信じたりするのと同様の効果を持つものとして、政府への支持があるという。

システム正当化理論のもとでの研究[Jost, Banaji, & Nosek, 2004; Kay et al., 2007]で、人々が日常的に者k政治システム(政府や大学や機関など)を擁護し、正統化することが繰り返し示されてきた。我々は、「これらのシステムがコントロールの補償源となりうることから、システム正当化が非常に強く、個人のコントロールが脅かされたときに、人々は社会政治機関が提示する構造への信仰を強めること」を示した。個人的なコントロールの感覚の増加よりも、これらの信仰の方が「イベントがランダムで行き当たりばったりではないと感じる我々の必要性」に応えている。これが我々の補償コントロールモデルの中核である。

実験研究で、Kay et al[2008]は、「過去にあったコントロール不能なイベントを思い出すことによる個人的コントロールの低下の感覚が現政権への指示を強め、個人的コントロール感が強いと、政府を批判したくなる[Shepherd & Kay, 2009]」ことを示した。これらの実験結果は、個人的コントロール感と政府支持に負の相関があることを示した67か国にわたる調査[Kay et al 2008]にって補強される。制度的支援や個人的なコントロールの相互関係も示されている。「不正をただすことに失敗した政府について書かれた記事を読むことで」人々の政府への信仰jを弱めると、個人的コントロールの幻想が増大する[Kay et al 2008]、したがって、政府機関のようなコントロールの外部ソースに対する擁護は、個人的コントロール認識によって置き換え可能である。

面白いことに、自分たちの最善の利益について警戒すべきものとして政府を見ている人々では、上記の発見は弱くなる。個人的コントロールを弱めるように操作すると、政府が慈悲深いとみている被験者のみが、政府支持を強めた。そして、個人的コントロールの低下と政府支持の増加の相関は、腐敗した国では最も弱かった。しかし、我々は補償コントロールが慈悲深い外部システムのみで起きるとは考えていない。むしろ、「人々が外部組織を選択するにあたって、より慈悲深い機関を選好する」と考えている。この話を終えるにあたって、腐敗した国々の被験者も、小さいながらも有意に、個人的コントロール減少時に政府コントロールを選好することに留意すべきである。

Jost, J.T., Banaji, M.R., & Nosek, B.A. (2004). A decade of system justification theory: Accumulated evidence of conscious and unconscious bolstering of the status quo. Political Psychology, 25, 881–920.
Kay, A.C., Gaucher, D., Napier, J.L., Callan, M.J., & Laurin, K. (2008). God and the government: Testing a compensatory control mechanism for the support of external systems. Journal of Personality and Social Psychology, 95, 18–35.
Kay, A.C., Jost, J.T., Mandisodza, A.N., Sherman, S.J., Petrocelli, J.V., & Johnson, A.L. (2007). Panglossian ideology in the service of system justification: How complementary stereotypes help us to rationalize inequality. In M.P. Zanna (Ed.), Advances in Experimental Social Psychology (Vol. 38, pp. 305–358). San Diego, CA: Academic Press
Shepherd, S., & Kay, A.C. (2009). On the Precision of Compensatory Control: Differentiating Sources of Order From Sources of Meaning. Unpublished Manuscript.

事態をコントロールしているのだという感覚が強いと政府に批判的になり、コントロールを喪失すると政府支持になるという。腐敗した政府に対しては、あまり支持が強まらないが、それでも有意な相関があるとのこと。

あとひとつは、もちろん神。ただし、神は神でも自然界に介入する神への信仰である。

天上の補償コントロール;神への信仰

コントロールしている神、特に慈悲深い神を信じることは、ランダムでカオスな世界に対する強力な保護手段である。実際、Sales [1972]が集めた証拠は、経済不況が宗教への関心、特に厳格なコントロールを行う神への関心を高めることがわかった。さらに最近には、我々[Kay et al., 2008, in press]は実験的に「認識されたコントロールの低下が、特に自然界に介入する、あるいはコントロールする神への信仰を強めること」を確認した。コントロールを喪失したイベントを思い出すことで、たとえそれがポジティブなイベントであっても、「神が自然界をコントロールしていることが強調されると、神への信仰が強化される」ことを確認した。この強調がなくなると、神はただの「創造主」とみなされるようになり、実質的に消え去る。

Kay, A.C., Moscovitch, D.A., & Laurin, K. (in press). Randomness, attributions of arousal, and belief in God. Psychological Science.
Sales, S.M. (1972). Economic threat as a determinant of conversion rates in authoritarian and nonauthoritarian churches. Journal of Personality and Social Psychology, 23, 420–428.






最終更新:2012年04月23日 23:32
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