ROTTEN KNIGHT 「ラッキードッグ1 」をプレイ


※ゲームの核心部分に触れています。ネタバレが嫌な人は、見ないことをお勧めします。


『ゲーム概要』

2009年6月に「Tennenouji」からリリースされた同人BLゲーム。発売から2年経った現在でも人気は根強く、ファンによるコスプレ、同人活動が盛んに行われている。
ファンディスク2作が発売され、追加ディスクが開発中である。



『ストーリー内容』

主人公「ジャンカルロ・ブルボン・デル・モンテ」はマフィア"CR-5"の構成員であった。1932年のある日、服役中の彼のもとにボスから司令が下る。
その内容は、同じ刑務所に服役中の4人の幹部を本拠地デイバンに連れ帰り、その報酬としてボス座を得るというものだった。
ジャンカルロは4人の幹部を無事にデイバンに連れ帰り、ボスに就任できるのだろうか…

攻略キャラ:幹部最年長「ベルナルド」 幹部唯一の現役兵「ジュリオ」 色男「ルキーノ」 異端児「イヴァン」



『難易度』

脱獄までの選択子は多いものの、攻略のセオリーである「攻略したいキャラを選ぶ」に基づけば難なくクリアできる。難しい点としては、脱獄ルートのフラグを立てる事。
このフラグを立てられないと脱獄は失敗に終わり、逃亡編、デイバン編に進めない。また、ステータスによってエンディングが変化するが、脱獄してからで十分間に間に合う。
まずは、攻略したいキャラと脱獄フラグを立てる事に専念しよう。



『操作性&仕様』

常に画面で表示されている項目が非常に多い。左上には章、日、スコアであるラッキーとオメルタ。文章の下にはバックログ、ボイスリピート、オート、スキップ、メニュー、
章別のスコア、クイックセーブ、クイックロード。視覚的には苦にならないが、何かする際に全てクリック動作となるので結構苦になる。

スキップや章別のスコアをわざわざ文章下に出す意味はあるのか? せっかくメニューがあるのだから、そこに纏めるべきだ。ボイスリピートは本当に必要か? バックログに
リピート機能があるのだから、わざわざ付ける必要無いだろ? それに、あのゲーム終了ボタンの配置は何だ? メニュー表示の分割線にしてたから、存在にすら気づかなかったぞ! 
いくら同人といっても、ブランド作って5000円近い定価で売っているのだから操作性には配慮して欲しいものだ。

唯一の救いはスクロールボタンで文章を進められる事。でも、発売された時期を考慮すればスクロールボタンの割り当ては当然の仕様だ。
トータルで見ても決して操作性は良いとは言えないだろう。


仕様でよく理解できない部分は、やたらイタリア語の単語や専門用語が出てくる事だ。雰囲気を出すための演出なのは分かるが、読み手に伝わらなければ意味が無い。
「音声が日本語で単語がイタリア語」や「音声がイタリア語で単語が日本語」なのはしょっちゅう。ただ、それならまだ良い。どちらがか日本語であれば、消去法で単語の意味を割り出せる。(それでも、プレイ時間の超過に加担してる事は変わりない) 

しかし、文章に組み込まれずに単語だけのセリフが存在し、音声も文章もイタリア語。スペルも無くカタカナ表記で調べようが無い。

いったい、制作側にはどんな意図があったのだろうか?

英語すら読めない日本人が多い中、プレイヤーの大多数がマフィアの使うイタリア語を知っている訳がない。それは小学生でも分かることだ。

固有名詞でない限り、単語の後ろに()を付けて、意味を表記すべきだ。それが最低限の配慮だ。みんな戸田奈津子じゃないんだ、未知の単語を勝手に想像して話を進めるなんて普通しない。異国への旅や外国語のテスト以外はね。


※戸田奈津子:日本で一番多く映画を翻訳した翻訳家。しかし、明らかに物語の背景を反映せずに本人の主観で勝手に翻訳することも…。誤訳の数でも日本一



『グラフィック』
アニメと言うよりはコミック風の作画で、漫画を読むような感覚でプレイできる。立ち絵と濡れ場ではキャラの表情が一変し、妙にエロくなる。しかし、それでいてアヘ顔ではない。絶妙な表情表現といえる。

コミック風のキャラに比べ、自動車、銃などはやらた立体的。キャラと立体的な道具が同時に出た際は、初期のアニメ版頭文字Dのような違和感を感じる。かなり勿体無い。アニメじゃないんだから、クルマや銃もコミック風に統一する発想は無かったのだろうか? 統一させるべきだったと私は思う。

昼夜関わらず、全体を通して明るいCGなので非常に見やすい。その点はかなり評価できる。BLゲームもエロゲの一種、細部まで見えなければ意味が無い。


『総評』
「GTA」や「マフィア」など、平がのし上がっていく裏社会ゲームが好きな人にはオススメの一作である。マフィア=市民の味方と言っても過言では無かった「禁酒法」時代の
かっこ良さが全面に出ていた。本作では全編を通したトゥルーエンドというのは存在しないのだが、私個人がトゥルーエンドと思えたのはイヴァンルート(ラッキー高め)だ。どのルートも現在進行形で展開されるのだが、そのルートだけは違う。

ネタバレになるが、途中で危篤状態の年老いたイヴァンのシーンが混じる。これにより、物語は「イヴァンの回想」だという事を成り立たせる。実際、そのシーン以降にジャンの単独行動は殆ど無くなる。悪い言い方をすれば「シードディスティニーみたいな主人公のすり替え」だが、こういう表現は意外性があって個人的には好きだ。それに、死ぬ前に好きだった人の事思い出して「今からそっちに行くからな」なんてロマンチックじゃないか。死に際まで演出するなんて恋愛ゲームの鏡だよ。

濡れ場も良かった。マニアックなプレイは一切なかった(グロプレイは除く)が、ジャンの声が妙にエロかった。高くてナヨナヨした声ではなく、藤原啓治のような低くて攻め声
だったのがリアルな感じを演出していたのだと思う。(実際、モブキャラには攻め) それに、ジュリオ以外の攻略キャラは最初ノンケだ。「何でか分からないけど」と言いながら徐々に覚醒していく様は、男性視点をよく把握した描写と言えるかもしれない。

ストーリーや濡れ場は良かった。だが、仕様で損をしてる面は否めない。やはり単語の意味ぐらい()で書いて欲しかった。プレイヤーの放置はある意味最悪の行為だ。意味を理解できないプレイヤーはそのままスルーして続けるだろうし、もし後々意味を持ってくる単語ならストーリーの把握に影響を与えかねない。良ゲーをクソゲーにする可能性もある。

ちなみに、仕様のところで「音声がイタリア語で文章が日本語」の場面が存在することを述べたが、これと同じような事を全編通して制作したゲームがあった。
その名も「ラストリベリオン」。クソゲーオブザイヤー2010の大賞に選ばれた駄作だ。仮にラッキードッグ1も全編通して制作していたらをたどっていたかも知れない。

※ラストリベリオン:PS3ソフトで初めてクソゲーオブザイヤー大賞を受賞した不名誉なタイトル。音声以外にも汚点は多く、プレイ意欲を容赦なく破壊する。



あと、最後に「ストーリーがよければ全て良し」って人も居るかもしれないが、これはビデオゲームであって小説ではない。だからこそ、私は仕様も含めてレビューする。





『余談』
今回の余談は本作に登場した車について語ろうと思う。


「逃亡時に使用した車」

OP、本編の文章、CG、舞台設定という事から推測すると、イタリアの自動車メーカー「アルファロメオ」の「6C 1750 グランスポーツ」と「6C 1750 ツーリスモ」を元にしてる可能性が高い。
なぜ"元にしてる"と表現したかと言うと、2車種の合いの子のような形状をしているからだ。ほとんどの部分はグランスポーツだが4シーターである部分はツーリスモだ。

モデルとなった6Cはレースにも使用され、現在で言うところのスーパーカー相当する部類。ベルナルドが「最高の物」と称していたように、当時最高のイタリアンカーの一つだったことに間違いはない。
後継機の8Cは世界三大レースの一つ「ル・マン24時間耐久レース」で四連覇(1931~1934)した名機である。そんな車を脱獄後すぐに手に入れるのだから、ジャンのラッキードッグぶりは相当なものだろう。


「イヴァンの愛車」
イヴァンルートデイバン編の序盤に、愛車であるメルセデスが登場する。本文には「エンジンが音がズシーーと、下腹に来る重低音。ピカピカに磨き上げられた車体といい、はっきりいって悪趣味な白さといい、これはもしや…。」とあり、イヴァンは「メルセデスの最新型だぜ!」と言ってるし後部座席もある。タバコの煙が籠もるということだから、屋根付きだろう。

「エンジンが8気筒」「200馬力」という単語も出てくるので、「メルセデス・ベンツ770グローサー」と見てほぼ間違い無いだろう。下腹に来る重低音の原因は、7665ccという大排気量のエンジンとスーパーチャージャーからくるものだと考えられる。(トヨタ・プリウスの新型は1800cc)

物語終盤ではGDとのカーチェイスで、イヴァンの770がGDのフィアットをぶっちぎる描写がある。200馬力の770に対して、当時のフィアット車は80馬力あればいい方。2倍以上のパワー差を前に、GDの構成員は唖然としただろう。ロバに乗ってサラブレッドを追いかけるようなもんだ。

本文では「車が磁石で弾かれたように道を空けていく。」とあるが、その理由は性能と存在感だけではない。なぜなら、この型の車はアドルフ・ヒトラーの愛車や天皇家の御料車として使用されていた。

この車に乗るということは相当なステータスにもなっていたのだ。そんな名車をチョイスしたイヴァンはさすがだが、ダイナマイトで爆破させるには勿体無い代物である。
最終更新:2012年08月02日 22:22