第五話 執筆者:クワトロ大尉(偽)
人類を襲った未曾有の危機、『アーセナル・ハザード』により世界が荒廃して5年。
世界は混迷を極めていた。
企業は己の利権を広げようと躍起になり、政府は政治主導を企業に乗っ取られるのを危惧して勢力の立て直しと拡大にのみ力を注いだ。
誰も自分の手に余る世界などというものを救おうとはせず、ただ己の幸福を追求した。
結果、企業や政府に係り合いのない多くの人々は虐げられ弱肉強食の分かりやすい理論が横行していた。
金のない人間は常に古代兵器の襲撃に怯え、金のある人間は安全な場所で豊かな暮らしを約束された。
コロニー『エデンⅣ』。各企業がしのぎを削る商業区画の隣に位置する居住区画。
快適な環境のマンションが立ち並ぶ居住区画だが、その中でもひときわ快適な高級マンションの一室で、若い男が通信用マルチコンソールに向かって何者かと会話していた。
「この情報は確かなんだろうな。信頼できるソースなのか」
企業の重役が座るようなチェアにもたれかかりながら男がコンソール越しに話しかける。
「各方面からの情報を整理した結果だ。各企業の機密情報からネットの掲示板書き込みまで色々とな。その中でも特にミラージュの情報は信頼できる。何せ主催者だったんだからな。まあ信頼度は80%といったところかな」
コンソールの向こう、ジャーナリスト風の30代の白人男性が資料を片手に自慢の顎鬚をさすりながら答えた。
「ほう。あんたが80%と言うからには、自信があると思っていいんだな、ジェイスン」
端正な顔立ちをした二十代後半と見られる男が口元を少し緩ませながらコンソールの向こう側の情報エージェント、ジェイスン・ランバートに語りかける。
友人に語りかけるような砕けた口調だったが、その目は真剣だった。猛禽類を思わせるような鋭い眼光は歴戦の戦士のそれだ。
「当然さ。これでメシを食ってるわけだからな。それに、お前相手に嘘はつかないよ。凄腕のレイヴン、ソリテュードに喧嘩売れるほどの度胸は持ち合わせていないんでね」
それを聞いて、ソリテュードと呼ばれた男はやっと表情を緩ませた。
「オーケー、やっぱりアンタは一流だ。じゃあ、今回の依頼はこれで完了ということにしよう。報酬はいつもどおり口座に振り込んでおく」
表情と同時に口調も柔らかいものへと変わる。
「そいつはありがたい。ちょうど美味いものが食いたいと思っていたところなんでね。そうだ、今後についてはどうする。引き続き調査しようか」
「いや、これ以上突っ込んでも今は何も出ないだろう。後は当事者に聞くさ」
「了解だ。じゃあ次の依頼を待っているよ。まあ、しばらくは食うのに困ることは無さそうだからな」
すっかりリラックスムードのジェイスンの片手にはウィスキーのグラスが握られていた。
「好きなだけ飲んで食ってくれ。また必要になったら連絡する。次は直接会って一杯やろう。じゃあな」
そう言って、コンソールを切ると、ソリテュードは短く切った黒髪をかき上げながら、ジェイスンからの情報を自分の頭の中で整理した。
「なるほど、そういうことだったか」
ジェイスンからの情報でソリテュードの頭を占めていた疑問のほとんどが解消された。
しかし腑に落ちない点があるのも事実だ。これはもう自分で解決する以外ないだろう。
どのみち近いうちに会うことになるだろうから、その時に確かめればいいことだ。
コンソールの脇に置いてあったコーヒーを手に取ると、椅子から立ちあがって窓際へと足を運んだ。
窓から見える作り物の空を見上げながら一人つぶやく。
「しかし・・・サンドゲイルとは意外だったな。まったく物好きなヤツらだ」
―サンドゲイル―
どの勢力にも所属しない遊撃隊で、傭兵というよりは何でも屋に近い性格をしているが、保有ACとレイヴンの実力は噂になっている。
ジェイスンの調査で現在の主力は4機のACで、しかもそのうちの2機は少年と少女が操縦しているらしい。
まあ今の時代、特に珍しいことではない。世界が荒れるほど兵士の年齢は若くなっていくものだ。
しかし、それならばむしろ納得のいく話だ。若いレイヴンならばそういう行動もあり得るだろう。
コーヒーを一口飲むと、ジェイスンから送信された調査資料を手に取り、目を落とす。
そこには、まだあどけなさが残る少年の顔写真と経歴、そして搭乗ACのスペックまでもが詳細に記載されていた。
「マイ・アーヴァンク、か。・・・少年、その拾い物はいささか君の手に余るぞ」
いずれ戦場で相まみえることになるだろう、若いレイヴンに届かない言葉を投げかける。
少し冷めた残りのコーヒーを一気に飲み干すと、資料をファイルに仕舞い、再びマルチコンソールへ向かう。
メールをチェックすると、企業からのパーツモニターの依頼や政府からのくだらない称賛のメール、アリーナのファンレターなどが確認するのも面倒なほど受信されていた。
それらに一通り目を通しながらメールを処理していると、軽快な電子音が耳に入った。
重要メールの受信ボックスに新着メールが届いたことを知らせるメロディ。
レイヴンにとっての重要メールとは無論、仕事についてのメールに他ならない。
作業の手を止め、すぐにメールを開く。
差出人はミランダ・キリシマ。ソリテュードの専属オペレーターだ。
―レイヴン、緊急の依頼があります。依頼を受ける場合は3時間以内に専用ネット経由で返信、もしくは連絡してください。依頼の概容は以下の添付ファイルの通り。以上、緊急依頼の報告でした。―
相変わらず簡潔で分かりやすい内容だ。
今年で10年の腐れ縁だが、今も昔も仕事のスタイルは変わらない。
俺がレイヴンとなったのと同じ時期にミランダもオペレーターとなり、お互い新人の頃から今までやってきたが会ったことなんて数えるくらいしかない。
それに俺と同い年なのに、二児の母ってのが笑っちまう。こちとらまだ独身だってのに。
そんなことを思いながら添付ファイルを開き、概容をチェックする。
依頼は政府からだった。
エデンⅣの管理局が難民受け入れを拒否したことにより、テロリストの報復予告を受けたらしい。
すでに管理制御区の一つへ侵入の痕跡があり、難民受け入れと多額の賠償金の支払いがなければ攻撃を断行するとのことだ。
エデンⅣの管理制御は各ブロックによって独立しており、多数のバックアップもある。
それに中枢制御装置が破壊されない限りエデンⅣのシステムはダウンしない。
管理制御区の一つが破壊されたところでエデンⅣ全体には何の支障もないが、絶対的な安全性を売りにしているエデン管理局としては自分たちのセールスポイントに傷が付くことは何としても避けたいのだろう。
しかし、政府は本当にバカ揃いだ。
たかだかテロリスト相手に侵入を許すとは政府軍の警備部隊もたかが知れている。
自分たちの手に余るからとレイヴンを雇ったのでは、自分たちに力が無いと言いふらしているようなものだ。
まあ、政府軍にはロクなAC乗りがいないし、テロリストがレイヴンを雇っているか、もしくは保有している可能性だって十分考えられる。むしろそう考えた方が自然だ。
エデンⅣのセキュリティシステムは中々のものだし、MTぐらいなら、いくらなんでも警備部隊で何とかできたはずだ。
報酬は緊急の依頼だけあって上々だ。仮にACを相手にしたとしても十分釣りがくる。
――悪くない。
そう判断したソリテュードは、すぐにグローバルコーテックス専用のネットワークで依頼受諾のメールを送信した。
メール送信後、ACガレージのアセンブリ画面を開き、機体の確認をする。
整備状況は万全。
パーツアセンブリも機動戦重視のオーバードブーストタイプでレーザーライフルとブレード、ミサイルのいつもの組み合わせで問題ないだろう。
最終確認終了、起動待機のコマンドを実行し、アセンブリ画面を閉じた。
アセンブリを終了したのと同時に、グローバルコーテックス専用通話回線を通じてコールが入った。
コンソールのパネルをタッチすると通信回線と画像が開く。
相手はオペレーターのミランダだった。
「先ほど依頼の受諾を確認しました。先方には連絡済みです。速やかに依頼を履行してほしいとのことですので、1時間以内にガレージまでお越しください。レイヴンが到着し次第、ミッションを開始します。何か質問はございますか」
整った顔立ちと栗色のショートヘアーが特徴的な美人だが、つとめて平静に、かつ無表情で必要事項だけを淡々と述べる。
声も綺麗で口調も丁寧だが、一切の感情が込められていない。
だが、それで構わない。彼女はプロなのだ。
そして俺もプロだ。余計な感情は必要ない。
「いや、特にない。今からすぐに出る。30分後には着けるだろうから、作戦内容と状況を整理しといてくれ」
「了解しました。お待ちしております。では」
通信回線が切れると同時に画像ウィンドウも閉じる。
マルチコンソールを待機モードにすると、ハンガーに掛けてあったフライトジャケットを引っ掴み、袖を通す。
多少の現金と各種認証カードが入ったサイフをズボンのポケットにねじ込み、部屋を後にする。
リビングを横切り、玄関に向かおうとしたとき、不意に隣の部屋のドアが開いた。
そこからひょっこり顔を出したのは年端のいかない少女だった。
「どこいくの、ソリッド」
少女らしい幼い声でソリテュードに語りかける。
その細い腕には大きなウサギのぬいぐるみが抱かれていた。
「ああ、これから仕事に行ってくる。急な依頼でね。悪いがいつもみたいに留守番しててくれ、アリス」
「しごと?」
トテトテとソリテュードに近づき、首を傾げる。
アリスと呼ばれたその少女は、今の時代に不釣り合いな格好をしていた。
まるでおとぎ話にでてくるようなゴシック調のドレスを身に纏い、小さな頭には大きなリボンが結ばれている。
「なに、簡単な仕事さ。すぐに戻ってくる。腹が減ったらケータリングでも頼むといい。好きなものを食べていいぞ。注文の仕方は知ってるだろ」
アリスはソリテュードを見上げると一拍置いて口を開いた。
「また、ころすの?」
何気ない一言だったが、その口調にはまるで感情が込められていなかった。
アリスは物凄い美少女であるが、その表情には喜怒哀楽の一切が無く、何を考えているか分からない。
まるで生きている人形のようだ。
ソリテュードは感情というものを与えられなかった少女に向き直り、大きく澄んだ赤い瞳を見ながら言いきった。
「ああ、殺す。それが俺の仕事だからな」
それを聞いた少女は納得したようにコクンと頷いた。
「じゃあ、いっぱいころしてきてね」
そう言ったアリスは、殺すということに何の疑問も抱いていないような様子だった。
しかし、それの言葉を聞いたソリテュードは、さすがに少し顔をしかめた。
「なあ、アリス。そういう時は『がんばってきてね』って言った方がいい。その方が、複数の意味が含まれていて便利だからな」
自分の予想とは違った答えにアリスは少しだけきょとんとした表情になったが、すぐに無表情に戻り、再びコクンと頷いた。
「わかった、メモリーする」
それきりアリスは黙ってしまった。
もう話すことは無いという彼女の意思表示なのだろう。
いつもの事とはいえ、彼女の妙な言い回しにソリテュードはもう一言くらいツッコみたい気分だったが時間が無い。
「じゃあ、行ってくる」
そう言うと、アリスに背を向け今度こそ部屋を後にする。
ドアが閉まるまでアリスはリビングに立ちつくしたままだったが、その視線だけはソリテュードを見送っているようだった。
マンションを出ると、大都市の喧騒が少し耳障りだった。
エデンという名が示す通り、ここに争いは無い。
実際にはエデンⅣ内部でも、今回の依頼のように戦闘が行われることがある。
しかし、人々がそれを知らなければ無いのと同じだ。
街を行き交う人々は自分たちに紛争や古代兵器の襲撃など関係が無く、どこか遠い世界の出来事だと思っている。
おめでたいヤツらだと思う反面、ソリテュードにとってはどうでもいいことだった。
他人の人生などに興味は無い。
あるのは自分が今のこの世界でどうやって生きていくかということ、それだけだ。
マンションから歩いて3分もかからない所に、エデンⅣ全体を網羅するリニアモーターカー、通称『リニア』のターミナルがある。
リニアは移動速度が車より圧倒的に速いので住民の交通機関の要になっている。
リニアのターミナルには一般車両の他に専用車両と専用路線があり、専用路線は主に政府関係者や企業の重役、それに俺たちのような特殊な職業むけに作られていて、当然グローバルコーテックス専用路線も存在する。
俺たちレイヴンはグローバルコーテックス本社にはまず用が無いので、行き先は自分のACガレージがアリーナになる。
専用路線には隔たるものが何もないので、数キロ離れたガレージへも10分もかからず到着できる。
しかも直通路線になっているので、乗り込んだ後は座っているだけで、自分の愛機が待つガレージへとたどり着くことができるのだ。
人々が行き交うターミナルの改札をくぐり、人の流れとは別の方向へと足を向ける。
専用路線のゲートはがらんとしていて人はまばらだった。
ゲートから出入りする数少ない人たちは皆スーツ姿で俺のようなフライトジャケットとジーンズというラフな格好のものは皆無だった。
俺に怪訝な視線を送る人間は、俺の行き先がグローバルコーテックス専用ゲートだと気付くと途端に目を逸らす。
当然の反応だ。今この世で一番物騒な職業の人間が自分の近くを歩いていたら誰だって距離を置く。
まあ別にどうということはない。むしろ余計な干渉をされないので好都合だ。
専用路線のゲートの前まで来ると、カードスロットに認証カードを滑らせる。
間抜けな電子音がした後、ゲートが開き、地下路線特有の淀んだ空気が鼻をくすぐった。
ターミナルへ入ると、自動的に隣接する格納庫から一人乗り用のリニアが運び出され、ドアを解放し、俺を迎え入れた。
いくら所属が同じといえども、レイヴンはミッションで協同する以外は敵でも味方でもないため、リニアも無用なトラブルを避けるために乗り合いではなく一人乗りが用意されている。
まあ、この専用路線を使うには、ある程度レイヴンランクが必要なのだが。
リニアに乗り込むと、認証カードをスロットに通し、コンソールに表示された行き先を確認してコンソールのエンターにタッチする。
後は機械任せだ。黙って座っていればいい。
リニアは音もなくゆっくりと滑り出すと、ものの10数秒で時速500キロ以上に達し、弾丸のように地下道を疾走していった。
リニアに乗り込んでから数分でグローバルコーテックス本社地下階層にあるガレージへと続くターミナルにたどり着いた。
リニアから降りて、ガレージへと続く専用通路を歩いて行く。
通路を行く途中、数度のセキュリティチェックをパスし、最後の隔壁の前で複数の生体認証とチェックコードをパスすると重々しいゲートが解放され、やっとガレージに到着した。
自宅のマンションを出てから約25分。まるで学生が学校に通学するような手軽さだ。
手荷物は何も持ってきていない。必要なものは全てガレージのロッカールームに保管されている。
ガレージに入ると、隔壁が閉じる少し前に照明が常夜灯モードから全点灯に切り替わる。
明るく照らされた巨大な空間。
その中心には鋼鉄の戦士がそびえ立っていた。
俺の愛機、『ブリューナグ』。
やや白に近いライトグレーのACは主が乗り込むのを待ちわびているようだった。
愛機を横目に見つつ、ロッカールームへと足を運び、パイロットスーツに着替える。
パイロットスーツを身に纏ったソリテュードの顔つきはすぐに歴戦の凄腕レイヴンのものへと変化する。
猛禽類を連想させる鋭い眼光に射抜かれたものはそれだけで戦意を喪失するだろう。
ソリテュードはこの瞬間、死を運ぶ魔鳥の化身となった。
全ての準備を整え、ヘルメットを片手にブリーフィングルームの通信用コンソールを操作し、回線を開いた。
「こちらソリテュード。準備完了だ。作戦内容の最終確認を頼む」
すぐにコンソールから返答が返ってくる。声の主はミランダだった。
「了解しました。作戦課からのミッションデータを転送します」
コンソールにミッションエリアと確認されている敵戦力、侵入経路の複合3D映像が映し出される。
「今回のミッションエリアは東地区の第一管理制御区、制御棟地下3階。制御装置が設置されている階層です。構造自体は単純ですが、通路が狭く回避スペースにあまり余裕がないようです」
ミランダが捕捉説明を入れる。
コンソールからは声だけしか聞こえない。
ミッション用の通信コンソールに通話映像など必要ないので機能がカットされているからだ。
「なんだよ、最深部まで侵入されているじゃないか。まったく、どれだけ役立たずなんだ、政府軍は」
「一応それなりの損害を与えているようですが、所詮足止めにもならなかったようです」
俺のボヤキにも捕捉を入れるミランダ。
どうやら政府軍が役立たずという考えは共通しているらしい。
「それで、敵勢力は」
「確認されているのは重装MTが6機、二個小隊のようです。それからアンノウンの高熱源体が1機。作戦課は85%の確率でACと判断しています」
なるほど。奇襲作戦を実行するのには、おおむね理想的な戦力だ。
となると金目当てのゴロツキではなく、少なくとも組織形態を持ったテロ集団とみたほうがいいだろう。
「敵勢力の組織は判明しているのか」
「犯行声明はテログループ『パニッシャー』として出されています。ただ、真偽のほどは定かではありませんが」
――パニッシャーか・・・。
パニッシャーは名の通った筋金入りのテログループで、難民の救済を名目に、富裕層が住むシェルター都市やコロニーに難民受け入れを強要し、相手が突っぱねるとテロを実行して多額の金を要求する。
正に今回の手口そのものだ。
ただ、今回のやり方は規模が小さいように見える。
ヤツらの組織の規模なら同時多発テロも実行できたはずだ。
となると名を騙り手口をまねた模倣犯か、組織の末端が独断で行ったかのどちらかだろう。
まあどちらにせよ、殲滅することに変わりは無い。
状況は把握できた。
後は実行するのみだ。
「オーケー、ブリーフィングを終了する」
「了解しました。では出撃をお願いします。ミッションエリアまではサービストンネルを通じてAC運搬用リニアで輸送します。ゲート解放後、5番ACターミナルまで移動してください」
「了解すぐに出撃する」
通信用コンソールをシャットダウンすると、ヘルメットを被り、ブリーフィングルームを後にした。
タラップを上がり、コクピットへと滑り込む。
既にリモート操作でアイドリング状態になっていた愛機を起動するため、OSにパスコードを入力し、スリープを解除する。
OS起動と同時にジェネレーターから膨大なエネルギーが機体各所を駆け巡り、鋼鉄の戦士が目を覚ます。
コクピット内のすべてのディスプレイ、スイッチ、パネルその他諸々に火が灯り、コクピット内を妖しく照らし出す。
すべての機能が立ちあがり、メインディスプレイにカメラアイからの画像が映し出されると同時に搭載AIのボイスが準備完了の旨を告げる。
『システム、通常モードにて起動』
自分でもコクピット内すべての計器類に目を走らせチェックする。
問題無し。
「よし、手早くすませるか」
そう自分を鼓舞するように口に出すと、コントロールレバーを握り、スロットルを吹かした。
それに呼応するように、鋼鉄の戦士は重々しくその一歩を踏み出す。
ゲートから出ると、ミランダの指示どおりAC専用連絡通路を通って5番ACターミナルへと急ぐ。
ACターミナルとはACをガレージから発進させた後、適切な輸送方法にて迅速にミッッションエリアまでACを運ぶための施設だ。
地下に設営されており、輸送機や輸送ヘリ、今回使われるAC運搬用リニアなどが格納されている。
ターミナルに着くと、すでにリニアが用意されていた。
ミランダから通信が入る。
回線を開くと、いつのも淡々とした調子で指示を送ってくる。
「リニアに搭載、固定を確認後すぐに射出します」
「了解」
ACをリニアの荷台部分に乗せると、オートで脚部が固定され、抵抗を減らすために膝立ちの状態になる。
一拍置いて、ガクンと大きな振動がコクピット内に伝わってくる。
「固定完了しました。10秒後に射出、ミッションエリアまで輸送します」
リニア線路上のゲートが解放されるのと同時に、AC駆動音とは別の重低音が響いてくる。
リニアを高速射出するために電力を充填している音だ。
「カウントダウン開始します。10・9・8・・・・」
ミランダの規則的な声に耳を傾けつつ、射出の衝撃に備える。
「・・4・3・2・1、発進」
直後、レールガンの発射音のような轟音と共に、背後からの凄まじい圧力に襲われる。
リニアは時速500キロ以上でトンネル内を疾走していく。
民間用リニアのように、Gキャンセラーは付いていないし、OB用のGキャンセラーも今は機能していない。
強烈なGを感じながら目を閉じ、ミッションエリア到達までの間、頭の中でブリーフィングの情報と、これまでの戦闘経験を基に戦術をシミュレートをする。
イメージは大事だ。漠然と戦っていたのでは、いつか行き詰る。
まだ見ぬ敵をイメージし、その殲滅方法を頭にトレースする。
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最終更新:2011年09月17日 03:16