※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第十三話/ /第十四話/ /第十五話


 第十四話 執筆者:ユウダイ・ユウナ

店内には客の姿はない。だが、マスターは気にせずカップを磨く。客がいないときはいないときで、その静かな時間を彼は好んだ。娘は所要で出かけているため働ける人間は彼しかいない。人を雇うことをしないのは、娘と一緒に経営することが楽しみの一つであり、その一時が幸せだからだ。しかし、娘はあるレイヴンのオペレーターも兼業しているため、依頼があればオペレーターの仕事をするために家を留守にする。それでも、彼は止めることはしなかった。娘の生き方は娘が決めること、強制することではない。彼女の“本当の父親”の遺言を尊重してのことだった。カランと入り口の鐘がなり、客が来たことを認識すると、いつも通り「いらっしゃい」と声をかけようとした。だが、言えなかった。久々に会う女性がそこにいたからだ。
「久しいな。」
その様子を悟ってか、女性から声を掛ける。マスターもようやく現実を認識してか、口を開いた。
「最後にあったのは・・・娘の父親の葬儀以来・・だな。」
それが意味することはなんなのか、マスターは無論のこと女性も理解していた。
「レナには・・・まだ話していないのだろう?」
「ああ。真実を言ったら、娘はオペレーターとしてもやっていけなくなるだろう・・・・。」
マスターにとっても、この”真実”は胸が痛むことだった。彼にとっても、本当の父親の死を未だに忘れていなかった。女性もまた同じ思いだった。口に出さずとも、胸の内にあるわだかりや憎悪がとても強いものであると両者は理解していた。だからこそ、レナには真実を伏せているのだ。憎しみを抱くのは自分たちだけで、子供の将来を無駄にしたくないという思いからである。
「・・・ユウには・・会わなくていいのか?」
「アンジェから話は聞いている。それだけでも私は満足だ。セルゲイも・・・きっと・・・・。」
ユウとレナは、狙撃AC追撃の任務から外れ新たな任務に就いていた。狙撃ACの追撃は引き続きアンジェが担当している。ユウの今回の任務はあるコロニーへの物資を輸送する車両の指定ポイントまでの護衛である。その任務を行うために彼らはある地下都市に来ていた。依頼者はこの地下都市の管理者であるため、整備施設はもちろんのこと都市内で自由に使えるパスポートも発行されていた。これは、アンジェがサンドゲイルを通じて地下都市の管理者と話をつけたことで、ここまでの待遇をえているのである。任務までは数日余裕があるため、ユウとレナは久々の余暇時間を満喫していた。レナは今日がチャンスと言わんばかりにファッション関連の店を廻っていた。ユウはそれに付き合わされている現状である。
(まぁ・・女の子だからな・・・・)
いろんな店に飛びつては試着したりじっくり眺めたりと、年頃の女の子となんらかわりないその様子を見て、ユウは安心感を感じつつ心のどこかで不安を感じていた。
(自分にも年頃の行動みたいなのができるんだろうか・・・。)
考えても答えは見つからず、レナに対し自分はどうあるべきか・・・その連鎖が頭を駆け巡る。
「お、可愛い娘じゃない。少年さん、ちょっと借りるわよ」
ふと、レナとは違う別の女性の声で我に返ったユウは、その主を見た。困り顔のレナをよそに、その女性は獲物をみつけたといわんばかりの満足そうな表情を浮かべていた。上場を飲み込めず、どう答えればいいのかユウは困惑した。
「じゃ、ちゃんと返すからしばらく借りるわよ~。」
そう言いながら、女性はレナの手を引っ張りファッション街の人ごみに消えた。完全にペースに乗せられていため、銃を構えるどころか警戒することすら怠ってしまった。ただ、彼女が敵対する精神がないというのは、最後の方のやりとりで感じ取ったため安堵する。ここの街の人かな・・・とも考えたが、首から自分達が持っているようなパスポートをかけていたことから部外者であるのは間違いないだろう、とユウは読んだ。彼はここに来る理由をもう一度整理した。・・・一番の目的は任務の遂行である。だが、それ以外にもここに来た理由があった。それはグローバルコーテックスとよばれる、レイブンズアークとは別のレイヴン管轄組織に所属するレイヴンとの親善アリーナに参戦するためである。今回の試合は、ユウのランクもグローバルコーテックスの基準で審査されているらしい。レイブンズアーク換算でいけば下位ランクであるユウではあるが、政治的陰謀などが多く見られるアークでは実力はランクの基準にはならない。対してグローバルコーテックスは実力をランクの基準にしているとユウは事前に聞いた。となると、自分の対戦相手も自分と同等かそれ以上の実力を持つレイヴンであるのは明白であった。となると、あの女性もその親善アリーナの関係者であるのはほぼ間違いないだろうとユウは結論を導き出した。
「またメイファの悪い癖がでてしまったなぁ・・・・」
今度は男の声だ。振り返るとゴスロリファッションの少女を連れた男性が呆れ顔で、レナ達が向かった方向を眺めていた。
「あなたは?」
「君の仲間を連れていった女性・・・メイファの知人だよ。すまんね、彼女・・・年下の少女を見るとどうも・・・。俺はソリテュード。君と同業者かな、ユウ・ダイ君。」
「なぜ私がレイヴンだというのを知っているのですか?」
「君の父上はグローバルコーテックスでも有名だからね。伝説的なトップランカー、セルゲイ・ダイの息子で彼の遺伝子を継ぐトップランカーの素質を持つレイヴン・・・そうグローバルコーテックスでは君の事が宣伝されている。」
好印象な宣伝をされていると言うのは初耳だった。アークではセルゲイの息子というだけであって、他のレイヴンの影に隠れつつあった。
「高い実力を持ってるのも知っているよ。今回の親善アリーナも楽しみにしている。」
と、笑顔でソリテュードは話す。
「この娘は?」
「アリス」
少女が答える。どことなく“普通の人でない”雰囲気を持っていたが、彼と一緒にいる姿がとても板についていた。もとより、普通かそうでないかを気にしていないユウはアリスと呼ばれる少女が、何らかの形で生み出された特別の存在であろうとも普通に接しようと思っているし、それが信念であった。しかし、彼女がまとっているゴスロリファッションはソリテュードの趣味とはとても思えないと考えたユウは、不安から来る寒気を感じた。その不安は見事に的中し、メイファと呼ばれる女性が戻ってきた。その後ろには状況が飲み込めず、あたふたしているレナ(と思われる女性)が付いて来ていた。
「約束通りちゃんと返しに来たわよ。」
そういってレナを前に差し出すと、レナは顔を赤くして恥ずかしそうに体をもじもじさせる。いわゆるメイド服をまとったレナの姿に、ユウもドキッとし持っていた物を落としてしまう。ソリテュードは深くため息をしながら苦笑いを浮かべ、アリスは落ちたユウの荷物を綺麗にまとめて彼に手渡す。
「い・・いつまで見てるのよ!」
耳まで赤くしたレナが、なおももじもじしながら言うがユウはユウで状況が飲み込めず呆然と立ち尽くしていた。
「メイファ、初対面の相手にそれはいくらなんでも失礼だぞ?」
「だってかわいかったんだもの。衣服代はソリッド持ちね。」
「なんでだ!」
「“あの時“のご褒美!」
「まだ物足りないのか・・・かんべんしてくれよ・・・。アリスにもなにか買ってあげないといけないのに・・・・。」
2人のやりとりを横に、ユウはようやく我に帰った。
「とりえず・・・レナ、落ち着こう・・・・。」
「落ち着けるかー!」
レナの右ストレートがユウのみぞおちにクリーンヒットし、ユウはその場にうずくまる追撃の回し蹴り。その様子をソリテュードとメイファもしっかりと見ていた。さすがのメイファもやり過ぎたかなと思ったのか、苦笑いを浮かべた。だが、その重い空気を打ち破ったのは思いもよらない、されど予想できそうな人物だった。
「ふふふふふふ」
アリスが笑った。重い空気が一気に消し飛び、レナは優しくアリスを抱きしめる。アリスも抵抗することなくそれを受け入れた。なぜだかわからないけど、アリスを見るとレナは優しさで包みたくなるような感情に駆られた。どことなく、自分と近い存在だと心のどこかで感じているのかもしれない、そう思いながらアリスの髪を撫でる。
「私はレナ・・・・よろしくね、アリスちゃん。」
「うん」
満面の笑みでアリスはそれに答える。その様子を見ていたユウはレナの優しさを再認識した。


珍騒動があったものの、宿泊先に戻ったユウとレナは夕食をとった。先程のメイド服は親交の印としてメイファから譲り受けた。戸惑いつつも、どこか嬉しいような表情でそれを受け取っていた。レナに殴られた箇所に若干の痛みを感じるユウではあったが、辛いほどではなかった。
「こんな日もあるんだね・・・。」
一連の騒ぎに疲れたのか、どこか物静かな表情で食事を口に運びながら言うレナ。あれだけ連れ回され、赤面騒ぎまでされたら疲れもするだろうな・・・・とユウは思う。実際問題、ユウ自身も今日の出来事はつかれていた。ただ、悪い気分ではなかった。グローバルコーテックスのレイヴンと知り合え、親交を深めれた。そう考えると、今回の疲労はいい対価だろうと思った。
「食べ終わったらシャワーでも浴びて寝ようかな・・・。」
「それがいいよ。明日も早い。」
「そうだね」
今日最高の笑みで答えるレナ。食事を終えて、それぞれの部屋に戻る2人。ユウは部屋に戻ると、携帯端末で今日であった2人のことを調べた。疑いなどという負の感情ではなく、純粋にレイヴンとしてどれほどの戦果を上げているかを調べたかった。同業者としての興味本位ではあるが、情報を仕入れておけば戦場で出会った時にいろいろと便利だろうと思っているからだ。特に味方で出会った時に、相手の動きを把握しておけばそれに合わせて戦術行動を取ることが可能となる。しかしユウは一抹の不安を消せないでいた。例の狙撃ACの存在であった。アンジェの報告によると、先日の輸送車襲撃は単なるブラフである可能性があるというのだ。つまり、そのACは別の何かを狙って行動していることになる。その何かがわからない以上、下手に動けないため「シャドームーン」の装備の変更も容易にはできない。狙撃ACが万一オールラウンダーとしての性能を有していた場合、通常装備であるSPEC1でもぎりぎりだからだ。射撃が苦手な部類に入るユウにとって、射撃特化機よりもオールラウンダー機を相手にすることの方がリスクは大きい。かつてビクティムというレイヴンの罠にはまり、彼のACと戦闘した際にオールラウンダータイプのAC故に持久戦に持ち込まれた挙句、多数の罠に陥り敗北している。その時は近接戦闘特化のSPEC-2を使用していたことが相乗効果となっていた。それらの経験から、オールラウンダータイプと戦うときは必ず戦力分析を行うようにしているのだ。窓から見える夜景をユウダイは眺めた。
「アークとコーテックスの交流戦・・・・勝手なことをしてくれる。」
薄暗い会議室、4人の男が明日行われる交流戦について話していた。その中にはびくティムの姿もあった。彼らはかなりの権力を有している。
「例の輸送車を襲撃させたACを雇っております。今回の対戦カードはソリテュードとユウ、それらも踏まえた上でビクティムは動いた。彼に取ってユウダイは宿敵である。だが、ビクティムは正々堂々とユウと戦うという気持ちは全くなかった。彼は謀略やわなと言った類が好きである。戦いに美学をもとめるというより、敵を罠に陥れそれに苦しむ姿を楽しみながら自ら止めを刺すことに美学を感じている。そんな感情や、それを実際に行動に移す能力が彼をアークの上位ランカーに押上げ、さらにはアークの上層部とのつながりを得て、彼らと同等の権力を手に入れて、挙句には企業共同開発のナインボール・オニキスの開発スタッフにまで抜擢された。アークの腐敗を懸念するレイヴンも多くおり、それが故にコーテックスに所属を変えたり、どこにも所属せずレイヴンを続ける者もいた。だが、後者のほとんどは粛清され生きて帰ってきたものは少ない。その粛清は基本的にはナインボールが行っているが、一部はオニキスに組み込む戦闘データ収集のためビクティムが行っているものもある。彼の乗るAC「スローター」は2種類あり、元々搭乗している物とオニキスのテストパーツを使用した物で現在は後者に搭乗している。彼の性格と後者のスローターは非常にマッチしており、これまで多くのレイヴンを葬ってきた。今回は別のACを雇っているので、スローターを出すことはないがビクティム自身は自らの手でユウを葬りたいと言う願望があった。それを達成させるため、雇ったACにはユウの“大切な物”を奪えという命令を出している。その大切な物を奪うことでユウを誘い出し、自らの手で、かつユウにとって一番屈辱的な方法で葬るためのシナリオが動き出した。
アリーナ内は歓声と熱気に包まれている。狭苦しいコックピットの中でも、ユウはそれを感じることができた。アークではこのような経験はめったに無い。有名ランカーやトップランカー同士のカードであればアークも盛り上がるが、低ランクのレイヴンが関わるカードはそうそう盛り上がるのではない。対する今回のカードの熱気である。もともとミッション達成率の高さや実力の高さは雑誌等で評価されており、今回の交流戦のために滞在した街でも大々的に今回の試合が宣伝されていた。それも相まって今までにない緊張に襲われていた。勝ち負けは関係ないにしろ、それでも今回の緊張は任務以上の重みを感じていた。
『いつも通り、それで大丈夫よ。』
レナからの通信は、彼にとって緊張を和らげる一番の薬だなと思う。任務前や試合前に必ず声をかけてくれる彼女の優しさがあるからこそ、ユウはこれまで生き抜いてこられた。むしろ、彼女がいなければ生き抜くことは出来なかったと断言出来る。それだけユウにとってレナはかけがえのない存在になっていた。高まる歓声の中、ACを指定位置へ歩かせる。正面にはソリテュードのACが相対していた。カウントダウンが始まりいよいよ試合開始と言う瞬間、唐突にアリーナ内が停電する。突然の停電に観客たちは騒然となった。
「トラブルか?」
トラブルにしてはタイミングが良すぎた。偶然にしてはタイミングが良すぎる。それだけ考えれば原因は明白だった。
「敵襲か・・・。レナ!」
レナに迎撃することを伝えようとしたが、返事が帰ってこない。通常、アリーナにトラブルが起きても、レイヴンとオペレーターとの通信システムだけは生きるようになっている。レイブンにとってオペレーターはある種の命綱と変りない。それ故、アークもコーテックスも通信システムの改良には特に力を入れていた。だが、現状としてレナからの返事はない。通信システムそのものはグリーンであることから、レナになんらかのトラブルが起きたということだろう。
「目的は彼女か・・・・。」
歯を噛みしめる。ここまで段取りのいい方法で苦しめることが出来るのは一人しかいない。この敵襲の首謀者が誰なのか、ユウは把握した。と、射撃警報が響きわたりペダルを踏みレバーを思いっきり左に倒す。シャドームーンはそれに応え、ブーストをかけながら左にホバリングし攻撃を回避する。第2波、第3波と次々に弾丸が迫り、そのたびに回避に専念し攻撃に転ずることが出来ないでいた。
「例の狙撃型ACか・・・。まさかこの状況で・・・・。」
ソリテュードのことが気がかりだが、彼は彼で別のなにかと交戦しているらしいことがレーダーで確認できた。互いにシステムを戦闘モードに移行させているため、IFF上では友軍同士として認識されている。そのため、誤射などの心配はない。しかし、様々な考えが頭に過ぎり、ユウはいつも通りに戦えないでいた。レーザーブレード以外は試合用に使われる特殊な弾薬であり、通常戦闘ではダメージを狙うのは至難の業だった。それも相まって、ユウは余計に焦りを感じる。
「このままでは・・・。」
これ以上敵の攻撃に付き合うわけには行かなく、レナの安全を速く確認せねばならないため、意を決しレーザーブレード以外の武器を全てパージする。そしてOBを起動させ、敵がいると思われる場所めがけシャドームーンを加速させる。案の定、加速させた正面に狙撃型ACがいた。シャドームーンがレーザーブレードを構え、そのまま左腕を振り上げる。空気を斬る音と共に、狙撃型ACの胴を真っ二つに斬り裂いた。
《敵AC撃破。ターゲット残り5》
「まだいるか・・・・。」
AC以外にもMTがかなり入り込んでいたのだろう。ソリテュードがいたからこそ、数をすぐに減らせた。だが、彼がいなければ袋叩きにあっていたのは間違いないだろう。シャドームーンはOBを再び起動させ立て続けに5機のMTを斬り捨てる。すぐさまレナを探そうとするが、レナが招かれている特別席には彼女の姿はなかった。
「レナ・・・・・。」
怒りのあまり、コンソールパネルを叩いた。そして悔しさのあまり、涙を流した。

 第十四話 終

→Next… 第十五話

コメントフォーム
名前:
コメント:
|