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「シャドー」


 執筆者:ユウダイ・ユウナ

ロッカールームで彼は対Gスーツに着替えていた。鏡には裸の自分の背中が写っていた。大きな傷が目立つ。
「もし・・・真実を知ったとき、ユウもレナもどう思うだろうか・・・。」
スーツを着こみながら、そんなことをつぶやく。着替え終わり、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を手に持ち、ロッカールームを後にして愛機の元へ向かう。
「お前との約束、ちゃんと果たすまでは影として生きる。」
愛機を見上げながら、シャドーは友との約束を思いつぶやく。そしてHMDをかぶり、愛機に乗り込む。
 シャドーの愛機はかつてセルゲイ・ダイの良きパートナーだったミュラン・ハーヴェイが乗ったAC、ダークフェイスとまったく同じアセンブルだった。厳密に言えば、ダークフェイスそのものである。彼がミュランのACに乗っているかは、深い事情があった。彼はある事情を抱えており、素性を隠すために仮面を付けている。素性を知っている人物は極めて少ない。自分の血縁者には一切素性を明かしておらず、もし彼らが素性を知れば驚くことは間違いなかった。
「来てるだろうか・・・。」
シャドーは昨日観戦チケットを渡した女性を思い浮かべていた。

彼女は生まれて初めてアリーナの観客席にいる。きっかけは昨日、酒屋であるレイヴンからチケットを貰ったことだ。なんで来たんだろうと、自分でも思った。だが、現にここに居るということは現実である。慣れない空気のなか、どうしてこうなったかを思い返す。



 ジャズ風の歌を店内が満たす。20代前半と思われる女性が、それを奏でていた。しかし、その表情はどこか悲しげである。その様子を、酒を口に運びながら一人の人物が眺めていた。黒いコートを着こなし、顔には仮面を付けている。しかし変人という雰囲気は一切なく、彼自身の落ち着きも相まって紳士的な雰囲気が漂う男であった。名はシャドー。素性不明のレイヴンであり、メサイアアリーナのトップランカーである。彼はここの酒屋によく足を運んでは余暇を満喫する。普段はただ静かに飲んで満喫する彼であったが、今日は違った。先程より、歌をうたう女性の方を見ていた。
「最近、よく歌いに来る娘でしてね。人気もあるんですが・・・。本人はあまり乗り気じゃないようです」
そういうマスターの表情は複雑であった。何かしらの事情を知っているのだろう。シャドーは再び彼女に視線を戻す。すると、それに気づいた彼女は歌いながら微笑む。しかし、すぐに悲しげな表情に戻った。
「マスターには申し訳ないが、あの娘は無理やり歌わされているんだろうな。」
「そうでしょうね、彼女の所属事務所は評判悪いですし。実際、自殺者まででていますから。」
「相変わらずだな、職業病みたいなものか?」
「ご冗談を・・・・。もう足洗ってます。」
「そうか・・。もう1杯頼む」
「かしこまりました」
すぐさまグラスに酒を注ぎ、空いたグラスは片付けた。新しい酒に手をつけようとした瞬間、隣の席に彼女が来た。
「マスター、私も彼と同じのを」
「かしこまりました」
咎めるわけでもなく、マスターは彼女にも酒を提供した。
「さっきからずっと私を見ていたようですが、どうかなされたんですか?」
ずっと視線をかんじていたのだろう、その理由を聞きたがるのは当然だろうとシャドーは思った。
「上手いなって思ってね。だが、どこか悲しいような表情をしていたから気になってな。」
やっぱりかという表情で彼女は手元のグラスを見る。
「私・・・本当は歌手ではなくてオペレーターになりたかったんです。」
「オペレーター?」
意外だった。なぜオペレーター志願の彼女がこんなところで歌っているのだろうか。
「セルゲイ・ダイというレイヴンのオペレーターになるのが夢だったんです。アークの採用試験を受け、晴れてオペレーターになれたと思ったんですが・・・。担当になったレイヴンに肉体関係を強要されて、挙句には今の事務所に売り飛ばされた・・・」
ひどい話だと思う。彼女自身、言うのもツラそうという表情だった。
「そしてその事務所でも・・・」
泣くのを必死にこらえながら語ろうとする彼女にシャドーは心打たれる。
「もういい、無理に言うな・・・。概ねのことはわかった・・・。」
俯く彼女を横目にシャドーは続ける。
「この先、どうしたい?」
「わからない・・・・。どうすればいいかだなんて・・・。」
過去が過去だけに当然の答えだなと思う。それがわかれば、その道に向かって歩み始めていてもおかしくない。若い人間にはそれだけ力がるのだ。だが、それが出来ないでいるということは、相当辛いというのが理解できた。
「私は明日、エクストリームアリーナで試合に挑む。良かったら見に来てくれ」
シャドーは席を立つと、彼女に一枚のチケットを渡した。
「マスター、彼女の分も私が払う。」
代金を支払うと、店の出口へと向かう。
「あの・・お名前は?」
「シャドー・・・人はそう呼ぶ」
そう言って彼は店を出た。
「シャドー・・・。」
彼女はシャドーから優しさを感じ取っていた。明日見に行くかどうか、悩み始めた。



テンションに上がった熱気で彼女は我に返る。ふと、戦闘エリアを見ると二機のACがスタンバイしていた。ガンメタリックを基調とし、近距離から遠距離までこなせる万能タイプの中量二脚AC、ダークフェイス。赤を基調に青のストライプが入った派手な二色カラーであり、バズーカとオービットキャノンを両肩に装備した重量二脚AC、スマルトロン。どちらも強者だ。おそらく昨日の彼はダークフェイスに乗っているだろう。彼女はわずかな時間でそう分析した。勝敗を分けるのはダークフェイスだろうと彼女は思う。そうこうしているうちに、カウントダウンが始まる。それにあわせ周囲の熱気もますますヒートアップした。カウントゼロ、試合が始まる。
スマルトロンは開始早々派手にバズーカを放つ。ダークフェイスはそれをジャンプで回避し、逆に肩のグレネードをお見舞いした。が、スマルトロンも重い機体にもかかわらず軽々と回避した。さすがはエクストリームアリーナまで来たことだけあって、両者の実力は高かった。ダークフェイスはEN管理をしつつ、空中から敵を伺う。一方スマルトロンは、豪快にバズーカを放ちつつ、コアのEOでも攻撃を行っていた。しかし致命的なほどEN効率が悪いようにも思えた。重量級ならではの装甲に頼った戦法だというのが理解できた。それでもチャージングに陥らないのはさすがといえる。
 試合開始から二分が経過した。スマルトロンはバズーカをパージしオービットキャノンを起動させた。無数のビットがダークフェイスを包囲し、エネルギーの弾を降り注ぐ。機動性を殺されたダークフェイスは、最小限度の回避運動が精一杯になった。その隙にスマルトロンは距離を詰める。接近してトドメを刺すつもりだ。レーザーブレードが起動し光の刃が形成され、ダークフェイスに斬りかかった。だが、ダークフェイスにはダメージを与えることが出来なかった。直前にレーザーブレード以外の武器を全てパージすると同時にブーストダッシュで距離をとったからだ。そしてダークフェイスの反撃が始まる。右腕には格納兵装のハンドガンが装備されていた。それを構え、トリガーを引きながら一気にスマルトロンとの距離を詰めた。虚を疲れたスマルトロンは動けずにいる。ハンドガンの命中も相まって、動くことすら出来なかった。刹那、ダークフェイスがレーザーブレードを起動させスマルトロンをすれ違いざまに斬り捨てる。すぐさまターンをし、もう一撃斬撃を加えた。 試合終了のコール、そして熱気も最高潮に達していた。彼女はダークフェイスのほうを見る。コックピットから出て、機体の肩に立つ男はまさしく昨日チケットをくれた仮面の男だった。だが、どこか自分が憧れていたレイヴンに似ている雰囲気を持っている。すぐさま観客席を飛び出し、ロッカールームに向かった。

試合を終えたシャドーはロッカールームに戻ってきた。戸を開けると、一人の女性がたっていた。
「昨日はありがとうございました。そして今日も・・・。」
深々と頭を下げ、感謝の気持ちを伝える。そして顔を上げて、満面の笑みで彼女は続けた。
「あなたのお陰で、夢ができました。オペレーター、またやろうかなと。」
「そうか・・・。夢、見つかって良かったな」
彼女の瞳に迷いはない。本当は夢にまっすぐな娘なんだなとシャドーは思う。
「はい!・・その、図々しいお願いなのは承知しているんですが・・・・、そのあなたのオペレーターに・・・。」
「俺のオペレーターに?」
「今更アークに所属してもいいことないと思うんです。それに、あなたに恩返ししたい。」
「恩返しされるほどもこと、していないぞ?」
彼女は答えを予測していたかのようにイタズラな笑を浮かべる。
「“シャドー”としてのあなたはそうでしょう。でも、本当のあなたなら覚えているはずです。五年前のことも。もちろん、今のあなたは“シャドー”として生きている。だから、彼とはまた違う存在なのはわかってます。私は、本当のあなたと“シャドー”としてのあなた、両方に恩返ししたいのです。」
真剣なまなざしがシャドーに刺す。隠し通せないなと察したシャドーは仮面を外した。そして、彼女と向き合う。彼女は少し驚いた表情を浮かべたが、概ね予想通りといった感じだった。
「俺のオペレーターになる・・ということは、影として生きることになる。それでもいいか?」
彼女は頷いた。
「あなたが仮面を付けているのは、それは特別な事情があるから。あなたについて行く以上、私も影で生きる覚悟はあります。」
「・・名を聞いていなかったな?」
「セレン・・・セレン・ユーティライネンです。」
シャドー、影に生きる人間に光明が現れた瞬間であった。


 了


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