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 第七話  執筆者:Ryo

夕暮れを走るリヴァルディに向かう途中で、突如通信が入った。
『シーア! また勝手に動いたわね!!』
エイミの怒声がコクピット内に響く。
「ああ、悪かった。 だがシェルブといいさっきのやつといい、あれだけの腕だ。 熱くならずにはいられない。 また近いうちに会えるといいが」
反省するどころかむしろ上機嫌のシーアに、エイミは呆れた。
『もう、まだシェルブたちとは会って間もないんだから、悪い印象を持たれるのは嫌よ』
エイミの言う通り、サンドゲイルのメンバーになったのはつい最近だ。
自分のことはあまり知られたくなかったが、そもそも有名なサンドゲイルに、噂の『暗殺者』が加わったのだから、情報が出回らないわけがない。
先程のレイヴンのオペレーターもこっちのことを知っていた。 まだ機体の詳しい情報が出回っていないうちに、対策を打った方がいいだろう。
「それはわかってる。 シェルブに繋いでくれ」
少しのコール音の後、シェルブが応答した。
『シーア、どうだった?』
「あいつらは白だ。 クライアントは救援物資待ちのコロニーだと。 破壊された輸送車両の進行方向と距離から考えて、補給予定だったコロニーからの依頼だと思うが」
サンドゲイルは先の古代文明遺跡での依頼によって小破したマイの機体を修理するため、きちんとしたドックと部品を必要としていた。 もちろん、食料なども補給する必要がある。
そのためにコロニーへ立ち寄ったのだが、そのコロニーで物資輸送車が襲われた話を聞き、一度周辺を調べることにしたのだった。
『協力したいところだが、こちらにも優先すべきものがある。 ひとまずコロニーに戻ろう』
「了解した。 しかしあいつら、チームトライアングルとか言ったな…いい腕だった」
『何、アンジェ達か?』
シェルブが反応した。
「知っているのか、あいつらを」
『ああ、昔の仲間だ。 シーアは先に帰還してくれ、俺はアンジェに少し話を聞いてみる』
巣立っていった子を見送った親の心境なのだろうか、シェルブは弟子の無事を喜んでいるようだった。
「了解した。 エイミ、先にコロニーへ戻る。 情報屋から連絡があったら、こっちに繋ぐように伝えてくれ」
『わかった。 私たちもすぐに戻るとショーン達に伝えておいて』
伝言を預かって、シーアはマイ達の待つコロニーへ帰還した。
機体をショーンが借りたドックに固定して、整備ボードの備考欄に弾薬の補給のみと書いてコクピットから降りると、ショーンが声をかけてきた。
「お疲れシーア。 シェルブとエイミはどうした?」
「シェルブの昔の仲間に話を聞いている。 すぐに戻ると言っていた」
「なんだ、じゃあ今のところ大した収穫は無いわけか。 つまらないな」
何か情報を期待していたのだろうが、それなら自分ではなく話を聞いてきたシェルブに聞くべきだろう。 だが、それは新入りの自分を気遣ってくれているからだと気づき、指摘するのをやめた。
「それで、マイとレイは? まだ病院か?」
二人が病院にいるのは、本人達が病気や怪我をしたからではない。
マイが古代文明遺跡で拾ってきた少女。 彼女が未だに目覚めないのだ。
シーアはすぐに彼女が生体CPUだとわかったが、それ以外のことがわからない。 睡眠状態から起こす方法を知らないのだ。
「とりあえずお前の提案通り、点滴を打ってもらったそうだ。 これでしばらくは大丈夫だろ」
かなり楽観的な意見だが、確かに現状ではこれがベストな策のはずだ。 とりあえず栄養失調で死んでしまうようなことはない。
「それで、マイの機体の修理部品は手に入りそうか?」
「まぁなんとかってところだな。 正規品は手に入りそうにない、間に合わせになる」
それでも、稼働しないより幾分マシだ。 それにメカニックが2人もいれば、そう時間もかからずにそれなりに使える状態に仕上がるだろう。
整備について話しているうちに、手元の情報端末にメールが届いた。 エイミからだ。
「すまないショーン、あとの修理はしばらく任せる」
そう言い残してシーアは再び機体のコクピットに座り、メール内容を確認した。
メールには数人のレイヴンの名前が並び、最近の動向について書かれていた。
「アイツ…」
落胆しながら、通信回線を開いた。
「キース、ちょっと用がある。 応答しろ」
情報屋キース・ウォルナント。 あの事件の起こる前、かつてジャンク屋だった頃から世話になっている、優秀なハッカーだ。
『なんだよ、スコープアイじゃねぇか。 依頼されたレイヴンリストならさっき送ったぜ?』
一体何の用だ、とでも言いたいような目つきで、情報屋が画面越しにシーアを睨んだ。
「確かに、前の依頼内容通りだ。 だがオレが今欲しいのは生体CPUの情報であって、あの事件との関係がありそうなレイヴンのリストじゃないんだが?」
致命的な欠陥の指摘に思うところがあったのか、バツの悪そうな顔で情報屋の男が答える。
『あ~……悪ィ、完全に俺のミスだ、すまなかった。 すぐ送る』
「それでいい。 全く、せっかくの情報調達技術も整理ができなきゃ意味ないぞ、キース」
『わかってるよ。 ったく、いちいち小言の多い客だぜ』
「そう言うなよ。 アンタだって、俺に対しては普通の客にするような態度じゃないだろ?」
『ああ、そりゃ違いねェな。 なにしろ手口まで聞いてくる整備士は他にいないもんでね』
二人して笑う。 コイツは5年経っても何も変わらない。
『まぁいい、とりあえず生体CPUの件の最新の情報はソリテュードについてだな。 コイツはほとんどの情報収集依頼をジェイスンってヤツに頼んでいる。 そいつに網張っといたら見事引っかかった。 しかもそのエージェントだけじゃなく、ソリテュード本人の方にもたどり着けたんでな。 一番最近の出撃はエデン4の侵入者排除任務だな』
通信やデータのやり取りを何らかの方法で傍受したのだろう。 この手の技だけは本当に上手いと思う。
だからこそ「コソ泥のキース」なんて二つ名がついたのだろうが。
「じゃあ、ソリテュードに関しては間違いないんだな?」
『ああ、その通りだ。 グローバルコーテックスの管理システムにハッキングして、ヤツのACがリニアに乗ったところまで確認したぜ』
予想通りの手口だ。 だが、信頼性はほぼ100%と言える。
「ならもったいぶらずに早く概要を言え」
『しょうがねぇなぁ。 データ送るぜ』
画面にメール受信のアイコンが表示され、シーアは中身を確認して目を疑った。
[一人のレイヴンが古代文明遺跡で発見したカプセルから少女を確認、依頼者に報告せずそのまま保護。]
マイのことだ。
「待て、この情報、ジェイスンからソリテュードに渡ったのか?」
『ああ。 つまり、こいつも生体CPUの件に絡んでる可能性が高い。 これ以上はなんとも言えない。 追跡できなかった』
確かに、セキュリティレベルの高いエデン4での情報収集とハッキングは、さすがにキースといえども難しいだろう。
「彼に直接聞くのが一番早い。 連絡先は?」
『わかることにはわかるんだが…多分無駄だろうな。 普通のレイヴンがそんな技術を知っているわけがない。 ただ話を聞きに行っても適当にあしらわれて終わり、ってな具合だろう……例外はいるけどな』
例外。 レイヴンで生体CPUに関わるといえば、古代文明技術。 それに詳しい人物なら、有名なレイヴンが一人いる。
「ターミナル・スフィアの考古学者か…」
『知っている可能性はある、ってだけさ。 それにお前らのような特殊な依頼を受け付けてくれるか分からないな。 何かのツテがあるなら話は別だが』
ツテのことなら、シェルブあたりならなんとかできるような気がする。 だが仮に了承が得られたとしても、彼女のオフィスのあるエデン4まで向かう必要がある。
「どちらにせよ、オレは直接会えそうにないな。 さすがにエデンには入れない」
『だろうな。 ジシス残党の技術開発部が放ってはおかないだろう。 何せ貴重な新世代ACのテストパーツのひとつだからな』
キースの言う通りだ。 自分とこの機体、フィクスブラウは新世代ACの研究上重要であり、エイミはナーブスから抹殺命令が出ている。 管理が徹底しているエデンに入るのは危険だ。
「万が一エデンに行くことになった場合には、お前に仕事を頼むことになる。 それに、オレとエイミが一時的に離れていれば、サンドゲイルの活動には問題ない」
幸い、フィクスブラウにはシートが2つある。 これはジシスの研究機関でフィクスブラウが改造された名残で、元々は多くの計測装置が取り付けられていた。 それらを外した結果、もうひとつシートが取り付けられる構造になっていたのだ。 しかも後部座席にもわずかだがコンソールが存在し、パイロットのサポートができる。 その後部座席の周辺がブラックボックス化されている理由は謎だが。
ともかく、いざとなればエイミを乗せてエデンから離れていればいい。
「それと追加で依頼したいのだが、オレに関して正確な情報が出回らないように撹乱してほしい。 追加報酬は出しておく」
『そりゃありがたい。 じゃ、礼ついでにいいことを教えてやる』
少し間を空けてから、ゆっくりと告げた。
『お前らを追っている奴らがいる。 どうやら俺の他にも気づいているヤツがいるみたいだが、一応忠告しておく。 近いうちに会うことになるかもな。 詳しくはシェルブに聞け。 お前に似た女だと言えば、心当たりがあるはずだ。 それと、今お前らがいるコロニーだが、かなり厄介なことになりそうだ』
「やけにオマケ情報が多いな、何があった?」
『報酬金を支払ってもらうまでは死なれちゃ困るんでね。 お前らのいるコロニーに、数機のパルヴァライザーが向かっている。 ついでにミラージュの実験部隊もだ』
それを聞いて、シーアの表情が変わった。
「なるほど、マイ達が参加した古代文明遺跡制圧依頼は、まだ終わっていなかったわけだ」
『どうもそういうことらしい。 まっすぐそっちに向かってる、気をつけろ。 ヤツら、何かを狙ってやがる。 普通じゃないぜ』
強いのなら問題ない。 護衛任務なら得意中の得意だ。 今まで一番多くこなして来た。
「キース、情報に感謝する。 また後でな」
『ああ、お互いに生きてりゃな』
キースがそう言ったところで、通信を切った。 
すぐに回線をエイミに繋ぐ。
「エイミ、パルヴァライザーとミラージュの部隊がこっちに向かっている。 目標はサンドゲイルのようだ。 リヴァルディをいつでも出せるようにしてくれ」
『わ、わかったわ。 全員すぐに出発できるように伝えておくわね』
通信が切れたのを確認して、シーアは耐Gスーツを着用して機体のコクピットハッチをロックし、OSを起動した。 
すぐにAIが機体の状態チェックを開始する。
『各部以上なし。 警戒態勢で起動します』
ジェネレータが唸り、愛機の目が赤く輝く。  シーアは整備キャップを脱ぎ、目を閉じた。 
「…オレはレイヴンだ」
幾度となく唱え続けてきた、自己を純粋な戦闘本能へと変性させるパスワード。
―あの日と同じ、高揚感―
閉じた目を開けた瞬間、右目の瞳に紅が宿る。
―問題ない。 オレはもう、レイヴンだ―
ザックセルと対峙したあの時と同じ、激しい闘争心が、シーアを満たしていた。
「アルフ、ジェネレータ起動。 同時にエクステンションを展開」
『了解。 戦闘システム、起動します』
通常とは異なる高性能AIが応答し、愛機の心臓が激しく唸りを上げる。
フィクスブラウはドックを飛び出し、真っ直ぐコロニーの外へ出た。
レーダーを確認すると、目標とはまだかなり距離がある。
―あの日と同じだ―
スナイパーライフルの照準を合わせ、トリガーに指をかける。
―お前に力があるというのなら―
砂煙を上げて接近するパルヴァライザーの輪郭が見えた。
―その力を証明して見せろ―
照準の中央に、パルヴァライザーを捉えた瞬間、トリガーを引いた。
右腕のスナイパーライフルが火を噴き、放たれた弾丸が目標へ真っ直ぐに向かう。
しかし、それを見て反応したのか、パルヴァライザーはその弾丸を横に避けた。
「甘いな」
その回避点に追い討ちの正確な狙撃。 たったの一撃で、一機のパルヴァライザーの頭部が吹き飛び、機能を停止した。
「その程度か…!」
残りは4機。 素早く他のパルヴァライザーに照準を向ける。
スナイパーライフルが次々に火を噴き、その度にパルヴァライザーが被弾する。
だが、少しづつ学習しているのだろう、最初の一機のように一撃では停止しない。
―そうだ、それでいい―
すぐに倒れてしまっては面白くない。 ギリギリの状況を乗り越えてこそ、己の力を向上させることができる。 自分はもっと強くなる。 あの日の復讐を果たすために。 そして、これ以上何も失うことのないように。
「だが、足りない…お前では役者不足だ」
戦闘が長引くにつれ、ますます感覚が鋭敏になっていく。 シーアもパルヴァライザーもブーストでの回避軌道をとっているが、ダメージを受けているのはパルヴァライザーだけだった。
「これで…あと2機!」
敵が高速で接近し、近接戦闘を仕掛けてくる。 迫る両手のブレードの軌道を読んで避け、ギリギリ届かない距離から左手の速射ライフルと背部のチェインガンを掃射した。
パルヴァライザーは全身に弾丸の嵐を受け、装甲がはじけ飛び、小刻みに振動しながらも接近を続ける。 パイロットがいないからこそできる、捨て身の攻撃だ。
「無駄だ…失せろ」
折りたたまれていた背部のグレネードランチャーが砲身を展開、正面の敵を捉える。
正面から最大速力で突っ込んでくるパルヴァライザーに、避けようのない大火力の一撃が炸裂した。
着弾と同時に爆発。 敵機が跡形も無く四散する。
次で最後。 つまらないが、これで終わり。 
だが、落胆しながら残りの一機を捕捉した瞬間、異変が起きた。
正面のパルヴァライザーの機体各部が、異常な輝きを放ちはじめたのだ。
仲間の機体の戦闘データを分析し、それを学習して強くなることは定説として知られているが、このような現象は聞いたことがない。
しかし、それ以上に驚くべきことが起きた。
『…AIカクニン…ボウソウ…カクニン…ハイジョ、カイシ…』
「今の…パルヴァライザーのAIか?」
まさか、古代兵器であるパルヴァライザーが話しかけてくるとは思わなかった。
それに内容も気になる。 AIの暴走とは、何のことだろうか? モニターを確認しても、特に異常は感じられない。
「アルフ、機体の状態を報告しろ」
『敵勢力を確認、破壊してください』
「なに?」
ありえない。 アルフは次世代AC開発の過程で作られた高性能AIのはずだ。 それがパイロットの命令を無視するわけがない。 確かに異常だ。
『敵勢力を確認。 敵機が対戦術兵器体制に移行しました。 至急撃破して下さい』
だが、暴走しているわけではないらしい。 敵のシステム状態を解析して報告するということは、演算能力に問題はないということだ。
「お前に言われるまでもない。 破壊する」
機体両手のライフルを構え、同時にトリガーを引く。 
だが、放たれた弾丸は空を切っていた。
「…速い」
今までとは段違いに速度が上がっている。 全く別の機体と戦っているような感覚。
「面白い…やはり勝負はこうでなくては……来い!」
既に敵の間合いではあるが、自分も近接戦闘での立ち回りには自信がある。 そもそも、以前はそれが自分のスタイルだったのだから。
パルス砲を撃って牽制しながら、驚異的な速度で接近し斬りかかってくるパルヴァライザー。
その全てを最低限の動きで回避するシーア。 しかし、一切攻撃していない。 いや、できないのだ。
慣れているとはいえ、自分は近接戦闘で負けている。 事件以来、かつては絶対の自信があった戦法が、今では最も危険な戦法であるという認識に置き換わっていた。
だからこそ距離を取ってライフルを撃ちこみたいのだが、敵の機動力と自分の機体の機動力がほぼ同等なために、引き離すことができない。
まずい。 このまま平行線を辿るわけにはいかない。 牽制で背部のチェインガンを撃つが、全て避けられてしまう。 このまま行けば、持久力の差で負ける。
「ハハッ……そうだ、それでいい。 やれるものなら、やってみろ」
背筋がゾクゾクと震える。 恐怖ではなく、歓喜による高揚。
敵が目前に迫り、ブレードを振るう瞬間、エクステンションを起動する。
こちらを捕捉できなくなったことによって生まれた、わずかな隙。 それに付け入るように、グレネードランチャーを発射する。
だが直撃はせず、敵の足元に着弾。 発生した爆風が敵を吹き飛ばし、姿勢を狂わせる。
だがパルヴァライザーはそれを無視して、再び正面の敵を捕捉……できなかった。
「所詮は機械だな。 これで終わりだ」
OBによる高速機動で、パルヴァライザーの背後に回りこむ。
エクステンションもグレネードランチャーも、全てここに繋げるための罠。
いくら通常ブーストが同等の速度でも、突発的なOBによる加速には反応が追いつかない。
その反応時間を少しでも遅らせることができれば、勝機は見えてくる。
両手のライフルが、次々に火を噴く。 ブースター、関節、センサー、装甲の継ぎ目に正確に弾丸が突き刺さる。
最後に一発、正確に頭部を撃ち抜かれて、パルヴァライザーはようやく機能を停止した。
『敵機の撃破を確認。 レーダーに反応あり。 ACを確認しました』
まるでずっとこちらの様子を探っていたのかのように、突如敵部隊がレーダーに反応する。
「ミラージュの実験部隊か…エイミ、聞こえるか?」
『ええ。 パルヴァライザーの撃破は確認したけど、まずいわね』
「まったくだ。 敵の通信を傍受できるか?」
『やってみるわ』
エイミがPCと通信機を操作している間に、敵部隊をできるだけ調べる。
数はMT20機。 そしてACが1機。 キースの言っていたミラージュの実験部隊だろう。
『敵通信回線の傍受に成功したわ。 そっちに送るわね』
エイミが送ってきた通信傍受のプログラムを起動し、こちらのマイクを切ると、敵部隊の通信会話がノイズもなく聞こえてきた。
『くそ、やはり全機が行動不能のようだ』
『実験は失敗か。 記録は残しておけ、後で解析するぞ』
『仕方がない、全機撤退。 資料はなんとしても持ち帰れ』
『しかし、あの実験機はどうしますか?』
『古代兵器へのシステムの反応を確認できただけでも僥倖だ。 まだ泳がせておけ』
驚いた。 キースは実験部隊だと言っていたが、とんでもない。 こいつらは旧ジシス財団の先進技術開発部の連中だ。 まさか向こうから接触してくるとは思わなかった。
『我々は離脱する。 後は頼んだぞ、レイヴン』
『了解』
最後の応答とともに撤退する部隊とは逆に、接近してくる熱源が一つ。 敵ACだ。
「エイミ、敵機を確認した。 判別できるか?」
接近してくるACの画像をエイミに送り、検索させる。
『判明したわ、敵ACはタイタニア・ダークネス。 搭乗レイヴンはツヴァイよ』
「ディエス・イレの生き残りか…!」
以前キースから送られてきたレイヴンの情報リストに載っていた奴だ。 元企業連合特務部隊所属だっただけあり、なかなかの実力者であると書かれていた。
だが、その後ろには撤退する開発部の連中がいる。 なんとしても、ここで手掛かりを掴みたい。
「悪いが早々に終わらせてもらうぞ」
スナイパーライフルを構え、トリガーを引く。
しかし、弾丸は敵の装甲にわずかにダメージを与えただけだった。
続いて狙撃を試みるが、敵は全て急所を外し、重量級ならではの重装甲で受け流している。
次第に互いの距離が詰まっていく中、敵がロケットを撃ってきた。
狙撃姿勢から一気にブーストを噴かして横に回避し、再びライフルを撃つ。
しかし、今度はエクステンションのエネルギーシールドでその弾丸が阻まれる。 そのまま敵はこちらに接近し、腕部武器の射程距離に到達した瞬間、ガトリング砲とプラズマ砲を撃ってきた。
このレイヴン、なかなかできる。 だが、今は邪魔だ。
敵の攻撃を回避しつつ、足元を狙ってグレネードランチャーを発射する。
爆炎が敵の視界を奪う。 その炎が消えぬ間にOBを起動し、左側から敵の背後に回りこむ。
『敵機のOB起動を確認。 注意してください』
アルフからの警告とほぼ同時に、敵が炎の中から急速に接近してくる。
「しまった…!」
すぐにOBの噴射方向を左側に切り返し、右に回避を試みる。 しかし、ガトリングガンから発射された弾丸に数発被弾してしまう。
『機体損傷軽微。 機能障害はありません』
さすがはACといったところか。 軽装甲の機体でも、よほど当たり所が悪くなければ数発の弾丸程度ならば十分耐えられる。
「しかし、これは面倒だな」
敵はOBを巧みに使い、こちらが距離を取っていても、大火力と絶大な防御力を伴って突撃してくる。 機動力では圧倒的にこちらが有利なはずなのだが、敵の装甲が厚過ぎてライフルがほとんど効かないため、ダメージを与えるに十分な装備はグレネードランチャーしかない。
だが、敵もグレネードランチャーを装備している。 自分と同じように視界を奪うように使ったり、時折直接こちらを狙って撃ってくる。 つまり、敵も武器の性能を知り尽くしているのだ。 遠距離からでは当たらないだろう。
従って、今有効な戦法は敵に接近してグレネードランチャーを当てること。 だが当然こちらは相手以上に危険が伴う。
敵機のカメラアイを狙撃するのも手だが、残弾が残り少ない上に、サブカメラに切り替わるまでの一瞬で致命傷を与えられなければ意味がない。 だが、グレネードランチャーではギリギリで耐えられてしまう可能性もある。
『どうした、逃げてばかりでは意味がないぞ?』
敵からの突然の通信に、シーアは若干間を空けて答えた。
「…お前はなぜオレの邪魔をする? お前の後ろのあいつらは、企業連の特務部隊と関係があるのか?」
『いや、関係ない。 だが、彼らは今回のクライアントだ。 俺は任務を遂行するだけだ』
こいつ、まさか単純に依頼があったから受けただけとでも言うのか…?
「お前はなぜあんなやつらの依頼を受ける? 特務部隊と同じように、便利な道具として使われているだけだぞ?」
『企業に未練は無い…あるのは目の前の現実だ』
OBを起動し、またこちらに突撃してくる…かと思ったが、進行方向はまるで違った。 
『お前は逃げるだけというのなら、こちらは任務を遂行させてもらう。 少女を残して消えてもらうぞ、サンドゲイル』
敵の任務は、部隊の撤退援護と生体CPUの奪取。 ならばなおさら、通すわけには行かない。
コロニーの付近にいるリヴァルディへ向かおうとする敵機の頭部を、左手のアサルトライフルで狙う。 もちろんただの牽制だ。
「お前の相手はオレだ。 サンドゲイルに手は出させない」
もともとは自分も、生体CPUを奪いに来たのだ。 自分の復讐心に駆られて。
だが、自分にはもっと大切なものがあることに気づいた。 
それを気づかせてくれたシェルブには感謝している。 仲間として迎えてくれたマイ、レイ、ショーンにもだ。
だから、自分は借りを返さなくてはならない。 お節介だが、それがあいつらのいいところでもある。
復讐は止めない。 だが、復讐心に支配されては駄目だと気づいた。 自分には、他に守りたいものがある。
だからこそ、オレは…
「オレはもう、逃げない」
『…邪魔だ、消えろ』
声と同時に、またOBによる突撃を仕掛けてきた。 本気でこちらを撃破するつもりだ。
だが、やられるつもりは毛頭ない。 それに、こちらにはまだ、もう一つ有効な武器がある。
左腕のブレード。 1年前のあの日以来、純粋な戦闘で使ったことは一度もない。
だが、いつまでも逃げてはいられない。 あの日の決着をつけるためにも、より強くなるためにも。
「アルフ、背部武装をパージ。 左手のライフルもだ」
残った武装はスナイパーライフルとブレード、そしてステルスユニットのみ。
だが、近接戦闘を行うならば十分だ。
「ブースターのリミッタ解除、急速噴射モード起動」
『了解。 全ブースターの制限を解除完了。 噴射角調整は?』
「速度優先だ、指向性をできるだけ絞れ」
『その場合、左右平行移動の切り返しが困難になりますが?』
「問題ない、いいからやれ。 今から戦闘データと機体状態をしっかり記録しておけ」
『了解しました』
AIの応答と同時に、OBを起動する。
独特の音がして、爆発するように一気に加速する。
敵と正面からのぶつかり合い。 勝負は一瞬で決まる。
敵がガトリングとプラズマを発射した瞬間、OBの噴射方向を左へ切り、右方向に平行移動する。
敵もそれに対応して進路を変更してくる。 相対速度を考えれば一瞬の反応だった。
だがシーアは、進路を変えて自分に突撃してくる敵に対し、自分も平行移動しながら相手の方向に機体の向きを変え、ブレードへのエネルギー供給を開始する。
互いが機体の持てる最高の速度で接近する。 敵のプラズマが至近距離で発射される、その一瞬前。
「今だ!」
エクステンションを起動し、左脚で地を強く踏み込むと同時に、脚部のブーストを単発で急速噴射した。
機体が反時計回りに側転する。 OBの噴射方向は左向きのままに。
その影響でOBの噴射方向が地面に向き、機体が高速で上昇する。 結果、敵の視界から一瞬で消える。
『なっ…!』
瞬間、ブレードを現出させ、右腰から切り上げるように左腕を振るう。
回転を続けているために天地が逆転し、機体は敵機のやや上に舞い戻る。
敵機の自機の頭部が、わずか数センチのところですれ違う。その瞬間が、ブレードが振るわれるタイミングと完璧に一致した。
シーアから見れば左上段に切り上げたブレードが、敵機の左腕をコアとの連結部から完全に切り裂く。 
普通にブースト噴射角を切り返して移動方向を変えると、どうしても上下左右の移動量が0になる瞬間があるため、非常に被弾しやすい。 それを避けるために、あえてブースタの速度を優先し、機体の姿勢の方を制御することで強制的に機体の進行方向を変えたのだ。
イメージした通りの、完璧な結果だった。
OBを切り、機体を反転させて敵機を再び正面に捉える。
敵も同じように旋回し、こちらを向いた瞬間にスナイパーライフルでカメラアイを打ち抜く。
敵機のモニター表示がサブカメラの映像に切り替わる、一瞬のラグ。 その隙を突いて再びOBで突撃し、プラズマライフルと背部の武装をのみを切り裂いた。

―勝った。 あの日以来避けてきた近接戦闘で、ようやく。
『…なぜ止めを刺さない?』
自分が生きていることに疑問があるのか、ツヴァイが問いかけてきた。
「敗者は死ぬのが当然、か。 それもレイヴンとしての覚悟のひとつとして必要かもしれないが、今はそういう気分じゃない。 それに聞きたいことがある」
『…なんだ?』
「お前は、旧ジシス財団の先進技術開発部…グレイヴメイカーを知っているか?」
先ほどの通信を聞く限りでは、撤退した部隊はオレとフィクスブラウを知っていることが明白だった。 なら、少しは情報を持っているかもしれない。
『…悪いが聞いたことがない。 ただ、クライアントはお前とパルヴァライザーが今回の実験対象だと言っていた。 依頼人名義はミラージュの秘密研究部隊だ』
ミラージュの関連組織。 その情報がわかっただけでもありがたい。
「それだけ分かれば十分だ。 すまないな」
『…随分と甘い奴だ』
ツヴァイの機体が背を向けて走り去るのを見て、自分もリヴァルディへ帰艦しようとした、その時だった。
『後方警戒、パルヴァライザーが再起動しています』
「ッ、邪魔だ!」
斬りかかって来たパルヴァライザーに、こちらもブレードで応戦する。
『…イレギュラー…ハイ、ジョ…』
パルヴァライザーの掠れた声。 一体なぜ、ここまで自分に執着するのだろうか。
そんな疑問を抱いているうちに、今抑えているブレードとは逆、空いている左腕のブレードが迫ってきた。
「しまった…」
腕の出力が負けているために、機体が地面に押し付けられている。 これでは回避できない。
やられる。 そう思った瞬間だった。
『対応コード発令を認証。 AAFシステム起動します』
突如、モニターに映る機体各部の負荷状態が安全値に回復する。
機体制御モードの表記が『High maneuver combat』から『Anti-advanced technology frame』に変わっていた。
だが、そんなことを気にしている場合ではない。 
すぐに回避行動を取ると、腕の出力差など全くなかったかのように、機体が弾け跳んだ。
ボロボロのパルヴァライザーに正面から突撃し、左腕を振るいながら右横に抜ける。
ブーストを止めて後ろを確認すると、そこには左肩口から右腰部を切断されたパルヴァライザーの残骸が転がっていた。
「最後の最後で…やってくれる」
ようやく戦闘が終わったところに、エイミからの通信が入ってきた。
『シーア、大丈夫? 一体何をしたの!?』
「ああ、久しぶりにブレードを使ったが、問題はない。 それよりどうした、そんなに慌てて」
『目を覚ましたのよ、あの女の子! それもあなたの方を指して、呼んでるって! あなたじゃないの?』
目を覚ました?
「待て、オレは特に何もしてないぞ。 それはむしろアルフに反応したんじゃないのか? こいつ、パルヴァライザーを相手にするとおかしくなる」
『異常はありません。 プログラムされた行動です。 問題ありません』
いちいち自分の言うことに反論するアルフ。 こういうところを考えると、少し面倒なAIだ。
「うるさい。 とにかく、結果的にはパルヴァライザーに反応した、ということなんだろうな。 生体CPUもアルフも。 今はそういうことでいい」
『でも、なんでそんな反応を…私たちはこれからどうすれば…』
「今は気にするな。 それよりも、心配ごとが減ったのを喜ぶべきだ」
そうは言ったが、シーアも生体CPUの少女のことで頭が一杯だった。
自分の機体を指して、『呼んでる』と反応した。 そしてアルフが生体CPUからの何らかのコードを認識し、自分の知らないシステムを起動して、機体の能力を向上させた。 そんなところだろうか。
そんなことを考えながら帰艦しようとして、ふと地面に目が止まる。
ツヴァイの機体の腕部パーツだ。
「…エイミ、ショーンにドックの用意をさせてくれ」
『え、どういうこと?』
「修理部品を見つけた。 純正じゃないが、ミラージュの製品ならかなり使える。 どうせ修理するなら、前よりもいいものしてやろう。 カスタムメイドの強さをマイに教えてやらないとな」
ショーンもこれには賛成だろう、早く戻って整備の準備をしなければ。
『わかったわ。 仲間のためにも、頑張らないとね』
「ああ、そうだな。 とりあえず急ぎの用事はなくなったが、やることはまだまだある。 今後の方針はシェルブに任せよう」

自分は借りを返さなくてはならない。 自分にとっての大切なものを気づかせてくれた、サンドゲイルのメンバー達に。
オレにとって、一番大切なもの。 それは昔のジャンク屋仲間ではなく。
今を共に生きている、仲間たちだ。

 第七話 終

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