※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「Intermission -Imitation summer-*


 執筆者:クワトロ大尉(偽)


エデンⅣのとある高級マンションの一室。
 シックな家具と内装で統一されたダイニングには中華料理特有の匂いが漂っていた。
 テーブルには色鮮やかな料理が並べられ、これらを作った本人でもあるメイファは自分を含め、3人分の料理を小皿へ器用に取り分ける。
「はい、鶏肉のカシューナッツ炒め。今日の自信作なの、コレ」
 ソリテュードは微笑むメイファから小皿を受け取り、器用に箸を使いながら料理を口へと運ぶ。
 ジューシーな鶏肉と香ばしいカシューナッツが醤油とオイスターソースの味と絡みあい、絶妙な旨味が口に広がる。
「うん、美味い。いつもながらいい腕だ」
「おいしい」
ソリテュードの隣に座るアリスも、たどたどしい手つきで箸を使いながら料理を口へ運ぶ。
アリスはいつものように無表情に見えるが、よくよく見ればその表情が普段よりもほころんでいるのが分かる。
エデンⅣを襲ったあの騒乱以来、アリスは少しずつではあるが、感情表現をするようになってきた。
もにゅもにゅと小さな口を懸命に動かしながら料理を食べる姿は可愛らしく、その光景を見ていると、何か胸に訴えかけてくるものを感じる。
――親と言うのは、こういう気持ちを抱くものなのかもしれないな・・・。
 そう思って、何を馬鹿な、と普段の自分では抱きもしない感情を胸中で嘲笑しつつ、自身も箸を進める。
「んふふ、二人ともありがと。そう言ってくれると作った甲斐があるわ。たくさん食べてね」
 そう言いつつ、メイファも自身の料理に箸をつけ、口元を緩ませる。どうやら彼女にとっても満足な出来だったようだ。
「ん~、上出来、上出来。やっぱり誰かのために作る料理は美味しく出来るのよね~。コレって愛の成せる技かしら」
 などと歯の浮く様なセリフを真顔でいうメイファを見ていると心なしか顔面の体温が上昇した様な気がした。
――どうしてメイファは、こう言動がストレートなんだろうか・・・。
 そう思いつつ、彼女のこの程度の言動に動揺する自身の耐性のなさに胸中で嘆息すると、それを悟られまいと平静を装いながら箸を進める。
 そんな和やかなムードのなか、至福のひとときはゆっくりと流れていった。

 食事が終わり後片付けを済ませ、食後のお茶を楽しむ。
 水仙烏龍茶のさっぱりとした味と香りは中華料理の食後にぴったりだ。
 隣ではアリスがメイファ謹製の杏仁豆腐をほおばっている。
 ゆったりとした食後の余韻に浸っていると、
「ソリッド、週末にプール行こうよ」
 などとメイファは突然切り出した。
「・・・は、プール?」
 メイファの唐突な発言に思わず眉をしかめた。
「そう、プール!アリスちゃんも一緒に。今年はまだ行ってないでしょう?」
「いや先週、行ったばかりだが」
「ちーがーうー。トレーニングじゃなくて、遊びで!」
 確かにメイファの言うとおり、今年に入ってバカンスでプールには行っていないが、生憎今のシーズンは完全に冬だ。
 エデンⅣは密閉型コロニーだが住人の季節感が狂わないように、四季に応じて気温が管理されており、実際エデンⅣ内部も外と同じように寒い。
「プールと言っても、テーマパーク内にあるやつも今はシーズンオフで閉まっているだろう。スポーツセンターのプールは温水だが、とても遊ぶような所じゃないぞ」
 そんな俺の否定的な発言に、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべるメイファ。
「んふふふふ。ところがどっこい・・・じゃーーーーん!コレがあるのでしたー」
 満面の笑みでポケットからメイファが取り出したのは色鮮やかな紙片3枚だった。
 差し出された紙片を受け取ると、そこには南国のビーチのような絵と共に『Aqua resort(アクアリゾート)ご招待券』と文字が書かれていた。
「アクアリゾート?そういえば興行地区に新たしくオープンしたレジャー施設があったな。コレのことか」
「そう、それそれ。アクアリゾートはね、密閉型のウォーターレジャー施設で、一年中、常夏のビーチが体験できるの。海みたいな波の出るプールとか、超大型ウォータースライダーとか、とにかくすごい種類のプールがあるんだから!」
メイファは爛々と目を輝かせながら力説する。
「しかし、コレどうやって手に入れたんだ?」
「この前のアリーナのランク防衛戦で勝った時に、賞金とは別にスポンサーから副賞がいくつか貰えたの。そのうちの一つってワケ」
 今度は得意顔で答えるメイファ。本当に彼女は表情がころころ変わると改めて実感する。
「ね、行こうよ。せっかくの招待券だし、たまには息抜きも必要でしょ?」
「うーん、どうするかな・・・」
 確かに週末は特に予定も入っていないし、行く事はできるのだが、アリスをどうするかが問題だった。
 アリスを遊び場へ連れていくのは構わないのだが、あまり人が多く集まる場所へ連れて行った事がないし、そもそもアリスが泳げるのかどうかも分からない。
 そんなことを考えていると、いつの間にか杏仁豆腐を食べ終わっていたアリスが俺の手にあるチケットを覗きこむようにして見ていた。
 いつものように無表情だが、チケットに興味津々といった眼差しを向けている。
「アリス、もしかして行ってみたいのか」
 俺の言葉にアリスは顔を上げると、こくんと頷き、いってみたい、とはっきり言った。
「ほら、アリスちゃんも行きたいって言ってるんだから!ね、行こうよ」
 メイファは強力な助っ人を得て、ここぞとばかりにたたみ掛ける。
「それに、こんなカワイイ女の子二人の水着姿を拝めるなんてチャンス、そうそうないわよ?それだけでも行く価値アリだと思わない!?」
 熱の入った説得は願望を通り越して、既に脅迫に近いものとなっていた。
 それ以前に20歳を過ぎた女性をカワイイ女の子という分類に括るのはどうなんだと思ったが、それは口に出さないでおいた。話が混乱しかねない。
 メイファのもはや有無を言わせぬ眼光とアリスの無垢な眼差しの十字砲火に、俺は白旗を上げざるを得なかった。
「分かった、行こう。せっかくの招待券なんだ。ムダにすることもないだろう」
「ホント!?やった!じゃあ、土曜日でいいわよね?水着どれにしようかなぁ、迷っちゃう」
まるで子供のようにはしゃぐメイファの言葉を聞いて、ふと思い立った事があった。
「そうだ、アリスの水着はどうする。水着はさすがに買ってないぞ」
 俺の疑問にメイファは、にまっと笑顔になり得意げに答えた。
「その点は大丈夫、抜かりは無いわ!こういうこともあろうかと事前にアリスちゃん用の水着も買っておいたの。とってもカワイイの選んだから、アリスちゃんもソリッドも期待しててね!」
 メイファの笑顔に一抹の不安を覚えたものの、事前に用意しておいてくれたというのはありがたかった。
やはり女性が身につける物を男が選ぶのには限界がある。
「メイファおねーちゃん、ありがとう。プールたのしみ」
アリスもメイファが自分の水着を買ってくれたということが嬉しいのか、珍しく微笑んでいた。
 そんなアリスを見てますますテンションが上がるメイファ。
「いいのいいの、私が三人で一緒に行きたかったんだから。あ、でもアリスちゃんプール初めてなのよね。じゃあ私が泳ぎ方とか教えてあげる。水遊びってとっても楽しいんだから」
「うん、おしえて」
 はしゃぐ二人を見ながら、自分も表情がほころんでいるのを自覚する。
――プールか・・・そうだな、たまには羽を伸ばすのも悪くない。アリスにとってもいい経験になるだろう。
 そう思いつつ、お茶の入ったマグカップを傾けた。

 約束の日、興行区画のシンボルとも言えるセントラルタワー前の広場で待ち合わせをし、目的地であるアクアリゾートへと向かう。
 アクアリゾートは大きなドーム状の施設で、想像したよりも大きく、その存在感は中々のものだった。
「すごいな、これほどとは思わなかったよ」
 思わず本音が口から出る。
「中はもっとすごいわよ。びっくりするくらい広いんだから。ほら、行こ」
 メイファに促され、正面ゲートから中へ入り、広々としたロビーに足を踏み入れると、清涼感のある制服を身に付けたスタッフが丁寧な挨拶で出迎える。
「入場手続きしてくるから、ちょっと待ってて」
そう言うと、メイファは受付嬢が控えるカウンターに小走りで向かって行った。
 受付カウンターでメイファが入場手続きを済ませている間、ロビーを見まわしてみる。
 上品な内装で統一されたロビーは大人びた雰囲気で、子供や家族連れの遊び場というよりは高級リゾートを意識したものだというのが分かる。
 しかし、ロビーに大きなスペースを割いている土産売り場や小さな子供を連れた家族の姿もちらほら見えるところから、そこまで敷居が高い訳でもないようだ。
 ふと視線を下げると、アリスも興味深そうにロビーを見まわしている。
 特に土産売り場が気になるようで、その視線の先にはぬいぐるみが置かれている棚が並べられていた。
「帰りに、ちょっと覗いていくか」
 アリスの肩にそっと手を置いて話しかけると、俺を見上げた後、こくんと頷いた。
「手続き終わったよー。さ、行こうよ」
 こちらに戻ってきたメイファの手には、ブルーのバンドのようなものが握られていた。
「はいコレ。腕に巻くんだって」
「何だこれは」
「コレが入場パスなんだって。ICチップが入ってて、ロッカーの鍵とか自動販売機の支払いとか全部コレでできるらしいよ」
――なるほど。確かにプールへ鍵やお金を持ちこむのは煩わしいし、盗難や紛失の恐れもある。よく考えてあるものだ。
「じゃあ行こ。入場ゲートは向こうだって」
 メイファは嬉しそうにアリスの手を取り、俺を促しながら歩いていく。
 入場ゲートの先は更衣室になっていて、当然ながら男女別になっていた。
「じゃあ、ここで一旦お別れね。多分ソリッドの方が早いだろうから、出口のところで待ってて」
「ああ、分かった。別に焦らなくてもいいからな。時間はたっぷりある」
 そう言って更衣室に入って行こうとした俺をメイファはニヤニヤしながら上目づかいで覗きこむ。
「ん?なんだよ」
「んふふ、期待してていいからね?でも、あんまり想像しすぎちゃダメよ」
 メイファが何を言わんとしてるか理解して、心なしか顔面の体温が上昇する。だが、それを悟られるのも癪なので務めて平静を装う。
「バカ言ってないで、さっさと着替えてこい」
「もう、テレちゃって~。さっき焦らなくてもいいって言ったじゃない」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながらメイファはアリスの手を引いて更衣室へと入って行く。
「じゃあ後でね」
「あとで」
 アリスはこちらに小さく手を振りながらメイファについて行った。
 とりあえず更衣室が男女別になっていることくらいは説明せずとも理解できたようだ。
 更衣室に入ると中は綺麗に掃除してあり清潔感に満ちていた。
 ロッカーの大きさは余裕があり、着替えのスペースも十分に確保されていて、不快感を覚える事が全くない。
――よく考えて作られているな。これはメイファも言っていたとおり、中も期待できそうだ。
 ハーフパンツ型のカジュアルな水着に着替え、パーカーを羽織る。
 パーカーは周りに配慮するために持ってきたものだ。
 自分の体には戦場で受けた傷跡が多くあり、大きく目立つものもある。自分は気にしていないが、リゾートに見た目が物騒な人間がいるのは好ましくないだろうと考えた結果だった。
――俺も歳を取ったもんだ。
 などと自分で自分を笑いつつ、更衣室を出て、プール内部へ足を踏み入れる。
 その途端、目の前に美しい浜辺が一面に広がり、南国特有のカラっとした暑さと太陽の鋭い日差しが肌を刺激する。
 実際には暑さも日差しも高度にシミュレートされた疑似的なものなのだろうが、それにしてもよく再現されている。
――メイファが言っていたとおりだな。これなら間違いなく一年中、常夏のビーチを体験できる。
 潮騒の音が耳に心地よく、家族連れや恋人達が楽しそうに水と戯れている。
――なるほど。これなら俺でも羽を伸ばせそうだ。
 アクアリゾートの予想を越えた造りに思いを巡らせていると更衣室から異様に目立つ二人が出てくるのが目に入った。
「やっほー、お待たせ!」
 メイファは大きく手を振りながらこちらへ歩いてくるが、その姿はあまりにも艶やかで不覚にもどきりとしてしまい、思わず目を逸らしてしまった。
 そして、目を逸らした先にメイファに手を引かれて歩いてくるアリスが目に入ったのだが、今度は無意識に眉をしかめてしまう。
 まず、アリスが身に着けている水着は異様に地味だった。色は紺一色で生地も見て分かるほど厚ぼったい。
 デザインもお世辞にも秀逸とは言えず、どちらかというと機能を優先したような感じだ。
 そして何よりも目を引くのが、胸元に縫い付けられている粗末な白い布で、そこには『ありす』と何故かひらがなで名前が書かれていた。
 これはどこからどう見ても、女子学生が学校の授業で身に着ける、いわゆるスクール水着にしか見えなかった。
「なあ、メイファ」
「ん、なあに?」
「何だ!このアリスの水着は!!」
「カワイイでしょ?」
 満面の笑みで答えるメイファ。どうやら本気らしい。
「どこがだ!?こりゃ女子学生が学校の授業で着るものだろうが!なんでそれをわざわざリゾートで着させるんだよ」
「もう、ソリッドったら萌えってものが分かってないんだから。アリスちゃんみたいな美少女が野暮ったいスク水を着るこのギャップがいいんじゃない」
うん、全く分からん。
 当のアリスは嫌がっている様子は無いが、周りから明らかに浮いているのは確かだ。
「メイファ。お前の言う、その萌えとやらに言及するつもりはないが、これは明らかに浮いてるぞ。もうちょっと、こう、なんというか・・・年相応のやつは無かったのか」
 口調を平静に戻し、真剣な態度で話すと、さすがにメイファも俺の気持ちを理解したのか、少しばつの悪い顔になる。
「あはは・・・気に入らなかった?さすがにスク水はちょっとやりすぎたかな」
「そう言ったって、今さらどうしようもないだろ」
するとメイファは、今度は頬を人差し指でかきつつ苦笑いする。
「じつはソリッドが怒った時の保険に、もう一着持ってきてるのよね・・・」
 それを聞いた途端、軽く頭痛がして無意識に顔に手をあててしまう。
 もう怒る気すら起きない。
「分かった。さっさとそっちに着替えさせてこい」
「ねぇ、やっぱりスク水はNG?」
 ウィンクしながら拝むポーズをするメイファ。
微妙に前かがみになり二の腕で胸を寄せ、谷間を強調するというコンビネーション技を使ってくるが、それを鉄の精神でやり過ごす。
彼女の悪ノリを許すわけにはいかない。ここで甘い顔をすると悪ノリが更にグレードアップするのは目に見えている。
「ダ・メ・だ」
 俺が断固拒否の姿勢を明確に示すと、一転して頬を膨らませむくれるメイファ。子供か。
「む~、ソリッドのイジワル。せっかくカワイイのに・・・でももう一着のも同じくらいカワイイからいいかな」
 それを聞いて一抹の不安がよぎる。もしかしたら、単に水着の色が白くなるだけかもしれん。
「確認するが。もう一つの方は、ごく普遍的なものなんだろうな」
「あはは、大丈夫だって。年相応の可愛らしいヤツ、ちゃんと選んできたから」
 なら最初からそれを着せろと思ったが、口には出さないでおいた。彼女なりにアリスのことを考えてくれたのだから。
方向性が盛大に間違っているのが問題だが。
「じゃあ、着替えさせてくるね。もうちょっと待ってて」
そう言って、再びアリスの手を引き更衣室へ入って行く。
アリスは俺達のやり取りの最中、終始無言でメイファについて行った。自分がどういう状況に置かれているのか分かってないらしい。
――人には色々な嗜好があるから一概には言えないが、あれが普通だと理解されるのはさすがにまずいからな・・・。
 いきなり出鼻を挫かれたような気はするが、こういうのがむしろ自分達らしいのかもしれない。
 そう思うと可笑しくなって、つい自嘲的に笑ってしまう。

 メイファとアリスが更衣室に入ってから約10分経過し、遅いなと思い始めた矢先、更衣室から再び見慣れた二人が出てきた。
 アリスの水着がぱっと見、あまり印象が変わってないように見え、一瞬戸惑うが、よくよく見るとデザインは明らかに違っていた。どうやら色が黒いからそう見えたらしい。
「お待たせー。どう?今度のは文句ないでしょ」
 自信満々に言うメイファに促されアリスに目を移すと、いつもとは大きく異なる印象に不覚にも一瞬、我を忘れてしまった。
 アリスが身に着けている水着はシンプルなワンピースタイプで、色は黒だった。
 しかし先程のものより生地が良いものなのか鮮やかな光沢を放っており、胸元には小さなイルカのシルエットが白地でプリントされていて、腰の両端に可愛らしいリボンの飾りも付いていた。
 更に、普段は腰まで伸びているプラチナブロンドの髪は、ふんわりとした三つ編みになっていた。
贔屓目に見ても非常に可愛らしいアリスの姿を見て、その思いが無意識に口に出る。
「ああ・・・、可愛い。よく似合ってる」
 そう答えた俺を見て、自分の事のように喜ぶメイファ。
「よかったね、アリスちゃん。ソリッドもカワイイと思うって!」
「・・・・・・」
 しかし当のアリスは黙ったまま俯いていた。
 先程も終始無言で、いつものように無表情だったが、今は少し感じが違う。
 何と言うか、こちらに目を合わせようとしないのだ。
「ん?どうしたの、アリスちゃん」
 不思議に思ったメイファが、しゃがんで目線の高さを合わせ、顔を覗きこむ。
 すると、メイファは途端にニヤニヤした顔になり、しゃがんだまま俺を見上げた。
「何だ、どうした。もしかして具合でも・・・」
 いまいち要領の掴めない俺の言葉を遮るようにメイファは言う。
「んふ、アリスちゃん照れちゃってるみたい」
「え?」
 思わず聞き返してしまった。
――アリスが・・・照れてる?今までそんな反応を示す事などなかったのに。
 予想もしなかったアリスの反応に、暫し呆気にとられる。
 確かにアリスは俯いたまま腕を前に組み、もじもじと指を動かしていて、落ち着かない様子だ。
「ほら、アリスちゃん。恥ずかしがらないで、ソリッドに『ありがとう』って言わなきゃ」
 優しく微笑むメイファに促されたアリスは恥じらうようにおずおずと顔を上げ、澄んだ大きな紅い瞳が俺を見上げる。
「あ、ありがと・・・う」
 そうして消え入るような小さな声で呟くように、俺の賛辞に対する返礼を述べた。
 その年相応の微笑ましく可愛らしい反応と仕草に面食らい、思わず目を逸らしそうになるが、それはアリスに対して失礼だと思い、小さな顔を正面から見据えると、白磁の様な頬がほんのりと赤く染まっているのが分かった。
「ね、いつまでもここに居るわけにいかないから、とりあえず移動しよう?休憩スペースも予約してあるから、まずはそこまで行きましょ」
 メイファの言葉で我に返り、気を取り直す。
――確かにメイファの言うとおりだ。こんな所でぼーっとしてるのもヘンだしな。
 先を促すメイファは肩からトートバックを提げ、手には何やらバスケットの様なものを持っていた。
「あ、荷物なら持つぞ」
「重くないし、大したもの入ってないから平気。それよりソリッドはアリスちゃんを連れて来て」
 そう言われて振り向くと、何故かアリスはぽつんと立ちつくしていた。
 恥ずかしい上に、どうしていいかわからず戸惑っているらしい。
 俺はアリスのもとへ駆け寄ると、ゆっくりと手を差し伸べ、努めて優しい声音で言った。
「ほら、行くぞ」
「うん」
 アリスは俺を見上げながらおずおずと手を取ると、しっかりと握り返してきた。
 そしてアリスに歩調を合わせるようにゆっくりと歩き出し、メイファの後を追う。
 別に急ぐ必要は無い。時間はたっぷりあるのだ。
 視線の先に俺達を待っているメイファの姿が映る。
 さっきはアリスのスク水の件で考える余裕が無かったが、こうして少し離れてよく見ると、改めてメイファの美しさが実感できた。
 健康的な美しさというのだろうか。体はアスリートのように鍛えられ引き締まりつつ、女性の柔らかな曲線も両立しており、非常に均整のとれたプロポーションといえる。
 そしてそれをより際立たせている鮮やかな黄色いビキニは、まるで彼女のために作られたのではと思ってしまうほど、よく似合っていた。
 女性らしさを強調しつつも、いやらしさを感じさせないデザインはメイファのキャラクターにぴったりだ。
 そんな事を考えつつ、待っているメイファに追いつき合流すると、メイファは空いているアリスの手を取り、三人並んで手を繋ぐ格好となる。
「ほら、休憩スペースはもうすぐそこよ。ちゃっちゃと荷物を置いて、早く準備しようよ」
 明るい笑顔で俺とアリスを促すメイファ。その様子は今というこの時を心から楽しんでいるようだった。
 休憩スペースは木造の小屋のような感じで、ヤシの木でも使っているのか、南国風の雰囲気が漂っていた。
 こういう部分までよく考えられているあたり、大した徹底ぶりだ。
 荷物を置いて、軽く柔軟体操をする。
 その様子をきょとんとした表情で眺めるアリス。何をしているのか分からないらしい。
「アリスちゃん。プールで遊ぶ前には準備体操しなくちゃ危ないの。私が教えてあげるから、真似しながらアリスちゃんも体操してね」
「わかった。たいそうする」
 教えながら美しい体をゆっくり伸ばしていくメイファと、ぎこちない動きで懸命に真似をするアリス。
 そんな微笑ましい光景を見ながら、ふと、羽織っているパーカーをどうしようかと思い立つ。
 水に入るのにパーカーを着たままというのも、いささか変だ。
 すると俺の考えを察したのか、準備体操を終えたメイファが小物の入ったバックを持ちながら声をかけてきた。
「浜辺のところにパラソルとチェアもあるらしいから、ちょっとした小物は持っていけるわよ」
 なんと至れり尽くせりなのだろうか。こういう気の利いたサービスが人気に繋がっているのだろう。
「さあ、行きましょ。今日はめいっぱい遊ぶんだから!」
 もう待ちきれないといった表情で、今にも飛び出していきそうなメイファ。
 そんな彼女を、ちょっと待ってくれ、と呼び止める。このタイミングを逃すと、伝えられそうにない。
「何、どうしたの?」
「あ、いや、その・・・」
 しかし、いざとなると恥ずかしさが込み上げてくる。
 そんな俺に対して気を悪くした風もなく、微笑みながら小首を傾げるメイファを見て、意を決し、彼女を正面から見据える。
「その水着、よく似合ってるぞ。凄く、綺麗だ」
 我ながら飾り気のないセリフだと思いつつ、気持ちをストレートに伝える。
 こんな風にしか気持ちを表現できない自分が、たまにもどかしくなる。
「メイファおねーちゃん、きれい」
 アリスもにっこりと微笑みながらメイファを見上げ、自分の気持ちをはっきりと口にした。
 すると今度はメイファがきょとんとした表情になり、フリーズしたコンピュータのように固まってしまう。
 そして3秒後、ぼんっ、という音が聞こえるくらい顔が真っ赤になり、物凄い勢いで恥ずかしがり始めた。
「な、な・・・い、いきなり何を言い出すのよ二人とも!?やだ・・・綺麗だなんて。でも、ありがと。嬉しい」
 微妙に気まずいというよりは気恥しい空気が流れる。
 メイファは普段から言動がストレートであるが、いざ相手からさっきのようなことを言われたりすると、妙に恥ずかしがる所がある。
――まあ、そういう所も可愛げがあって魅力的なんだがな・・・。
 もちろん、口には出さないが。
「ほ、ほら、行こう?時間がもったいないよ!」
「ああ、そうだな。行こう」
「プールいく」
 そうして、ここに来た時と同じように三人で手を繋いでプールへと向かう。
 目指すはアクアリゾート最大のウリである、南国のビーチを忠実に再現した波の出るプールだ。
 幅は約1kmくらいだろうか。とにかく広大で、一面に南国ビーチのパノラマが広がり、奥行きもかなりのものだ。
 よくもまあ、これだけの敷地面積を取れたものだ。客入りも盛況で、そこかしこで楽しげな声が上がっている。
「ここが私たちの場所みたいね」
 大きなパラソルとテーブル、三人分のチェアと二台のビーチベッドが浜辺に置かれており、ゆったりとくつろげるスペースが確保されていた。
 テーブル上の小型マルチコンソールには『シャン・メイファ御一行様予約席』と表示されており、どうやら普通の客よりもワンランク上の待遇らしい。
「凄いな。VIP待遇もいいとこじゃないか」
「スポンサー直々に渡された招待券だもの。エコノミーじゃ面目丸潰れじゃない」
「まあ、確かにな」
 ここら辺のエリアは、どうやらプライベートビーチ的な扱いのようで、周りには明らかに人が少なかった。
――これなら俺も必要以上に人目を気にしなくてよさそうだ。
 そう思うと、より一層このバカンスを楽しめそうな気がしてきた。
「さあ、気合入れて遊ぶわよ~。んふふ、ソリッドの目に、この水着姿、焼き付けさせてやるんだから」
 悪戯っぽく笑いながら、俺に面と向かって言い放つメイファ。頼むから、そういうのは心の中で言ってくれ。
 胸中で嘆息しつつ、パーカーを脱いでチェアに掛ける。
 浜辺へ一歩踏み出すと、足裏に適度な暑さとさらさらの砂の感触が伝わってくる。久しく体験していなかった感覚が新鮮だ。
 アリスも俺に続いて浜辺へ踏み出した途端、驚いた表情とともに体をビクっと震わせた。
 どうやら裸足で熱い砂浜を歩くあの独特の感覚が未知の体験だったようで、驚いてしまったらしい。
 無理もない。アリスはこういった場所に来ること自体、初めてなのだから。
 すぐにアリスのそばへ歩み寄り、手を繋いで誘導する。
「大丈夫か」
「・・・あつい」
 俺を見上げる赤い瞳は心なしか潤んでいるように見えた。
「ハハ、波打ち際まで行けば熱くないよ。もうすぐそこだ。じきに砂浜の熱さにも慣れるさ」
 先に波打ち際へ移動し、足を水へ浸からせているメイファが大きく手を振る。
「早く早く~、すっごい気持ちいいよ!」
 波打ち際まで来ると、しっとりと濡れた砂が足裏の熱さを優しく和らげてくれる。
 プールの水は光をキラキラと反射し、水も青く澄んでいて、一目で誰もが美しいと思えるような光景が広がっていた。
アリスも足裏の熱さから解放され、ホッとすると同時に、波が打ち寄せる浜辺を興味深そうに眺めていた。
 そんなアリスを見ていた俺に突然、冷たく心地いい感覚が襲う。
「うわ!」
「ほら、ぼーっとしてるのがいけないんだから!」
 メイファの飛ばすプールの水しぶきが光を反射しながら俺の体に降り注ぐたび、ひんやりと気持ちのいい感触が広がって行く。
「アリスちゃん、こっちにおいで。水遊び、教えてあげるから。ソリッドも早く来なよ」
波打ち際で水面を眺めていたアリスを迎えに行くメイファ。
アリスは少し躊躇したものの、恐る恐る水に足をつけ、ゆっくりとメイファのもとへ歩いて行く。

→Next…


コメントフォーム
名前:
コメント:
|