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「Armored Core - Overdrive -」


 執筆者:柊南天

『──本日は、GCA(Global Cortex Airlines)をご利用頂き、誠にありがとうございます。当便は、GCA155便、【GC.Eden.ⅳ】行きで御座います──……当機の離陸予定時刻は──』
 ファーストクラスの座席に着いて、何度目かの機内アナウンスが流れる。頬杖を付いて視線を傾ける客室窓の外は未だ暗く、警戒灯が緩やかに明滅して主要滑走路の輪郭を朧に浮かび上がらせていた。
 客席の近くに人気を感じて頬杖を解いた時、丁度傍を通りかかった若い風貌のアテンダントと視線が交わる。
 ハイクラス専用の航空機とあり、アテンダントは洗練した挨拶を述べ、入用のものはないかと尋ねた。
 さして食欲もなかったリオは、舌を湿らせる程度にと珈琲をオーダーした。
「──エスプレッソを」
 恭しく応えたアテンダントは陶器製のカップへ丁寧に珈琲を淹れ、受け取ろうと腕を軽く伸ばす。その時、先程まで起きていた左隣の同行者が小さな寝息を漏らしている事に気づいた。追加で頼んだブランケットを先に同行者の首元まで静かに掛けてやり、改めてカップを手に持った。
 挨拶を残して去るアテンダントを視界の隅に収め、座席と同様にゆったりとしたテーブルの上へ静かに置いた。
「随分疲れてたんだな……」
 若干横向きの姿勢を保って眠りに落ちている連れ合い──アチェロの穏やかな寝顔に指を伸ばし、そのひんやりとした柔らかな頬に触れて、リオは僅かに口許を緩める。
 右手首に嵌めた腕時計は、早朝も良い所の〇四〇〇時前を指している。数時間前まで連日の書類作製と外交事務に追われ、そのまま本社から私設空港へ出向いてきたのだ。
 小さな身体に蓄積された疲労は相当なものだったのだろう。
 到着すれば、間を置かずして仕事に追われる事になる。
 せめて着陸先に到着するまでは眠らせてやろうと、リオは勤めて静かに珈琲を啜った。


                                     *


 A few days ago......

 空中散布された重可燃液が点火、頭上の広範囲で激しい海流の如き劫火が渦巻く。落下した大粒の火の雫が外部装甲に付着し、各部へ超高温の焦熱性損害を齎す。
 戦術支援AIが損害状況を音声報告し、自律支援態勢に従って重度の損害箇所へ冷却機構を優先稼動させた。耐熱装甲板の磨耗率は五十五パーセントを超過し、その他の被害状況も含めてHMD分割画面に羅列情報が間断なく更新され続ける。
 黒い燃焼煙の巣窟を纏う炎の奔流は蛇蠍のように蠢き、餌を求めて周囲を這い回る。
 射線が常に流動する故、使役に非常な何度が伴う焼夷兵装を駆る悪鬼の如き巨人──超重量級機体"スヴァローグ"の暗紫色の眼光と視線を交えた。
 老猾の尖兵、頂上勢力の一翼として馳せる搭乗者"フョードル"は練磨した技術と経験で、純粋機動力に於いて遥かに優る此方の機体を常に捕捉し続けている。
 背部兵装のコンテナを迅速に展開したスヴァローグが、左舷へ回避機動を取りつつあった自機"アストリッド"に向けミサイルを射出した。飛翔途中で解離した弾頭内部から小型ミサイル群が分裂し、相対距離四五五メートルから飛来する。
 急速接近する攻勢熱源群を搭載センサ群が追跡。同時に戦術支援AIに口頭指示し、火器管制機構による制御対象を背部兵装へ転換させる。長大な砲身を備えた二基の実弾兵装──回転式多砲身機関砲が仰角方向に展開、攻勢熱源群の弾頭を正面から捕捉した。
 従来の搭載装甲を排除してまで機動力特化に努めた軽量級構成の"アストリッド"が当然、あらゆる敵性攻撃に脆弱である事は、それを手がけた自身が最もよく承知している。
 しかし、機体大破の危険性を逃れる為に大胆な回避機動を行なえば、そこへ蛇蠍の殺意が押し寄せる事も既に察知している。
 老獪極まる実戦戦術で数多の挑戦者を退けてきた練達、"フョードル"というレイヴンの気質を熟慮すればこそ、この挟撃が恣意的に準備された罠である事は自ずと判明するものだ。
 背部兵装の機関砲による同時射撃は、推力移動を行なう軽量級の本機の機体制御状態に著しい影響を及ぼす。その為、火器管制機構と戦術支援AIの双方による機体制御支援を行わせ、更に加えて自らの電脳制御も投入した。
 小型ミサイル群が高速で肉薄し、火器管制機構による全撃墜対象の捕捉を待ってトリガーを引いた。APDS(装弾筒付徹甲弾)弾による秒間五〇発以上の弾幕射撃が咆哮を上げ、前方に迫っていた目標を瞬く間に撃墜してゆく。
 その奥に立つ深い烏羽の機体へ更に集中掃射を見舞い、直後、幾つもの火球が相対者との交錯を遮った。
 瞬間的に実現される規格外の火力を受ければ、如何に堅牢な複合装甲を備える重量級機であろうと耐え切る事は難しい。判断力が洗練される程何故か妙なもので、フョードルが迅速な回避措置を持って左方向へ移動するであろう事を確定予測した。
 回転式多砲身機関砲を背部へ格納、フレームシステムに追随するカメラアイで瞬時に突破口を策定。カメラアイの高分解能が、撃墜したミサイル弾頭の爆炎と燃焼液が鬩ぎ合う侵食線を見咎め、そこへ間髪入れず機体を突進させた。
 暗澹とした視界を突き抜ける中、戦術支援AIが機体表層部の温度上昇を報告。しかし、燃焼液の直撃に比べれば、微々たる損害の域を遠く出ない。冷却機構の分割処置が円滑に進行し、機体温度を急速に押し下げる。
 爆煙を突き破ると同時に、確定予測に準じて左方向へ回避機動を取った"スヴァローグ"の機体側面を捕捉する。同じく左側方向への迂回機動を取ると踏んでいたのだろう"スヴァローグ"は、しかし、此方の予測以上に早い対応力を見せていた。
 重厚な装甲を持つ右腕部マニピュレータに携えられた遠距離狙撃用滑腔砲の砲口が"アストリッド"を捕捉、鋭い警告音がコクピット内を駆け巡る。
 流石は老猾の尖兵、すぐに気づいたか──
 完全に出し抜いた筈だが、両者の純粋な機動展開力──そこから発生する筈の状況遷移の矛盾を即座に把握し、此方の出方に感づいたのだ。
 後方メインノズルから噴射炎を吹かし、右前方へ機体を弾いた。巨大な砲火と共に吐き出されたAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)弾の弾芯が左肩外部装甲を深く削り飛ばす。
 外部装甲の欠損と内部機構の露出が報告されるが、腕部稼動率に目立った低下はない。
 低姿勢を維持し、間髪入れずフットペダルを踏み込む。圧倒的出力の噴射炎によって齎された強襲推力が軽量級機の"アストリッド"を前方へ押し出す。一瞬にして機動推力は四〇〇㌔毎時を超過し、負荷緩衝機構の抑制値を超えた負荷が身体へ叩きつけた。
 強化内骨格措置を受けていない生身には耐え難い苦痛が全身を襲うも、フットペダルを踏み込む力は一切緩めない。
 老獪、且つ冷徹な実戦戦術を駆使する彼の尖兵を前に、無残な敗北を喫した挑戦者は数多い。そして中でも、近距離戦闘を旨としていた者達の大半は、その有効圏域に立ち入る事すら叶わなかった。
 それほどまでに、今対峙する戦士の守りは堅牢であり、その内側から繰り出される殺意は遍く在る前者達を屠ってきた。
 ここまでの戦闘推移は全て、相対距離100メートル以内という交戦圏へ踏み込む為にあった。
 そこで退く事、それは即ち勝利を目前にした速やかな敗北を意味している。
 超重量級であるが故に、僅かに機体転回を完結していない"スヴァローグ"の間合い深くへ潜り込む。
 焼夷兵装の点火炎が揺らぐ噴射口が動き、牽制の意味合いを強く孕んだ燃焼液が薙ぎ払われた。強襲機動の最中にある機体の突進態勢を一段階下げた直後、毒々しい程に赤い炎が中空を焼き尽くす。頭上を掠めた燃焼液が外部装甲の温度を急上昇させ、その損害を無視して"アストリッド"の右腕部に携える短機関砲の砲口を持ち上げた。単砲身ながら速射力と集弾力の双方に非常に優れており、それは極至近距離でこそ真価を発揮する。
 業界では"紅羅刹"という異名のもとに畏怖される英傑の機体と今一度視線を交え、操縦把付随の引き金を絞った。
 高速徹甲弾の弾幕を、焼夷兵装の砲身に撃ち込む。瞬間的な判断により"スヴァローグ"がマニピュレータから武装を分離させ、投げ出されたそれに高速徹甲弾が喰らいつく。
 ほぼ同時に"アストリッド"をその場から離脱させ、可燃液に引火した収納タンクが大きく炸裂した。大質量の燃焼液が四方へ飛び散る中、その重量が災いして離脱し損ねた"スヴァローグ"が全身に燃焼液を浴びる。
 業火に身を焼かれながら尚も戦闘機動を継続する"スヴァローグ"に対し、側面後背は至近距離から再び短機関砲による掃射を見舞う。膝関節部から後方ブースタノズルを縦列掃射で粉砕、ほぼ機動力を喪失させた。
 しかし、それでもまだ、"紅羅刹"の名を持つ圧倒的脅威は停止しない。機体各部のターレットを総動員して捻じ込むように此方を捕捉し、右腕部の武装を捨てて格納ユニットから予備兵装の携行拳銃を抜き出した。
 ──その時には既に、大地に磔になった"スヴァローグ"の眼前へ"アストリッド"を滑り込ませ、短機関砲の砲口をコア部に突きつけていた。
 戦場へ唐突に訪れた静謐。
 それは決定的な、終局の前触れだった。
 重厚な複合及び耐熱装甲により、派手に炎上している見掛け以上に深刻な損害は見られない。至近距離からの制止が功を奏し、"スヴァローグ"は携行拳銃を携える右腕部を下げた。
 暫くの間を置いて、事前に示し合わせた通信回線を通じて通信要請が入る。コンソールを自ら叩いて回線を確立、間もなく"スヴァローグ"の搭乗者の肉声が届いた。
『参戦当初から、お前の才覚には我々も注目していた。──しかし、よもやこれ程だったとはな……』
 頂上勢力──Aランク・ランカーの一翼を長らく担ってきた老練の英傑は、苦渋の感情を押し出すという訳でもなく、ただ淡々と勝者への賞賛を口にする。老練にして戦場に長くあればある程、全てを噛み分けているのは必然だった。
 しかし、その賞賛の裏に隠された意図はまだ、自身の六感を刺激し続けていた。
『此処から上は、私よりも遥かに狡猾な蛇蠍どもの巣窟だ……偶然生かす位ならば、最後まで、確実に殺して生き残る事だな──』
 その先達の言葉が耳を打った直後、燃焼液によって依然燃え盛る"スヴァローグ"の半身──コア左下部の格納ハッチが開放され、カメラアイに注視していた視線が反射的にそこへ切られる。
 ──しかし、その反応に反して真意に気づいた経験則が、携行拳銃の銃口を弾き上げた"スヴァローグ"の右腕部に対し短機関砲の砲声を唸らせた。
 予備兵装ごとマニピュレータを吹き飛ばし、再度コア部──頭部とを繋ぐ関節部に得物を突きつけ直した。燃焼液の付着炎上によって左腕部が既に稼動不可の状態にあるのは、既に判明していた事だった。
『参った──君の勝利だ、おめでとう』
 一拍の空白を置いて識別信号を受信し、それによって"スヴァローグ"の戦闘機動の完全停止を確信した。


                                     *


 ──Half an hour later......

 汗ばんだパイロットスーツと脱ぎ捨てた下着類をまとめてロッカーに投げ入れ、代わりにタオルを一枚取り出す。待機室内は関係者以外立ち入り禁止の筈だったが、身体ひとつで奥のシャワールームへ入ると水の滴る音が届いた。個室のひとつが閉じられ、そこから漏れ出した蒸気による暖気がシャワールーム内を満たしていた
 ひんやりしたタイルの上を大股で歩き、間仕切りの扉の上から個室を覗き込んだ。
「──おいおい。俺より先に使ってるのは誰だ?」
 わざとらしく装った誰何の言葉に、背を向けてシャワーを浴びていた華奢な身体の持ち主──アチェロがびくん、と肩を上げた。あまつさえ、ひゃん、と間の抜けた驚きの声を上げる。
「も、もう、驚かせないでよっ?」
 自分の専属オペレータの立場を使って、関係者用観戦室からそのまま入り込んでいたのだろう。
 頬を膨らませながらも嬉しそうな表情を浮かべるアチェロに、個室へ招き込まれた。
 熱湯を頭から浴び、鍛え上げた身体の汚れを一頻り洗い流す。垂れた濃い赤毛を掻き揚げ、シャワーの勢いを緩めた。
 二回りほども体躯に差のあるアチェロが此方を見上げ、
「おめでとう、リオ……」
 伏し目がちに、何処か遠慮した言葉に笑んで答える。背を伸ばすアチェロの腰に腕を回し、シャワーの熱湯を自らの背に回してから唇を重ねた。熱を帯びたルージュを引いたように赤い唇は柔らかく、二度、三度とゆっくり、互いの感情を確かめるように口付け合う。
 やがて、ぷは、と唇を離したアチェロが若干赤らんだ表情で小首を傾げてみせた。華奢な両腕を自分の身体に這わせ、しゃがみ込んでゆく。
 自身の身体の一部に艶やかな唇が当たり、続けて這わせ始めた舌から熱が伝わる。豊かに濡れた前髪を撫でてやると、アチェロが咥え込んだままの見上げて微笑んでみせた。
「おいおい、まだ施設の中だぞ……?」
 既に咽喉の奥まで迎え入れていたアチェロは、
「ひゃっへ、……ぷは。あんな熱いの見てたら──」
 慣れないものなのか、恥ずかしげに応える。奥行きのある壁棚にアチェロの持ち込んだらしい携帯型の情報端末が置かれ、そのディスプレイに最新のニュース番組が先程から流れていた。
 丁度スタジオが映っており、閉鎖型機械化都市<エデンⅠ>の速報を伝えている。
『先程行なわれたトップクラス・マッチで、新Aランク・ランカーが誕生しました。長らくAランクの鉄壁としてその一翼を担ってきた【GC.Edenⅰ.Arena】の雄"フョードル"氏を下し、【A-9】ランカーの称号を獲得したのは、【GC.Edenⅰ本社】所属レイヴン、"ノクス"氏──』
 先程まで行なわれていたアリーナプログラムの詳細と共に、自分の話が伝えられていた。簡単な説明に続いて見せ場のハイライトへ画面が映る。
 気分の悪いものではないが、それに関しては少々慣れない面もあった。
 下半身から駆け上がる熱に反応し、ディスプレイに注視していた視線を下ろした。瞳を閉じたアチェロがその小さな口に自分のものを含み、頬張っている。その様子を暫く眺めてから、
「代わってやるよ──」
 頭を撫で、姿勢を高くしたアチェロの腰に両腕を回し、優しく持ち上げた。軽く驚きの声を上げたアチェロが、首に腕を回す。ディスプレイを脇へ退け、空いた場所に座らせた。
 既に情欲に満ちていたアチェロのモノを見咎め、先端に軽く唇で触れる。
「あっ、う……」
 鋭敏な感覚を持つアチェロの声が個室内に漏れ、熟れたように赤い先端部分を丁寧に舐めてやってから口内へ含んだ。すると間を置かずしてアチェロが全身を細かく震わせ、吐息交じりに喘ぐ小さな声がシャワーの打ちつける音と交じり合った。
「すまねえな、最近相手してやれなくて──」
 口の中でゆっくりと嘗め回すアチェロのモノは小さく可愛らしささえ覚える割に固く、これまでどれほど我慢して、その身に溜め込んでいたかが分かるほどだった。
 そこまで我慢しなくてもよかったんだがな──
 この度のアリーナプログラムに於けるAランク挑戦は、自分を長らく支援してきたスポンサーからも確実な結果を求められていた。その為の入念な調整の為に、ここ三週間あたりの時間を全てトレーニングと機体調整、調査分析に費やしてきたのだ。
 当然、アチェロとこうして求め合うのも三週間振りという事になる。
 自分に付き合ってまで我慢していたらしい彼に申し訳なさと、そして愛らしさを覚える。今一度嘗め回していたモノを深くまで呑み、一層の刺激を促すように根元に指を這わせていく。知り尽くしている彼の最も感じやすい場所を重点的に、しかし、絶妙なタイミングで逸らしながら情欲を更に高めていった。
 股関の奥へと指を滑らし、彼が別に弱い陰部の回りを時折爪を立てながら撫で回す。一気に高まった情欲の衝動故か、こちらの肩に置いていた腕をアチェロが突っ張った。
 上々の反応に満足し、周囲に這わせていた人差し指を軽く陰部へ挿し入れる。何時もならば緊張している為に中々入らないが、予想に反して人差し指が奥深くまですんなりと通った事に少し驚きを覚えた。
「お前、用意してたのか?」
「うう、だって……」
 陰部の中に刺激を与えつつ見上げると、僅かに開いた唇を震わせるアチェロと視線が重なった。目許にはうっすらと雫を溜めており、その目線がディスプレイの上にあったラックに流れた。薄い桜色のタブレットが詰まった瓶が置いてある。
 アチェロが自分と激しく情欲を求め合う時に、時折使用する類のものだ。
「此処まで持ち込むのは感心できない、な──?」
 中指も突き入れ、二本の指で一層強く掻き回す。ついに耐えられなくなったのか、アチェロが声を上げて身体を大きく震わせた。前のめりになった少年の身体を抱き上げ、足元のスポンジタイルの上でそっと組み敷く。
 薄い胸板の上で手を組むアチェロが、
「違うよ──リオに、すぐに気持ちよくなってほしいから……」
「──ああ、ありがとよ」
 アチェロの頬に軽く口付ける。
「──いいか?」
「ん──……」
 入れ替わりで自身の頬にアチェロが唇で触れた。最大限に愛しく、慈しんで彼の横髪を愛撫し、少年が淡く微笑む。充分に高まった自身の情欲の最たるモノをか細い足を広げたアチェロの陰部に当て、ゆっくりと埋没させていく。全てを迎え入れられた所でアチェロの内部が急激に収縮し、繋がり合う部分が強く拘束された。いつもより激しい反応を見せるアチェロに対し、彼の両脇の下に手をつくと静かに蠕動させ始めた。
「いつもより強いな、アチェロ──」
「は、あ、あう……もっと動いて、いいよ?」
 甘い響きを伴った声に応え、徐々に蠕動を早めていく。激しさが増す毎に、それに反応してアチェロの小柄な身体がびく、と震える。
 スポンジタイルについた腕にアチェロが華奢な腕を、そして腰周りに足を絡ませてくる。
 肌が擦れ合う姿勢で求め合ってから幾らかの時間が経過した時、通信機能を持つ端末からコールサインが響いた。蠕動を続けながら、「ふぇっ?」と驚くアチェロの口許に人差し指を当てる。
 長い腕を伸ばして端末の通話スイッチを押し込んだ。
『──秘書のベアータです。ヘンシェル様にお取次ぎ願えますか』
「俺なら、ここにいるが?」
 ディスプレイ枠上部のカメラは個室の壁を写しており、此方の姿は捉えられていない。
『──お姿が見えませんが?』
「ひとっ風呂の途中だ、俺の肉体美でもみたいのか? 番号教えてくれるなら、今晩にでもたっぷり拝ませてやるぜ」
 冗談交じりの誘い文句に対し、ベアータは溜息をつく気配すら発さない。しかし、呆れの意味合いを含ませ、ここぞとばかりに額に手を当てているような気はした。
『──ラウツェニング氏がお呼びです。取り急ぎ、本社執務室までお越しください』
「──了解、一時間後に其方へ向かう」
 此方の返答を最後に端末通話が終わり、終話を知らせる電子音が暫く続いた後自動停止した。それから意識を改めて向けなおそうとしたとき、それに先じて首元に回された細い両腕が顔を引き寄せた。
 実年齢に反して幼い顔のアチェロが目許にうっすらと涙を浮かべ、赤らんだ頬を軽く膨らませている。
 くすり、と小さく笑う。
「大丈夫だ、お前以外の相手なんかしやしないよ……」
 アチェロを宥めるように頭を撫で、汗の浮く額に唇で触れる。
「──スポンサーから急ぎの招待だ。埋め合わせは今夜、……いいか?」
「うん、平気──でも、今……イッてくれる?」
「ああ、それは勿論……」
 互いに近づいていた情欲の果てに向けて動きを一層早め、間もなくしてアチェロと併せてその時を味わった。


                                     *


 An hour or so later......

 専属秘書で妙齢のベアータに招かれ、執務室内の応接用ソファに腰を下ろした。本来なら広々としたつくりであるはずの室内は、本棚と作業用デスクから溢れた文献や書物に溢れている。最低限整頓されてはいるが、若干窮屈ささえ覚える室内だが、それがあまり嫌いではなかった。
 執務机で仕事をこなすスポンサーの女性──イドゥベルガ・ラウツェニングはキリがついたのか、その面を上げる。長年の労苦を象徴する厳しさが表情に滲み出ているが、年齢に則するならば本来彼女は、今よりもっと若い風貌をしていてもおかしくない。
 仕立ての良い濃赤色の制服を纏う彼女は、応接用ソファへ歩みよる傍ら、紐付きの眼鏡を首元に提げる。
 対面のソファに静かに腰掛けると目の前でシガレットケースから煙草を抜き出し、その内の一本を差し出された。
 軽く手で遮り、慇懃に意を伝える。嗜好品としての煙草ならば平時から喫煙しているが、それ以外──即ち公の機会などでは、自ら控えるよう勤めていた。
 しかし、スポンサーのラウツェニングは張り付いた厳しい表情を崩さず、差し出した煙草を戻さない。
「私からの労いよ、受け取りなさい」
 ある種の気迫にも似た圧迫感に圧され、仕方なく煙草を受け取った。
 かくも特権階級の人間とは、強引なものだ。最も、他者を退け意に従わぬ者を策を持って篭絡させる、その才覚がなければ、高みへのし上がる事など夢のまた夢も良い所だったろう。
 蛇蠍の巣などは、そこら中に掃いて捨てるほどある。
 一児の母でありながら、齢若くして取締役会役員に抜擢されたこの才媛は、そういう女なのだ。
 自前のオイルライターで先端に火を点ける。刻銘から察する限りでは名産の相当な高級品らしいが、安物の三等級に親しんだ自分の舌では、どうにも時間を掛けて味合うことに難があった。
「それで、用件はなんでしょうか?」
 丈に余裕のあるロングスカートの中で足を組んでいたラウツェニングは、手元に持っていたウェアラブルコンピュータをテーブルの上に滑らせる。タッチパネルを操作して、映像情報を投射型ディスプレイに出力した。
 文書情報と併せて幾つかの映像記録が展開、分割ディスプレイに秩序立って拡大していく。
「──【GC.Edenⅳ】に、武力侵攻?」
 文書記録を一度流し読んだ程度だが、凡その意図は把握した。視線を一度合わせると、彼女は厳しい表情を保って頷く。
「ええ。約二時間前に発生し、現在は都市規模の戦闘へ拡大しているわ」
 ──【エデンⅣ】と言えば、五年前に統一連邦が提唱したエデン建造計画によって建造された、第四番目の閉鎖型機械化都市である。建造期から【元GC.NA(Global Cortex North America)】支社が多額の出資を行なっていた事により、現在はエデンⅣ支社と名を改変した彼等の私物庭園となっている。
 他に類を見ないエデン型都市の堅牢な防衛機構と、第二の本社と言われる程に強大な影響力を持つ【GC.Edenⅳ】支社が都市防衛に供出する軍事力──その二大要素が、【エデンⅣ】を同型都市随一の不落城塞として内外に知らしめていた。
 その【エデンⅣ】が都市内部への武力侵攻を許しているという事は、即ち相当な非常事態であるという事実に他ならない。
「通達文は読んだかしら?」
 口許で煙草を転がす傍ら、首肯する。一番手前の分割ディスプレイに出力された文書の文頭には、本社取締役会からの直接依頼である事を示す印判がある。
「我々本社BOD(取締役会)は事態を火急と判断し、既に選定した帰属戦力へ依頼通達を行なっている。貴方にも、即座に所定へ向かってもらいたいの」
 つい先程アリーナプログラムのカードを消化したばかりなんだが──という、此方の言い分はどうやら、聞き入れてもらえそうにもなかった。恐らく、その意見をすら考慮した上での指示なのだろう。
 既に取締役会が直接動いている上、その一翼であるスポンサーから強く要求されていては、現状拒否する事で得られるメリットはなきに等しい。
 実際、自由意志だけで食っていくのは難しいものだ──
「分かりました──しかし、隷下の航空部隊を使えば、今からでも支社へ急行加勢できますが?」
 蛇足と知った上で具申するが、それに対してラウツェニングは伏し目勝ちに首を振る。
 依頼文の詳細によると、指定された出撃戦域は支社とは程遠い場所のようだった。実質的に本社経済管区となる境界線付近であり、それは本社の利潤確保を第一にした保険だというほかない。
「余計な事は考えなくていいわ。本社BODは、今件打開を全て、【GC.Edenⅳ】支社に一任している」
「グループの火急に静観とは──本社BODの決定には従いますが、それで良いのですか?」
 本社取締役会の決定方針とは別な意図、【GC.edenⅳ】支社にゆかりのある彼女ならばそれが内在している筈だと、そう考えていた。
「……なんの話?」
「アイツが──カイザーがいるでしょう」
 束の間の沈黙。しかしその間も、ラウツェニングは一切表情を崩さなかった。
 吸殻をテーブルの上の灰皿に押し込み、彼女がゆっくりとその腰を上げる。
「そんな瑣末な話で、妥協する事は許されない。あれは支社の人間、我々本社の身内ではないわ──」
「依頼を受諾応答の後、機体整備完結と共に状況を動発します」
 提げた眼鏡を当てなおして静かに執務机へと戻りゆく背中を見送り、自らも席を立った。


                                     *


 A few days later......

『──当便は、GCA(Global Cortex Airlines)155便、【GC.Eden.ⅳ】行きで御座います──……当機の離陸予定時刻は、四時二五分となっております──』
 由緒ある旧家"ラウツェニング家"の当主であり【GC.Edenⅰ】本社取締役会現役員のイドゥベルガと、その一人息子だった旧友のカイザーの間にかつてあった、過去の反目の顛末については深く知っている。
 カイザーが生家に見切りをつけて出奔するより遥か以前からの仲だったのだから。だったから、リオは五年前に【GC.Edenⅰ】から行方を晦ました彼の手助けをした。無論、その事実関係は、肉親であるイドゥベルガも流石に把握していない。
 政治家として稀有な才覚を発揮していた彼女は、カイザーにも同じ道を歩ませようとしていた。しかし、生憎と本人はそれを望まなかったし、リオに到ってはカイザーの才覚が何処にあるのかを、その時早々に見抜いていた。
 あいつは、生まれついての戦士──誰よりも戦場に生きる事に長け、そこに遍く在る者達が望んでも手に掴む事ができなかった、"兵士"としての才覚が備わっていた。
 政治家を多く輩出したラウツェニング家の当主だった彼女が、一人息子がそのような道に傾く事を許容しなかったのは理解できる話だ。結末として消息を晦まし、暫くして【GC.Edenⅳ】支社にカイザーが姿を現した際、既にその時には彼女は、一人息子との血縁関係を事実上解消していた。
 そうしてまで身辺のリスクを削ぎ、本社取締役員の一翼という地位を堅持してきたのが、彼女という冷酷な女傑なのだ。
 数日前に【エデンⅣ】を襲った未曾有の兵器災害──その戦渦の中でカイザーが戦死したという電報が届いた時も、イドゥベルガは終始態度を変える事はなかった。
 だが、冷徹にあれど彼女が決して冷血ではない事もまた、リオはよくよく把握していた。そうでなければ、リオもラウツェニング家をスポンサーとして選択するつもりはなかった。
 自分を弔問の代役として【GC.Edenⅳ】支社に派遣しているという現状からも、それをある程度窺う事はできる。
「──寂しい?」
 隣の席で小さな寝息を立てていたアチェロが、いつのまにか目を覚ましていた。存外、浅い眠りだったのだろうか。背凭れに寄りかかった姿勢はそのままに、眠たげな目を此方に向けている。
 アチェロの髪にそっと触れた。
「それなりにな──けど、悲しみ方を忘れちまったよ。弟分が一人、死んだってだけの話だ」
 昔、カイザーと知り合う以前には自分にも家庭というものがあった。他人に誇れるような家庭ではなかったが、腹違いと血の繫がりもない二四人の兄弟がいた。そして結局生き残ったのは、おそらく自分ひとり。
 散り散りになった家族が何処に居るかなどは分からないし、当時の状況を鑑みると生きているとも思えない。
 義理の弟のようなカイザーが死んだ事に一抹の心残りはあった。しかしそれ以上のものはなく、彼がいなくなったという事実は、既に郷愁を浅く感じさせる程度のものでしかなかった。
「疲れてるだろ、到着まで時間がある。休んどきな……」
「うん……」
 ぽん、と頭に手を置く。アチェロはまた、静かに瞼を下ろした。
 カップに手をつけ、ぬるまった珈琲を啜る。
 先日、最後に連絡を取り合った時、【GC.Edenⅳ.Arena】本戦出場権を争う予備大会決勝への出場権を獲得したと言っていた。
 あいつの戦士としての──レイヴンとしての才覚が花開くのをこの目で見たかった事が、唯一の心残りといえるだろう。
 願わくば、何処かの戦場で一度、戦火を交えたかった──



ARMORED CORE Handed Down Heroism - Overdrive - End...



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