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「Armored Core - Execution - 1‐1 * Armored Core - Execution - 1‐2 * Armored Core - Execution - 1‐3


 執筆者:柊南天


 第一種戦闘態勢を継続維持中の各種センサー機能が戦域環境情報を逐次収集し、HMDに出力したエリアマップに状況を更新していく。
 マルチコンソールを操作してエリアマップを回転──多数の動体反応が著しく動く位置座標を見咎め、ヴァロージャは眼球動作に追従機能するフレームシステムを用いて搭乗機の頭部カメラアイを眼下の地上へ傾けた。
 上空域にまで届く黒煙の切れ目に覗く広大な赤土の岩壁地帯、その地上部で動体反応源である前線兵力が火線を交えている。複雑な岩壁地形の地上で敵味方の機械化部隊が高密度に衝突し、大きな爆発音が幾度となく響く。
 有視界に映る有り触れた戦場の光景を見つめていた時、作戦支援室から通信要請が入り、ヴァロージャはマルチコンソールを静かに叩いて通信回線を確立した。
『第三四次戦域状況報告です、ヴァロージャ──』
 自身の搭乗中の機体を牽引する輸送機内部、その内部の作戦支援室で通信業務に就く専属通信技官──カテリーナの落ち着いた言葉を聞く。
「第一戦力群の進行推移から頼む」
『第一戦力群第5空挺大隊は現在、位置座標1551187278にて敵性勢力を排撃中。降下地点より順次制圧戦闘を展開しつつ、最終制圧目標へと進行中です──』
「──第8強襲分遣隊の動向は?」
『第8強襲分遣隊は一一四五時、所定の迂回通路を突破。一一五五時に前線制圧対象都市へ急襲介入しました。クレスト企業陸軍部隊と交戦状態へ移行の後、一二四五時に都市全域及び後方補給線の制圧を完結。都市在住の非戦闘員を拘束後、地下避難施設へ順次収容。現在は制圧領域の第一種制圧哨戒態勢を継続維持、第5空挺大隊の到着を待って原隊戦力と合流します──』
「戦況は滞りなく、という所だな──。通常戦力部隊は所定通り、南方迂回路へ進入しているな?」
「はい。現在の所、妨害勢力の介入は有りません。先発した地上待機戦力と合流を完結次第、所定戦域への進行を開始します──」
「了解。定期報告を引き続き頼む」
 作戦支援室との通信回線を確立したままヴァロージャは浅く息をつくと、パイロットシートに背中を心持ち預けた。その動作には、この一週間関わってきた作戦の疲労の一端が含まれている。
 ヴァロージャの帰属企業である大手傭兵仲介企業【レイヴンズ・アーク】は、約三ヶ月程前にミラージュ社から持ち掛けられた大規模な軍事作戦の遂行依頼を受諾し、其れに見合う兵力を供出して一週間前からミラージュ社陸軍と合同作戦を展開していた。
 世界に名立たる統治企業として、ミラージュ社と肩を並べる巨大複合企業【クレスト・インダストリアル】社の保有する直轄経済管轄区に全面進攻──駐留軍を殲滅し同経済管轄区を武力制圧するという、他の経済管轄区と比較して随分小規模であるとはいえ、近頃でも稀な大規模作戦である。
 ヴァロージャはレイヴンズ・アークの投入したAC戦力の要員として、一週間前に開始した最初期の奇襲攻撃にも参戦した。
 その奇襲攻撃に端を発し、此処まで続いた大規模な進行作戦も大詰めを迎え、その最中で契約要綱の所定を完結したヴァロージャは、自身が統率する前線部隊と共に戦線を現在後退中だった。。
 ──アークのAC戦力部門である機械化戦力軍の最上位作戦機構・統合作戦司令部と共に立案・実行した軍事作戦は此処まで一切の狂いなく進捗している。
 それが直轄経済管轄区の完全制圧を持って達成された後、必ずやってくる戦後処理の事務作業を全うする義務が、大手傭兵仲介企業【レイヴンズ・アーク】の保有するAC最高戦力であると同時に、統合作戦司令部直轄軍事機関【機械化特殊作戦群】群司令であるヴァロージャには課せられていた。
 実際戦闘とは違った意味で気の張る慣れないその労務の事をちらりと考え、ヴァロージャは軽く背を預けた格好のまま、再び小さく息をつく。
『ヴァロージャ、アーク本社から入電です──』
 ヘルメット付随のHMD画面上に作戦支援室で通信業務に従事するカテリーナの端正な顔が映し出され、薄い灰青色の双眸と視線を交える。既に戦場の長い年月と辛苦の経験を共にしてきた彼女はヴァロージャの意図を察し、自ら言葉を紡ぐ。
『二時間後の1500時から本社で緊急会議が行われます。経済管轄部、セシリア・フェリックス氏の要望により、各部署の要職員に参席召集が掛けられています──』
 カテリーナが口にしたその名を胸中で反芻した所でヴァロージャは出掛かった溜息を飲み込み、代わりに軽く眉を顰めてみせた。
 ──またか
「──緊急会議の参席召集と言えど、二時間後では何をしようと間に合わん。緊急会議には"オルガ"を代理出向させてくれ、大丈夫だな?」
『分かりました。直ちに手配します──』
 オルガは、ヴァロージャのオフィスに所属する秘書官の一人であり、同職の筆頭に就いている。軍事依頼に基づいてヴァロージャが頻繁にオフィスを空にしている間は──諸所の事情で、以前より依頼の受諾頻度はぐっと減ったものだが──彼女がオフィスの筆頭代理として運営の切り盛りをしてくれている。
『全く、フェリックス氏も困ったものですね──』
 愚痴という程ではないが、若干不満染みた言葉をカテリーナが呟く。
「元々イイトコのお嬢様だ。そういう性質なんだろう。今に到っては、珍しい話でもないしな」
 カテリーナの独白染みた言葉に対し、皮肉めいた返答をよこす。
 実際、皮肉どころかその通りではあるが。
 アークの保有AC戦力を管轄する統合作戦司令部要員の一翼である群司令に就いてからこっち、一レイヴンとしての業務は現場任務よりも、統合作戦司令部での作戦立案や事務作業に大きく割かれるようになっていった。しかし、機械化特殊戦力群野戦群司令であると同時に、レイヴンズ・アーク最高のAC戦力という肩書きを持つヴァロージャには、以前より減少したとはいえ軍事作戦の依頼は多く舞い込んでくる。
 必然的に緊急会議等のような行事に参席する機会は少なくなる。
 そもそもそういった経営業務はその手の専門職のものなどが行うものであり、一人のレイヴンが其処に大きな影響力を持つことは、──ヴァロージャのような人間は別として──滅多にある話ではない。
 ──しかし、それもつい数年前までの話の事である。
 レイヴンズ・アークは兵器災害前後のたった数年で、大手傭兵仲介企業としての在り方を大きく変貌させてきた。
『しかし、近来の幹部連の行動は目に余ります──』
「何処に耳が付いているか、わかったものではない。気をつけろ、カテリーナ」
 ヴァロージャは口調を勤めて抑え、しかし強い言葉で彼女に対し言い諭す。
 彼女の言葉がまさしく、近来のレイヴンズ・アークの企業体質の急激な変貌を言い現していた。
 緊急会議の参席招聘をかけてきたセシリア・フェリックスは本来──現在もそうだが──レイヴンズ・アークが機械化戦力軍に保有するレイヴンの一人であり、また彼女自身優秀な戦力としてアリーナの上位に位置する存在である。そんな彼女は経済管轄部の要職をも兼任しており、大手傭兵仲介企業という肩書きを持つアークの財政事情を掌握していると言っても過言ではない。
 たかが一人のレイヴンが其処までの地位に就く事を可能としたのが、彼女という人間が持つ背景──フェリックスという名に起因している事は公然の事実として広く知られている。
 レイヴンズ・アークは創立初期から自由傭兵であるレイヴンの権益確保を実現目標として謳って来た。その過程に、退役レイヴンや現役レイヴンの一部が企業運営の為の要職に就く事は間々有った話ではある。
 ところがこの数年はその趣が大きく舵を切り、現役レイヴンという本来は一戦力に過ぎない筈の存在がアークという組織内で決して低くない権勢を持つにまで到っている。
 大手傭兵仲介企業【レイヴンズ・アーク】は、アーマード・コアを駆る傭兵【レイヴン】の戦場権益を確保する。其の理念は現在も変わらない。
 しかし、現在のアークはその建前を持ちながらその実、世界各地を実行統治する支配勢力とその組織形態を同じくしつつある。
 肥大化した組織は、どれも此れも同じ線路を往くものなのだ。
 現在のアークの矛盾した現状を危惧し、それ口にする者は少なくない。
『正論を耳にされた所で、痛む箇所など有りません。──彼らは理解していない。支配企業と蜜月の繋がりを持った時、其の者達がどういう末路へ踏み込むのかを──』
 専属の通信技官として戦場に臨む現在の彼女に、目立った抑揚の変化はない。しかし、彼女が自身の口で紡ぐ言葉は著しく裏腹なものであった。
 このやり取りもまた、十年以上の付き合いを経てきた二人の間に置いては、さして珍しい話の種ではない。其れをカテリーナという人物も自身で深く承知している。
 十年──。
 変貌の始まったその頃の記憶を思い起こしながらもそれを脳裏の片隅に押しとどめ、ヴァロージャは言葉を返す。
「──此れが現代の要求だろう。強大過ぎる潮流は時に、戦場の在り方すらも容易く捻じ曲げてしまう。ならば、時にはその潮流に逆らわない事も重要だ。我々が、──レイヴンという存在で在り続ける限り、尚更な……」
『──少し、過ぎましたね……──』
 若干消沈した面持ちでカテリーナは答える。その振る舞いに対して軽く肩をあげてみせた。

 ──レイヴン達が真に自由であった最後の時代が、かつて確かに存在した。

 しかし、その栄華の時代は十年前を境にぷつりと途絶えてしまった。
 あの頃を知る者は、アークの中にはわずかしか残っていない。幹部連に到っては、その全容を正確に把握している者等もほんの一握りだろう。

 ──十一年前、支配企業達が複数の大手傭兵仲介企業を巻き込んで起こした、世界規模の戦乱が在った。

 その頃にレイヴンズ・アークが行った作戦は凄惨を極め、結果としてアークという組織の存在理念が著しく歪曲するという自体をも招いた。
 当時は若年兵に過ぎなかったもののヴァロージャもAC戦力の一角として、同じく新米だった専属通信技官のカテリーナと共にその戦乱に参戦していた。
 そしてその顛末を知る数少ない生き証人であるからこそ、"支配企業に裏切られて多数のレイヴンが生命を落とした"その過去を、カテリーナは十一年が経過した現在も穏やかに見る事ができないでいるのだろう。
 無論、ヴァロージャもその過去を忘却の彼方に仕舞い込んだ訳ではない。
 ヴァロージャは薄暗いコクピット内に視線を巡らせ、頭上部コンソールの脇に貼り付けてある一枚の写真を注視した。幾人かのシルエットが肩を寄せ合う様子の映るそれは激しく色褪せ、汚泥と血痕が染み付いている為に、個々の表情は最早分からなくなっている。
 しかし、それでもヴァロージャはかつてそこに鮮明に映し出されていた者達の顔を、一人残さず脳裏に思い描く事が出来る。
「FC(Front Command)に帰還したら、すぐに規定業務に就く。頼んだぞ、カテリーナ?」
『分かりました。準備しておきます、ヴァロージャ──』
 若干の間を置いて返答を遣したカテリーナの表情は既に、完結した一人のオペレータとしてのそれであった。
 流石、切り替えが早い。彼女もこの十年を無為に過ごしてきた訳ではない。
 彼女はそうやって、変貌の一途を辿るレイヴンズ・アークという巨大な組織の中で生きてきた。
 彼女が一人のオペレーターであり、レイヴンを支援する存在なのなら、どんな状況であろうと互いに生き延びねばならない。
 レイヴンとして、オペレータとしての矜持を護り続けられる限り──
 搭載センサー群が収集する戦域環境情報の更新間隔が俄かに開き始め、エリアマップに引かれた戦域境界線を輸送機が越えようとしたときだった。
 機体搭載の戦術支援AIが作戦支援室とは別の回線からの通信要請を受け取り、機械的な口調で報告する。
 オペレータへの通信要請を省略し、直接本機に通信要請を行ってきた事をヴァロージャはいぶかしんだが、回線分類が緊急回線に属するものであるのをHMD画面で確認、サイドディスプレイに映るカテリーナと視線を合わせた。
『制圧対象都市へ侵入した第8強襲分遣隊──ドゥライド03からの通信要請の様です。何事でしょうか?』
「回線を確立する──」
 ヴァロージャはマルチコンソールを素早く叩き、先方との通信回線を確立した。
「AC戦力コード:リスタート、此方【シードル01】だ」
 此方の戦力識別記号を名乗り、相手の応答を待つが確立した通信回線から流れてくるのは耳を劈くばかりの激しいノイズ音である。しかし、ノイズに紛れてその背後で砲声と爆発音が轟いているのをヴァロージャの聴覚は正確に拾い上げた。
『此方【ドゥライド03】──。聞こえますか、群司令──!』
 その激しい抑揚と回線の向こうより聞こえる戦闘音からヴァロージャは、第8強襲分遣隊が戦闘状態にある事にすぐに気付いた。
「──落ち着け。現在、其方の状況はどうなっている。対象都市の制圧状況及び友軍部隊状況を──」
『殆ど全滅です──! 作戦戦域に未確認勢力が武力介入、敵性勢力はAC一機──くそ! 群司令、直ちに此方へ増援をお──』
 突然割り込んできた爆発音によって部下の声が短い悲鳴と共に吹き飛び、其れに伴って通信回線も同時に断絶された。無意味なノイズ音が垂れ流しになっていた回線を解除、ヴァロージャはマルチコンソールに手を伸ばして機体制御体制の更新と機体状態のスキャニングに取り掛かる。その傍ら、
「カテリーナ、第8強襲分遣隊が展開する作戦戦域までの所要時間は?」
『敵性勢力の効力妨害がなければ、約10分で到着します。急行しますか──?』
「近隣の友軍部隊に緊急対応コードを電信、最寄の友軍戦力を最終制圧目標へ向かわせろ。私が先行して介入する」
『了解。現場へ急行します──』
 該当戦域の境界線へ達していた輸送機が急速転回し、元来た進路を若干反れて最大推力で進行していく。機体旋回時の遠心力による強い振動を身体に感じつつヴァロージャはマルチコンソールに触れていた手を走らせ、機体制御態勢の再チェックに取り掛かった。
 投射型メインディスプレイに重なって映るHMDに機体詳細を記したデータを出力、素早く視線を走らせる。
「機体損耗率5,5%、弾薬消耗率15,5%──」
 数時間前、ヴァロージャの搭乗する二脚機体【リスタート】は作戦領域最前線の岩壁地帯で機械化特殊戦力群戦力と共に強襲制圧戦闘に参加していた。多少の機体損耗を考慮した上での作戦行動であった為、被った外部装甲の幾らかの損壊が、機体図面データに報告出力されている。
 しかし、一瞥する限りでは致命的な損耗状態は確認できず、戦術支援AIも第一戦闘態勢における機体最大稼働率は88%以上との総合結果を導き出している。
「一度態勢の立て直しを計りたいが、仕方あるまいか……」
 帰投先であるミラージュ社陸軍前線基地までは、本輸送機で現在地から30分程の地点にある。しかし、先ほどの緊急通信の内容と状況から鑑みるに、制圧対象都市での戦闘状況はかなり芳しくない事は明白である
 後は、一体どのような敵性勢力が、制圧対象都市を武力占拠した第8強襲分遣隊を襲ったのかだが──。
 レイヴンズ・アークの保有する全AC戦力が契約規定上、必ず所属する通常機械化戦力軍──それと別な、統合作戦司令部直属軍事機関として存在する機械化特殊戦力群に、第8強襲分遣隊は帰属している。
 機械化特殊戦力群はその存在を明るみに出さない、謂わばレイヴンズ・の非公式部隊である。その性質上、請け負う作戦は必然的に限定され──だからこそ、武力制圧が非常に困難と思われた最終制圧目標である機械化都市に機械化特殊戦力群が投入された。
 それを更に奇襲、状況を察するに第8強襲分遣隊を危機的状態にまで追い込みつつある辺り──介入してきた敵性勢力の程度は深く推察せずとも推し量れる。
「クレストの専属AC部隊か──?」
 そうこう思案をめぐらしている内、カテリーナからの規定報告によってヴァロージャは浅く埋没していた意識を取り戻した。
『間もなく介入領域に到達します。ヴァロージャ、準備してください──』
「了解」
 フレームシステムを用い、搭乗機体【リスタート】のカメラアイを眼下へ向ける。岩壁地帯は既に後方幾らかへ過ぎ去り、変わって無尽に広がる荒涼とした平野が有視界に飛び込んできた。
 若干視線を前方へずらすと、そこに著しく焼け落ちた機械化都市の成れの果てが映る。
 その都市空域へ本輸送機が進入していく。
『都市の制圧には成功していたようですが、これは──』
 眼下で半ば廃墟と化した都市群の各所から黒煙が吹き上がり、かつてそこで苛烈な戦闘が行われていた事を示す残り火が地上で燻っている。第8強襲分遣隊の進行を押し留められなかったのだろう防衛部隊と思しき機動兵器類の残骸が鋼鉄の残骸となって、いたる所に散らばっていた。
 肉眼で目視できる限りでは地上には動体目標を確認できず、各種センサー類も未確認動体等の捕捉には到っていない。
「友軍部隊はシェルター内部だろう。旋回しつつ上部空域へ向かえ」
『了解、シェルター上部空域へ移動します──』
 広域哨戒任務に残されていた筈の戦力機体がシェルター周囲の外周都市群に一切見受けられない──十中八九、シェルター内郭部への増援を余儀なくされ、持ち場を離れたのだろう。その時点で此方に通信を遣さなかったのは、介入してきた勢力が一機のみであったからか、或いは通信回線が確立できない状況だったからか──後者の可能性が高い。
 戦域境界線から此方に向かうまでの間、先方とのデータリンクをカテリーナが試みていたが全て失敗している。恐らく、介入戦域に高度な電子妨害工作が展開されているのだろう。それに備えて既に対応システムの起動更新を済ませていた為、不意の事態の場合も指令室とのデータリンクは維持できる。
  外郭部を旋回する間に適切な進入経路を決定する為にも、シェルター上部空域への接近を図るべく輸送機が高度を上げ始めた時だった。
 搭載センサー群が不意に未確認動体の反応を捕捉、メインディスプレイに詳細情報を羅列し始める。同時に輸送機のオ作戦支援室からも、
『ECM反応感知、ECCM(電子妨害対策措置)を第一種戦闘態勢で起動。──未確認動体反応を捕捉しました、やはりシェルター内部のようですね』
「此方も確認した。友軍部隊はまだ──、一機生存しているな」
 友軍機である事を示す第8強襲分遣隊個別の識別信号の動体反応が一機、レーダー上を移動している。
 ──其処から直線距離にして約100㍍程の位置に、識別信号を発しない動体反応──恐らく、第8強襲分遣隊を壊走に追いやった未確認機が点在していた。
 シェルター外郭部を滑るように追随して輸送機が高度を上げ、外郭部に穿たれた幾つもの崩落痕がこの都市で数時間前まで行われていた戦闘の苛烈さを物語っている。
 友軍機への通信要請をカテリーナに指示しようとした時、レーダー上を移動していた友軍機の動体反応が今、文字通り眼前で消失した。
 暫く、とは言っても寸秒足らずの間だったが、その事実を目の当たりにしてカテリーナが事実確認のために口を開く。
『第8強襲分遣隊識別信号、全機消失──。一機のACを相手に──こんな事が、在り得るというの……』
 その動揺と疑問に対する解答を、戦場という生死の極限状態にある中で研磨されたきたヴァロージャの思考は即座に弾き出していた。
 ──充分に在り得る話だ。
 十数年に及ぶ経験の中で、その様な存在──その様な絶対的脅威と相対した過去は少なからず在る。兵士として──レイヴンとして戦場に臨む限り、災害の如きそういった者達は時折、忽然と現れる。

 遍く在る戦場で場数を踏んだだけでは到底辿り着く事のできない、我々同業者にとっても彼我の境地のような遠い、遥か遠い果ての世界へ踏み込んだ戦士達。

 致命的危険因子──俗に戦場不適合者、或いはイレギュラーと呼称される圧倒的脅威は、この世界に忽然と、時折発生するのだ。そして彼らの大半は、善悪は其々に甚大な惨禍を一挙に及ぼし、そして、まるで現れた時と同じように忽然と戦場の表舞台から消え去っていく。
 ──第8強襲分遣隊を全滅させたのが果たして、それに当てはまる脅威なのかどうかは現在のところ、ヴァロージャにも確信が持てないでいる。
 しかし、戦場で培ってきた経験則の幾つかは、その存在が極めて危険な部類に入る脅威であると自身の胸中へ明らかな警告を発していた。
『ヴァロージャ、大丈夫ですか──?』
 そう気遣う彼女の言葉は、それ以上に明らかな指向性を内包していた。それを瞬時に理解したからこそ、長い付き合いであるからこそ察してくれた彼女の気遣いに答えるべく、ヴァロージャは返答を遣す。
「──ああ。今回が、一人目という訳ではない。それに、全員が死んだとも限らないからな……」
『そうですね──。あの子が──彼が、生きている事を信じましょう』
 カテリーナの言う、あの子──ヴァロージャは約十一年前に、今は既に戦死した戦友から一人の少年を預かり受けていた。その少年は、やがてヴァロージャの最初の教え子となった。
 彼が後に育てた若いレイヴンの何人かは死んだが、最初の教え子であった少年はレイヴンとしての先天的な才覚に恵まれていた。そのために、極めて若年ながらも、五年前の兵器災害発生時には機械化特殊戦力群へと配属された。
 その教え子の帰属部隊は、機械化特殊戦力群第一戦力群──第8強襲分遣隊。
 この都市の制圧作戦に、参加していた。

 ヴァロージャ自らが、それを命令したのだ──

『見た限り外郭部からの降下接近は困難のようですが、ヴァロージャ──』
「そうだな。では所定通り、北方第一ターミナルの資材搬出ラインからの進入を試みる、其処へ急行してくれ。位置座標は──」
 機体の降下座標の位置をカテリーナへ告げようとした時、搭乗機体【リスタート】を大きく揺さ振る程の強大な衝撃が叩き付けた。
『なっ──。輸送機、被弾しました──! 航空推力40㌫低下、危険です!』
 戦術支援AIが搭載センサー群から収集された情報をメインディスプレイに出力し、機体を牽引中の輸送機が地上からの砲撃によって側面装甲部とメインローターの一部を損耗した事を瞬時に把握した。
 地上攻撃座標の詳細は戦術支援AIが現在追跡中だが、何処からその攻撃が飛来したのか、ヴァロージャはそれを考えずとも悟っていた。
「内郭部から狙い撃ったのか──。機体分離プロトコルを省略、今すぐ投下しろ!」
『了解──、【リスタート】投下します!』
 牽引フックが解除されると同時に搭乗機体【リスタート】が高度500メートルの空域に解き放たれ、高速の自由落下による浮遊感が全身に蔓延する。
『輸送機、上空作戦戦域外へ緊急離脱。回収ポイントを変更、友軍の増援が到着するまで、決して無理はしないでください』
「了解。此れより降下機動を開始、作戦戦域へ武力介入する──」
 ヴァロージャは機体制御態勢が第一種戦闘態勢に固定維持されているのを確認、後背部推進機構の出力を上げて制動を掛けつつ地上への速やかな降下を開始した。
 降下の最中、先ほどの砲撃を最後に此方に攻勢物体は一切飛来してこず、その過程に若干の疑問を抱きつつもヴァロージャは更に落下制動のためのブースタ出力を微調整し、外郭地上部の幹線道路上へ【リスタート】の機体を軟着陸させた。
『周囲戦域に、動体反応なし。現索敵態勢を継続維持──』
「現場までのルートマップを出せ」
『了解、現在情報検索中──出力しました』
 平淡な女性のヴォイスプログラムを戦術支援AIが発し、HMDの端に三次元モデルのエリアマップが出力された。シェルター外郭部付近の地上に着陸した自機の動体反応が淡青色のポイントで点滅し、其処を基点に一本のガイドラインが介入戦域までの最短ルートを引く。
 マルチコンソールに触れてルートマップの介入戦域の位置座標を正面に据え、それに続いて戦術支援AIに口頭指示した。
「BITCS(Brain Interfase Tactical Control System)を起動、第一種戦闘態勢で規定処理しろ」
『了解。BITCS接続処理を開始します──』
 抑揚に著しく欠けたヴォイスプログラムによる工程報告と共に、コクピット後方は丈夫に設えた収納ラックから接続機構が自律起動、戦術支援AIによる制御を経てヴァロージャの頚部インターフェースに正確に接続された。接続確認用のテスト識別信号がまず最初に伝達され、その信号は大脳皮質機能部を巡る伝達補助用ナノマシン群を介してヴァロージャの思考野に到達した。
『テスト信号の正常稼動を確認、接続工程を完結しました──』
 脳内に直接響くヴォイスプログラムが、テスト信号の正常伝達及び接続処理の完結を報告する。
「システム態勢及び各種インプラント機能は、第一種戦闘態勢を固定維持する」
『了解しました──』
 ヴァロージャはBITCS接続下にある意識を改め、動作精度の高次化を完結したフレームシステムを扱って肉眼に映る有視界を左右する。大脳皮質機能部を経由し、移植した有機インプラントによって視覚野に出力されるインナー・ディスプレイに、第一種戦闘態勢下ある搭乗機の機体情報が予め組み上げられた報告規定要綱に沿って次々とアップロードされていく。
【──System All Green──】の文字が表記にされ、BITCSの正常接続を最終確認するとヴァロージャは、
「──此れより都市内郭部、介入戦域へ急行する」
 ブースタペダルを踏み込み、後方ノズルから吐き出した高出力の噴射炎が【リスタート】の機体を弾き出す。BITCS接続によって起動した特殊駆動系機構の動作推移がインナー・ディスプレイに羅列されていく様子を視界の隅に捉えつつ、出力したルートマップのガイドラインに従って幹線道路を準戦闘推力で走破していく。
 数十秒後──間もなくしてヴァロージャの駆る中量二脚機【リスタート】は、外周都市第一区画へ進入を完結、シェルター内郭部へ直結する直線道路に行き当たった。
『前方距離440㍍、大型資材搬入ラインを捕捉──予定進路、妨害反応があります』
 戦術支援AIの言う通り、拡視界に映し出した前方映像をヴァロージャも既に確認していた。資材搬入口に設けられた大型シャッターが大きな瓦礫片と挟まって──恐らく、外郭部上方から落下してきたパネル類だろうか──奇妙な形にひしゃげている。状況解析を行うまでもなく、そのシャッターが完全な機能不全に陥っている事は明白だった。
 第8強襲分遣隊は此処を進入経路として、内郭部へと進軍した。進入経路はほかにも幾つかあるが、他を当たるとなれば、最寄へ最短時間で急行したとしても数十秒ないし数分は掛かってしまう。
 ヴァロージャは即座に状況判断を経、眼前進路の妨害要素を自ら排除することにした。
 火器兵装を転換──左背部兵装の携行型レーザーキャノンを起動、長大な砲身が背部より進路前方に向かって展開する。
『照射ラインを検索、最適化します──』
 戦術支援AIが自律的に解析作業を進行させ、即座にレーザーキャノンの最適な照射ラインを出力してきた。
「照射出力を15㌫に抑えろ」
『了解──出力制限、完了しました』
 その報告に続いてレーザーキャノン照射時に発生する機体姿勢とジェネレータ出力の変動数値をインナー・ディスプレイで確認──ヴァロージャは逡巡なく、右操縦把付随の照射スイッチを押し込んだ。
 可視化した青白い照射光が文字通り光速で進路を先行し、予めセットした照射ラインに沿ってシャッター部を瞬く間に焼却していく。
 その断面を境にシャッターの下方部と瓦礫片がごっそりと分たれ、路上へと轟音を立てながら崩壊していく。
『開口を確認、進入可能です──』
 携行型レーザーキャノンを背部へ格納し、機体姿勢の沈静化と共にヴァロージャはブースタペダルを踏み込んみ、最大推力を持ってリスタートの機体を切り開いた資材搬入ラインから都市内郭部へと突入させた。





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