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Armored Core - Execution - 1‐1 * Armored Core - Execution -1‐2 * Armored Core - Execution - 1‐3」




 ──シェルブさん
 ──あの小僧は、お前が引き継げ
 ──"アース・ブルー"はどうなるんです
 ──騒乱収束迄に、内々に処理する方向で進捗調整会議は合意した。"アース・ブルー作戦"は、進捗調整会議が今後用意する代替作戦に取って代わられる。私もお前もその作戦に加わる。今の内に準備を済ませておけ。
 ──という事は、ルアナと、ゼノビアさんもですか?
 ──ああ。現場に居た者全員に参加命令が下っている。此処までやって来て、今更無関係とはいかん
 ──そうですか
 ──ロジオン
 ──はい
 ──あの小僧が何時か、同じ道を辿る事になるとしても、お前は何も伝えるな。此れから抹消される過去を追いかける生涯に、真っ当な意義などはないからな
 ──分かりました。シェルブさん、貴方は──?






 数棟の複合高層ビルにより、」その本社機能を成す大手傭兵仲介企業【レイヴンズ・アーク】本社ビル──上層階同士を繋ぐ連絡回廊の一つに、ヴァロージャはいた。
 引き開いた窓から吹き込む涼しい夜風が、頬と髪を緩やかに撫で上げていく。
 接近こそ感知出来なかったものの、自身のすぐ傍に人間の気配が現れた事に気付き、ヴァロージャはその方向へ首を回した。
「先の任務遂行は御苦労様でした、群司令──」
 周囲のオフィスビルによって淡く照らし出された回廊の中、ヴァロージャを群司令と呼称する人物──その女性は略式敬礼を洗練された動作で行う。
 ヴァロージャは軽く頷き、
「此処は常の言葉で構わない、──アマラ戦術対応第一課課長?」
 自らの名を慣れた口調で呼ばれたアマラは肩に入れていた力を若干抜き、連絡回廊の窓辺に佇むヴァロージャの傍へと歩み寄る。
 その際、髪留めで纏め上げられた彼女のブロンドヘアから透明感のあるすっきりとした香油の香りが届き、ヴァロージャは心持ち口許を緩めた。
 アマラは所属部署こそ違えど──自身と同じ現役のレイヴンであることに変わりはない。だが、現在は実戦任務が本職でないというだけで此処まで差が出るものなのかと、ヴァロージャは彼女と面を合わせるたびに毎度同じ事を思うのだ。
 その香油の香りは彼女の洗練された佇まいと、切れ長のアイスブルーの双眸の魅力を一層引き立たせる。
 汚泥と火薬の匂いにまみれたそこらのレイヴンとは、大違いだな──
 まず何を切り出すでもなく、アマラは着込んだ純白のタイトスーツのポケットから薄いケースを取り出し、其処から一本の細巻を抜くと口許に咥えた。
 ヴァロージャは自身が口許で転がしていた吸殻を手渡し、彼女は特段別な表情を作る訳でもなくそれを預かって先端に火を点す。傍に備えつけの灰皿ボックスにヴァロージャの吸殻を投げ入れ、アマラは静かに、深く紫煙を肺腑に流し込んでいく。
「少しは様になったかと思ったが──相変わらずだな、お前は」
 高層ビルの外壁を駆け上がる風が吐き出した紫煙を絡め取っていく様子を見送る中、アマラはビル群の周囲に広がるオフィス街の夜景を見下ろしながら呟く。
 群司令という最上地位の人間がわざわざガス代をケチって吸殻を渡した事を言っているのだろう、アマラのその的確、且つ聞き慣れた悪態にヴァロージャは軽く肩を竦めて見せた。
 手持ち無沙汰だったヴァロージャもまた、かっちりと着こなした本社御用達の制服の懐から紙巻煙草を抜き取る。安物の燐寸で火を点そうとしたとき、煙草の先端に既に着火を済ませたオイルライターが滑り込んできた。
 横目で彼女を流し見た後、先ほどの彼女と同じように先端に火を点す。その何気ない一連ですら、全く無駄のない動作で彼女はオイルライターをスーツの懐へしまい込んだ。
「件の案件だが──」
 始めにそう切り出し、一旦紫煙を吸い込んで周囲に燻らした後、アマラは続きを紡ぐ。
 互いに視線を交錯させずに別々の方角へ向けつつ、意識のみを彼女の口許に集中する。
「私の部署──捜査一課にやらせたが、まあ、期待はするなよ。──作戦領域[071-6645431]の移動痕を辿り、サルヴァトール北岸部まで追跡したが、失踪個体の足取りは其処で途絶えている。最寄の航空捜索隊を一つ拝借して周辺海域及び空域の捜索に当たらせたが、其処までだった」
「そうか──」
「周辺に海下ライフラインの存在は確認できなかった。空路も陸路も使用した痕跡がないとなれば、必然的に残る手段は一つしかないのだが──」
 そこで一旦アマラは言葉を切り、彼女の視線が此方に向けられていることに気付いてヴァロージャは意図的に彼女の其れへ目を向ける。濃い香りが目立つ紫煙を周囲に燻らせる彼女の、切れ長の瞳が既に事実を雄弁に物語っており、事実としてヴァロージャはそれを察していた。
「何者かが、手引きをしたというのか……」
 変わらず紫煙を燻らせ続けるアマラの佇まいに変化はない。しかし、其れがヴァロージャの言った言葉が真実であることを何よりも顕著に顕している。
「無論、安易に断定は出来んがな──全く、妙な話になったものだ。なあ、ヴァロージャ……」
 その口調にヴァロージャ自身を責め立てるような感情の色は、一切感じられない。事実、アマラの言う通りだった。
「あの小僧を最もよく知る筈のお前が、出し抜かれるまで──何も気付く事はなかったのか?」
「──気付かなかった、と言えば、其処には明らかな矛盾がある。こうなる可能性があった事は、前々から承知してはいた。此れは、アマラ──お前もその筈だろう?」
「それはそうだが、──ふむ」
 アマラが珍しく歯切れの悪い応答を遣し、口許で紙巻煙草を転がして弄ぶ。
 傭兵仲介企業【レイヴンズ・アーク】に於いて、平時は全AC戦力をその指揮権限下に置く統合作戦司令部──その直属戦力として存在する軍事機関・機械化特殊戦力群から一人の離反者が出た。
 離反者──"ウーヴェ"というレイヴンコードを持っていた少年を弟子として、ヴァロージャが一流のAC戦力にまで育て上げた経緯を、アマラは最初から最後まで全て知っている。
 十一年前にヴァロージャが、"テオ・エーケベリ"という本名のその少年を自らの庇護下に囲い込んだ時、"ルアナ"という名を戦場で名乗る彼女もまた、その場に居合わせていたのだ。
 だからこそ、アマラも今回の件がどういうものかを重々承知しているのを、ヴァロージャは見抜いていた。
「今思うのならあの時、殺しておくべきだったのかもしれん」
「──そうなる筈だった。だが、そうは成らなかった」
 本来なら十一年前の戦乱の終戦期──"あの時"に、"テオ・エーケベリ"という少年は何の罪を問われた訳でもなく、その戦場に命を散らせる筈だった。
 ──酸鼻を極めた惨禍によって友軍戦力が壊滅していく中、僅かに生き残ったアークの傭兵達によって。
 しかし結果として、少年の他多数の戦災孤児達の生命が刈り取られる事はなかった。

 ──、一人のレイヴンが相応の対価を、戦乱を生き残った者としてのその生命を投げ出したからだ。

 その出来事を最後に戦乱は終結し、アークが関与した他の作戦と同様にその戦闘記録も一切が抹消、非公式記録として企業の暗部へと葬られる事となった。
 事実は全て葬られた。
 後世に伝える者がいなければ、誰も其れを知る事はない。
 絶対的な不条理によって、不都合な事実は全て隠匿された。
「成らなかった、か──その通りだな。それ以外の推論に事実への道標はないな……」 
 その結果のみが今の事実を紡いでいるのなら、最早残された選択肢は幾つもない。
 かつて"あるレイヴン"が生命を投げ打ってまで戦災孤児達を救い、その孤児の一人が現在、我々に牙を剥こうとしているのなら、然るべき決断をしなければ──
 誰もが目を背けたかった過去であり、また、受け入れざるを得なかった過去だからこそ。
 我々が撒いた種が10年もの歳月を経て一つの災厄となった事が、唯一の事実なのだ──
「あの小僧についてだが──先程、部下から報告があった。統合作戦本部付OIMA(作戦情報管理局)データベース第三六類に、幾つかの干渉痕を発見したらしい。ヴァロージャ、お前は小僧に技術を教えたか?」
 ヴァロージャは敢えて何も言わず、口許に咥えた紙巻煙草の紫煙を吹かす。その様子を見てアマラは、だろうな、という表情を僅かに作ってみせた。
「断定は出来んが、第三六類から引き抜かれた情報との事実関係を鑑みる限り、やはり失踪個体が何者かを引き込んで、今回の騒動を起こした可能性があると言える」
 其処まで言い切った所で、アマラは漸く短くなった吸殻を傍の灰皿に放り捨てた。
 それから、窓から吹き込む夜風に暫く当たった後、彼女は先程より若干声音を落として言葉を発した。
「簡潔に問うがヴァロージャ──お前も、権勢という生温い妄執に憑かれたのではあるまいな?」
 出し抜けにそう問うたアマラの表情は酷薄を覗かせ、古くから戦場に在る者としてのそれであった。
 ヴァロージャは彼女の問わんとしている事を瞬時に察し、双眸に相応の鋭い意思を湛えると、慎重に言葉を選んだ上で返答を返す。
「議会の者達に伝わるのを避けたかった事は、否定しない。しかし、此れは我々【レイヴン】が自ら負うべき責務であり、無為に其れが伝え渡るのを私が良しとしないが為だ──」
 機械化特殊作戦群から出た離反者が友軍に甚大な損害を与えた上、制圧地域の非戦闘員3000人以上を虐殺、そして果てには逃走、消息を晦ました事態は重い。しかし、現時点で其れを知る者はアーク本社の中でもごく一部に留められている。
 この事実は、アークの組織運営を担う幹部議会は無論、統合作戦司令部も把握していない。
 事実を知るのは、ヴァロージャのオフィスと機械化特殊作戦群の一部、そして彼女──アマラを含む戦術対応課の面々のみである。
「成程──しかし、漸う貴様も、その様な姦計を巡らすようになったのだな。やはり、先程の言葉は撤回しよう」
 ──アークの古い戦場を憶えている数少ない人間だからこそ、彼女はヴァロージャの言う言葉を深く理解する事が出来た。今回の件は、権力欲に溺れて自ら惨禍を引き込むような愚者達の道程とは全く訳が異なる。
 アークのレイヴン達が戦場で真に自由であった古い時代──脈々と紡がれてきた冷酷な不文律はかつて確かに存在し、其処には一切の信念の妥協も、事実の歪曲もなかった。
 だからこそ、やがてそれに耐え切れず異を唱える者は、十一年前のように現れる。
 ──十一年前に撒かれた種の芽吹きは、アークのレイヴン達が紡いできた歴史の予定調和に過ぎないのだ。だからこそ、その不始末の責は同じレイヴンのみが負わねばならない。
 しかし、今のレイヴンズ・アークを運営する幹部議会の多くは、その意図を正確に理解する事はできないだろう。
 信念の腐敗と真実の隠蔽を鼻歌でも唄うように謳歌する現在のアークは、機械化特殊作戦群から離反者が出たという事態を、各自の政治闘争の為の手駒としか見ない。
 その中に身を置き、その暗部の最も深い部分の一面を知るからこそ、ヴァロージャは今回の件は内々に処理することを機械化特殊作戦群内で決定した。
 そして外部の人間で最も信の置ける人物の一人──安全保障局軍監察部に籍を置くアマラに事態収束の協力を要請したのだ。
 彼女が籍を置く安全保障局はレイヴンズ・アークという企業の恒常的な秩序の維持を第一とし、その実現の為に相応の実行部隊を保有している。であるならば、本来なら離反者の後始末は安全保障局に一任するのが一般的な規定ではあるが、公的な監査機関である安全保障局にそれが渡ってしまっては、幹部議会に情報が伝播するのにさほど時間は要さないだろう。
 しかし、それでも安全保障局軍監査部に所属するアマラの協力が必要だと考えたヴァロージャは、自ら大きく踏み込んでその選択肢を取った。
 そして、ヴァロージャの意図と揺るぎのない信念を信じたからこそ、アマラは戦友として彼の要請に応えたのだ。
「──あの作戦以降、多くの戦友が冷飯を喰わされた。お前が此処まで上り詰める事等、私も予測できなかったよ」
「私には──俺には、俺の成し遂げたい野心があった。それだけの話だ。でなければ、誰がこの齢で群司令になどなるものか。……尤も、アイツならそんなモノなど無くとも、何れは高みに辿り着いただろうが──」
 そういい、ヴァロージャはわざとらしく肩を竦めておどけて見せる。
 その言葉にアマラも口許を僅かに歪めた。
「お前程の男でも、皮肉めいた事を言うのだな……?」
「──"ウーヴェ"の才覚は、類を見ない程に突出していた。それが……」
「アークの害意を喰らって暗部を憎み、この十一年でいつしか化物に──規格外の戦場不適合者になった、か」
 ヴァロージャは、「ああ」と無感情に言う。
「ならば尚更──手早く済まさねばな? 統一政府への対応をどうするつもりだ」
「暫くは放置して置いても構わない。数十程度の保有兵力と3000の非戦闘員が虐殺された程度では、例え情報が漏洩したとして、わざわざ介入する様な真似はしないだろう。先方にも──"粛清戦力"を出すに足るだけの口実が必要だ。今回の被害規模程度では、その計上にすらならない。──其れに、先日の【エデンⅣ】での事もある。慎重になっている事は違いないだろうからな。──元より、統一政府の手管を得る必要等は、何処にもない」
 過去に身内から出た錆に関して、統一政府から"粛清戦力"が派遣されてきた記録は何度か存在する。しかし、それも此処十数年の話であり、アークは本来ならそんなモノは必要としない。
「ふむ、実につまらん話だな……。では、どの道被害が拡大する前に決着せねばならんという事だが──リストの方は?」
 過去の記憶に思考を浅く巡らし、ヴァロージャは言うべき事柄を素早く纏めた。
「──ウーヴェは、作戦に関わった人間を全て殺すと言った……"アース・ブルー"に関わった者をな」
「今となっては、そう多くはないはずだが。取り敢えず私とお前で二人、後は──」
 ──"アース・ブルー"に関与して今も尚アークに留まっているレイヴンは、既に少ない。それ以外の者は社籍を返上した上でアークを去り、其の中でも現在消息が知れている者はごく僅かだ。
 ヴァロージャは記憶の海の中を辿り、幾人かの関係者の名をリストアップした。
「もしウーヴェが最後に狙うとしたら……」
 その言葉の先を、アマラが紡ぐ。
「──"ザックセル"か?」
 ──ザックセル。"アース・ブルー"の数少ない生き残りの一人であり、当時の中核戦力だったレイヴンである。現在は小規模な傭兵部隊を統率して、まだ現役を続行しているとの噂はヴァロージャも以前から耳にしていた。
「あの人の心配は正直、余りしてないが。彼を含め早急にコンタクトを取る必要があるな」
「了解した──。実行戦力をどうする?」
 アマラがそう問い、ヴァロージャは先程の彼女に続いて短くなった吸殻を灰皿へ落とし込む。
「遂行要員を一人、私が選抜した。──彼女に当たらせる」
 今回の案件自体、非公式に済まされねばならない。
 迅速、且つ静粛に──。人員は最低限にまで限定し、そして最精鋭を送り込む必要がある。
「──彼女?」
「此処に呼んでいる──ヴィエナ、来なさい」
 ヴァロージャは、彼女の名を短く呼んだ。そこで漸くアマラも第三者の気配が突如現れたことに気付き、連絡回廊の渡り口の一方へ視線を投げた。
 半ば夜半の闇に落ちた連絡回廊の影、其処に半身を溶け込ませた人影があった。まだ若い顔つきの少女は影から一歩踏み出すと、静かな足取りでヴァロージャとアマラの元へと歩み寄ってくる。
「この子が任務に当たるのか?」
 そういうアマラの言葉は落ち着いてはいるが若干の疑念を孕んだ口調であり、ヴァロージャは仕方のない事だろうと、胸中で軽く息をつく。
 ──それは"ヴィエナ"という少女の姿形を見れば当然の事である。
 身の丈こそ女性としては長身のアマラに近く、アーク本社製の服装に包まれた身体は兵士として中々恵まれた体躯ではあるが、ヴィエナの顔つきは少女の域を出ない程度に若い。
「この子も、生き残りの一人だ──」
「──それは初耳だぞ」
「まあ、後回しでいいだろう。──ヴィエナ、挨拶を」
 そう促され、ヴィエナは感情に乏しい表情のまま小さく頷く。
「──ヴィエナ・キヴィラフティです。お話は常々伺っています、アマラ課長──」
「──ああ。短い間だろうが、よろしく頼む」
 挨拶自体も要点のみのごく短いもの済み、其れを確認してヴァロージャは彼女を一足先に連絡回廊から去らせた。
「あの小娘で、本当に大丈夫なのだろうな……?」
「──"ウーヴェ"の事なら、彼女はよく知っている。其れに、彼女にはこの戦場が必要だ……」
 後半部分の独白のような言葉が気になったのか、アマラは視線をヴァロージャの双眸へ向けたが、終ぞ其の事について訊き出すことはしなかった。
「後方要員選抜及び作戦要綱の作成を完結次第、速やかに作戦を起動する──」
「……了解した」
 改めて姿勢を正し、アマラはヴァロージャに向けて敬礼の動作を取る。それを見届けた後、アマラは踵を返して足早に連絡回廊を後にした。
 ヴァロージャはその場に一人残り、開放された窓から相変わらず吹き付けてくる夜風に当たる。眼下に展開する広大な産業都市の煌きを視界に収めつつ、懐から紙巻煙草を抜き出して咥え、燐寸で先端に火を点す。

「粛清の責は、その親鳥のみが負う。──誰にも、その邪魔立てはさせん」



Armored Core - Execution - Episodeⅰ.end...



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