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「Armored Core - Vicissitude - 1‐1* Armored Core - Vicissitude - 1‐2


 執筆者:柊南天


 熱く滾る釘を手足に打ち、眼を開いてその心の往く先を見届けなさい──

「──チェック。早くしてよ、つかえてるんだから」
 なんとなく面白くない方向に勝敗の流れが傾いているのは薄々感じていたが、まさかその矢先に僅か一手でチェックまで持ち込まれるとは予想だにしていなかった。
 古い鉄製のチェス盤を敷いた卓上に頬杖をつくナボは、往来切れ長の目を僅かに開いて、正面に居座る相棒──ソルラの澄ました横顔を見つめた。
 彼女は横に傾けた椅子に背中を預け、近頃いたく気に入ってるらしいファッション誌をゲームの開始当初から熱心に読み耽っている。
 言うに事欠いて、後がつかえてる(・・・・・・・)とまでのたまってくださるとは……
 相棒からすれば事実上の片手間といっていい勝負に真剣に挑んだはいいが、ものの30分足らずで返り討ちの憂き目に合いつつある現状に表情を渋り、ナボはアルコール瓶を軽く呷る。
 盤上の頭脳格闘技とも称されるこのボードゲームを嗜むに際して自覚していた事だが、どうやら彼女という相棒の前では絶望的なまでに相性が悪いらしい事を、近頃になってようやくまっすぐから認めつつあった。
 他の似た様な勝負ではそこそこに可愛げのある所を見せるくせに、このゲームでとなると、まさしく別人になったかのような手腕を発揮する。全く、妙な話だ。
 今後、彼女と組む仕事の要処が掛かった勝負では二度と持ち込むまい──胸中で密かに誓った時、横合いに充分離れた場所から、現状相棒と油を売る廃棄物集積所の静謐に慣れた耳を鋭く刺す声が響いた。
「貴方達、こんな事してなんのつもりっ」
 現場招致から数時間経って漸く聞けた、お姫様のモーニング・コンタクトの内容はナボにとって非常に有り触れたもので──想像していたより、割りと冷静な様相を除いてだが──、全く珍しいものでもなかった。
 対面のソルラもその鋭い喚声には一応反応の色を見せたが、それも、長い睫毛の乗った双眸を週刊誌の端から覗かせただけの事だった。
 ナボは軽く息をつき、肝心の勝負に於ける敗北を直前にして当然か、その鉛のように重くなっていた腰を上げた。卓上脇に備えていたアルコール瓶の内一本を持ち、来客のお姫様と自分達とを隔てる"格子"の傍へと歩み寄った。堆い集積物である鉄製のドラム缶で構築した半円形の拘束房は薄暗く、しかしそれでも、彼女の纏う純白のタイトスカートが所々煤に汚れているのははっきりと視認できた。
 元は付近一帯の類似施設で労働に従事した下流労働者向けに設けられた懲罰房だったらしく、集積所自体が破棄された後も共にその名残りを残し続けている。
「寝覚めに一杯、どう?」
 妙に勘ぐられでもしたらしく、客人のお姫様はナボが格子の傍へしゃがみ込む前に、奥の方へと身を下がらせる。
 ……まあ、正しい反応といえばそうだ。
「何のつもりかって聞いてるのよっ……!」
 せめてもの気遣いとして袂にアルコール瓶を添え、ナボは手に持った自前の瓶を浅く呷る。
 我が事ながら、互いに珍獣を見るような顔つきだ。
「毒なんて盛っちゃいないよ。そんなのは趣味じゃないし、それ以前に俺達の誓約外だ」
「あのね、私の聞きたいのは──」先にも増して大きな喚声を上げようとした客人の其れを遮り、
「随分と威勢の良い娘だこと。そう思わない、ナボ?」
 気に入りの雑誌の熟読を害された故かそれとも丁度読み終えたばかりなのか──後者の可能性が充分に高いが──察しをチェス盤の横へぞんざいに置いたソルラがゆっくりと立ち上がる。自身よりも幾許以上に高いすらりとした背丈のソルラは、持ち前の大きな瞳を備える双眸をわざとらしく細めてみせた。冷淡なアイスブルーの其れと相まって、あらゆる意味での怖気を視る者に強いる眼差しである。
 横合いに歩み寄ったソルラはナボの置いたアルコール瓶を拾い上げると、親指で口金を軽く弾き飛ばし、その瓶口に唇を当てた。
「おいおい──不用意に脅かすなよ」
 領分をにおわせた言動で彼女の行いを嗜めるが、同族時に相容れずとはこの事というか、彼女はナボが客分に差し出したつもりのアルコール瓶を、毛ほどをすら悪びれる事もなく呷る。
「相棒のソルラだ、彼女とは彼此長い付き合いの筈なんだけどねえ……」
 相手が思うに己のそれは正しく与汰の類に過ぎず、この場に於いて何を聞くつもりも失せたというような表情を客分が浮かべたのをみて、ナボは主旨を改めた。
「ああ──何の縁があってプレイルームに招待したか、だったっけ?」
 多少強引な手段ではあったが──一時的に麻酔系を用いたとはいえ、夢心地を味わってもらったぐらいの事はナボにとって強引でもなんでもないつもりだったが──世間的な表現刑を用いれば、この場に於いては彼女を一層混乱させるだけのような気もする。それはナボにとって"あまり"望んでいない流れの種である。
 どうしたものかと口につけた瓶を傾けていると、早くも痺れを切らしたソルラが代わってそれに応えた。
 もっとも、自分が忌避していた言葉をそのまま投げ渡しただけだったが。
「貴女の主体状況は私達の拘束意思、人身略取の下にあるわ──要領を得ないなら、もっと簡単に言ってほしい?」
 配慮の一切を度外視した彼女の告白だったが、それに対して客分の方はと言えば、ナボの期待に反して意外にも一定の気丈さを保っているようだった。
 それでも、次に彼女の発した言葉はその胸中に湧き上がる恐怖心を僅かに反映していたが。
「何の目的で、私を拉致したっていうの?」
 彼女を目的完遂の為の途上対象として定め事前段階で調査分析に及んだ時には、もう少し線の細い印象を受けていた。だが、こうして実際にやり取りをしてみれば中々に骨のありそうな女だと、ナボはその認識を柔軟に改めた。
「──何が狙いだとしても、私は喋る事なんてないわよ」
 人身略取の状況下に於いて凡そ的確でない接触方法だが、交渉前から拒絶意思を断固として顕示する辺り、冗談や性質の悪い酔狂で"標的"の傍をうろつくだけの小娘ではないらしい。
「ええと、ティア・ソールだっけ? 魅惑な意思提示は嬉しいけど、此方としては受動的拘束下にある君にこれ以上を手を加えるつもりは……現状ないよ。そこらヘンは取り敢えず、安心してくれていい」
 調査分析の段階で最終的な遂行目標たる"標的"とそれに纏わる周辺情報は極力洗い出してある。彼女の名前とその他必要詳細についても、既に頭の中に詰め込んであった。
 ティア・ソール──フリーランスの新参通信技士として"標的"とは業務契約中の間柄に在る。
「……で、この小娘で割り込んでくる現在の確度は?」
 ソルラの口調は至極平静なものだったが、言外に含まれた意図の中に此方への明らかな追求が内在しているのを、ナボの鋭利な観察力は察知していた。
「半々、といった所かな。……どんな奴でもそうだが、遂行目標のような"Ex-"()は多かれ少なかれ、こういう状況には恐ろしく慎重だ。其れこそ野うさぎ並みにね」
 ──"遂行目標"に対して仕事をこなすだけならば人身略取という非効率な手法を取らなくても、確実な手段が他に幾つか在った。しかし、確実な遂行手段を度外視しても仕事に臨む──その対応は、ナボが仕事を受諾した主因の一端に起因しており、それをよくよく把握していたからこそ、長い付き合いの相棒であるソルラはナボに対して強い語調での追求を避けていた。
 最後の一滴で舌を湿らせた後、アルコール瓶を廃棄缶の上に捨て置く。着慣れたジャケットの懐に収めるシガレットケースから紙巻煙草を一本抜き出した。
 今さらになって反意を示す事はないだろうという事は当事者であるナボが最もよく理解していたが、"標的"が割り込んでくる現在確度に対し注釈すべく、ナボは言葉を吟味してから慎重に口を開いた。
「……"標的"が単に酷薄なら、救いようがある。定めた刻限に滑り込む可能性が高いからな──だが、最悪なのは、"標的"が現状判断に際して一切の何もかもを持ち込まなかった場合だ。感慨も情念もなかった時、"標的"のそれが俺達にとって、最も面白くない因子を投げ込むだろう。非常に優れた職業軍人であったのなら尚更、彼女を容易に切り捨てる位の事はするだろうね……」
 こうして講じた手段の動機を此処まで明示せず、ソルラもまた聞く事はなかった。しかし彼女ならば、既にその真意の程を汲み取っていることだろう。無意味に長く続いているだけの関係でもない。
「ナボ、あんたのアテが外れたらどうするつもり?」
 可能性の一端として有り得る結果を冗談めかした口調で彼女が問う。ナボは軽く肩を竦め、格子を隔てた先の人質──ティア・ソールと改めて視線を重ねた。
 腰元は皮帯に吊ったシースからコンバットナイフをするりと抜き出す。長い刃渡りを備え、鋭い研磨を重ねたその得物をナボは慣れた手つきで三度、四度と振り回す。
 この稼業に就いてから最も付き合いの長い得物のひとつであり、ナボにとっては正しくその手足の延長と言っていい程に使い込んだ代物である。
「然るべき処置を、施さなきゃいけなくなるなあ」
 自らがのたまった処置とやらを容易に連想させる振る舞いと表情をわざとらしく浮かべ、それを直視した彼女が身体をびくっと強張らせた所で、ナボはふっと表情を緩めた。
「なあに、冗談だよ冗談。君には大事な客分だから。用事が済んだら、ちゃんと家に帰してあげるからさ」
 途上目標に対する加害行為の厳禁は、ナボとソルラが組んでから共に誓った共通の誓約事項の一つとして機能している。その意思に準拠して伝えたつもりだったが、こうして言葉にしてみるとどうにも胡散臭いものいいにしか、その言葉を発したナボにも聞こえていなかった。
「貴方達、何者なの──ツヴァイに、何の用?」
 破滅的に察しが悪いとかそういう気質の類の人間でないことは、重々承知している。自分の今後の身の上を棚上げしても相棒を案ずるその気概は素晴らしく、惚れ込んでもいい位だ。だが同時に、迂闊にそういった言葉を吐くべきでないともナボは考えた。恐らく、返答が分かっていてなお、自分自身の為に事実関係を問いかけようとしている。そういった人間は多くないが、少ない訳でもない。そしてその大半は自らが問いただした答えを耳にして後々後悔するのだが。
 客分の問いかけを無碍にするのも失礼だなどと適当な動機付けをし、ナボは彼女が望む返答をよこすことにした。
「俺達は、君の相棒のような特別なロクデナシ専門の始末係、"クリーナー"だよ。言っただろう、俺達の用のあるのは君の相棒──"ツヴァイ"だけだって」
「……殺し屋、そんな依頼を誰が、」
 古典染みて逆に笑えてくる表現形とその裏の見え透いた意図に対し胸中で小さく息をつき、ナボは彼女の言動を遮る。
「野烏を目の仇にしてる輩なんて、今の時世にはその辺の石ころと同じ位いるよ。でなくても、彼には遠い昔に置き忘れてきた、大事な思い出があるじゃあないか?」
 そこまで告げ、以降の彼女の反応をナボは待たなかった。手元で弄くっていたコンバットナイフをシースに滑り込ませ、格子の前から踵を返す。すぐ脇にソルラがついてきた。
「──それで、万一割り込んできたら、貴方はどう思うわけ?」
「俺は、彼が優秀なEx-()であることを期待している。でないと、この仕事を請けた甲斐がないからな。──けれど、彼が現れたら、そうだな……」
 三等級品の紙巻煙草を一気に吸い上げ、あっという間に短くなった吸殻を卓上の灰皿へ捻じ込む。肺腑にありったけ溜め込んだ紫煙を、廃油の粘ついた臭気が立ち込める廃棄集積所の高い天井に向けて吐き出した。
「──期待していた以上に、大した男だと、そう思うだけさ」
 その際の真意はどうあれ、かの"標的"が一人の女の為に乗り込んできたら、それほど痛快な話も中々ないものだ。
 そんな男と、殺し合いたかった──
 右手に嵌めた腕時計は午前の〇二三〇を指している。
 ──最も暗く濃密な、待ち望んでやまない時間が其処まで来ていた。


                                   *


 廃市に平時に吹き付ける昼下がりの風が、砂塵に濁った窓を細かく揺らす。旧駅舎の景観を僅かに残して増築されたこの街の協会施設は酷く寂れていた。単に時間帯もあるだろうが、柄の崩れた受付嬢が応対するフロント以外に人間の気配は感じられず、それは前者から通された会合場である講堂も同様であった。
 鉄屑と廃材が散乱し砂塵も足元に沈殿している上、講堂内は長らく人が立ち入っていない空間特有の臭気が立ち込めていた。
「元MDRU(Mobile Distant Reconnaissance Unit=機動遠距離偵察部隊)──」
「お望みであれば、今件のクライアントより情報が幾つか届けられていますが?」
 講堂中程の円卓を挟んで向かい側に位置を取るブローカーが、卓上に置いた黒塗りのケースに手を添える。首を横に振り、その動作を静かに制止した。
「フロントへ預けてくれ、此処では必要ない」
 若い容貌のブローカーは所作こそ丁寧だが、世辞にも中庸とは言い難い不遜な気配を漂わせ、ケースの暗証システムに伸ばしていた手を戻す。彼の声音は同性のそれとしては妙に高く声域にあり、この会合に際して関係者の居合わせる講堂に嫌に響いて聞こえた。傍に立って商談の推移を待つソルラも表情に出さないものの、充分に不満げな気配を漂わせていた。
「──その生存者が"対象"、と。部隊自体は五年前に解体済みらしいが、本物だという"確度"は?」
「私は唯の使いですので、その辺りは何とも……」
 大仰に肩を竦めてみせ、口許に厭らしい笑みを浮かべてみせる。
「亡霊退治でもやれというのかな。生憎、俺達は浄霊術なんて高尚な特技はない。墓石の下の物言わぬ死体にブリットを撃ち込んで寸劇っていうのなら、話は別だけど」
「──依頼主は充分な報酬を提示しています。どうあれ、過去の死人を再度殺す程度の事ならば、造作もない話でしょう?」
 その無責任以外の何物でもない言動が講堂内に響く。卓上に浅く腰掛け、陰りの中にあるソルラの鋭い視線が動く。容貌どころかその気立ても愚劣な程に若い節を覗かせるブローカーの男に対し、意識して鋭い殺意を湛えた視線を叩き付けた。短慮な下心を射抜かれた狸のようにブローカーの身体が強張り、凡そこの街に似つかわしくない青白い肌の頬を、一筋の汗が伝い落ちる。
「造作ない話かどうかは俺達が見極める事だ──追って返信する」
 若い男は汗ばんだ手でケースを手元に引き寄せ、講堂奥にある非常出口に向って円卓から数歩下がる。
「依頼主は今件を憂慮しておいでです、色好い返事をお待ちしています……」
 ブローカーの惰弱な背中が非常出口の向こうへ消え、砂塵を踏みしめる足音が離れて聞こえなくなるまで待って漸く、ソルラが振り返る。
「全く、不愉快な男だこと。どうしてフロントに回したの、ナボ?」
 普段通りならばこの手の件は一蹴して、今回の商談も御破算になっていただろう事について言及しているだろう。二流以下の仲介人が取り付けようとする仕事というのは、割りに合わない話が多い。影の危うい話は面倒になる前に切り捨てるのが、業界の常だった。
「なに、話の種をまだ他にも持っている様子だったからね。そっちの方は避けるに越した事はないだろう」
「……案件には余地があるってこと?」
「まあ、──生き残りね……」
 依頼主が所望する"遂行目標"についていた、嘗ての肩書きを口にした。
「ミラージュ社陸軍の元MDRU(Mobile Distant Reconnaissance Unit=機動遠距離偵察部隊)隊員だったっけ」
「ああ。……確か、五年前の兵器災害(AH)発生時に死傷率548㌫を出して、作戦の公式終了後に解体されてる」
 依頼主が遣したという詳細情報をフロントに回した訳には、ブローカーのそれが自分達にとって知りたい類のものでなく、寧ろ蛇足に過ぎなかったというのが一端に噛んでいた。
 ブローカーが額面通りに情報を受けていたのなら彼は知る由もないだろうが、ミラージュ社陸軍機動偵察部隊は過去に著しい戦績を上げた部隊として知られている。過去にミラージュ社が行った後退支援戦闘の際、敵状把握の為に前線へ幾度となく派遣されたが故に異常な死傷率を出し、最終的に生き残った部隊員は当初の僅か12㌫程度だったという。
 顛末は兎も角として、陸軍史から見れば語るに尽くせぬ武勇伝を残した部隊であることに違いはない。
 ──あくまで、公式記録としては、だが
「生き残りの英雄を殺れという話に申し立てはないけど、」 
「けど? 何よ?」
 彼女からの問いを後頭部に受け、ジャケットの懐から紙巻煙草を抜き出して咥える。一際強い陣風が窓を叩き、外で吹き荒れる砂塵が窓を叩いて耳障りな音を奏でた。
「──兵器災害(AH)の直前に、主権企業が合同で行った軍事強化演習があって、現在じゃあ既に解体して記録も残ってない各軍の精鋭部隊が数多く参加してた。MDRUも参加招聘を受けて、途中から演習地に合流したのを憶えてる……対外向けに当てられた彼らのその部隊名を聞いたのも、確かその時だったよ」
対外向け(Outward)、ですって?」
「彼等の本来の所属は企業連合、部隊名称は──【ディエス・イレ】」
 ソルラは呆れたといわんばかりに、こらえる様な小さな笑いを漏らした。
「あの坊や、とんだ二枚舌なのかしらね」
「それはどうかな、何も知らされてなかっただけかもしれないよ。──【ディエス・イレ】は企業連合が保有していた特務部隊の一種で、公に出来ないあらゆる案件への機動対応を旨とした組織だった。彼等の功績は公にされていないけど、その顛末に限っては、残された公式記録と比較して恥じることのないものだったと思う」
 口許に咥えていた紙巻煙草を反対側へ転がし、暫く肺腑に溜め込んでいた紫煙をふう、と静かに吐き出す。何処からか風が吹き込んでいるのか、天井の辺りにまで上った霞はその流れに絡めとられてどこへともなく溶けこんでいった。
「裏があるのはいい話だけど──平常通りなら、この手の後始末は身内で済ませるものだろうね」
「だったら何で、すぐに蹴らなかったのよ。誓約外の面倒を背負い込むのはやーよ……」
「大丈夫さ、ソルラ。久々だからって、俺もそこまで呆けてる訳じゃない」
 企業間戦争の闇から闇を渡り歩いた末に、兵器災害という惨禍に呑まれて消えていった。彼等の存在はその後も明るみに出ることはなく、偽造された公式記録の陰の中に在り続けている。暗部の塊のようなその残滓の後始末を外部の人間、しかも自分達のような端から見れば素性の知れない流れ者に依頼するという時点で、何も疑うなというのは無理な話だ。
 最悪、割を食わされる可能性だってある。
 しかし、忌憚なく疑心を述べたソルラに釈明したように、今回の案件は多少のリスクを背負っても受諾したいという意思が働いていた。
 リスクは背負うが、誓約に反してはいない──彼女も薄々感づいていたのか、淡い桃色の唇に小さい笑みを作っていた。
「中々、楽しそうじゃないか──、そんな筋金入りと手を合わせられるんだから……」





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