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第十四話/ /第十五話*

 第十五話 執筆者:Ryo


―AD109/07/23
PM12:00―

太陽が頭を真上から照らし、街を歩く人々の額に汗が流れる、真夏の昼時。
リヴァルディのガレージの中、シーアとショーンは茹だる熱気の中で黙々と作業を続けていた。
「シーア、そっちはどうだ?」
「エネルギー供給系のバイパスは済んだ、そっちは?」
各ACの防塵処理や注油等のメンテナンスを終え、今は二人ともフィクスブラウの改造に着手していた。以前ショーンが設計したオリジナルパーツである増設ブースターを搭載させる為には、どうしても機体側を直接改造する以外に方法が無かったためである。
コア内部のエネルギー供給パイプ、配線や電子機器、センサー等に干渉させずに改造を施すのは非常に骨の折れる作業だが、ジャンク屋時代からかなりの回数の改造を繰り返してきたシーアにとってはそれほど苦労するものではなく、ショーンも同じく、今までの経験からしてみれば難しい話ではなかった。
「こっちも今バイパスまで終わったところだ。後は供給系の分岐接続装置ぐらいってトコか?」
「戦闘機動中に切り替えがうまくいくかどうかだな。まぁ心配ないとは思うが……」
そう言ったところで、ガレージ内の端末のスピーカーから呼び出しがかかった。
『ショーンとシーアはいるか? メシの時間だ』
珍しく、シェルブから名指しでの昼食の呼び出しだった。何か話があるのだろう。
作業中で手が離せないショーンが、端末に向かって声を張り上げて答える。
「おう、今から行く! シーア、先にメシにするぞ」
「了解だ」
キリのいいところで作業を中断して工具を片付け、油で汚れた手を洗ってからショーンと食堂に向かった。
食堂の扉を開けると、テーブルには既に3人分の食事が用意されており、シェルブが先に席に着いていた。3人の仕事の都合上、昼食が遅くなることが多々ある彼らが同じ時間に食堂に介するのはよくあることだ。
…彼ら以外に、人がいないという点を除けば。
「お、マイたちはどうした?」
ショーンがシェルブの右隣に着きながら、問いかける。
ショーンは『マイたちはどうしたか』と聞いたが、それも彼なりに場を和ませるつもりの言葉だったのだろうか。キッチンに料理長すらも居ないという点から考えれば、本来なら『他の人はどうしたのか』と聞くのが普通だろう。
「操舵室だ。イリヤが艦のシステムを覚えたいと言ったものでな」
サンドゲイルのメンバーでレイヴンなのは、自分とマイ、シルヴィア、そしてシェルブだけだ。
しかし、シルヴィアは無人機以外への対処ができないため、実質的な戦力は3人のみになる。 当然、戦闘になればそれ以外のクルーはリヴァルディにいることになる。 万が一の事を考えれば、艦の状態を把握できる人間は多い方がいい。
「それで、シルヴィアもマイ達と一緒か?」
「ああ、そうだ」
シェルブに話しかけながら、シーアもシェルブの左隣の席に着き、さっそく目の前のスープを口に運んだ。
「このメンツってぇことは、表立っては話しにくい事なんだろ? このコロニーの件か…イリヤの件か」
「ああ、両方だが…重要なのは後者の話だ」
この場にいるのがこの3人のみであるところから、大体の予想はできていた。 今更何を話すことがあるのかと疑問にも思ったが、そのままシェルブが口を開くのを待った。
「…彼女を拾ってからというもの、俺たちの行動はかなり制限されるようになった。 これについてどう思う?」
シェルブの問いに、ショーンが答える。
「何言ってる、敵が攻めてくる程度の事、今までにもよくあったことじゃねぇか。 少しくらい数が増えたところで変わりはないだろ、整備士も増えたしよ。 なぁ、シーア?」
しかしその見解に対して、自らの考えは若干異なっていた。
「…相手が今までとは違うんじゃないか? 企業の部隊が、よくある独立武装勢力の一派をわざわざ直接狙ってくるような事、あまりないだろう。 それにオレがここにいることで、他にも余計な虫が寄ってくるようになった」
確かに、サンドゲイルは独立武装勢力の中でもかなりの有名株だ。それを狙う盗賊もいるし、名を上げようと挑戦してくるレイヴンも多い。
だが、グレイブメイカーや怪しい研究機関の類の連中が襲ってくるのは、間違いなく自分が原因だ。
「確かに、襲撃される回数は増えている。 だが、シーアを追っている者の襲撃は少なく、イリヤを追っているのも、彼女のことを知っている一部のみだ。 むしろ戦力が増した分、作戦の幅は拡がった。襲撃者を倒して懸賞金が入る可能性もある。特に問題ではない」
「となると…実際の行動範囲が狭まってる、ってぇことか?」
ショーンの発言に、シェルブが首を縦に振る。
確かに、彼女の存在がどこから漏れるかわからない。もちろん自分の存在についても同じだ。
それらを全て隠すことを考えるなら、コロニーでの補給どころか、通信回線すら怪しくなってくる。 依頼を受けるにも、慎重にならざるを得ない。
「それだけではない。シーアの言った通り、企業の部隊が直接狙ってきたという事が一番まずい。 機密事項であるということが幸いして、まだ少数の部隊でしか襲撃されていないがな。 だが、企業の大部隊がやってきたら、どうなる?」
その結末は容易に想像できる。恐らく、誰一人として無事では済まないだろう。
仮にその場をやり過ごすことができたとしても、戦力を集中してきた時点で確実に粛清対象となっているはずだ。 数日か、数週間か、それとも数ヶ月か。
どちらにせよ逃げ切ることは不可能。捕まるのは時間の問題になる。
「向こうには監視衛星や、各地にあらゆる情報網がある。 こちらの位置はわかりきってるだろうな。 いつやられてもおかしくねぇ」
ショーンの言う通り、企業の情報網は異常とも言えるほど広い。 そもそも、実質的に世界を操ることすらできる力を持っている組織を相手に、一介の武装勢力ごときが対抗できるわけがないのだ。
「どちらにせよ、俺達は前にも増して企業…特にミラージュ、そしてその他の組織による厳しい監視の下にあると考えていい。早急に策を講じる必要がある」
「それで、イリヤをどうするかという話か。 最悪の場合は当然、連中におとなしく引き渡すことか。 しかし、それでミラージュの連中の気が済むとは思えないな。 今すぐにでもこっちから差し出すくらいのことをする必要がある」
冷酷な話だが、全員が死んでまでイリヤを守るわけにはいかない。 マイがどう言うかわからないが、少なくとも自分を含むこの場にいる者は同じ意見だろう。
「そこで、だ。 先程、知人と話をつけてきた。 しばらくイリヤを預ける」
…………預ける?
「おいおい、一体何処の誰に預けるんだ? アテでもあるのか?」
「なければこんな話はしないさ。 俺の古い友人だ」
一体、何をすればそのようなパイプがいくつもできるのだろうか。
そもそも、レイヴンであるという時点で一般市民に好ましく思われることは少ないし、同業者は互いに警戒している場合が多く、基本的に馴れ合いもない。
師匠と弟子の関係ですら対立することがあるということを考えれば、やはりシェルブの顔の広さ、器の大きさは特異なものだろう。
そんな疑問を抱きながら、シェルブに問いかける。
「それで……一体誰なんだ? 信用できる相手なのか?」
「問題ないはずだ、独立武装勢力どうしの公正な取引だからな」
「……取引?」
新たな疑問に思案顔を浮かべたのを察してか、シェルブが続きを話し出した。
「相手は遺失技術文化社団こと、ターミナル・スフィアの代表・ノウラだ。彼女とはかれこれ長い間柄でな。今回の件について相談に乗ってもらった結果、預けることになったわけだ」
そのスケールの大きさは、自分の予想を遥かに超えていた。
まさかここまで簡単に有名勢力のトップと連絡が取り合えるとは、全く考えてもいなかった。それも、以前に自分が予想していた相手と。
「んで、彼女にイリヤを預けて、それからどうすんだ?」
「何もしないさ」
…何も、しない?
「おいおいシェルブ、そりゃ一体どういう意味だ?」
「言った通りだ。俺達は何もしない。ノウラにイリヤを預ける。それだけだ」
「いくらなんでも危険じゃないか?イリヤが無事でいられるってぇ保障はあるのかぁ?」
シェルブは落ち着き払ったままだが、ノウラという個人の事を知らない自分とショーンからしてみれば、いきなりそこまで信用することはできない。
最も、シェルブがこう言い出すことができるという点から考えれば、信用できると判断できなくもないが。
だがそれでも、気になる点は多い。
「待ってくれシェルブ、仮にイリヤをノウラに預けたとして、オレ達はどうなる?ミラージュはまだ此方に生体CPUがあると踏んで行動してくるだろう、それに関しては何か対策はあるのか?」
「ああ、それについて詳しく言っていなかったな。確かに、我々はイリヤをノウラに預ける以外、何もしない。だが、これは取引なんだ」
確かに、先程も取引であると言っていた。だが、その具体的な内容がまだ見えていない。
「それはつまり、イリヤを預かることで向こうに何らかのメリットがあるということか?」
「ああ。相手は遺失技術文化社団、その業務は無論、過去の技術の研究が含まれる……よって、稀少である生体CPUのことを是非調べたいそうだ。その見返りとして、取引相手であるミラージュに『サンドゲイルに手を出すな』と交渉してくれる、というわけだ」
ようやく、取引先の意図が掴めた。つまりは情報の売買だ。
ノウラはターミナル・スフィアの業務内容として、イリヤのデータを欲しがっている。そして自分達はイリヤの安全を確保しつつミラージュの追撃から逃れたい。ならば確かに、この取引は一つの手段として有効だ。
「なんでぇ、ならさっさと預けちまった方がいいじゃねぇか」
「そうしたいのは山々なんだが……問題がある」
途端、シェルブの表情が翳る。単純な問題ではないということが一目でわかった。
「……それで、問題というのは?」
「まず一つ。この取引はまだ、此方の支払いが不十分だ」
不十分、ということはつまり……
「おいおい、向こうはまだ何か要求してくるってのか?」
「そういうことだ。まぁ今すぐにというわけではないが、いずれはツケを払う必要が出てくる」
つまり、自分達の行動にまた新たな制約が生まれる可能性がある、ということだろう。
此方はその制約を減らそうとしているのに、それが増えては本末転倒だ。確かに何かしらの解決策を講じる必要がある。
「二つ目。現在駐留しているこの街からの依頼がまだ未完遂である」
「だがなぁ、完全な復興までには相当な時間がかかるぞ? 仮に防衛部隊の装備とシステムを整えても、肝心の人が足りねぇ。 そもそも補給線確立の目処が立ってねぇぞ?」
ショーンの言う通り、街の防衛には戦力が要る。だが、それを構成する人員がいなくては話にならない。それを支える補給線も重要だが、そもそも普通に生活していくことすら危うい状態であるこの街に、それを望むのは難しい。従ってこの街からの依頼を遂行するならば、まだまだかなりの時間を要することになる。
「確かに、難しい話だな」
「いや、問題はまだもう一つある」
間を空けて、再びシェルブが口を開いた。
「三つ目だが……つい先程知ったのだが、取引先の所在地であるエデンⅣで、非常事態宣言が出されたそうだ」
エデンⅣは数少ない完全循環型コロニー都市の一つだ。エデン型コロニーには古代兵器の攻撃を一切通さない、強固かつ巨大な外周隔壁を持っているのが大きな共通点である。
その安全性は世界最高峰を誇り、ゆえに人類の『楽園』の名を冠している。
そのエデンⅣでの非常事態宣言とは、一体何が起きたというのだろうか。
世界一の安全を謳っている以上、その地における騒乱はあってはならない。あっては許されないのだ。
「それで、あちらさんも取引どころじゃなかった、ってか? そりゃ相当なモンだな」
ショーンの言う通り、ターミナル・スフィアという組織として外に出れなくなるほどの規模で騒乱が起こっているのだとすれば、かなり危険な事態だ。おそらく、エデンⅣの全戦力が導入されているだろう。
「シェルブ、今の話を聞いて気が変わった。イリヤを預けるのは反対だ。絶対の安全地帯であるエデンで騒ぎが起きているんだ、そんな危険な場所に預けるわけにはいかないだろう」
「落ち着け。判断するにはまだ早い、状況を整理してからだ。場所を移そう」
シェルブはそう言って、食べ終えた昼食の食器をキッチンに片付けると、料理長にコールをかけた。
「続きは俺の部屋でしよう。作戦会議だ」
「……作戦会議?」
疑問の言葉を聞いて、シェルブが軽く此方を振り返る。
「久しぶりの大仕事になる。覚悟しておけよ?」


―PM12:00―

目を開けると、白い天井が見えた。
ここは天国ではないか、と自分の生死を疑ったが、飛び起きようとして頭とわき腹に強烈な痛みを感じ、身を起こすのを断念する。どうやら自分はまだ生きているようだ。
自分が生きていることがわかったので、次に自分が先程まで何をしていたのかを思い出す。
自分はミラージュの依頼で、古代遺跡「アスセナ」の制圧任務中だったはずだ。古代兵器の撃破数に応じて追加報酬が出ると聞き、進攻した区画のパルヴァライザーを殲滅した。だが残念ながら、自分が進んだその区画には施設中枢への通路は見つからなかった。
その後だ。目の前に、黒いACが現れたのは。
「ああ、気がついたのね」
扉の開く音とともに、女性の声が聞こえた。その声には聞き覚えがある。
「……お前か、俺を助けてくれたのは」
痛む身体を無理矢理起こそうとしたが、女は男の頭を再び枕に押し付けた。
「イテッ、何すんだよ!」
「カッコつけて無理すんじゃないわよ。丸一日寝てるほどのダメージだったんだから、おとなしくしてなさい」
「一日寝てた? ……今日の日付は?」
「七月一一日よ。言ったでしょ、アスセナ制圧作戦から丸一日以上経ってるわ」
最悪だ。あの程度の任務行動中に気を失うことになるとは、まったく考えていなかった。
「それで、作戦はどうなったんだ?」
男の質問に、女は背を向けてキッチンに向かいながら答える。
「中枢施設は無事に制圧、残ってたパルヴァライザーも殲滅完了。任務完了よ」
パルヴァライザーはまだ残っていた、それはつまり。
「つーことは……せっかくの稼ぎ所を逃したってのかよ俺は! 畜生!!」
悔しさのあまりに痛みも忘れたのか、ようやく身を起こして拳をベッドに叩きつけた。
……と思ったが、自分が寝ていたのはベッドではなく、白いソファーだった。
だが、そんなことを気にしている場合ではない。
女から携帯端末を引ったくり、すぐさま自分の口座の残額を確認する。
そしてさらに、男の顔は悲痛なものになった。
「おい、冗談だろ……なんでたったこれだけしか入金されてないんだ、ふざけるなよミラージュ!」
連絡を取るため、すぐに端末を操作して依頼受諾時のアドレスを選択する。
そのままコールボタンを押そうとすると、女が男の手を止めた。
「やめときなさい。あんた、本当ならあのまま消されてたのよ?」
「うるせぇ、報酬金が入らなきゃ意味が無いだろ! たったこれだけの金で満足できるか!」
「お金、お金ってうるさいわねアンタ。言わせてもらうけど、あたしがミラージュに生存報告入れてなかったら、死んだことにされて一銭も報酬はなかったのよ?」
「お前が? じゃあなんだ、俺はミラージュにあのまま切り捨てられる予定だったってことかよ!?」
考えてみれば、今自分が置かれている状況そのものが不自然だった。
まず、ここは病室でもなければ病院でもなく、それどころか自分はソファーで寝かされていた。そして目の前には自分を助けたレイヴンがいる。
部屋には生活感があり、テレビもあればキッチンもあり、外の町並みが見渡せる大きな窓がある。
……どこをどう見ても、一般住宅のリビングだ。
「……ひょっとして、ここはお前の家か?」
「そうよ。っていうかアンタ、あたしに向かって『お前』呼ばわりはないでしょう? わざわざ色々と面倒見てやってるのに、そもそも年上に向かって失礼よ」
つまり、自分は他にも目の前の女に迷惑をかけている、ということか。
「……自分から年増女だと告白するとは、難儀だな」
「今すぐそこの窓から放り出してやろうかしら、ゼオ?」
ずばり自分のレイヴンネームを言われて少し焦ったが、気を失っている間に調べることはいくらでもできる。そう考えれば、特に驚くようなことでもない。
「落ち着けよ、冗談だっての。まぁ俺の名前を知ってるのはいいけどな、そっちの名前は教えてくれないのかよ?」
「あら、そういうの気にしないのかと思ったわ。私の名前はマユ・キリシマ。 で、何か言うことは?」
「特にない」
「最低ねアンタ。礼のひとつも言えないの?」
自分はこのマユとかいう女に助けを求めた覚えはない。事実助けられてはいるが、借りになるということだけは認めたくない。だから礼は言わない。そう決めていた。
「とりあえず、ここまでアンタを運ぶのにかかった料金は請求するから」
……それは聞き捨てならない、由々しき事態だ。
「ちょっと待て、なんでいきなりそういう話になる!? たかが俺を運ぶだけで金がかかるわけがないだろ、ビタ一文払わないぞ!」
マユが呆れた顔でため息をつき、再び口を開いた。
「あのねぇ、アンタまだ寝ボケてるんじゃないの? アンタは作戦行動中にブラックバロンにやられて、そのまま気絶したんでしょうが。ACはどうするのよ、ACは」
マユに言われて、ゼオはようやく一番重要な事を思い出した。おそらく金と命の次に、いや、それと同等の価値のあるものだ。
「そうだ、シックザール……おい、今アイツはどこにあるんだ、早く教えろ!」
ゼオが焦燥感に駆られてマユに詰め寄った。額に脂汗が滲んでいる。 その顔からは先刻までの余裕のある、どこか生意気な様子は全く感じられなかった。
あまりの変わりように若干引きながら、マユが問いかける。
「ちょ、そんないきなり必死になられても困るんだけど……まぁ、自分のACが心配なのはわかるけど」
「当たり前だ! ACだぞ、いったいいくらの金がかかると思ってる! 修理費はかかるし弾薬火も馬鹿にならねぇし……」
ゼオがぶつぶつと何かを言いながら頭を抱えてしゃがみこむ。あまりにも惨めなその姿を見て、マユは再びため息をついた。
「あーはいはい、わかったから顔を上げなさいよ。 貸しドックに預けてるから、ついて来て」
「貸しドック!? おいおい、そんな所借りたら料金が……」
「アンタが自分で払うのよ。アタシが請求するのはACの移送費と、そこのレンタル料だけよ。余分に取ろうなんて考えてないから、必要経費と思って諦めなさい」
耐え切れず、ゼオの両膝が地についた。


―AD109/07/11
PM12:20―

マユに連れてこられたACドックには、戦闘で受けたダメージでボロボロになった愛機・シックザールが、やられたときの損傷状態のまま置かれていた。
右腕部破損、コア損傷。特に酷いのはその二つだが、細かい点を上げていくとキリがない。
コアの損傷はドックの修理サービスを頼めば直るだろうが、右腕の破損はどうしようもない。
メーカーから直接買うか、ジャンク屋、他の整備業者に在庫の問い合わせをするか。まともに動かせるようにするには、それぐらいしか手段がない。
どの手段を取っても、相応の額を支払う必要がある。その上、パーツが届くまでにどれほど時間がかかるかもわからないのだ。
しかも、右腕の武器もない。これでは任務を受けるなど到底無理な話だ。
だが、自分が拠点としているコロニー『トラキア』へ戻ることができれば、パーツの手配も武装のストックもあるのでなんとかなる。
「そうだ、そういやここは何処だ? あんたの家から出て三分程度でここに着いたもんだから、どんな街なのかもわからないぞ、俺」
「ああ、まだ言ってなかった? ここはエデンⅣよ」
……何かの間違いではないだろうか。
「ちょっと待て。エデンⅣって、三大企業やら、グローバルコーテックスの関係者である富裕層と、その関係者ぐらいじゃないと住めないという、あのエデン4か?」
「そうよ。まぁ、その偏見はちょっと間違ってるけど」
……冗談も休み休み言って欲しい。
まさか自分がエデンⅣに来るとは思ってもいなかった。任務で来ているわけではなく、しかもちゃっかり宿泊しているのだ。
「……おい、そこのおっさん。 ここのレンタル料っていくらだ?」
 一目で整備士とわかる、この貸しドックのエンブレムの付いた作業着とキャップを被った中年の男が、若干不機嫌そうに振り向いて答える。
「ここのドックは半日一万コームだよ」
相場を遥かに越えたその価格に、ゼオは悪態をつかずにはいられなかった。
「半日で一万!? ふざけんなよ、頭湧いてんじゃねぇのかここのドックは! 一日の相場に近い金を半日で取るってのはどういう事だよオイ! 他所とやってることは変わらないだろ、それどころか俺の機体は全く整備されてない状態だろうが! それなのになんで10,000コームも出さなきゃならない! つか、もっと安いところはなかったのかよ!」
やり場のない怒りの矛先がマユに向かう。 が、流石にマユも黙ってはいなかった。
「そんなことアタシに言われてもどうしようもないわよ!  大体、ここはエデンでも結構安い場所よ! それに、ここのドックはアタシが契約して借りてる所でそれなりに面識があるから、いきなりだったけど責任者に頼んで、アンタの機体を空いてる場所に置かせてもらったの! それだけでも感謝しなさいよね!!」
そう細かい事情を言われると、これ以上文句を言うわけにもいかなかった。何より、マユには自分が思っていた以上にいろいろと気を使わせてしまっていた。これ以上文句を言うのは、さすがに忍びない。
「……悪かったな、面倒かけて」
「ホントよ、この貸しはきっちり返してもらうからね」
余計な事を言うんじゃなかった、とマユに聞こえないように呟きながら、シックザールのコックピット内を覗き込んだ。
ドックに来る前にマユにも確認したが、自分の携帯端末がパイロットスーツのツールポケットの中に入っていなかったのだ。落としたとすれば、コクピット内しか考えられない。
狭いコクピットの中で落としたとすれば、シートの下か、フットペダルの隙間に引っかかっているかのどちらかぐらいだ。
どちらも目で直接確認するのは姿勢的に少々つらいところだが、幸いなことにシート下に手を少し伸ばした時点で端末が指に触れた。
これでトラキアにいる顔見知りの業者に連絡できる。そう思って端末の電源を入れてみた。
入れてみたのだが……反応しない。
何度繰り返しても、起動する気配はない。その結果から導き出される結論は一つにして単純明解、当然至極。
「ぶっ壊れていやがる……」
最悪だ、余計な出費が増えてしまった。後で修理に出すしかない。
これでメモリーが飛んでいたら更に面倒だが、バックアップは取ってある。自宅のPCと、愛機のメインメモリーの中に。
ジェネレータは稼働させずに、バッテリーでACの基礎管制システムだけを起動させる。
機体の各部状態チェック、損害報告、推奨される対処法の報告。
一連の作業が自動実行されてから、ようやくシステムが操作モードに移行し、ゼオはすぐさまシステムコンソールを引っ張り出してキーを打ち込んでいく。

 各種データ閲覧、メインメモリー内より外部連絡リストを呼び出し。アクセス……不可能。
 原因・メモリーの物理破損 モーションアシスト等の戦闘用データはバックアップ済み

ディスプレイに冷徹な文章が表示された後、バックアップデータの入ったディスクがドライブから出てきた。
それ以外、残っているデータはない。すべて破損している。
頭が痛い。過去最高に痛い。なぜ自分がこれほどまでに酷い目に会う必要があるのか、半日ほど誰かに問いただしたい。
「チクショウ……なんだって俺がこんな目に……」
泣き崩れたいが、そんなことをしていても誰も助けてはくれない。なんとかしなくては。
 だが、その前にすべきことがある。
「なぁマユさんよ、一つ話があるんだが」
「何よ?」
プライドをかなぐり捨て、涙を堪え、歯を食いしばりながら口にする。
「…………俺をあと一週間ほど泊めて下さい…………」


―AD109/07/23
PM13:40―

 シェルブの自室に着くと、自分とショーンにソファーを勧めてからシェルブはデスクのモニター前の椅子に腰掛け、PCを起動した。
 たちまち、壁に取り付けられた五つのモニターが点灯し、先程の会話の内容を含めた、多くの情報が映し出された。
「これが、襲撃時のエデンⅣの状況だ」
 表示されているデータのうち、航空写真を含めたエデンⅣの全体データが、中央のモニターに拡大表示された。
 だが注視するまでもなく、その状況は一瞬で把握できた。
 エデンの象徴である、その頑強な外周隔壁の上部に大きな穴が開いていた。ACなら二機は悠々と入れるだろう大きさだ。
 被害はそれだけに留まらない。
 商業区画、興行区画の他、自然森林区画にまで火の手が上がっている。
 幹線道路の多くは関係者を除いて閉鎖、または崩落のため交通不可。リニアの線路も一部が断線、崩壊のため運転見合わせ。
 その他公共交通機関も多くが運休。そしてライフラインは安全のため一部区画においては全面ストップ。
 その他被害報告もキリがない。おそらく、まだ報告がない場所も多くあるだろう。
「それで、これだけの被害が出てるエデンⅣにどうしてイリヤを預ける気になるのか、教えてもらいたいんだが」
「おおう、今日は随分と熱い台詞が出てくるじゃねぇかシーア。一体どうした?」
 ショーンから冷やかしが入るが、特に気にしていなかったし、別段、熱くなっているわけでもない。あるとすれば、一つだけ。
「……別に、何もないさ。ただ、仲間をわざわざ危険に晒す事には反対する。それだけだ」
 ショーンが横で「なんでこんなヤツばかり集まるかねぇ……」などとボヤくが、シェルブはモニターの拡大状態を元に戻してから、こちらを向く。
「確かに、普段と比べるまでもなく、中は酷い有様だろう。だが、だからと言ってここは危険である、と判断するべきか? それは正しい結論なのか? 冷静に考えてみろ」
そうは言われても、これだけの被害が出ている以上、危険であることに変わりはない。まず外周隔壁を破られたというのが大きな誤算である。防衛部隊としてもおそらく、天井部から敵が侵入してくることは想定していなかっただろう。
 それに敵勢力の所属、数、種類を考えれば……
「そうか、しまった……」
「おう、何がだ?」
 気付くのが遅すぎた。エデンⅣが襲撃されて被害を被ったのは十分わかっているが、どんな敵なのかがわかっていない。どういった部隊にやられたのか、それを考慮するのを忘れていた。
「シェルブ、敵勢力の詳細情報は?」
「気付いたか。結果に気を取られすぎたな、シーア。お前の悪いクセだ。常に結果を求めるのはいいことだが、そこに行き着く過程を知ることも必要だ」
 そう言いながら、シェルブが通信回線を開く。しばらくコール音が鳴った後、映像通信に応答した相手は、自分がよく見知った相手だった。
「キース!? なんでお前が?」
「よう整備士、一週間ぶりだな。元気してたか、俺はこの前の報酬でいい酒を楽しめてるぜぇ、イヒヒ。 あとはいい女でもいれば完璧なんだがなぁ」
 ウイスキーを片手に上機嫌なキースだが、彼は酒に酔うことがない。自分で量をわきまえているのか、ザルなのかはわからないが。
「キース、依頼した情報は揃ったか?」
「もちろんだぜ、シェルブのダンナ。今送ったところですよ」
 右端のモニターにメール着信のアイコンが点滅したのを確認して、すぐにデータを開く。中には数種の画像データと映像データ、そして補足情報のテキストファイルがある。
「簡単に説明すると、大量のパルヴァライザー群がエデンⅣに侵入してきたことにより、ここまで大きな被害が出ちまったようだ。数は前のアスセナ制圧戦を遥かに越えてるな、対人用サイズの小型まで確認できた。 俺からしてみればよくやったと思うぜ、ここの連中。指令はしっかり出ていたし、所属が違うはずのレイヴンが協力してここまで統率の取れた防衛戦が展開できるとは、正直思っちゃいなかった」
 大量のパルヴァライザーが一般市民が多くいるコロニーに侵入すれば、当然ながらタダでは済まない。そのまま放棄されたコロニーや、生存者が確認できなかったコロニーもあるという話だ。確かに、そういった点から考えれば、エデンⅣはよくここまでの被害に抑え込んだ、とも言えるだろう。
「そうか。他に何か気になる点は?」
「まだありますぜダンナ。まず、おそらくだが敵勢力に所属不明の部隊がいる。詳細はわかってないしエデンⅣも公表してないんで何とも言えないが、俺の勘じゃ間違いなくいたはずだ。なんせ旧世代兵器の攻撃から守るために作られた外周隔壁だからな。まず確実に隔壁の破壊を手伝った奴がいる。そうだろ、整備士のお二人さんよぉ?」
 いきなりキースから話を振られたが、ショーンは普段とは違い、データを見てから落ち着いて答えた。
 「ああ、確かにそうだな。あの隔壁の技術はケチなことに門外不出になってんだが、まぁ中からイジくればなんとかなるかもな」
 ショーンの言う通り、エデン系コロニーの隔壁技術は相当なもので、建造した統一政府はその技術を一切公表していない。無論、解析しようと試みた者も多いが、その多くが失敗に終わったか、痛い目を見ている。
技術を占有することで組織を少しでも優位であるように見せかけたい、という統一政府の情けない一面は、こんなところにも現れているということだ。
「爆薬で簡単に破壊できるようなモノじゃないのは確かだ。隔壁に詳しい人物が、あの部位の隔壁に細工して、性能を低下させたんだろう。エデンⅣ内部に犯人が潜伏していた可能性がある」
「なるほど、潜伏か。キース、可能か?」
 シェルブのいきなりの質問に、画面の向こうのキースも含めた三人が驚いた。
「あ、いや、まぁ……可能と言えば可能、だろうな」
「おいおい、二人とも何を言ってるんだ!? まさかシェルブ、お前誰かをエデンⅣに向かわせるつもりか?」
「落ち着けお前ら、まだ決まったわけじゃない」
シェルブがモニターに並んだ情報を整理しながら、二人を宥める。
「キース、他に情報はあるか?」
「あ、ああ、最後に一つだけな。信憑性は保障できねぇが……赤いACがいた、って話がある」
 赤いAC。その代名詞とも言える機体が、真っ先に頭に思い浮かぶ。
「まさか、ナインボールか……?」
「どちらにせよ、統一政府が関連している可能性があるな。今回の件が一旦の鎮火を迎えたとしても、警戒は必要か……」
シェルブが考えをまとめ、話を切り出す。
「では、今回の作戦について説明する」
 モニターに作戦内容についての情報が表示される。キースにも送られているようだ。
「今回の作戦は二つの任務を同時遂行で行う。現在係留しているコロニー【ソグラト】の補給線の確立と、エデンⅣへのイリヤ護送・護衛任務だ」 
同時遂行の意味するところは、つまり。
「戦力を分けるのか?」
「そういうことだ、他に策はない。本来ならノウラの方が迎えをよこすつもりだったのだが、襲撃の影響でそれどころではなくなっている。それにキースの連絡でわかった通り、かなりの被害だ。火は燃え移る、預けるだけでは危険だろう。少しの間、向こうでも護衛を続けてもらいたい」
「それはいいが、補給線の確立は具体的には何をするんだ?」
その質問を待っていた、と言わんばかりにシェルブが回線を開く。
「此方アハト、今回の依頼内容の詳細を説明する」
 同時にシェルブがデータを展開し、モニターに表示する。
「コロニーで情報を集めた結果、おそらく敵は3つの組織による襲撃だと思われる。理由はもちろん、襲撃のパターン、被害状況が3種に分類することができたからだ」
 過去の襲撃パターンがモニターに表示される。狙撃と、強奪と、完全な破壊工作。大まかにこの3種に分けられるようだ。
「さらに、これらの勢力は【ソグラト】近隣のコロニーの部隊であることが疑われている。どうやら、どこも同じように物資に困っており、奪い合いへと発展したようだ」
 モニターにコロニーの位置と、エデンⅣの位置が表示される。どこもエデンⅣからは若干離れている上、周辺で他に救援物資を送る余裕のあるコロニーはなさそうだ。
「調査の結果、そのコロニーの武装勢力のうちの一つが、今は使われていない昔の補給中継基地を根城にしていることが判明した。位置情報もわかっている」
 モニターのマップに赤い点が点滅する。丁度、ソグラトからエデンⅣへ行く途中に位置している。
「従って今回の依頼内容は、この基地を制圧、もしくは何らかの手段で無効化すること。それと同時に、今回の補給部隊を護衛し、無事に補給を終えること、ということだ」
 意外と簡単な話だ。それなら自分にも考えがある。
「……シェルブ、俺がこの基地を制圧する。ついでにそのままエデンⅣまで向かおう」
「……いいのか?」
 おそらく、二重、三重の意味を込めて言っているのだろう。
 それでも、自分が行く。それがベストなはずだ。
「ツケの分もチャラにしてくるさ。オレとフィクスブラウの情報を提供すると言えば、あいつらも納得するだろう?」
 シェルブが少し思案してから、顔を上げて答えた。
「……よし。戦闘要員を全員ブリーフィングルームに集めろ。それとマイにはイリヤの事を言うなよ、シルヴィにもだ。準備しろ」
かくして、作戦は始まる。
作戦決行は深夜0時。
これまでに何度も繰り返してきた、自分の十八番。
夜襲だ。


―AD109/07/23
PM14:10―

 マイがリヴァルディ艦内のブリーフィングルームに着いた時には、既に戦闘要員が全員集合していた。部屋の奥の壁に備え付けられた大型モニターの横には、既にシェルブとエイミが座って待機していた。
「全員揃ったな。では、ブリーフィングを始める」
 シェルブの合図に合わせて、エイミがモニターに作戦概要のデータを映し出す。
「今回の作戦目的は、現在繋留中のコロニー【ソグラト】の補給線を確立することだ。しかし知っての通り、補給線はそのまま生命線と言っても過言ではない。激しい襲撃が予想される」
 シェルブが合図を出し、エイミがモニターにコロニー周辺の地図と地形情報を表示させた。
「従って今回の任務は、補給部隊の護衛を行うと同時に、敵対組織を撃退する。敵さえいなくなれば、しばらくは補給に支障が出ることもないはずだ」
 モニターに映るコロニーの周辺地図に、黄色の点が3つ表示される。
「アハトとキースからの情報によると、ソグラト近隣の二つのコロニーも、同様に物資の不足に悩んでいるらしい。経済状況もあまり芳しくないらしく、結果的にエデンⅣからの補給物資の奪い合いとなったようだ。よって、ソグラトを含めた敵対関係にあるコロニーを警戒点、ポイント・イエロー1、2とする。位置をしっかり把握しておけ」
「データは既に全員の端末に送信済みですが、一度目を通しておいて下さい」
 マイが自分の端末を確認すると、エイミの言った通り、既に今回の作戦概要のデータが送信されていた。ACの方にも送信済みだろう。
 丁度データが送信されていることを確認したところで、シェルブが再び口を開いた。
「本作戦では各ポイント・イエローに注意しながら、補給部隊をエデンⅣからの物資配達部隊がいる中継地点まで護衛する……が、一つ問題がある」
 マイが再び正面の大型モニターを見ると、ソグラトからエデンⅣへの最短ルート上に一箇所、赤い点が表示されていた。
「本来ならば、このポイント・レッドはエデンⅣとの第二中継基地として機能しているはずだった。だが現在、ここは補給部隊を襲撃した武装組織の一つの拠点となっている。よってここを制圧、無効化する。担当はシーアだ」
 シェルブが淡々と続けようとするが、最後の言葉だけは聞き捨てならなかった。
「ちょっと待ってくれよ親方、それってシーア一人だけってことなのか? いくらなんでもシーア一人って無茶だろ、俺も一緒に……」
「いいや、お前は来るな」
 シーアが席から立ち上がり、マイの前に立ち塞がった。
「お前、この類の任務の経験が何度ある? やってたことがあるとしても、せいぜい両手で数えられる程度だろう? そんなヤツが付いてきても足手まといだ」
 突き放すような台詞だが、それでもマイは食い下がらない。
「基地一つを一人制圧するって方が、よっぽど無理があると思うけどな。もう一人くらいは人が要るんじゃないか?」
「それならお前じゃなく、アハトが適任だろうな。可能な限り『破壊』するのではなく、できれば施設を『奪還』して情報を得たい、というのが依頼者の本音だろう。それを考えると、いきなりACで突っ込むワケにもいかない。基地内で歩兵戦になったとき、お前はどうする?」
 シーアの言うとおり、マイに一人で丸々一つの基地を制圧する技術はない。射撃の腕もシーアに比べれば劣るし、格闘戦になったとしても、アハトのような突出した技術も能力もない。
「確かにお前にはオレよりも格闘のセンスがあるだろうし、銃器の扱いもそれなりにできるだろう。バランスが取れているのは悪いことじゃないが、それは『質のいい一般兵』のレベルでしかない。経験豊富というなら話は別だが、お前はそうじゃないだろう?」
 悔しいが、シーアは何も間違っていない。アハトやシーアと比べると、基地制圧任務において自分が有利な面はあまりないだろう。
「けど、それでも一人でやるのは危険じゃないか? シーアの言う通り、アハトも行くべきだろ」
「そういうわけにもいかないな」
 再びマイの意見を否定したのはシェルブだった。
「この基地の制圧だけが任務ではない、補給部隊の護衛を同時進行で行う必要がある。言っただろう、ポイント・イエローにも警戒しろと。敵対組織が出てくる可能性もある、必要以上に人手を割く余裕はない」
「じゃあどうするんだよ、護衛にしたって各ポイントに警戒しながらなんだろ? ポイント・イエローは三箇所、シーアが一人で制圧に行くとしたら、こっちの残りは俺とアハトぐらいじゃないか、明らかに人手が足りてないぜ!?」
「もちろんその事も想定済みだ。エイミ、繋いでくれ」
「了解。外部回線とアクセス、映像繋ぎます」
 モニターに一瞬だけノイズが走った後、映し出されたのはマイのよく知る同僚だった。
「ゼオ!?」
『んな驚く程のことでもないだろ、マイ? こっちもそっちも事情があるんだっての』
「まぁ確かに、こっちの人手が足りてないから丁度いいのかも知れないけど……っていうか、お前は今どこにいるんだ? 作戦に参加するってことは、近くにいるんだろ?」
 当然、すぐに返答がくると思われた何気ない問いかけに一瞬、ゼオの顔が強張った。
『あー、いや、まぁ……そういうことになるな。 一応エデンⅣにいるぜ』
「なんだ、それならシーアの基地制圧に協力できるじゃないか」
『え? あ~、いや、それがだな……残念ながらそれは無理なんだ』
 事情を言いにくいのか、口ごもるばかりではっきりとしないゼオに代わり、シェルブが話し始める。
「前回の戦闘時に機体をやられたらしいな。コアの損傷と、右腕部がほぼ全損だったか?」
 ゼオが渋い顔をしながら、肩を落としながら頷く。

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