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第十五話*②*


「恥ずかしながら、まったくもってその通りだ……他の部位の修理は大体済んでいるんだが、右腕は丸ごと無くなっちまってるからな、どうしようもないのさ。おまけに自分の身体の怪我も完治したワケじゃねぇのにエデンⅣ防衛にもなんだかんだで駆り出されるし、ツイてねぇよ……」
「そんなわけで、ウチで修理をすることになってんだ。運のいいことにパーツの在庫がある、なんとかなるだろ。それに俺たちはこのままトラキアに戻るから、ついでに乗せて行くことになったわけだ。 納得したか坊主?」
 と、ショーンが突然マイの背中を叩きながら訳知り顔で顔を出した。
「ってなわけで、ゼオはシーアの基地制圧完了を見計らってからウチのガレージに寄って、それから作戦に参加ってことになるわけだ。これで満足したか?」
 まだ完全に納得したわけではない、とでも言いたいような渋い顔のままだったが、マイは仕方なく頷いた。
「ブリーフィングは以上だ。 作戦開始は本日〇〇〇〇時、開始三〇分前にもう一度ここに集合しろ。解散!」
 シェルブの一声とともに、戦闘要員がすぐさま部屋を出て戦闘準備に取り掛かかり始めた。


 仲間たちが駆け足で準備に取り掛かる中、シーアはゆっくりとした歩調のまま、自室に辿り着いた。
 扉を開けると同時、ベッドに倒れこむ。
 横になったまま、手探りでサイドボードの引き出しから鎮痛剤の入ったペン型注射器を取り出し、右の首筋に打つ。
 動く度に、右半身が軋む。関節の違和感と痛みが治まらない。
 強化手術『らしき』ことをされてから一年以上もまともに調整を行っていないのだから、何かしらの支障が出ても不思議ではない。それどころか、AC操縦以外で身体に負荷を掛ける事が多々あった。ACの操縦をするためだけの調整がされているはずの自分の身体にとって、それらは大きな外乱になる。予測されていない以上、その対策が施されていないのは当然だ。
「仕方が無い、か……」
 このことを知っているのは、医務室のアリーヌ女医のみだ。他の者に余計な心配はかけたくないという思いから、エイミにさえ隠している。
 鎮痛剤が効いて痛みが引いてきたところでベッドから身を起こし、作戦の準備に取り掛かった。
 小規模とはいえ、敵基地を制圧する任務である以上、用心するに越したことはない。規模と状況に合わせて、最適な武装で望むべきだ。
 それも、単純にACで基地を全て破壊してしまえばいいというわけでもない。一部の敵組織しか正体が分かっていない現状では、できるだけ多くの情報が欲しいところだ。基地内に潜入し、内部から敵の司令系統を崩していく必要がある。
 まず、ACの装備だ。
 シェルブとの打ち合わせでは、まず自分が補給車に偽装したAC輸送車で機体に乗ったまま待機する手筈になっている。そして緊急で補給部隊が派遣されたことを(キースの情報によって)知った敵部隊が襲撃してきたところで、その部隊を殲滅。それが完了し次第、マイ達の護衛する本命の補給部隊が出発する。
 そして自分は先行して旧中継基地に潜入・制圧して、残りの敵組織の情報をできるだけ手に入れ、そのままエデンⅣへ向かう。
 つまりは自分で敵部隊を陽動し、基地内の敵を減らすということだ。
 敵の数と位置をより正確に把握する必要から、まず肩のレーダーは欠かせないだろう。イリヤを後部座席に乗せて戦闘することを考えれば、遠距離戦が安全であるのは明白だ。
 従って右腕、左腕の武器を変更しないとなると、もう片方の肩武器は装弾数の多いものが好ましい。しかし、チェインガンでは射程距離が短い上、爆発物が一つもないことになる。敵部隊にACがいることを想定するならば、マイクロミサイルが妥当だろう。エクステンションはいつも通りステルスユニットで問題ない。
 自分の携帯端末で変更する機体武器を指定し、ショーンの端末にデータを送ってから、シーアは自身の装備確認を始めた。
 普段から携帯しているマシンピストルにサプレッサー用のアタッチメントを取り付け、右脚のレッグホルスターに収める。
 予備マガジンは全てロングタイプで、ツールバッグに八本入れた。
 タクティカルベストには、自作の焼夷手榴弾と多目的ナイフ、そしてポケットには救急医療セットとピルケースを入れた。
 その他に必要なものが揃っていることを確認してから、バックパックの内容物を確認する。今回の任務に必要なものは全て揃っていた。
 そしてバックパック背面の武器ラッチにショットガンを固定し、予備のドラムマガジンを入れてバックパックのジッパーを閉めた。
 一通りの準備を済ませて部屋を出ようとした時、エイミが部屋に入ってきた。
「あ、シーア、もう準備できたの?」
「ああ。オレの方の準備はできたから、ガレージでショーンの手伝いでもするさ。他の連中の準備はどうだ?」
「予定よりも早くこの街を出ることになったから、補給が完全には済んでなくてスタッフは困惑してるみたい。港町に寄ってからトラキアに帰るって話はしてあるから、もう撤収作業を始めてると思うわ。でも、作戦開始までに間に合うかしら……」
 確かに、予想よりも物資の少ないこの街での補給は困難だっただろう。正直、このままトラキアに戻れる程の余裕はない。港町でもう一度補給をするのは確実だ。どれ程の期間滞在することになるのかはまだ分からないが、二日間は滞在することになるだろう。
 万が一、自分が戻る前にトラキアに向かうことになっても、トラキアの航空輸送機を迎えに寄越すかもしれないし、ショーンと作成した増設ブースターもある。それさえあれば、おそらくは自力で戻ることも可能なはずだ。
 ……動作試験もしていないモノを試すつもりは更々ないが。
 「ショーンとオレの発注した部品類は諦めていい、それよりも食料を最優先だ。ACの調整が終わり次第、そっちを手伝う。それよりも話がある」
 部屋の扉をロックし、外から人が入れない状態になったことを確認してから、エイミに今回の作戦の裏の内容を打ち明けた。
「今回の作戦のうち、重要なのはソグラトの補給部隊護衛じゃない。オレの方だ」
「……どういうこと?」
 怪訝顔で、エイミが次の言葉を待つ。
「さっきのブリーフィングの通り、オレは旧補給基地を制圧するが、その後リヴァルディには戻らない。エデンⅣに向かう」
 その言葉に、エイミは驚きを抑えずにはいられなかった。
「どうして!? あなたはミラージュに指名手配されているかもしれないのよ? それなのにどうしてあなたが向かう必要があるの!?」
 当然、予想していた反応ではあった。だがそのあまりの慌てぶりに、罪悪感を覚える。
「イリヤを連れてエデンⅣのターミナル・スフィアに向かう必要があるんだが、オレ以外に適任なヤツがいないんだ、仕方ないさ」
「イリヤまで連れて行くの!? どうして……?」
「シェルブの提案で、イリヤを狙っている連中……主に企業だが、今後邪魔をされないように取引することになった。それで、その取引材料がイリヤ自身と、オレの情報ということだ」
「……だから、あなたが行くの?」
 エイミの心配そうな顔を見ると、シーアはいつも激しい罪悪感を覚える。
 関係なかったはずの彼女を、自分の問題に巻き込んだという、罪の意識。 ナーヴス・コンコード社内でも優秀なオペレーターであっただろう、エイミの人生を大きく変えてしまったという事実。
 家族からも、友人からも、表の世界の全てからも切り離してしまった。
 全て、自分に責任がある。
 彼女の人生の全てを狂わせてしまった自分は、その責任を負わなくてはならない。
 今更、自分に何ができるのか。彼女の為にできることが、自分にあるのか。
 何度考えても答えは見つからず、迷い続けて今に至る。
 それでも、未だに答えは見つからない。わかったことは、ただ一つ。
「誰にも言うな、用が済んだらすぐに戻る。……だから、そんな顔はしないでくれ……」
「……わかった、待ってる」
 彼女の不安要素は、全て抹殺する。自分の全てを賭けてでも。
――自分にできる事など、それ以外には残されていないのだ――


―AD109/07/23
二三:三〇―

「時間だ。作戦の詳細確認、及び状況報告を始める」
 作戦開始三十分前、ブリーフィングルームの空気は張り詰めていた。
 既に配置に着いている者もいるため、昼間のブリーフィング時よりも人が少ない。
「作戦は予定通り決行する。まず、シーアが補給車両に偽装したAC輸送車で先行して敵部隊を陽動、殲滅する。それを確認次第、ソグラト補給部隊と護衛部隊がエデンⅣへ進行、同タイミングでシーアが旧中継基地の制圧を開始する。護衛部隊は迎撃態勢で常に周囲に警戒しておけ。特にポイント・イエローからの襲撃が予想される。狙撃機が出てくる可能性も十分にある、動きを止めないようにしろ。詳細は以上だ。次、状況報告」
 シェルブの合図で、エイミがモニターに地形情報と各勢力の状況を出力した。
「現在、キースによって周辺の街に対してソグラトより補給部隊が進行中という虚偽情報を流しています。 イエロー1には異常ありませんが、イエロー2の一部で不審な動きが見られます。 数機のMTが起動しているようです。 また、スコープアイの制圧予定であるレッド1においては非常に活発な動きが見られます。 予測ではおそらく十数機のMTがいると思われますので、十分に注意して下さい。 以上です」
 エイミからの報告を聞いて少しばかり思案してから、シェルブが再び口を開いた。
「……レッド1からの敵が漏れてくると面倒だ、先に仕掛けさせろ」
「え?」
 シェルブの発した言葉の意味がよく分からず、エイミが戸惑う。
「場所は分かっているんだ。 こっちから出向いて、一気にカタをつけろ。 シーア、聞こえたな?」
『了解だ。 敵MTを潰してから制圧に移る』
 シェルブが時計を見ながら、通信機に呟く。
「作戦開始まで残り三〇分もないが、間に合うか?」
『向こうの支度が済んでいれば、だな』
 その一言で、通信は切れた。


 通信回線が切れていることを確認し、輸送車の中でシーアがイリヤに最後の確認を取った。
「イリヤ、耐衝撃服に問題はないか?」
「細かいことを言えば、着心地が嫌ね」
 いかにも不機嫌そうな気乗りしない声で、耐衝撃服を身に纏ったイリヤが不満を口にした。着心地の問題は分からないが、一目見れば服のサイズが合っていないことは明らかだった。
「仕方ないだろう、それしかないんだ。一応は女性用のフリーサイズらしいが、もう一回り小さい方がいいみたいだな」
 戦災孤児を保護することがあるリヴァルディならば、子供用の耐衝撃服もあるかと思っていたのだが、よく考えてみれば子供に耐衝撃服が必要な状況などほとんどない。従って市場における需要は低く、故に非常に高価なものになる。当然、そんなものをいくつも購入するほどの余裕はリヴァルディにはない。厳密に言えば購入はできるが、それ以外に必要なものが多すぎて、そこまで手が回らないというのが本音だ。
「機能を阻害するような点は無さそうだな。ヘルメットの方は大丈夫か?」
「それが、どれも大きすぎて丁度いいサイズがなかったわ。これが一番小さいサイズみたいだけど」
 言いながら、小脇に抱えていたヘルメットをイリヤが被る。
 シーアが両手でヘルメットを掴み、そのまま上に引き上げると、ヘルメットは何の抵抗もなくあっさりとイリヤの頭から抜けてしまった。
「これは逆に首が危ないな。仕方ない、ヘルメットは諦めるか」
「そもそも、私がこんなものを着る必要はないはずだけど。私はあの兵器のために作られた……」
「それ以上言うな」
 怒声交じりのシーアの言葉に、俯きかけてたイリヤがはっと顔を上げた。
「……マイも言ったはずだぞ、自分をパーツ扱いするな。もっと自分を大事にしろ」
 間を置いて、イリヤが口を開く。
「貴方が言えたことかしら? 貴方こそ、もっと自分を大切にするべきね」
「……何故そう思う?」
「機体を見れば、それくらいわかるわ」
 言いながら、イリヤはシーアの背後で立膝で待機している巨躯を見上げた。
 夜闇を身に纏ったかのような、深い蒼と黒に包まれたシーアの愛機〈フィクスブラウ〉は、搭載された高性能戦闘支援AI〈アルフ〉によって、ジェネレータを起動待機状態にしてシーアとイリヤが乗り込むのを待っていた。
「何度見ても不思議……というより、複雑な子ね。冷静だけど熱っぽくて、忠実なのに我侭で、優しいのに狂暴で……初めてなのに、懐かしくて。まるで……同一性を失っているかのよう」
「自己同一性を失っている……解離性障害、か」
 機体がそんな感情を持っているなど、自分には到底思えない。感情があるとしたら、アルフの方だ。それなら普段から余計な口を挟むことや生意気な点もあって、よくわかる。
 だが、イリヤの言うことも理解できないわけではない。
 この機体は、矛盾している。設計時に考えていた事とはかけ離れたものを抱えているし、本来の目的から大きく逸れたことも、数え切れないほど行ってきた。
 だから、コイツは自分だ。これまでに幾度の死線を越え、事実死にかけた事もある。
 進むはずの道から逸れて、進めば進むほど目的地から離れていく。
理解しているはずなのに、それでも前に進むしかない。
 気付いてみれば目的など、とうの昔に失っていて。 自分がどこにいるのかさえ、全く分からない。
 迷走している。だが、止まるわけにもいかない。ただ、走り続けるしかない。
 それはつまり、自分を見失っているのではないのか、と。
「……存外、間違ってないのかもな」
 シーアは一瞬、自嘲気味な笑みを浮かべてから、一度ゆっくりと瞬きをして普段の調子に戻った。
「時間が押してる、行くぞイリヤ」
 バックパックを機体のシート後ろのトランクスペースに収納し、ヘルメットを被ってからシートに座る。イリヤも同じようにして、後部座席に座った。
「シートベルトを締める前に、シートの下から送気マスクを出して着けておけ」
「だから、私には必要ないと……」
「用心するに越したことはないんだ、言う通りにしろ」
 言いながらシーア自身もシートの下から送気マスクを取り出し、ヘルメットの頬側の金具にマスクのフックを取り付けて固定する。
 この送気マスクは、通常のACには搭載されていない。通常のACを遥かに超えた速度を叩き出せるフィクスブラウを乗りこなすには、その速度に比例した加速Gに耐えなければならない。いくら操縦に慣れようとも、身体の調子によっては意識が朦朧とする場合もある。そのような不測の事態に備えて、シーア自らの手で戦闘機用の送気マスクのユニットを丸々コクピットに搭載したのだった。
 イリヤがマスクを装着したことを確認して、天井のコックをひねりコクピットハッチを閉鎖する。そして、アルフに指令を出す。
「待たせたな、アルフ。起動しろ」
『了解。ジェネレータ起動、策敵を開始します』
 シーアとイリヤを乗せた輸送車は、既にオートパイロットでエデンⅣ方面、正しく言えば旧中継基地へ向かっていた。補給部隊の出発時刻を作戦開始時刻としているため、リヴァルディ内で任務の最終確認をするよりもずっと早く、もうシーアとイリヤは出撃していた。
『レーダーに複数の反応あり。識別信号なし、目標の敵MT部隊と思われます』
 レーダーには赤い点が六つ表示されている。まだ輸送車内であるため、敵影を確認できない。
 だが、レーダー上での動きを見れば、大体の予測は可能だ。
 三機が少し前に出て、その後ろに二機。そこから若干離れた位置に、もう一機が隠れている。
 この時点で、大まかな編成は把握できる。三機が前線への強襲機、その後ろの二機が支援、一番後ろは味方への連絡を兼ねたバックアップだろう。セオリー通りではあるが、まったくの素人による配置ではない。ある程度の知識はあるのだろう。
 とすれば、かつてはどこかの軍などに所属していたのだろうか。それとも少々知識のある程度の者なのだろうか。
 これ以上思案しても、相手に動きがなければ特定はできない。それに、相手の予定通りに事が運ぶと不利になる可能性もある。
 最も、自分がここにいる時点で相手にとっては想定外だろうが、それ以前に相手が動く事を許容出来ない理由がある。
――気に入らない――
 それがたとえ一瞬でも、相手の予定通りに進むのは、我慢ならない。戦況を最初から自分に有利な状況にするためには、相手を掻き乱すのが一番だ。
 どんな手段を使っても構わない。
 ただ、戦況を握るのが――常に、自分であれば。
「戦闘を開始する。イリヤ、何かあったらすぐに言え」
「こっちは気にしないで平気よ。それより、そっちこそ手伝いは必要ないの?」
「特に必要ない。アルフ、始めるぞ」
『了解。全システムを通常戦闘モードへ移行します』
 ジェネレータが甲高く唸り、出力が上昇する。応じて機体温度が上がりラジエータが冷却液の循環を開始、さらに冷却ファンが回転を始める。
 システム、オールグリーン。
 シーアはコンソールを叩いて輸送車のコントロールへとアクセスし、後部ハッチを開いた。
 天井部にぶつからないよう中腰で機体を起こし、両脚部を蹴りだす。
 機体が勢いよく輸送車から飛び出すと同時、大出力のOBが作動して機体の進行方向が強制的に前方へと切り替わり、輸送車の陰から飛び出した。
 そして次の瞬間、一番手前にいたMT三機のうち、二機が火を噴いていた。
 運良く生き残った一機が慌てて右腕のライフルを構えるが、闇色のACは一瞬でその頭上を飛び越えていた。
 不意を突かれた前線の二機を見た後方の支援機が、すぐに迎撃しようとライフルを構える。だがそれよりも速く、闇色のACは左右に分かれていた二機の間に着地していた。
 二機の支援機は側面からの攻撃に対応しようと急旋回し、火気管制による敵機捕捉にかかる時間も無視して慌てて発砲する。
 瞬間、闇色のACが再び加速する。敵の支援機が慌てて発射した弾は的を外れ、その向こうにいる味方機へと命中した。しかし、まだ完全には機能を停止していない。
 そこへ追い打ちを掛けるように、右旋回して敵を捉えたフィクスブラウは、右手のスナイパーライフルを発砲した。弾丸は狙い通りに敵の胴体に直撃し、ジェネレータが損傷を負って爆発した。
 敵機の爆散に構わず、シーアは機体をそのまま右へと旋回させてもう一機の手負いの敵を捕捉し、発砲する。再び爆発。
 支援機を片付けたところで生き残っている強襲機を捕捉、OBを起動し、一瞬で敵機へと迫る。
 接敵を感知した敵MTが、ライフルを乱射する。闇色のACは、その悉くを回避しながら敵機の右側から死角へ潜り込む。そして着地したその場で急旋回しながら、左腕のレーザーブレードを振るった。
 敵MTが、背後から逆袈裟に斬り裂かれる。高熱の刃は薄い背部装甲を引き裂き、ジェネレータを貫いて前面装甲まで真っ二つにしていた。
 瞬間、敵機が原型を留めきれずに爆発、破片を撒き散らす。だがそれすらも置き去りにして、フィクスブラウは残る最後の一機へと突進した。
 最後の一機が必死で逃げる。だがそれも虚しく、フィクスブラウは敵機の背後を捉え、左手のアサルトライフルを発砲した。放たれた弾丸が敵MTの両足を破損させ、敵機は転倒して動きを止めた。
 シーアはフィクスブラウを停止させ、両腕のライフルを敵機へと向けた。同時に外部スピーカーのスイッチを入れ、敵機の搭乗者へ警告する。
「MTを降りろ。従わなければ殺す」
 喉元にナイフを突きつけるように、ただ事実のみを冷酷に告げる。その口調は一切の猶予を感じさせず、それを感じとったMTのパイロットは言われた通り、機体を降りた。
「手を頭の後ろに組んで地面に伏せろ」
 敵パイロットは言われた通り、地面に伏せる。シーアはそれを確認してからコクピットハッチを開放した。
「イリヤ、ここから動くなよ。あと音も立てるな」
「わかってる、おとなしくしてるわ」
 ハンドガンを手に、シーアが機体を降りる。敵は伏せたままだ。銃口を向けたまま敵に近づき、腰のベルトに挟んであったハンドガンを取り上げる。入念にボディチェックをしたが、他に武器は持っていないようだった
「仲間に通信を繋いで応援を呼べ。 全員だ」
「は?何を言って……」
「黙れ。 お前はオレの言った通りに行動すればいい。さっさと繋げ」
 MTのコクピットへ連れて行き、通信機を操作させる。もちろん、銃口は敵の頭に突きつけたままだ。
「オレの言った言葉を、お前はそのまま復唱する。いいな?」
「わ、わかった……」
 敵パイロットは銃口をこめかみに押し当てられながら、震える手で通信機を操作して、やっとのことで回線を開いた。
『こちら管制室だ、味方の識別信号がお前以外は全員途絶えてるぞ、何があった?』
 敵パイロットの耳元でシーアが呟き、敵はそれをそのまま自分の口で言葉にする。
「補給部隊の連中、護衛を引き連れていやがったんだ。応戦したが、残ったのは俺一人だけだ、機体もこれ以上の戦闘には耐えられそうにない」
『何だと!? それで、敵部隊の編成は?』
「残りはMT一機だけだ。今はこっちを追うつもりはないらしいが、すぐに応援を寄越してくれ。あの分だと増援を呼んでいる可能性がある」
『了解だ、すぐに応援部隊を送る。 それまで持ちこたえろ』
「ああ、頼……」
 ドンッ
 と、狭いコクピット内に、通信機が壊れる音が響いた。
「上出来だ。よくやった」
 シーアはハンドガンを右足のホルスターにしまいながら、操縦席で固まっている敵の肩を叩いた。 敵パイロットは操縦席で全身の力が抜けたかのようにぐったりとしている。
「通信機と一緒に操縦系も壊れてるだろうが、後は自分でなんとかするんだな。 死ななかっただけ、運が良かったと思え」
 シーアはそういってコクピットを降り、機体へ戻る。
 敵パイロットはただ、自分の耳元で容赦なく銃を発砲された恐怖で、動けなかった。
 フィクスブラウに戻ったシーアは、すぐにレーダーを確認した。 読み通り、多くの敵MTがこちらに向かって来ている。
「うまくいったようだな。アルフ、何か連絡はあったか?」
『いえ、特にありません。それよりもレイヴン、こちらに向かってきている敵MTの総数は二二機です』
「了解だ。 イリヤ、飛ばすぞ」
「いつでもいいから、気にしないで平気」
 シーアはイリヤの言葉を聞きながら右手の親指で操縦桿のスイッチを押し込み、エクステンションのステルスユニットを起動した。 敵のレーダーに捕まらないだけでなく、FCSの目標捕捉機能すらも妨害することで、作動中は一切自機を捕捉されない。
 展開したステルスユニットに紫電が奔ると同時、両足のペダルを深く踏み込むことでコアのOB機構が展開、高出力ブースターにエネルギーが流れ込む。 そして臨界に達した瞬間、甲高い作動音と共に、機体が前方へと一気に押し出される。
 しかし、その進路は敵の拠点である旧中継基地の方向ではなく、先程の戦闘が行われた場所から西の方角だった。
 正面から相手をしてもいいが、撃ち合いになった場合に数で勝る敵部隊は、少々厄介だ。それよりも、側面か背後から一気に急襲した方が効果的である。
 正面から対峙しても、ステルスユニットを起動していればかなり有利に動けるが、使用時間には限度がある。
 先程の戦場が自機の射程範囲ギリギリになる位置で岩陰に機体を隠し、機体システムを一旦停止させる。
「アルフ、レーダー停止。ジェネレータ出力をカメラと右腕武器の分だけに絞れ」
『了解。低電力モードで待機します』
 次第にジェネレータの駆動音が小さくなり、コクピット内の計器の光も最低限必要な物を残して消えていく。
 夜闇が周囲を飲み込んでいく。岩肌の目立つ山間に漂う、ただひたすらの静寂。
 その中で爛々と光る、紅い目。その輝きはまさしく、夜行性の猛禽が獲物を狙う目のそれだ。
 獲物が隙を見せるのを、じっと待つ。敵の増援が到着し、味方機の残骸を見れば、周囲を警戒するのは当然のことだ。だがその状態こそが、こちらにとって好機でもある。
 狙うのは、警戒行動の中の緊張感と共に抱く、僅かな『不安』と、『恐怖』という感情。それは、自らの命を絶ってしまう爆薬に等しく――故に、一度火が点いた瞬間に自らを失ってしまう。しかし、戦場にいる者ならばその発火点は高く、普通の事では動じない。
 だが、肝心の火元がその発火点を容易く上回る程の高温の爆発なら、どうだろうか。
 炎が背後の味方を焼き尽し、自らの視界を埋め尽くす。その光景を見て、どれ程の人間が自らを見失わずにいられるだろうか。
 レーダーへの反応は皆無であり、気付いた時には既に回避不可能な距離からマイクロミサイルが殺到している。
 悲痛な叫び声が、通信機越しに味方に伝わる。その声は幾度も聞き慣れていなければ、恐怖によって自己の崩壊が誘発される。
 そして敵MT部隊には、死神の誘いを聞きなれたパイロットは存在しなかった。
 正確な狙撃によりコクピットを貫かれた者、マイクロミサイルによって機体ごと爆散した者、そして高熱の刀身により引き裂かれ、蒸発した者。全てが例外なく、二度と動かぬ鉄屑と肉片にされていた。
 圧倒的な力によるそれは、もはや戦闘というべきものではなく、一方的な狩り――蹂躙という言葉が、何よりも相応しかった。かつて自分が見た、あの光景のように。
「大体片付いたか。アルフ、敵の進攻経路は記録できたな?」
『データは処理済みです。サブウィンドウのマップに反映します』
 マップに敵の進攻経路が上書きされ、同時に敵に気付かれにくいと予想される、こちらの侵攻ルート候補をアルフが表示する。 中継基地は山間の谷間に位置しているため、敵に視認されずに近くまで辿り付けるのは、左右いずれかの山の外側を沿う形となる二つのルートだけだった。
「……もっと外側を大回りするルートはないのか?」
『これ以上の外回りの場合、右は短時間ですが飛行して岩壁を超える必要があります。左は遮蔽物が少ない為、偵察部隊がいた場合は視認される可能性が非常に高いと思われます。 レイヴンが敵拠点に侵入する以上、推奨ルートのどちらかが妥当であると考えます』
 確かにアルフの言う通り、自分が侵入することを考えれば、敵拠点との距離は短い方が好都合だ。 それも出来るだけ、物陰に身を隠しながら進める道がいい。
「仕方ない、右ルートを基本に手を加えるか」
 衛星写真による地図を拡大して、機体を降りてからの侵攻ルートを組み立てていく。基地まで辿りつくことさえできれば、あとはどうにでもなる。
「シーア、そう簡単に侵入できるものなのか? 入口に見張りがいたらどうする?」
 侵攻経路を作成していたシーアに、イリヤが問いかけた。その問いに、手を止めずに答える。
「まぁ、普通はそうだろうな。 だが、いた所で大した問題にはならない」
 侵攻経路の構築を完了し、機体をアルフの推奨ルートの通りに進ませながら、再び口を開く。
「基地を取り返しに行くのに、わざわざ招待状は必要ないだろう?」
 声はあくまで冷静なままに、その口角は僅かに上がっていた。 その考えが、自分の想定内でしかないことを嘲るように。
「とりあえず、敵のMT部隊は大体片付いたはずだ。他に脅威になるものはないだろう」
 言いながら、リヴァルディに回線を繋ぐ。
「エイミ、敵のMTは大体片付いたぞ。これより敵拠点内部に侵入、基地の奪還を開始する。そっちも始めてくれ」
『わかったわ。……気をつけて』
「心配しなくてもこの程度、すぐに終わるさ」
それだけ言って、回線を切る。他に言うこともないだろう。
『レイヴン、もうすぐ指定ポイントに到着します』
「ああ、到着したらすぐに始める。イリヤ、俺が戻るまでここを動くなよ」
「特に動く必要もないから平気よ。リヴァルディから連絡があれば伝えるわ」
「そうしてくれ。 三〇分以内に戻るが、それまでにオレから連絡がなければリヴァルディに連絡して、すぐに帰艦しろ。 アルフ、問題ないな?」
『オートパイロットに異常はありません。戦闘にでもならない限り、確実に帰艦できます』
「それでいい」
 目標ポイントへの移動をアルフに任せて、シーアが準備を始める。 と言っても、狭いコクピット内ではタクティカルベストの確認程度のことしかできなかった。 ハンドガンと弾倉を、再度確認する。
 そうこうしている内に、機体が指定した目標ポイントに到着した。 周囲に敵は確認できず、電波障害も特にないことを確認して、コクピットハッチを開放した。
「アルフ、指定座標にいつでもミサイルを発射できるようにしておけ。 合図はこっちから出す」
『了解しました』
 指示を出しながら、パイロットスーツを脱いでタクティカルベストを着用し、バックパックを背負う。
「現時刻より、旧中継基地の制圧・奪還作戦を開始する。 イリヤ、緊急で何かあった場合はすぐに連絡しろ、俺と繋がらない時はリヴァルディにだ。 わかったな?」
「それくらい、言われなくてもわかるわ。 大丈夫よ」
 イリヤが若干呆れたような顔をしたのを見て、シーアは機体を降りた。
 敵の拠点まではそう離れていないが、細心の注意を払いつつ、木々の中を進む。
 右目は赤外線式の暗視モードに切り替え済みで、センサー等にもすぐに気付ける状態だ。 万が一、敵と交戦になっても、視界が確保できていれば動きやすい。
 だが、そんな心配も杞憂に終わり、何の問題もなく旧補給基地の目前まで辿り着いてしまった。
 塀はよじ登れそうな高さだが、その上部には有刺鉄線と高圧線が張り巡らされている。
 補強された痕跡も外側からでは見られないが、表面の状態から考えると、占拠後も放置されていると考えていいだろう。 爆薬で吹き飛ばせそうだが、いきなり敵に感づかれるのはやりにくい。 施設内部までは事を荒立てずに侵入したいところだ。
 そう考えて、茂みの中から門を見る。 赤外線センサーの設置は見られない。 地面に感知式のセンサーがある可能性を考えたが、門番が一人見張っていることから、その存在は否定できる。
 問題は、門に取り付けられている監視カメラをどう誤魔化すかだ。
 カメラを停止させれば、不審に思った敵は確認に来るだろう。 そこで門番がやられていれば、確実に敵は警戒する。 ならば、どう攻略するか……
 ――いや、違う。
 なぜ過程を気にしたのか? シェルブに悪い癖だと注意されたからだろうか?
 ――いや、それすらも無駄な思考だ。
 自身に要求されているのは『制圧と奪還』という結果のみ。 ならば、そのプロセスを問われることはない。
 あの場に長く身を置くことで、甘えが生じたのだろうか? だとしても、自身の役目を忘れかけていたのは恥ずべきことだ。
 ――自分の役目を思い出せ。
 一切の甘えは許されない。 自分自身が許さない。
 既に自分は一度死んでいる。 だが、生き返ってしまった。 その結果、犠牲者を増やしてしまった。 その償いは、未だ済んでいない。
 だからこそ、自分はどんな場にいようと贖罪を続けなければならない。
 汚れるのは、自分だけでいい。
 罪が常に己を苛む、その苦しみに絶えながら生きている自分にこそ、その役は相応しい。
 どれほど怨まれようとも憎まれようとも構わない。 作戦を遂行する。 自分に要求さえれるのはただ、それだけだ。
 余分な思考を切り捨て、ピルケースから直径2センチほどの赤い玉を口に入れてから、バックパックの銃をラッチから取り外す。
 構えたのは〈RM-ASG5〉という名のフルオートショットガン。 二四〇メートルの有効射程を持っている。 監視カメラ程度ならば、発射される一二ゲージ弾の一撃で粉砕できる。 もちろん、その横にいる門番の頭さえも。
 ダットサイトを右目で覗く。 二秒で目標に狙いを定め、引き金を引いた。
 放たれた散弾が監視カメラを粉砕し、音を立てる。
 その音に驚き、壊れたカメラを見る門番。 そして、その額に赤い光点が突き刺さる。
 その瞬間、門番の頭が吹き飛んだ。
 頭部を失った身体が背中から地面に倒れる間際、シーアがその横を走りぬける。
 施設の入口の扉には、監視カメラも門番もいない。 そのまま、施設内部へと滑り込む。
 正面の通路に人はいない。 左右も同じく、人の気配はない。 監視カメラも見当たらない。
 まだ、気付かれていないのだろうか? だとしても、いずれは門のカメラの異常に気付いて確認に来るだろう。
 シーアは手近な部屋を見つけると、すぐにその扉の横まで忍び寄った。
ショットガンをバックパックのラッチへ戻し、サプレッサーを取り付けたハンドガンを右脚のレッグホルスターから引き抜く。
 右手でハンドガンを構えたまま、左手で一気にドアを押し開く。
 ……だが、中には誰もいない。 無論、それは好都合なことである。
 部屋のドアをギリギリまで閉め、僅かに通路が見える状態にして、人が来るのを待つ。
 その間に、部屋の中を見回す。 一目でわかったのは、やはりこの補給基地は古いものであり、設備全体が現在の水準に比べて若干見劣りするものである、ということだ。
 今シーアのいる部屋は非常に小さく、ちょっとした物置のようなスペースだったのだろう。
 だが、構造事態は割としっかりしている。 空気循環用のダクトは狭く、大人が入れるスペースは無い。
 柱もしっかりしているが、壁は若干薄い。 この程度ならば、携行している爆薬で簡単に穴をあけることができる。
 あとはこの基地のどこに司令部があり、どこに配電盤と緊急用の発電装置があるのかさえ分かれば、制圧は時間の問題だ。
 そう思案を巡らせていたところに、足音が聞こえた。
 一人だけ。 それも、特に急いでいる様子ではない。
 ――これなら、行ける
 変わらず、足音は一人分だけが響いている。
 息を殺し、ハンドガンをホルスターに収めて腰のツールバッグに手を伸ばし、中のワイヤーを掴む。
 ドアの隙間から僅かに差し込む電灯の光が一瞬、遮られる。
 再び光が差し込む刹那、ドアを開け放ち、相手の背後から右腕を首に回した。
 すぐさま右手に掴んでいたワイヤーを左手で引き抜き、右手でツールバックから伸びているワイヤーと交差させて、両手を引く。
 相手の首にワイヤーが食い込み、絞まる。
「動くな。 抵抗するなら、このまま殺す」
 自力で解けないと察した敵が必死でもがき、右肘を突き出してくる。 が、シーアは右腹部への衝撃を無視して右腕でがっちりと敵の首を押さえ、その状態で左手を引いた。
「工事用の牽引ワイヤーだ、人の手で切れるような物じゃない。 大人しくしろ」
 ギリギリまで締め上げてから、声が出る程度にワイヤーを緩めと、首を絞められた男は咳き込みながらようやく声を出した。
「……お前は誰だ、こんなところに何の用がある?」
「質問するのはお前じゃない、オレの方だ」
 再びワイヤーを締め上げ、そのまま先程まで隠れていた部屋に連れ込んでから、ワイヤーを緩める。
「この基地の司令室と配電盤、それと補助電源の場所を言え。 素直に教えれば殺しはしない」
「誰が教え……グッ……!」
 従わなければワイヤーを締める。 それだけのことだ。
 どちらが優位で、どちらが不利なのか。 それをきちんと理解させなければ、機密を口に出すことはない。
 もちろん、かなりの訓練を積んだ者ならば拷問で口を割ることもないだろうが、目の前の男からは、そういった雰囲気は感じられない。
 ならば、このまま続けた方が手っ取り早い。 そう考え、シーアはワイヤーを握ったまま、男を床にうつ伏せに倒す。
 左足で男の首の根を踏みつけ、ワイヤーを左手に持ち替えて右手でホルスターから拳銃を引き抜き、男の眼前に突き出す。
「もう一度聞いてやる。 司令室と配電盤、補助電源の場所を言え。 言わないなら、お前に用は無い」
 男の後頭部に銃口を向ける。 あとはトリガーを引くだけの状態だ。
 ゆっくりと、しかし確実にトリガーにかかる指に力を込めていく。
「待て! 言う、言うから勘弁してくれ!」
「……言え」
 銃口を男の頭に向けたまま、男が話し出すのを促す。
「……司令室は地下一階だ。 配電盤は地下三階、補助電源はその下の階にある」
 男が息を荒げながら場所を吐く。 だが、男の額から、汗が流れ落ちるのを見て、シーアは男の右膝にハンドガンを向けて、トリガーを引いた。
 男が痛みを訴える前に、ワイヤーを締め上げる。
「嘘じゃないだろうな?」
「ほ、本当だ、嘘じゃ……」
 言い切る前に、左膝を撃ち抜く。 弾丸は五・八ミリ徹甲弾。 小型でありながら貫通性能に特化しており、最高水準のボディアーマーですら、当たり所が悪ければその装甲を貫くことさえある。
 当然、人体なぞ安々と貫通する。 男の両膝は既に、歩行が困難な状態だろう。 貫通性を高めた結果損なわれたマン・ストッピングパワーも、正確な射撃さえ出来れば威力を補える。 両膝の痛みは相当なものだろう。
「……まぁ、お前がどう答えようが、最終的な結果に変わりはない。 お前達は全員、ここで死ぬ。 それだけの話だ」
 言いながら、今度は背中を撃つ。
「ま、待て、話が違うぞ! アンタ、殺しはしないって……」
 男の顔が、動揺と危機感で歪む。
 それを見たシーアが、口端を吊り上げて、笑みをこぼした。
「これから死ぬ奴に対して、わざわざ本当のことを言う必要はないだろう? いくらお前が何を言おうが、信用性が一〇〇パーセントになることはない。 用済みなんだよ、お前は」
 必死の形相でこちらを見る男の男の頭部に、銃口を向ける。
「わ、悪かった! 本当のことを言うから許してくれ、頼む!」
「なら、さっさと言え」
 最初からここまでやるつもりだったシーアにしてみれば、ここまでは茶番に過ぎない。 最初の一言で信用する愚か者が、一人でここまで来るわけがない。
 そう呆れつつも、男の口を割らせる。
「司令室は施設最上階の一五階で、配電盤と補助電源は地下一階にある! これで勘弁してくれぇ!!」
「そうか。 そうだ、ついでにお前らのMTや装甲車の止めてある駐機スペースの位置も教えてくれ、行き方もな」
「地下2階が通路になってて、そこから真っ直ぐ進んで階段を上がったところにある! だから、命だけは……」
 嗚咽交じりに男が告げ終えた直後、左手のワイヤーを離し、頚動脈を絞める。
 若干の抵抗の後、男の意識が完全に落ちた。
 これで、攻めるポイントは把握できた。 あとは単純に、これまで通りやればいい。
 ――ナーヴスに恐れられた『暗殺者』の実力を、見せてやろう――

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