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*③/ /第十六話


―AD109/07/23
二三:四七―

「ボス、スコープアイが、基地制圧を開始しました。 ポイントレッドのMTも、ほとんど撃墜いたそうです」
「よし。 少し早いが、作戦を開始する。 各員、レーダーには常に気を配れ」
 予測の通り事が運べば、敵部隊は既に警戒している三方向からしか攻めて来ることはない。 だが、シェルブはもう一つ、ある可能性を懸念していた。
 ――そんな事態に、ならなければいいが
 そう考えずにはいられない。 レイヴンならば誰もがいつかは経験する、ある危険性をこの任務は孕んでいる。
 だが、今このタイミングにおけるそれは、少しばかり厄介だ。
 だが、同時にそれを経験することで、成長も期待できる。 いずれは超えねばならない壁なのだ。
「――マイ、聞こえるか」
『何ですか親方?』
「……気を引き締めろ、予測とは違う方向から襲撃があるかもしれん。 その時は補給部隊の護衛が最優先だ、敵勢力は破壊して構わん。 いいな?」
『分かってます。 大丈夫です』
 ――自分の口にした言葉が、こんなにも情けなく感じるとは思わなかった。
 何故、はっきりと自分の懸念している事を言わなかったのか。 否、言えなかったのか。 彼らを甘やかしているわけではないはずだ。
 かつての自分と違うのは、自分の元には、多くの部下がいるということだ。
 以前に比べて、組織を保つという上で、保守的になっている。 それは確かに感じている。 だが、今までにこのような判断の迷い――自身の判断への不安――は無かった。
 何がこうも不安感を募らせるのか、その原因が掴めない。
 だが、その不安感こそが、鴉の持つ警戒心だ。
 直感と言ってもいい、長い経験と研ぎ澄まされた感覚による、危機の察知。 それが今できるのは、自分だけだ。
「エイミ、スコープアイに回線を繋げ」
「了解。 回線、繋ぎます」
 数秒のコールの後、音声のみで回線が繋がる。
『こちらスコープアイ、アルフです。 レイヴンは既に基地内に潜入しました。 何か連絡でしょうか?』
「ああ。 基地のどこかに、敵組織を支援している連中の証拠になるものがあるはずだ。 見つけ次第、こっちに連絡するように言ってくれ。 以上だ」
『了解。 レイヴンに伝えます。 通信終了』
 アルフとの回線が切れると同時、今度はアハトに繋ぐ。
「アハト、聞こえるか?」
『……通信状態は良好だ』
 不安な点がある以上、用心するに越したことはない。 対策はするべきだ。
「ガレージにて戦闘装備で待機していろ、それとショーンに言って一番脚の早いビークルを準備させろ」
「了解した」
 短い返答の後、ショーンがガレージにいるか一応の確認を取り、再び正面のモニターに目線を移す。
 おそらく、状況は動く。
 不安は既に、確信へと変わっていた。


―AD109/07/23
二三:五五―

 男が門のカメラの異変に気付いたのは、三分前だった。 一番近い場所にいた者を確認に行かせたが、応答がない。
 そもそも、応援に出撃したMT部隊からの連絡がない。 それだけでも十分に危険な状況であるというのに、こんな時にカメラの調子が悪くなるとは、最悪だ。
 ただでさえ少ない人員だというのに、戦闘経験のある者はほとんどMTで出撃中。 その間の警備は不安だ。
 だからこそ、自分はそういった事の専門家を雇うべきだと言ったはずなのに、上層部は聞き入れてくれなかった。 確かに、もうレイヴンを雇うほどの予算もないのだろう。 他所の警備隊をほんの少し借りる程度しかできないのだ。
 だが、自分達だけでもやらなければならない。 これ以上は引き下がれないのだ。
 だからこそ、司令室のモニター監視を交代してもらって、こうして自分が見回りに来たのだ。
 だというのに、どうしてだろう。 脚が震えて動かない。
 目の前には、目深に帽子を被って拳銃を構えた男が一人。
 完全に武装しており、明らかに侵入者であるのだ。
 だが、身体が動かない。
 その男は、返り血に塗れ、その右目さえも真っ赤に染めていた。
「司令室は、この上か?」
 頷いて、男の言葉を肯定する。
 瞬間、男の右腕が、自分の首を絞めた。
 身体が思うように動かない。
 意識が、薄れていく。
 そういえば、どこかで、こんな話を聞いたことがある気がする。
 赤い右目の男による、連続テロ事件……


 首を絞められた男が完全に気を失ったことを確認して、首を離す。
 無駄に殺しはしないが、必要があれば殺すしかない。
 以前は手当たり次第に暴れるだけで良かったが、今はそうもいかない。
 シーアは気絶した男から少し離れた場所で床に細工をした後、すぐに階段を上がろうと奥に進もうとして、今しがた気絶させた男の胸を見て立ち止まった。
 どこかで見覚えがある。
 服装事態、男のタクティカルベストにも見覚えがあるが、その程度ならよくあることだ。 それ以上に胸の部隊賞のあたりが気になる。
 男の傍に屈み、ベストをもう一度見回す。 そして、部隊賞のすぐ横にある銀のスナップボタンを見て、ようやくその正体に気付いた。
 ソグラト警備隊の物と、同一だ。
 ベストの形状が異なっているにもかかわらず、ボタンが
同一なのはおかしい。 これはソグラト警備隊のデザインの物である為、部隊の者しか手に入らないはずだ。
 とすれば、この男は装備をソグラト警備隊から奪ったのか、それとも……
「……まぁ、次で分かるか」
 どちらにせよ、次に誰かに会った時には確認できる話だ。
 階段を上がり、突き当たりの一番大きな部屋に向かう。 そこが司令室だ。
 だが、そこで予想外の出来事が起きた。
 丁度、通り過ぎた左手の部屋のドアが開き、人が出てきたのだ。
「お前、何者……」
 男がライフルを構え、トリガーに指を掛ける刹那。
 シーアは左手を腰のツールバックの裏に差し入れ、黒い拳銃を引き抜きながら、トリガーを引いた。
 乾いた銃声。 スライドに空いた制動孔――コンペンセイター――から独特な方向に制動ガスが噴射され、銃口から閃光が放射される。
 放たれた弾丸が、男の胸を穿つ。
 ――コイツはまだ、死んでいない
 一瞬の判断で、上半身を捻って右手の銃を突き出す。
 撃発。 今度はサプレッサーにより音が減衰されるが、弾丸は正確に眉間を貫いていた。
 だが、これは終わりではなく、始まりだ。
 響いた銃声に気付いて、正面のドアが開き、アサルトライフルを構えた男達が出てくる。
「……バレちゃあ、仕方ないな」
 左手の腕時計のスイッチを押す。
 瞬間、基地が若干揺れる。 遠くで爆発音が響き、一斉に照明が消えた。
 右に構えた拳銃のサプレッサーをアタッチメントごと、取り外す。 露出したスライドには、側面から上部に向かって大きく開いたコンペンセイターがある。 両手の銃は、同じものだ。
「パーティーの始まりだ……!」
 銃のスライド後部のセレクターを親指で跳ね上げてから、マガジンを捨てた。 次に、トリガーガード下部のレーザーポインターのスイッチを入れる。
 そして、両手をツールバッグの側面に押し当てる。 すると、ツールバッグ上部から左右に向かってロングマガジンが露出。 そこにグリップを押し込むだけで、マガジンの装填が完了する。
 突然の暗がりに怯んだ相手が、ライフルを構えなおすよりも先。
 銃から発される赤い光点が男の頭部に当たるのを右目で確認してから、シーアはトリガーを引いた。
「邪魔だ、消えろ」
 瞬間、弾丸の雨が横薙ぎに荒れ狂った。
 その全てが、シーアの両手のハンドガン――正確に言えばマシンピストル――から発射されたものだ。
 その銃は〈CR-GG-C58〉、クレスト傘下Glueck Glocke製の高性能ポリマーフレーム拳銃を、シーア自らが改造した物だ。
 毎分一二〇〇で連射される五・八×三〇ミリの徹甲弾が弾幕を張り、その進路上にある全てを貫く。
 数秒でマガジン内の全弾を撃ち尽くしスライドが後退して停止する。
 だが、その時には既に、立っているものはシーア以外に誰もいなかった。
 一〇人程が倒れただろうか。 確認のため、マガジンを装填してからゆっくりと司令室へと歩き出す。
 一人一人、着弾点を確認していく。
 と言っても、その殆んどは頭部に集中している。 原型を留めていない者もいるが、それだけ精度よく射撃がで きた証拠だ。
 そして、司令室の扉まで辿り着く。
 先程の掃射で倒したのは十三人、全員死亡。
 残るはこの司令室を占拠し、退去通告を出してから駐機スペースの全てのものを破壊すれば任務完了だ。
 マシンピストルをホルスターに収め、バックパックのラッチからショットガンを取り外す。
 そのまま構えて、扉のロック部を撃つ。 ロック部が吹き飛ぶのと同時、扉を開けて左側に向けてトリガーを引いた。
 同時に、左側に隠れていた男の胸に散弾が直撃する。
 しかし、同時に右側の男がアサルトライフルを構えていた。
 シーアが部屋の中へ飛び込み、着地と同時に身体を捻る。 一瞬で右側にいた男に照準、引き金を引く。
 そのまま、通路から司令室に向かってきている敵に向かって二連射した。 ドラムマガジン式のフルオートショットガン〈RM-ASG5〉だからこそできる芸当だ。
 これで、残るはこの司令室の端末を調べてから駐機スペースに向かうのみ。
 そう思いながら司令室の扉を閉め、振り返った瞬間だった。
 突如、ショットガンが蹴り飛ばされた。 息つく間もなく、右からの回し蹴りが頭を襲う。
「ッ……!」
 なんとか腕で受けるが、すぐさま正面からのストレートが迫る。
 そのまま隙を見せず、突き、肘打ちを織り交ぜて攻撃を繰り出される。
 格闘技術に乏しいシーアは、ギリギリで避けるか、急所を外す程度しか出来なかった。
 それに気付いたのか、男は力任せに正面から蹴りを繰り出した。 両腕でブロックしたが、勢いを殺しきれず、よろけて背中から倒れる。
「ふんっ……!」
 男がシースからナイフを抜き放ち、逆手に握って突き立てようとする直前に、シーアは口の中の赤い玉を噛み潰した。 そして、玉から溢れ出た液体を、男の顔に向かって吹きかけた。
「ぐああぁぁっ、目がっ……!」
 その液体の正体は、カプサイシンを主とした催涙液だ。 また、その辛味成分は集中力が低下してきた際に口内を刺激し、集中力を持続させる効果もある。 狙撃手がよく使う、唐辛子を噛む行為と同じ効果だ。
 シーアは男が怯んだその隙を逃さず、腰のツールバッグに右手を回す。 そして日頃から常に携行しているモンキーレンチを、そのまま男の頭めがけて力任せに振り下ろした。
 ガツン、と右手に衝撃を感じたと同時、男がたまらず倒れこむ。
「貴様、やってくれるじゃないか……!」
 身を起こしてマシンピストルを構えながら、シーアが立ち上がる。
 男は頭からだくだくと血を流し、既に意識を失っていた。 おそらく、もう起きることはないだろう。
 マシンピストルをホルスターに戻してショットガンを拾い上げる。 同時に、かすかに音が聞こえた。
 瞬間、そこに向かって発砲する。
 椅子が吹き飛ぶのに遅れて、小柄な男が腰を抜かして飛び出した。
「動くな!」
 言いながら、逃げる男の脚を撃つ。 小柄な男はもんどりうって倒れるが、這いずりながらも懸命に逃げようとする。
「逃げるなと言っているんだよ……!」
 男に近づき、血の流れ出ている脚を踏みつける。
「あぁぁぁぁぁ……! やめてくれ、俺は何もしてない、何もしてないんだよぉ……!!」
「黙れ」
 ショットガンの銃口を、男の頭に突きつける。
「オレは今気が立っているんだ、大人しくしてろ」
 男の胸倉を掴み、引き寄せる。
「お前らの裏には誰がいる? 正直に言え」
「知らない、俺はそんなこと知らないんだ……」
 シーアはショットガンを放り、空いた右手で男の顔を容赦なく、思い切り殴った。
「お前らが動くには、協力者が必要だってことは知っているんだよ……言え、言わないなら殺す」
「だから、俺は本当に知らないんだ! 俺は他所から雇われて……」
 シーアはしびれを切らして、同じ事しか言わないことに男を手近な椅子に座らせ、手足を椅子に縛り付けた。
「本当に知らないんだな?」
「本当だ、本当に何も知らな…」
 言いかけたその口に、シーアはバックパックから赤いLEDカウンターの付いた小さなケースを取り出し、男の口に咥えさせてガムテープで口を塞いだ。
「今お前が咥えているのは、これだ」
 男の眼前に、今しがた咥えさせたものとまったく同じものを突き出す。
 赤いLEDカウンターと、隙間から見える複数のコード。 そして、ケースの上蓋を開けて中身を見せた途端、男がもがき始めた。
「見ての通り、爆薬だ。 頭が吹き飛びたくなければ白状しろ。 お前は協力者を知っているか?」
 その質問に、男は必死に首を横に振って答えた。
「……そうか」
 知らないのなら、用済みだ。 どんなにもがいていようが、どうでもいい。 だが、このまま放置するのも面白くない。 少しだけ、希望を残してやってもいいだろう。
「……助かりたいなら一つだけ教えてやる。 その爆弾、迂闊に仲間に外してもらうと、起爆するぞ」
 必死で縛られた手足を動かすが、いくらやっても無駄である。 その手足を縛っているのは、牽引用ワイヤーだからだ。
 必死でもがく男を最後にもう一度見てから、シーアは司令室を出て扉を閉めた。 その男の部隊章のボタンが、ソグラト警備隊のものであると確認して。
 残るは地下二階の通路から、敵MT及び装甲車の破壊、そして敵部隊の排除だ。 だが、それも既に時間の問題と言っていい。
 この最上階に来るまでに、多くの罠を仕掛けてきた。 この基地は既に、自分の手中にある。 全てが、自分の思う通りに動きだす。
 ゆっくりと、階段を下りる。 下の階から響く靴音から、二つ下の階まで迫っているだろう。 その場でバックパックから感知式爆弾を取り出し、階段の一段目に設置する。
 別の階段に向かうため、一四階の通路を進む。 敵がいるのは明らかだが、正面から銃撃戦を挑む必要はない。 腕時計のスイッチを、またひとつ押す。
 爆発。 炸裂音と悲鳴の不協和音が響き、わずかにビルが揺れる。
 両手にマシンピストルを構えて、通路を進む。 時折、生き残った敵が飛び出てアサルトライフルを構えるが、撃たれる前に額を撃ち抜く。
 壁越しに銃だけ出して射撃する相手には、爆弾を投げつけて、即時起爆させる。
 張り合いもなく、あっさりと階段に辿り着くが、下からは異変に気付いた敵が迫ってきている。
 ――そろそろ、頃合か。
 右手をマシンピストルをホルスターに戻して、ショットガンを構える。二つ下の階に向かって勢いよく手榴弾を投げつけてから、シーアは階段を駆け下り始めた。
 敵が出て来た瞬間に、右手の人差し指を引く。 毎秒6発の散弾が敵を吹き飛ばし、撃ち漏らしを左手のマシンピストルで片付ける。 狭い室内戦での面制圧力と連射性は、正面に立ち塞がる障害の存在を一方的に否定する。 そこに手榴弾が織り交ざり、接近すらも許さない。
 赤い右目の男の存在を見た者達は、その頭を吹き飛ばされる。 一年ほど前に起こった、公式記録が一切残されていない、ある連続テロ事件と、まったく同じ状況。
 だが、それを知らない殆んどの基地の男達は、上下の階からの挟み撃ちに打って出る。
 上からの襲撃を感知したシーアは、特製の焼夷手榴弾のピンを引き抜いて、上の階に放り投げた。
 場所が特定されている以上、同じ道を進むのは危険である。 シーアはそう判断して通路に出て、エレベータに向かった。
 だが、通路の向かいには既に、銃を構えた敵が、6人ほど壁に身を隠して待機していた。
 ――ようやく、面白くなってきた。
 ショットガンのドラムマガジンを交換し、焼夷手榴弾のピンを引き抜く。
 一秒待ってから、手榴弾を投げつけて壁に身を隠す。
 敵が発砲して弾幕を張るが、手榴弾には当たることなく、そのまま敵の元まで飛んでいく。
 避けろ、と叫んで逃げる敵。 だが、その手榴弾は予想に反して爆発はしない。 ただ、青白い閃光が炸裂する。
 その強烈な閃光が、視界を完全に焼き尽す。 シーアの狙いは、最初からそれだった。
 通路を走りぬけ、左右に腕を突き出して発砲。 左右に分かれた男達に、次々と弾丸が突き刺さる。 絶命の確認はせず、すぐにエレベータに向かう。
 電源供給が完全にストップしているため、ドアはこじ開けるしかない。 だが、わざわざ苦労して開けてやる必要はない。
 バックパックから取り出したのは、黒い大きな円盤。 その名は〈ウォールブレイカー〉。 裏面には高指向性爆薬がセットされている。 それを、エレベータのドアに設置して離れる。
 起爆。 ただでさえ高い指向性を持つ爆薬が、円盤の特殊構造によって衝撃が収束され、ドアには綺麗な円形の穴が開いた。 その穴から、エレベータシャフト内に滑り込んで梯子に手をかける。
 シャフト内の梯子にフックをかけて、腰のベルトに小型ウインチを取り付け、ワイヤーをフックに接続する。
 そして、梯子から手足を離した。
  ウインチによって適度に減速しつつも、一気に階層を下る。 その間に、腕時計のスイッチの殆んどを押した。
 施設内に仕掛けた爆弾が、次々に爆発してビルを揺らす。 その度に、遠くで悲鳴が響き渡る。
 かなりの階層を降りてから、最後にもう一つ、腕時計のスイッチを押す。 すると、自分のいる位置より少し下に、光が差し込んだ。 地下一階のエレベータドアに自分があらかじめ仕掛けておいたウォールブレイカーによって穴が開いたのだ。
 ウインチでさらに下降速度を減速させ、ゆっくりと目的の場所に近づき、梯子に手をかける。
 ツールバックからワイヤカッターを取り出し、ワイヤーを切断。 そして、穴から外に出た。
 敵の気配はないが、既にこちらの存在には気付いている。 待ち構えていてもおかしくはない。
 そう考え、ショットガンとマシンピストルを構えて慎重に進む。 地下二階へ向かう階段をゆっくりと降り、通路の前で立ち止まる。
 おそらく、この先には敵がいる。 それが最後になるだろう。
 ショットガンのドラムマガジンを変えて、弾種をエアバースト弾に変更する。 そして焼夷手榴弾を投げ込むと同時に、シーアは壁で半身を隠しつつ顔を出した。
 正面に並んだ敵は八人。 全員が一斉にアサルトライフルを構えて、発砲してきた。 彼らも必死なのだろう。
 手榴弾に警戒して、一斉に敵が引く。 シーアが爆発後にすぐ顔を出しても、射撃は止まることがない。 おそらく、閃光手榴弾のの対策を知っている者がいるのだろう。
 だが、その程度の話だ。 この程度は想定内である。 そのために、ショットガンの弾種を変更したのだ。 エアバースト弾ならば、壁に隠れた敵にも問題なく攻撃できる。
 右目で距離を測定し、ドラムマガジン側面のコントローラから信管のタイマーを設定する。
 そして銃口を右の壁際に向けて、トリガーを引いた。
 真っ直ぐに進んだ弾丸が通路の壁を通り過ぎた瞬間、突如空中で炸裂する。
 悲鳴が聞こえ、命中を確信する。
 即座に左の壁際にも向けて発砲。 悲鳴を頼りに、マガジン内の弾丸全てを左右へと掃射する。
 だが、シーアはショットガンによるそれ以上の射撃を諦め、バックパックのラッチに戻した。
 銃身の過熱により、連射サイクルが低下し始めた為だ。 室内戦では非常に強力な銃だが、弱点も存在する。
 右手にマシンピストルを構え、シーアは通路へと飛び出した。 一気に敵の目前へと接近し、トリガーを引く。
 機関銃並みの速度で容赦なく連射される、弾丸の雨。 血飛沫と脳漿を撒き散らし、次々と敵が倒れていく。
 だが、数秒で弾倉内の弾丸を撃ち尽くしてしまう。 その隙を狙って、味方の死体から這い出した一人の男がライフルを構える。
 マガジンの装填が、間に合わない。 そう判断したシーアは、スライドが後退したままの左手の銃を突き出し、トリガーガード内側のスイッチを押した。
 瞬間、強烈なフラッシュが正面の男の顔を三度、襲う。 視界を奪われた男が、闇雲にライフルを発砲する。 だが、シーアのいる場所からは大きく外れていた。
 シーアは一気に間合いを詰め、弾丸の入っていない右手のマシンピストルを男の頭に突き付けた。
 男は銃を取り落とし、両手をあげる。 そして、口を開いた。
「……どうして、俺達を平気で撃つんだ? お前には、躊躇いはないのか?」
 くだらない質問だが、この男で作戦は終わりだと思うと、何故か答えてやる気になった。
「躊躇して、何かメリットがあるか?」
「お前、たったそれだけで……!?」
「いや、それだけじゃないさ」
 右手のマシンピストルの銃口を首に押し当て、シーアが口を開く。
「オレの邪魔をするヤツは、何であろうと潰す。 お前らは所詮、歩いているうちに偶然踏み潰しちまった虫と、何も変わりはしないんだよ」
 そう言って、左手と同じようにトリガーガード内側のスイッチを押す。
 瞬間、銃口まわりに紫電が奔る。 アンダーレールに装着した、スタンガンユニットが起動したのだ。
 男が気を失い、その場に倒れる。 すぐさまマガジンを交換するが、既に敵は全員動けない状態だった。
「……終わったか」
 階段を上がり、駐機スペースに到着する。 残っているのはMTが五機と、装甲車が四台。 それだけだった。
 MTのコクピット全てに爆弾をセットし、装甲車も一台を残して爆弾をセットする。 あとは自分が脱出してから、起爆するだけでいい。
「アルフ、聞こえるか? こっちは終わったぞ」
『お疲れ様です、レイヴン。 敵組織への協力者の正体は掴めましたか?』
「ああ、それに関してだが――」
 瞬間、背後の音に振り返って銃を構える。 そこには、メットとボディアーマーで武装した、小柄な敵兵がいた。
「……丁度いい、コイツに聞いてみるか」
 目の前の兵士は、アサルトライフルを持ってはいるものの、構える様子が全くない。 近づいて銃を奪い取ると、兵士はその場にへたり込んだ。
 顔を見るため、メットを取る。 そして、その者の正体にシーアは若干、戸惑った。
 ――女だと?
 女性兵であるというのならまだわかるが、どう見てもそのような雰囲気は感じられない。 まだあどけない顔の、一〇代の子供だ。 鍛えられた様子は、全くない。
 その酷く怯えた顔を見て、シーアは先程までとは違う、少し落ち着いた声で、問いかけた。
「……お前は何故、ここにいる?」
「……連れて、来られたの。 私のおじさんが、いい仕事場を、紹介してくれるって。 そしたら、知らない」
 怯えて涙を流しながらも、少女はゆっくりと話を続ける。
「……どうして? なんで皆、死んじゃうの? どうして皆、お父さんみたいに死んじゃうの? 私はどうして、こんなことしなくちゃいけないの? ねぇ……」
 少女の声が上擦り、か細くなる。
「……私も、ここで死んじゃうの?」
 それ以上は、聞いていられなかった。
 シーアは銃を収めて、少女の重い装備を外してやる。 そして、出来る限り丁寧に、話しかけた。
「……君を傷つけるつもりはない。 ただ、ここは危険だ。 オレについて来れば、生き残れる。 どうする?」
「……私も行く」
 シーアは少女を抱きかかえて、キーの刺さったままの装甲車に乗せ、自分は運転席についた。 キーを回し、エンジンに火を入れる。
「アルフ、孤児の少女を一人保護した。 リヴァルディに連絡しろ。 それと……」
 一度間を置いてから、先程のアルフの問いに答える。
「敵はおそらく、ソグラトだ」
 言いながら、アクセルを踏み込む。 車両専用の出入り口へと車を走らせ、閉まったままのフェンスを突き破り、基地から出る。
「アルフ、ビーコンの位置にミサイル発射だ」
『了解』
 森の中から突如、七発のミサイルが発射される。 それを合図に、通信が入る。
『よぉ整備士、そっちは終わったか?』
「ああ、任務完了だ。 敵のMT部隊は殲滅、装甲車も残ってない」
 言い終えると同時、駐機スペースに向かったミサイルが着弾し、爆発した。
 爆炎が舞い上がり、木々を揺らす。 キースとの打ち合わせで、ミサイル発射を合図に合流することになっていたのだ。
「それで、そっちはちゃんと合流できたのか?」
『当たり前だろ。 さっさと機体の場所まで戻って来いよ』
 言われずとも、進路は既に愛機の方へと向けていた。 機体を待機させている場所に一番近い道路で車を止め、少女を抱えて合流地点へ向かう。 そこには既に、AC輸送車と、フィクスブラウの他にもう一機、ACがいた。
「機体の右腕がないということは、お前がゼオか」
『その通り。 初めまして、だな。 スコープアイさんよ』
 機体の外部スピーカー越しに話かけてきたその声は、ブリーフィング時に聞いた声と相違ない。
「わざわざキースのお守り役、ご苦労だったな。 面倒だったろう?」
『ああ、全くだよ……今後は遠慮したいね』
「おいおい、そりゃないだろうよ?」
 ウイスキーを煽りながら、輸送車からキースが降りてきた。
「まぁいいや、さっさと機体を輸送車に入れちまえ。 んで、その抱えてる子はどうした?」
「ああ、孤児を保護したんだ。 悪いがゼオ、リヴァルディまで送ってくれないか」
 シーアが少女をその場に下ろしながら、機体に乗ったままのゼオに話しかける。 が、ゼオは文句を垂れた。
『おいおい、 俺の機体のコクピットにゃそんなスペースはないぜ? 腕に乗せてやろうにも、片腕じゃ武器をどうすんだって話だ』
 ゼオの言うとおり、ACのコクピットには普通、一人乗るのがやっと
のスペースしかない。 二人乗れるほどの余裕など、普通はないのだ。
「だが、マイはそれを無視して一人乗せて連れ帰ったことがあるぞ? 帰艦までの道程の長かっただろうな……まぁ、お前にできないというなら、仕方ないが」
 分かりやすい挑発だが、マイと同期のレイヴンであるゼオにとっては、やはり感じるものがあったのだろう。
「あー、わかったよ! 乗せて行くから、早くしてくれ」
 ゼオの機体が屈み、コクピットハッチを開放する。 そして、少女にそれに乗るようにシーアは促した。
「アイツがオレの仲間の所まで連れて行ってくれる。 そこまでいけばもう安全だ、心配しなくていい。 皆、君を歓迎してくれるはずだ」
「……ありがとう、ございます」
 まだ若干の不安が残る顔だが、それも仕方ないだろう。 自分達が危害を加えない者であると証明するのは、難しい。
 だが、リヴァルディのクルー達ならば、なんとかしてくれる。 これまでに何人もの孤児を保護してきたという実績がある上、自身もその雰囲気を感じているからこそ、確信できる。
 少女がACに乗り込み、コクピットハッチがロックされるのを見て、自分も機体を輸送車に入れる為に愛機のコクピットに着いた。
「悪かったなイリヤ。 待たせてすまない」
「それほど長かったわけでもないわ。 彼らがここに着いたのが、割と早かったから」
 なるほど、確かにそれなら退屈はしなかっただろう。 口うるさいキースの相手をしてどう思ったのかは少し気になるが、それはまた後だ。
「キース、機体を固定したぞ。 出してくれ」
『あいよ。 機体にカバーかけたらこっちに来いよ』
コクピットを出てから、イリヤに手伝ってもらいながらカバーをかけて、運転席に向かう。
 シーアは通信機のスイッチを入れて、回線を繋いだ。


―AD109/07/24
〇〇:二三―

 ――来たか。
 繋がった回線に、応答する。
「こちらザックセル。 スコープアイ、終わったか?」
『こちらスコープアイ、旧補給基地の制圧を完了。 ゼオとの合流も完了した』
 どうやら問題なく制圧できたようだ。 期待通り、かなり手早く制圧が完了してくれた。 船員の緊張も少し和らいでいる。
「よくやった。 ゼオから話は聞いている、孤児はこちらで保護しよう。
……それで、裏は取れたか?」
 作戦開始時より懸念していたその答えを、シーアがようやく口にした。
『敵兵の装備のボタンを調べた結果、ソグラト警備隊のものと同一だった。 一人ではなく複数人が、だ。 よって、今回の作戦はソグラトによる謀略である可能性が高い』
 ――やはり、予想していた通りだった。
「……わかった。 そちらは予定通り、第二段階に進んでくれ」
『了解。 これより作戦第二段階に移行、次の定時連絡まで回線を閉鎖する』
「ああ、頼む」
 回線が切れ、何人かがこちらを見る。 先程のシーアの言葉に、皆驚いているのだろう。
「アハト、聞こえたな?」
『ああ。 これよりソグラトに向かう』
「代表を逃がすな、絶対にだ。 捕まえたら連絡しろ」
『了解』
 司令室内がどよめくが、シェルブが顔を上げた瞬間、すぐに全員の表情が引き締まる。
「総員、戦闘体制に移行。 ……マイ、聞こえるな」
『……はい』
 シェルブが想像していたよりも、マイはずっと落ち着いていた。 だが、
彼を更に苦しめるであろう事を隠しているという事実が、僅かに不安感を描き立てる。
 だが、それが今は最善の策だ。
「……マイ、補給部隊を停船させろ、今すぐにだ!」
『了解……』
 蒼竜騎が補給車両の前方に立ち塞がり、その進路を塞ぐ。 補給車両はそれを見て、すぐに停止した。
 だが、それと同時にレーダーに反応を確認して、エイミが叫ぶ。
「ボス、右舷と艦後方に敵勢力を確認! 地中進行型と二脚型のMTです!」
「来るぞ! 迎撃しろ!」
 リヴァルディの機銃とミサイルポッドが展開し、一斉に攻撃を開始する。
「シルヴィ、ポイント・イエロー方向に狙撃機がいるはずだ、探し出して先に撃て!」
『り、了解!』
 こちらが気付いたと感知した瞬間の、この対応。 これは完全に、最初からこちらを狙うつもりだったということだろう。
 だが、サンドゲイルは素人に追い詰められるような組織ではない。 次々とMTを撃破していく。
 だが、シェルブが最も恐れていた事態が、起きていた。
「マイ、どうした? 早く迎撃しろ!」
『でも、親方……』
 蒼竜騎が、動いていない。 補給車両の前に立ち塞がったままだった。
 シェルブが最も恐れていた事態は、まさにこれだった。 つい先程までいた町の、MTを相手にすること。 それはつまり、MTパイロットである町の警備隊員を、殺してしまうかもしれないということだ。
 少なからず世話になったことのある相手を、殺してしまうかもしれない。 それ以前に、戦うことに対して、迷いが生じている。
 だが、レイヴンにその迷いは許されない。 それはすなわち、自らの死に繋がるからだ。
「――お前の言いたいことは分かる。 だが、敵である以上、戦わなければ我々がやられてしまう。 そんな醜態を晒しながら、何が守れるというんだ?」
 その決断は非常に心苦しいものだろう。 だが、いずれは乗り越えなくてはならない壁だ。
 理想と、現実。 その二つを完全に両立するのは、難しい。 だからこそ、その選択が出来なければならない。
 その選択を、今、ここでしなくてはならない。 この先、何度も同じ分岐路に立たされるであろう彼に、選ばせなくては。
「マイ、お前は、どうする――」


 正しい答えなど、既にわかっている。
 だが、それは何を持って正しいと言えるのか? 何を基準にしているのか?
 だからこそ、迷っている。 今ここで、答えを出したくはない。
 それでも、時は残酷だ。 人が望む通りに、待つことはない。
 蒼竜騎に、地中からMTが襲い掛かる。 背後からの奇襲、殺到するパルスガン――
「畜生!」
 マイは機体を右に動かしてパルスガンを避け、右足を軸に左回転させる。 そして、左腕のレーザーブレードを振るった。
 MTが正面からその光刃を受ける。 その凄まじい熱量が、一瞬にしてMTを真っ二つに溶断した。
 マイは、その威力に驚愕した。 シーアがエネルギーラインを丸々移植したと言っていたが、本当にそれだけでここまでの違いが出るものなのかと、疑ってしまう。 同時に、咄嗟の出来事に反応してしまった自分が、なぜか悔しく思えた。
 だが、そんな感傷に浸っている場合ではない。 MTはまだ残っている。
 地中を進むMTにマシンガンとロケットを浴びせる。 爆発して、砂を舞い上げる。
「どうして、こんなことを……」
 迷いつつも、戦うしかない。 鴉の本能が知らずに染み付いていることをマイは悔いながら、マシンガンを二脚MTに向けた。


―AD109/07/24
〇〇:五二―

「……終わったか」
 サンドゲイルはソグラト警備隊を一切の被害なく、無事迎撃した。
 MTパイロットの多くが投降し、その証言の結果、シェルブの予想通り、ソグラト管理部はサンドゲイルの物資を奪うつもりだったらしい。 同時に、ソグラト他、ポイント・イエローと呼称していたコロニー郡はどこも物資に悩まされており、物資を巡っての対立関係ではなく、協力して物資が奪われた形に見せかけることでエデンⅣからの補給物資をより多く手に入れようと共謀していたことが判明した。
 ソグラト代表はアハトが無事に確保、保安部隊に引き渡した。 おそらく、罪を問われてエデンⅣに身を移されることになるだろう。
 そして現在、任務を終えたリヴァルディは現在、大西洋を渡ってトラキアへ戻る準備のために、海沿いの町を目指している。
 だが、その前にシェルブには、マイに言わなければならないことがあった。 ガレージに戻ってきたマイを、自分の部屋に連れて行き、座らせた。
「……マイ。 お前には、話さなくてはならないことがある」
「……はい」
 覚悟を固めたような顔つきのマイ。 だが、自分がこれから言うことは、彼の予想している言葉とは大きく違うものだろう。
 間を開けてから、シェルブは口を開いた。
「……イリヤのことだが、彼女は友人の下に預けることにした」
「……何だって?」
 マイが驚き、思わず腰を上げる。
「落ち着け。 いいか、彼女を保護するには、我々では荷が重い。 彼女が来てからというもの、企業の部隊に狙われる節が多すぎる」
「それなら俺がちゃんと守りますから、だから……」
「お前だけでどうにかできる話ではない!」
 場の空気が、緊張感に満たされる。
「でも、どうして預けるんですか? そんなことをすれば、その人が危険な目に……」
「取引をした」
 その一言に、マイが反応する。
「……どんな、取引ですか?」
 正直に、話さなければならない。 おそらく、マイが許容できないことを自分はしている。 彼女を助けるというマイの決意を、自分が阻んでしまっている。
「彼女の引渡しと交換条件に、ミラージュに『サンドゲイルには手を出さない』という確約を取り付けてもらうことになった。 取引相手は、ターミナル・スフィアだ。 シーアが今、オフィスのあるエデンⅣに向かっている」
 たまらず、マイが立ち上がった。
「どうして、そんなことをしたんですか! イリヤは道具じゃない、それなのに、取引材料にするなんて……」
「なら、お前はミラージュの大部隊を相手に、一人で相手が出来ると思うのか?」
 シェルブの言葉に、マイは答えられなかった。 答えは当然、決まっているからだ。
どんなに願っていても、叶わぬことはある。 理想と現実は別物だ。 もっと冷静に、状況をよく考えろ。 自分はどうするべきなのかを、な……」
 シェルブが言い終える前に、マイは部屋を飛び出した。 脇目もふらずに走り、自室に戻る。 鍵を閉めて、壁に背をもたれさせる。
「畜生、俺は……俺は……」
 自分の力不足なのか。 それとも、他に何か足りないものがあるのか、わからない。
 わからないことが悔しくて、マイはただ、拳を壁に叩きつけることしか出来なかった。



 第十五話 終

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