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第一話*②*



 若干離れた場所から本来の進路へ復帰した直後、通信回線に指示が入る。
『施設外周部戦域の制圧が完了しました。隔壁開放と共に、速やかに施設内部へ進攻して下さい──』
 総合通信士が述べ、マイは前方二四五メートル前方に聳える旧世代施設の大型隔壁を拡視界に納める。第二陣主戦力より先行していた供出軍の特殊工作MTが複数機、隔壁設備外盤部に取り付いている。
 機構制御を直接掌握する算段なのだろう。遥か前方を突出していた友軍機〝シックザール〟が機動速度を緩め、後続戦力の到着を待つと共に機体姿勢を臨戦態勢へと移行する。
『──さあて。お仕事、お仕事♡』
 今か今かと手を揉んでコクピット内部で待つ彼の姿を脳裏に浮かべ、アレで仕事上本腰入れているのだから何だかな──マイは一人思った。
 特定周波数で結んである通信回線から漏れた独り言を聞き流し、蒼竜騎に戦闘態勢を取らせる。予定外の介入はあったが、機体状態に目立った変動はない。短機関砲の弾薬消費は最小限に抑え、装甲損害も皆無である。
「漸く出番か──」
 低く呟き、マイはブースタペダルをぐっと踏み込んで蒼竜騎の機動速度域を巡航機動から完全な強襲機動に押し上げる。残り火が燻る周囲の景色が飛び過ぎ、先行していたシックザールを瞬く間に追い越した。
「──蒼竜騎、突出する。後続に紛れて遅れるなよ、ゼオ?」
『安い挑発文句は止せよ、ドラグーン。出会い頭にヤラれても、ケツを拭くのは勘弁だぜ──』
 軽い冗談を飛ばし合った矢先、隔壁設備に取り付いて制御機構の掌握を図っていた工作MTのパイロットの通信報告が入り込んできた。
『こちら工作部隊、隔壁設備の機能を掌握した。施設隔壁の開放を実行する──』
 その報告を確認した作戦司令部の総合通信技官が続いて、
『設備隔壁の開放まで残り一〇秒です。縦列密集隊形を維持し、内部迎撃戦力を殲滅してください──』
 更に機体速度を跳ね上げると後続戦力もそれに呼応し、ごく自然な流れで突入制圧用の密集隊形が構築されていく。マイは蒼竜騎をその最先鋒に立て、右腕部マニピュレータに握った短機関砲を持ち上げる。
 重厚な建造方式の隔壁が左右に押し開かれ、マイは逡巡なく蒼竜騎に突入機動を取らせた。
 ほぼ完全に開放された隔壁奥部に無数の熱源反応を感知、カメラアイが施設内部の迎撃戦力を捉え、マイは突進機動から蒼竜騎の機体を左右に振り回した。
「っと、修理費は安く済ませたいんでね──!」
 一拍遅れて煌いた無数の高出力収束光が前方から照射され、その殆どが蒼竜騎の周りを飛びすぎていくか、軽く外部装甲を掠める。運悪く収束光の集中照射を浴びた後続ACが二機ほど決定的な打撃を受け、突進機動を停止してその場に横転、周囲のAC群が巧みに回避して突入を続行する。
 設備隔壁を潜り抜ける刹那、マイは素早く操縦把の付随端末を操作し、火器管制機構の管制対象を右背部兵装へと転換──ミサイルコンテナを展開した。
 仄暗い内部で迎撃態勢を敷く敵性個体群──ごく単一的な形態のパルヴァライザーが、遍くその青白い不気味な眼光を揺らめかせる。それらを多重捕捉し、即座に射出スイッチを押し込んだ。
 計八基の小型地対地ミサイルが先行して内部へ進入、その弾幕を隠れ蓑に用い、蒼竜騎を一気に内部へ滑り込ませる。最も手近な目標に向けて突進攻撃を仕掛け、短機関砲による遅滞掃射を浴びせた。回避機動を遅らせた四脚形態の目標がミサイル弾頭を正面右側から受け、その隙を突いてレーザーブレードから刀身を現出、高熱量に任せて目標の胸部を袈裟懸けに切り裂いた。
 沈黙した目標が崩れるのを待たず、機体を転回させる。
 後の先を取ったマイの攻撃が功を奏し、後続の友軍AC達も既に他の敵性動体を始末していた。応対攻撃を受けてなお突入攻撃を続行、最初の防衛戦力を制圧──友軍の損害も二機に抑えた。手始めの戦果としてはまずまずだろう。
 戦闘音の収束を聞く傍ら、タッチパネルを叩いて施設内部の位置情報をHMD画面に出力する。今回の作戦に先んじてミラージュ社は事前に調査部隊を派遣、多大な損害と引き換えに設備隔壁とその先の資材保管施設の全容を解析したのだ。
 ここを起点にして地上及び地下の方々へ広大な空間を構築しており、直結する連絡通路は現在地点の資材保管庫に合計七箇所用意されている。
 第二陣主戦力の兵力数は現在六機──進路が重複するという事はないだろう。識別信号〝04〟を発信する友軍AC──シックザールがまず、名乗りを上げた。
『04、一番連絡口からの制圧行動を開始する──』
 シックザールは傍の連絡口へと通常歩行で歩み寄り、隔壁を開放する。その先へ機体を進ませていく中、搭乗者のゼオから通信が入った。
『戦埠は切られちまったが、此処からは一足先に稼がせてもらうぜ。じゃあな、ドラグーン──』
「ああ。──ゼオ、充分に気をつけろよ?」
 彼は軽く鼻を鳴らし、それを最後に特定回線で結んでいた通信体制が解消される。
 それから立て続けに他のレイヴン達が各々の進入経路に進んだ後、資材保管庫に残ったのはマイの搭乗する蒼竜騎のみとなった。
「さて──……」
 一人残った広大な資材保管庫内を、カメラアイを転回させてぐるりと見回す。
 自ら先陣を切って突破口を切り開いたのだ。せいぜい花を持たせるなどという殊勝な考えがあった訳ではないが、遅かれ早かれ何処かのルートに入るのならと、最後まで名乗りをあげなかった。
 友というには聊か血生臭い間柄のゼオが消えた連絡口の隔壁を見咎め、マイは小さく嘆息する。
 ミラージュ社が提示した施設内部進入後の戦術は、単独行動による内部探査と武力制圧だった。調査部隊に多数の損害を出したミラージュ社が、それ以上のリスクを抑える為にレイヴン──取り分け、無所属の自由傭兵を中心に依頼をかけてきたのは簡単に理解できる。
 しかし、マイは単独行動による作戦遂行を提示してきたというその意図に、疑問を感じていた。
 たかが一つの遺跡化した旧世代軍事施設とはいえ、蒼竜騎の佇む資材保管区だけでも恐ろしく広い。施設の全容となるとさらに大規模である事は、未探査の現段階で確信しても問題ない。
 一定以上の規模を有する未探査区域を調査する際は、通常二機一組の行動班に分かれ、行動するのが大原則として挙げられる。生存確率を上げると共に未探査区域の網羅を確実なものとするには、それが最良の寸法だからだ。
 ミラージュ社はそれを選択せず、単独行動による作戦遂行を指示した──。
 作戦前から考えていた事を再び頭に持ち出していた事に気づき、マイはかぶりを振った。
 不利な条件下での作戦など、これまでに幾度となくこなしてきた。原隊が関与しない初の単独出向任務とはいえ、今回もそんな依頼の一つに過ぎない。マイは頭の中から、それまでの思考を追い払う。
 何れのレイヴンも進入していない連絡口の位置座標を出力し、そこへ蒼竜騎を向かわせるその途中、ふと踏みしめる地盤に意識が向き、カメラアイを足元へと下ろした。
 無機質な素材で構成される地表部で俄かに瞬く淡青色の発色光を見咎め、マイはマルチコンソールを叩いて搭載センサー群の情報収集に指向性を与える。搭載センサー群が瞬く間に情報を収集解析し、それらがHMD画面へと出力される。
「……──資材運搬用の昇降設備?」
 事前に与えられた内部情報には記載されていない事実を発見し、マイはどうしたものかと一時思案した後、作戦司令部との通信回線を用いて連絡を取る。
「オペレーター、こちら〝01〟──該当座標の設備機構を操作できるか?」
 位置座標の転送から暫く後、
『施設全域の隔壁及び昇降設備の基本機能は掌握済みの為、可能です』
「よろしく頼む──」
『了解しました。昇降設備を起動します──』
 総合通信技官が至極冷静な、明け透けにいえば抑揚に乏しい口調で述べる。それから数秒後、蒼竜騎が目の前に佇む地表の昇降用プレートが重厚な動作音と共に作動、青白い輪郭線が浮かび上がる。
 昇降設備の完全な起動を確認してから、マイは大型昇降台へ蒼竜騎を移動させた。
『停止階層は?』
「施設制御用の中枢機構があるとすれば、最下層だろう。下まで降ろしてくれ」
 その要求に総合通信技官が何の詰まりもなく応え、間もなくして昇降機が下降を開始する。地下から届く風が昇降台外縁部の隙間を抜けて吹き上げ、奇異な風音を立てる。
 それは冥府への誘いの音のようであり、ここで果てた何者かの慟哭のようでもあった。戦域環境情報のひとつとして収集されるその音源を耳に入れる中、索敵レーダーが資材保管区に現れた動体反応を捕捉、蒼竜騎のカメラアイを突入してきた設備隔壁の方へ向ける。
 丁度、一機のACが内部へと滑り込んで来た所であった。
 その機影を肉眼に捉えた瞬間、昇降機の下降高度が蒼竜騎の巨躯を越えた為に視界からACの機影が途切れる。しかしマイは、そのACに見覚えがあった。
 確か、内部突入の直前に手を貸したACだ──。
 第一陣主戦力の担当は施設外周部戦域だが、事前のブリーフィングで自己判断により施設内部の制圧作戦への参加は可能と、作戦司令部から提示されていた。
 恐らくその先鋒として、入り込んできたのだろう。
 下降高度が下がり続ける高度計を確認し、マイは意識を鋭く改めた。
 高度計の数値が地下五〇〇メートルへ到達した時、歪な模様の内壁が広がっていた前方の視界が開けた。
 透明な隔壁を隔てた先には無尽とすら思える空間が広がり、空調設備の通風管か或いは輸送用レールとも取れるパイプラインが縦横に折り重なって伸びている。
 その建造様式は、現在の何ものとも異なる極めて異質な物であり、マイはその光景に眼を細めた。
「本当に、人類がこんな力を持っていた時代があったんだな……」
 現代の科学力では恐らく、旧世代が創り出したこのような施設を再現する事は困難だろう。
 遥か昔に断絶した歴史を隔てた時代に、現代の人類が呼ぶ〝旧世代〟は存在した──とされている。
 人類が気候や資源、生命すらも自在に造り変えたと言われる時代の記録は、後世の人類が繰り返した果てない戦乱の中で失われていった。
 マイとてもちろん深く知る訳でなく、それらを知る知識層などの関係筋から時折話を聞く程度のものでしかない。現在地上に生きる人々の大半は、遥か昔のそれらなどは、おとぎ話で語られる程度でしか知らないものだ。
 ──旧世代文明は、人類が最も深い暗部に遺した遺産なのだ。
 やがて前方に広がっていた世界が元の昇降設備内壁に戻り、それから程なくして蒼竜騎を搭載した昇降機が停止した。
 それに併せて正面の大型隔壁が滑り、奥へ一本道に伸びる通路が姿を現す。搭載センサー群が収集する戦域環境情報に動体反応がないことを確認してから、マイは通常歩行で蒼竜騎の足を踏み出させた。
 鋼鉄の脚部が発する重い足音の反響音が容易に耳に出来る程通路は静謐に満ち、橙色に発光する警戒灯のみが等間隔で瞬いている。
 ハズしたか──?
 不測の事態に瞬時に対応できるよう、右腕部に携える短機関砲の砲口は上げたまま、連絡通路の先へと蒼竜騎を進ませていく。搭載センサー群によって未踏査地区の詳細が構築され、十数分程経過した頃に漸く探査地区の全容が明らかになった。
 旧世代施設地表部の何倍もある、恐ろしく広大な設備空間だ。
 そしてマイはその時、丁度一つの一際巨大な設備隔壁の前に蒼竜騎機体を到達させていた。設備隔壁の周囲を探査したところ、何処からか電力供給を得て稼動状態にあることは把握できた。しかし肝心の操作機構などは見当たらず、総合通信技官へ無線を飛ばす。
「此方01、閉鎖隔壁前に到達した──」
『了解──。……──レイヴン、当該探査区画の隔壁設備機構は、完全に独立状態で機能している様です。此方からの制御は出来ません』
 マイは、何となくそんな可能性を察していた。昇降設備の下降途中で既に、上層部の旧世代施設とはどうにも様子が異なるのを直感的に察知していたのだ。
『──別働ACが、中枢設備への進入経路を発見した模様です。最短ルートを転送しますので、レイヴン、貴方も合流してください。当該階層へは中枢設備の掌握後、改めて工作部隊を派遣します』
「了解──」
 マイは冷静に返答する。番外経路を辿って最下層部へと到着したにも関わらず、何の収穫もなくとんぼ返りする事になるとは何とも締まらない話だ。しかし文句を垂れた所でそれに言葉を返す者はおらず、溜息を呑んでマルチコンソールに手を伸ばす。
 作戦司令部とのデータ・リンクを通じて最新の戦域環境情報を圧縮したファイルが転送され、パスコードを打ち込んでアップロード準備を確立。ローディング・ゲージが四〇パーセントまで順調に進行した時、不意にエラーメッセージが表記され、データ・リンク体制が一方的に解除された。不審に思いマルチコンソールに叩くが、システムが復旧する兆しは見られない。
 通信回線から作戦司令部に連絡を試みるが、応答の様子はなかった。
「どうなってるんだ──?」
 搭載センサー群は微弱な妨害電波を検知しているが、それは致命的なものではない。
 作戦司令部、もしくはこの階層から上に問題が──?
 通常歩行で蒼竜騎の機体を方向転換させようとした時、設備隔壁が不意に起動、設備外周の青白い警戒灯が先ほどよりも激しく明滅し、サイレンが鳴り響く。そして最後に、一際巨大な隔壁が重厚な作動音を立てつつ上昇し始めた。
 連絡の途絶えた作戦指令部が設備隔壁を〝どうにか〟て開放したのかとも勘繰ってみたが、どうにもマイの冷静な頭はその楽観的な可能性を否定していた。
「鬼でも大口開けて待ってるってか……」
 総合通信士は、別働ACが中枢設備への進入経路を発見したと言っていた。しかし、それはあくまで発見の段階に過ぎない。現場合流は暫く遅延するが、開放された設備隔壁の先に現れた新たな未踏査地区の把握を優先すべきだろうとマイは判断、蒼竜騎を隔壁の向こうに広がる空間へと歩み出させた。
 一点の光もない深い暗闇に包まれた異質な空間を前に夜間戦闘用システムを起動させようとしたが、それを見計らったかのように空間内を眩い光源が照らし出した。
 随分と広いな──。
 口にこそ出さなかったものの、胸中で一番にその感想を述べた。
 入り口に佇む蒼竜騎の前には、これまでみたものと同程度に広大な空間が広がり、その様式は五角柱を横倒しにして引き伸ばしたようなものとなっている。半透明の足場には何らかの意味を成す光源体が流れており、それの足場を隔てて、蒼竜騎は空間高度の中ほどに立っていた。
 横面内壁にはハッチと思しき設備が備わっており、足場を隔てた下層部にも同様の設備が散見できる。内壁から染み出した冷気が大気を満たし、HMD画面に出力した気温計を見やると外気温はマイナス数十度を計測していた。
 高度も幅も遠大な規模の空間の奥に別な隔壁があり、この先にも何かがあることを窺わせる。
 搭載センサー群が空間環境情報を収集、有視界内に異質情報を捉え、メインディスプレイに拡視界で出力する。隔壁の右手上部に位置するハッチが、既に開閉済みとなっていた。
 その視覚情報の把握からコンマ数秒以下──状況の急展開に対応できたのは、戦士として長らく培われた経験則のお陰だった。
 条件反射がマイの身体を鋭く突き動かし、ブースタペダルの踏み込みに合わせて外部補機兵装の起動スイッチを押し込む。高出力の噴射炎が後背メインノズルと肩部付随型スラスターから一挙に吐き出され、蒼竜騎が時速五〇〇キロ以上の瞬間推力を持って前方に飛び出した。
 しかし、その回避機動ですら無傷でやり遂せるには遅すぎたらしく、次の瞬間、重い衝撃が蒼竜騎の半身に叩き付けた。
 目まぐるしく流動する有視界の中で上腕部から切断された左腕が宙を舞い、蒼竜騎を後背へ急速転回させる。
 解析システムが左腕を襲った高出力の光学兵器による焦熱性損害を報告、戦術支援AIが機体磨耗率の増大を音声報告する。
『左腕部大破、機体磨耗率四〇パーセント──』
 半透明の地表部へ激突した左腕が轟音を立てながら横転し続け、内壁に衝突して漸く止まった。
 視界を前方に固定し、突如出現した敵性個体を捕捉する。
 現存の類似兵器に例えて中量級二脚機の形態を模した異形の存在──パルヴァライザーと呼称される旧世代兵器がそこに佇んでいた。
 ──索敵レーダーが、動体反応を検出しなかった。
「──迷彩機構か、面倒なもんだ……」
 捕捉目標に接近されるまで、気づくことが出来なかった。現在も索敵レーダー上には、動体反応がない。
 現存技術の何れよりも、遥かに高次化された代物だという事は疑いようがない。極至近距離にまで接近されても、僅かな動体反応すら索敵レーダーが検出できなかったのだ。
 これまでの画一規格の粗雑兵器とは異なる上級戦力を前に立ち、マイは歓喜にも似た喜びの笑みを浮かべていた。それは実戦に臨む者が常に抱く恐怖とは別の感情──常に死の可能性を背負って立ち続ける者の一部が持つ、強者と合間見えた時に垣間見せるものだった。
「ち──、この代償は高く付くぞ?」
 軽く毒づき、マイは右腕操縦把を振るって短機関砲の砲口を跳ね上げた。轟音と共に高速徹甲弾の砲弾を高密度にばら撒く。
 しかし、捕捉目標は青白い噴射炎を後方二基のメインノズルから吐き出すと、正に掻き消えたと形容しても過言でない速度で弾幕の嵐の中を潜り抜けた。
 索敵レーダー上に変わらず反応はない──しかし、捕捉目標が発散する高出力の熱源に対し蒼竜騎の搭載センサー群は的確に反応していた。役に立たない索敵レーダーの代わりに他の搭載センサー群を基にした索敵しシステムを扱い、マイは捕捉目標の機影を一時たりとも有視界の中から逃さない。
 蒼竜騎の応対攻撃に対してパルヴァライザーは、先ほど至近距離から弾幕を回避して見せた圧倒的な機動力を存分に生かし、広大な施設空間内の空域を移動する。腕部ターレットが稼動域の限界に達しようとした時、唐突に回避機動から蒼竜騎に向け、突進攻撃に転じた。高速徹甲弾による弾幕を最小限の機動力のみで最大限回避してみせるという所業をこなし、パルヴァライザーは両腕部一体型の兵装を同時に持ち上げる。
 ──蒼竜騎の左腕を上腕部から奪ったのは、コイツか。
 搭載センサー群が捕捉目標の兵装を照合、速やかにHMD画面に詳細をアップロードする。
 その兵装はステルス技術と同様、現存技術のどれにも当てはまらないものだ。しかし、兵器構造や性能については幾らか解析されている。
 五年前に突如発生し、世界情勢を激変させた【兵器災害】の黎明期──旧世代文明の遺した亡霊達は、驚異的な軍事力を持って人類を蹂躙した。明確な対処法もなく、事態が小康状態へと遷移した頃には地上にいたとされる二〇〇億人超の人類は、推計で約四割ほども減少したとされている。正確な被害数は、現在も把握されていない。
 だが、人類に大打撃を与えた旧世代技術も徐々にではあるが、統治企業群や統一連邦などの隷下専門機関によって解析されつつある。
 捕捉目標の兵装は、高収束率を持つ結晶体を基軸にした発振装置である。光学兵器として遠隔攻撃性能に優れながら、同時にガスレーザーを結晶体周囲に展開させる事で近接兵装としての実用性も併せ持つ。
 後者としての機能を発揮したその兵装が、左腕部を両断したのだろう。
 蒼竜騎に肉薄するパルヴァライザーは両腕部一体型兵装の発振装置から刀身を現出させ、それを大きく振り被る。
「二度も同じ手を喰らうかよっ」
 急速接近を試みる目標に対し、火器管制機構の捕捉ラグを瞬時に手動補整、マイはトリガーを全力で引く。
 高速徹甲弾の弾幕がレーザーブレードより寸拍早く、パルヴァライザーの胸部装甲に到達した。高密度の弾幕の直撃によって機体が後ずさり、しかし、捕捉目標はこの好機を逃すまいと後方メインノズルから噴射炎を吐き出す。胸部機構の損害を犠牲にして、強引に前進してきた。無人兵器だからこそできる芸当だ。
 マイは軽く舌を打ち、速やかに外部補機兵装のスラスターから噴射炎を吐き出させる。袈裟懸けに振り下ろされたレーザーブレードの死角へ蒼竜騎の巨躯を潜り込ませ、肩部外皮装甲を代償に致死必至の一撃を回避する。パルヴァライザーが無防備な後背部を曝し、マイは短機関砲による集中掃射を見舞った。
同時に火器管制機構の管制対象を背部兵装へ瞬時に切り替え、ロケットコンテナを前面展開。想定通りの回避機動を取るよう短機関砲による射撃密度を調整し、パルヴァライザーがマイの意図通りに上空への急速離脱を図る。
 マイは咆えた。
「こいつで決まりだ──!」
 短機関砲の弾幕によって後背部に重度損害を受けた捕捉目標に対し、ロケット弾を射出した。パルヴァライザーの胸部へロケット弾頭が吸い込まれ、上空に赤々しい爆炎が発生する。
 致命傷を受けたパルヴァライザーが落下、地表部へ激突した。燃料系統に引火して燃え上がる炎に包まれたパルヴァライザーの傍に蒼竜騎を近付け、砲口を突きつける。機体胸部全域を粉砕された影響により、脚部を喪失したパルヴァライザーの上半身が足元に転がっている。それでも、機能していた。
 青白い発色光を不規則に明滅させ、半ば灼け落ちた両腕で這いずって蒼竜騎ににじり寄る。
 その異様な機械の執念に対し、マイは淡々と高速徹甲弾をパルヴァライザーの頭頂に撃ち込んだ。柘榴のように頭部が爆ぜ、制御系統を失った残骸が炎の海の中へと沈む。
 戦域環境情報に敵性反応がないことを確認し、直にカメラアイで周囲を見回してからマイは第一種戦闘態勢を継続維持したまま蒼竜騎の臨戦態勢を解く──直後、大音響の警告音が鳴り響き、マイは蒼竜騎の右腕部に残された短機関砲を弾き上げた。
 出来る限り空間内を有視界に収め続け、やがて現れた変化にマイは眼を瞠った。
 横面内壁のハッチが開口し、それと同時に搭載センサー群が無数の熱源反応を検出する。
 開口を完了したハッチの搬出口に新たな無人戦力──画一規格のパルヴァライザーが出現する。前後左右全周囲のハッチからそれらが現れ、完全に包囲された格好となった。
「くそ──、本気か……!」
 凡そ絶望的以外の何者でもない状況に対して、マイは蒼竜騎を臨戦態勢に再移行させる。
 増援戦力として現れた防衛戦力群の形態は画一的で、今しがた相手にしたパルヴァライザーとは比較すべくもない粗雑製だという事は直ぐに分かった。数機程度ならば何とかいなせるかもしれない。
 しかし、救いようのない悲運がこの時になって味方したのか、搭載センサー群が捕捉した全周囲を取り囲む敵性動体の総数は、マイが相手にできる技量の限界を遥かに超越していた。
 覆せない事実が、そこにあった。圧倒的物量差というにも厳しい現実を目の前に、マイはこめかみから一筋の汗が流れた事に気づく。
「ハメられたという訳か、俺は──」
 警告音に代わって、天蓋から警戒灯が淡青色の明滅光を降らせ、その下で奇異な青白い妖光がぞろぞろと揺らめく。怖気すら誘うその大群の様相に、マイは酸っぱくなった喉元へ唾を送り込む。
 最初を凌いだとして、その後持つ時間は数秒もない。
 マイ・アーヴァンクは、既に意を決していた。
 戦士として戦場に臨む以上、歴戦の猛者であろうと新参の傭兵であろうと覚悟の程度は大差ないもののはずだ。旧世代戦力を前にしては、人類には降伏の選択肢など最初からない。数秒後に訪れるであろう事実に反して、マイ胸中には極めて獰猛な闘志が滾っていた。
 ならば、最期まで抗ってみせるしかないだろう──。
 隻腕だろうと満身創痍だろうと、現状に至っては最早関係がない事だった。
 増援も見込めないこの場所にあってはここは、死線ですらない。
 不可避の〝死〟のみが待つ、〝死地〟に過ぎないのだ──。
 臨戦態勢を取らせた蒼竜騎のメインノズルから準備用の噴射炎を吐き出し、最も手近な撃破対象である正面のパルヴァライザーを捕捉。
 薄く瞼を下ろし、ブースタペダルへかけた足に力を込め、最後の攻撃を仕掛けようとした直前の事だった。

『──れいヴん、コッちへ……』

 無用ではあったが、万一に備え体制を維持していた通信回線に無線が入った。その不意の事態にマイは前方を正視したまま、HMD画面に映る通信情報を注視した。
 確立状態の通信回線に再度、無線が飛ばされてくる。
『──れいヴん、コッちへ……』
 不気味な程に同じ声音で、全く同じ台詞が繰り返される。その音源情報を不審に考え、解析システムに走査させた結果、極めて高精度ではあるが合成プログラムを用いて生成された合成音声であることが判明した。
 視界前方の隔壁が一人でに開口し、それに併せて全周囲を埋め尽くしていたパルヴァライザーの群列がハッチの中へと一歩下がる。
 マイは安直な推測に縋る都合のいい気質は持ち合わせていなかったが、慎重に周囲の状況を鑑みてから最終的にその誘導へ従う事にした。通常歩行で周囲を警戒しながら隣接区画へ踏み込むと、それを境に隔壁が自動閉鎖された。
 通信回線を通じ、合成音声の新たな指示がコクピット内に響く。
『降リテ、モット、オクヘ……──』
「無茶言ってくれるなよな──」
 一方通行の無線に対して静かに愚痴を返し、マイはマルチコンソールを叩く。蒼竜騎が立つ空間内の大気状態を調査してみたが、人間が生身で踏み込んでも問題ない程度の酸素が確保されている事にひとまず安堵した。光源も十分とまで言えずとも、手探りしながら進むほどではない。
 発信主が不明の無線指示に従う義理はなかったが、そうせねば直ぐにでも危険が迫る事を承知していた。
 ──理由は不明だが、情けをかけられたのだ。従わない訳にもいかない。
 蒼竜騎の機体制御態勢を第一種戦闘態勢から第三種準備待機態勢へと移行、低姿勢に固定する。
 シート脇の収納ボックスから背嚢を取り出して背負い、背嚢側面の収納袋に差した酸素ボンベと防毒マスクをホースで接続し、万が一の場合に備えた。気があるからと油断させといて出た瞬間に、酸素カットでころりじゃ冗談にもならないからな──。
 コクピット内壁からコンソールを操作してハッチを開口、マイは機体背面のタラップを用いて地面に降り立った。被り込んだヘルメットバイザーのHMD画面にはウェアラブルコンピュータからの諸情報が綿密に転送されてきており、そこに記された外気温計は零下十数度を示している。
 最悪空調設備を弄られて気温が低下したとしても、着込んでいるパイロットスーツは防熱及び防寒性能も備えている為、ある程度までは耐えられるだろう
 肩に掛けていたカービン銃を下ろして撃鉄を引き、両手に構えた。
 俯き加減で待機状態にある蒼竜騎を見上げ、
「ちょっと待ってろよ、蒼竜騎──」
 脚部をぽんと叩き、マイは姿勢を低く保って徒歩による移動を開始した。

→Next…

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