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「だ・か・ら! どうしてあたしの機体に試作兵器を載せるのかを聞いてるの!」
 企業連合本部内のブリーフィングルームに響くのは、ヒステリーを起こしかけた女の怒号。
 かれこれ三〇分は続いているだろう、ある部隊の会議だ。
 キサラギ社の開発した試作兵器【INDORA】と銘うたれた射突型物理ブレード。
 外見こそ【RASETSU】と変わりないが、内部に蓄電器を搭載し、ACからの電力供給によってブレード部が帯電。射突型ブレードとしての破壊力に加え、目標に強力な電撃による機能障害を誘発させる事のできる代物である。
 若干一九歳にして、企業連合特務部隊ディエス・イレに所属する女性隊員ドライは、短く切り揃えられた金髪を振り乱し、小柄な体を目一杯使いながら仲間に吠えていた。
「近接兵装なんだからアインが持てばいいじゃん」
「バーカ。フェイクに積んだところで当たらなかったら終わりだろ。機動性に秀でたお前のグローに積むのが一番なんだよ」
 何度目になるのか。怒りの矛先を向けられたソファに深く座る男。ディエス・イレのリーダー格であるアインは、子供のように駄々をこねるドライに、呆れ顔で手を振りながらで答える。
 アインは狼を連想させる鋭い顔つきと銀髪、逞しい体付きから「銀狼」という二つ名を持つが、中身は大の遊び好きな男である。常に様々な笑みを顔に宿し、調子のいい発言を繰り返している。噂では、本部内の見目麗しい女性スタッフ全員と関係がある。とさえ言われるほどだ。
 そんなアインとドライのやりとりを横目に、静かにコーヒーを楽しむツヴァイが口を挟む。
「グローエッジの機動性なら敵の懐に飛び込む事も容易い。フェイクラブはエクステンションのバックブースタを利用したカウンター戦法前提の近接戦。どちらに搭載するかは明白だ」
 ツヴァイの言う通り、アインの機体、中量二脚型のフェイクラブにもレーザーブレードは装備されている。OB型のコアを搭載しているが、自ら近接戦を仕掛けるには重量があるので適さない。
 逆にドライの機体、グローエッジは対AC戦に特化した軽量二脚型。機動性に特化し、ECMを用いて弾丸の嵐を見舞う戦法である。だが、マシンガンとショットガンのみという武装の関係上、重装甲の機体に対してはパンチ力に欠ける。
 それゆえの強化案として、キサラギの試作兵器運用であった。
 問題はパイロットの戦闘趣向である。
 ドライは無数の弾丸で敵を打ち倒すのを好み、白兵戦、AC戦を問わず近接格闘武器を嫌う傾向にある。
 彼女曰く、『格闘戦? 銃があるのに? バッカじゃない』だそうだ。
 試作兵器の開発元であるキサラギ社からの強い要望もあり、企業連合特務部隊【ディエス・イレ】が試作兵器の試験運用を任されたのだが、肝心のパイロットは首を縦に振らない。
「そもそもショットガンなんざ近づかなきゃ威力を発揮しねえ。もう一歩踏み込めば楽にとっつけるだろうが」
 痺れをきらしたアインがグローエッジの戦闘適正距離を指摘する。
「ぐ……そ、それはそうだけど。でも!」
「あ? てめえは敵さんと触れ合うのが怖いチキン野郎か? ん?」
 もはや説得ではなく、挑発の域に達したアインの口調。それでもドライのプライドを刺激するには十分だったらしく、チキンと揶揄されたドライの顔がみるみる紅潮していく。
「だ、誰がチキンよ! いいわよ、やってやるわよ! 別に怖いなんて思ってないんだから!」
 賭けにも似たアインの一言は功を奏し、ついにドライのグローエッジに試作兵器を搭載させる事に成功した。

 絶え間なく重機械の作動音が轟くACガレージ。その一角にディエス・イレの三人は居た。
「でもインドラってどういう意味なんだろ。アジアの言葉だよね?」
 右腕に【INDORA】を装備したグローエッジを見上げ、ドライが言う。
「インドラ……主にアジアで信仰されていた宗教の一つで雷を司る者だったか」
 少し考えた後、ツヴァイが答える。
「なるほど、シャレてるじゃないか」
 ツヴァイの解説にアインが笑う。
 ガレージの片隅でACを見ながら話し合うアイン達。そこに白衣を着た女性が足音高く近づいていく。
「貴方たちが今回の試作兵器運用に協力してくれる部隊ね」
 声に反応し、横目で声の主を見たアインは口笛を吹き、ツヴァイは無反応、ドライに至っては自分の胸元を押さえて絶句していた。
 肩下までのウェーブのかかった血を流したような真っ赤な髪、およそ人間離れした西欧人形を連想させる整った顔立ち、目は気だるそうに垂れているがどこか男を誘っているようにも見える。白のカッターシャツに紺のタイトスカートを着ているが、その胸元は今にもカッターシャツが裂けんばかりに押し上げられ、白衣の微かな重みで辛うじて服の中に収まっているとさえ思える。
「私はラミア。【INDORA】の開発顧問よ。よろしく、ディエス・イレの皆さん」
 ラミアと名乗る女性にアインとツヴァイは言い様の無い危機感を抱いた。
 普通に話しているだけなのだが、体の奥底を撫でられるような、自己の輪郭が曖昧になるような。言葉では表現不可能な焦りにも似た、しかし致命的な何かを白衣の女性、ラミアから感じた。
 ラミアは「兵器の詳細を説明するわ」と言い、ガレージ脇のオペレーションルームへ三人を誘う。
 始めにラミアがオペレーションルームの奥にある大型ディスプレイに【INDORA】の形状、重量を始めとしたステータスを数値化したデータを表示する。
 【INDORA】の開発顧問という事もあり、ラミアはアイン達に試作兵器の詳細を話していく。
「今回、私達が開発した【INDORA】だけど、外観は同じ射突ブレード【RASETSU】と変わらない。唯一の違いといえば使用時に機体のエネルギーを使う事くらいかしら」
「どれくらいのエネルギーを使うの?」
 ラミアの説明にドライが口を挟む。やはり自分の機体に搭載される兵器だけに気になるのだろう。
「ん~。背部兵装のレーザーキャノンくらいかしらね」
 顎に手を当て、ゆるく考えながら返答する。それを聞いたドライは青くなったり赤くなったりを繰り返し、口元はパクパクと動くが言葉は出ない。相当に混乱しているらしい。
 高機動型ACの宿命として戦闘時には大量のエネルギーを消費する。それは機体の基本消費エネルギーだけでなく、大出力のブースタは稼働時に大量のエネルギーを消費するからである。
 とはいえ、グローエッジは軽量機体ながらもオーバード・ブーストの使用も想定されている。乱発しなければエネルギー兵器の使用も可能な程にはエネルギーの余裕がある。
「レーザーキャノン並のエネルギードレインね。こいつの小さいコンデンサで足りるのか?」
 アインは下卑た笑みを浮かべながら、ドライの絶壁とも呼べる胸を見る。
「~~ッ! あ、あたしの胸は関係ないだろ!」
「いんや。低容量、高出力なら問題はねえんだがな……」
 わめくドライから今度はラミアの胸へと視線を動かす。
「まるで【KUJAKU】並の容量だな。恐れ入るぜ」
 ラミアの豊満すぎる胸を見てアインは大満足と言わんばかりの笑みを浮かべ、何度も頷く。
「ふふっ、ありがとうございます。でも──」
 言いながらラミアが大型ディスプレイから離れ、ドライの背後へ移動し、
「この娘もこうやってあげれば少しは容量が大きくなりますよ」
 おもむろにドライの胸を揉み始めた。
「や、ちょっとラミア主任。やめて……」
「知ってる? 小さい方が感度はいいのよ」
 尚もドライの胸を揉みながら、今度は耳たぶに甘噛みする。
「その辺りでいいだろう。【INDORA】の続きを聞かせてくれ」
 女同士の絡みなど興味無い、と大型ディスプレイに出力された試作兵器のデータを見ながらツヴァイが制する。
「バッカ野郎。こっからがイイトコだろうが!」
「つ、ツヴァイの言う通りだよ、今はあたしより試作兵器の事でしょ!」
 絡みを妨害したツヴァイに一喝するアイン。後ろのラミアを引き剥がしながらドライも叫ぶ。
 少々乱暴に引き剥がされたラミアはすねた表情であったが、大人しく部屋の奥、大型ディスプレイ前に戻り、【INDORA】はまだ実験を繰り返す必要のある兵器である事を話す。
「使うのはいいですけど、【INDORA】を使った瞬間にコンデンサの中身を全部持っていったりはしない──ですよね?」
 不安そうにドライがラミアに問いかける。
「それについては大丈夫よ。【彼女】に聞いて対策はできてるから」
 意味深な笑みを顔に張り付いけラミアが言う。
「ラミア女史。貴女の言う【彼女】とは誰の事だ?」
 今度はツヴァイが問う。ラミアのいう【彼女】。それはこの場に居る全員が興味を持つ存在だ。しかしラミアは表情を崩さず、むしろさらに妖艶に微笑んでみせる。
「それは言えないわね。企業には守秘義務ってものがあるの。だから開発顧問である私でも何でも話せる訳では無いわ」
 その返事にディエス・イレの三人は冷や汗が背中を伝うのを感じた。自然に恐怖を感じたのでは無く、刷り込まれたような恐怖を感じたからだ。
「あらごめんなさい。つい能力(ちから)が入っちゃったわね」
 おどけた顔でその場の空気を和ませ、部屋の隅にあるポットから紅茶を紙コップに注ぎ口をつける。
「ここまで色々と説明してきたけど、貴方たちには実際にACを動かしてもらった方がいいんでしょうね」
 先程の恐怖を刷り込む雰囲気は無く、研究者らしい兵士を小馬鹿にした挨拶を笑顔で呟いていた。そんな呟きにアインが「違いねえ」などと賛同しながら豪快に笑う。
 ラミアは、【INDORA】の実戦稼動試験も既に予定していると言い、その目標も既に選定が完了している事も付け加えた。
「目標はD-C001-G、通称オファニム。勢力を問わずに攻撃を仕掛けて来ている謎の大型機動兵器よ。詳しい説明はあとで専門家からさせるとして、明日にでも試験運用をお願いしようと思うんだけど。如何かしら?」
「あたしは大丈夫です。それにここ一週間は全然ACに乗せてくれないからストレス溜まってるのよ。ツヴァイが羨ましい」
「抹殺対象が居ねえからな。今は企業間で潰し合いの時期なんだろ」
 試作兵器の説明も大半が済み、ディエス・イレとラミアは簡単な座談会へ移行し、しばし他愛の無い話をした後、ラミアは仕事へ、ディエス・イレは定期検診へと足を向けた。

 ディエス・イレと別れたラミアは企業連合本部内を進み、用意された客室へとたどり着く。
「ロベルト・カトラス、ダイスケ・ロットブル。そしてマルグリット・ルイジェバーグ。なかなかに美味しそうな子達じゃない──ふふふ、あはははははは」
 ディエス・イレの本名を呟き、高らかに笑う。その目は比喩ではなく、本当に淡く光り輝いていた。
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