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「ブラックバロンの苦難」


 執筆者:ギリアム


帰宅した彼の目に飛び込んできたのは、相棒の忘れ形見である少女だった。
―玄関でずっと待っていてくれた…?
それは帰宅する父親を出迎えるような本来は微笑ましい光景である。

少女が涙眼になりながらフライパンを両手に握りしめていなければ。
彼はため息をつきながら少女に問いかけた。
「ミニム…なんですかその格好は」
ミニムと呼ばれた少女は何も喋らずにじっとこちらを見つめてくる。


―流石にまずかったでしょうか…
己の行いを振り返ってみる。
寝ているのを起こすのは悪いと思い、外出する事を告げず依頼を受け出撃し、依頼を完遂できず帰宅。
おまけに機体は先ほどの戦闘でボロボロ、武器も破壊されてしまった。
機体も武器もミニムが一生懸命整備したものだ。
それを出撃する事も告げずに持ち出してこの結果では…
「私が悪かったですから、とりあえずそのフライパンを…」
と彼が手を伸ばした瞬間だった。
「バロン…」
ようやくミニムが声を発した。
が、ほっとしたのもつかの間。
―これは…
「おかえり…」
―いわゆるピンチですね…
「なさい!」
バロンと呼ばれた彼にはそれがスローモーションに見えた。
ミニムがフライパンを力いっぱいフルスイングしたのである。
ゴーン!
かわし切れずに脳天に直撃。
そして意識がゆっくりと闇に沈む。
「あ…やりすぎちゃった?」
というつぶやきを残して。

バロンはACコックピットに座っていた。
―痛っ…いったい何が…
くらくらする。
頭を押さえながら状況を把握しようとすると急に通信が入った。
『おい、バロン!どうした!返事が無いぞ!』
聞き慣れた声だ。
それと同時にドッと観客の声が聞こえてきた。
―ここは…この歓声は…アリーナ?
気がつくと目の前には広大なアリーナが広がっている。
―そうだ…今日は大事な試合…何を寝ぼけているんだ、私は!
「すみませんマグナ。すこし居眠りをしていたようです」
マグナと呼ばれた男が応える。
『おいおいしっかりしてくれよ…今日はおれ達にとって大事な試合なんだぞ!』
そう、今日は長年の相棒であり、憧れであり、そしてコロニー『エターナル2』のトップランカーでもあるマグナ・グレイヴとのランクマッチが行われるのだ。
これに勝てば、トップランカーとしてアリーナに君臨する事が出来る。
しかしバロンにはそんな事はどうでもよかった。
「そうですね…。私は貴方と戦うためだけにここまできた。この時をどれだけ待ち望んだ事か。今日こそ、私の目標だった貴方を超える!」
マグナと戦いたい。
戦場では無くアリーナという公式な場で正々堂々と。
それだけのために今までレイヴンを続けてきた。
『おうおう言うね、青二才が』
笑いながらマグナが応える。
『まぁ、お互い健闘を祈ろうや…お前となら楽しい試合が出来そうだ』
その軽口はトップランカーとしての余裕なのだろうか。
「わかってます。簡単に終わらせませんよ…」
そう答えたと同時にアリーナにアナウンスが響き渡った。
『さぁ!お待たせしました!コロニー、『エターナル2』のトップランカーを決める運命の一戦!』
アリーナが一層どよめきだった。
『未だに無敗!最強の王者マグナ・グレイヴ…ACネーム、ライトニング!』
先ほどとは比べ物にならないほどの歓声が上がる。
『そしてそれに挑むはブラック・バロン…ACネーム、ナイトエンド!』
『勝利の女神はどちらに微笑むのか!さぁ、そろそろ試合が始まります!』
―試合が始まる…
マグナの駆る機体「ライトニング」を見据えて身構えた。
「さぁ、楽しみましょうか!」
震える手に気合いを入れるべく無理やり声をあげる。
『おう!』
マグナの返事が返る。
―私は…勝つ!
『レディ…ゴー!』
こうして戦いの幕は切って落とされたのだった。

しかし…

この歴史に名を残してもおかしくなかった激闘は思わぬ形で幕を閉じることになる。
誰がそれを予測する事が出来ただろうか。
実弾をメインに扱うバロンの機体「ナイトエンド」とは対照的に、マグナの機体「ライトニング」はエネルギー武器を好んで使用していた。
右腕には言わずと知れたハイレーザーライフルの名銃カラサワ。
そして左腕にはエネルギーライフル。
肩には高威力のレーザーキャノンと言う、遠距離仕様のエネルギー武器づくし。
エネルギー効率のいい逆間接型の脚部を採用しているとは言え、あれでよくチャージングを起こさないものだと思うような構成だ。
しかしマグナはそんな機体をなんなく使いこなす。
―そう、マグナはいつもあのデタラメな機体で私と共に戦ってきた。
おまけに明らかに重量過多に見える機体にもかかわらず、速い。
このスピードは単純な機体の性能の差では無いだろう。
―まぁ、その力はいつも戦場で目の当たりにしてきた訳ですが…
物思いに耽ることも許さず強力な光が襲いかかる。
先に仕掛けてきたのはマグナの方だった。
カラサワから放たれる強力な光の弾丸だ。
ぎりぎりでかわす、が。
『どうした!遅いぞ!それでも俺の相棒か!』
「くっ!」
衝撃が機体を襲う。
カラサワの一撃を避けたものの別の攻撃で被弾したのだ。
マグナはカラサワの派手な光で相手の目をそらし、左腕のエネルギーライフルを確実に当ててくる戦術を使っている。
激しい発光と弾速の早いエネルギー武器特有の戦術だ。
―二発来るとわかっていても回避できない…それなら!
休む間もなくカラサワから轟音が轟く。
今度は避けずに受けた。
先ほどの比較では無い衝撃がバロンを襲う。
しかし、強引に突っ込む事で無理やり間合いを詰める。
ようやくこちらの間合いに持ち込む事が出来た。
マシンガンとライフルを乱射する。
弾丸の雨が「ライトニング」に降りかかる。
しかしそれにひるむ事無く、今度は仕返しとばかりに「ライトニング」が肩のキャノンを空中で構えた。
『その程度か、本当の攻撃を教えてやろう!』
本来は地上で構えなければ撃てない代物だが、そんな常識は「ライトニング」に通用しない。
凄まじい轟音と光がアリーナを包む。
―流石にこれを受けるのはまずい…!
全力でブーストを吹かしながら後退して交わす。
回避だけでなく、キャノン発射時の隙を突いてマイクロミサイルのサイトにおさめようとする。
しかし光が収まった既にはそこに「ライトニング」の姿は無かった。
『だから遅いと言っている!』
それは真上からの完璧な奇襲だった。
再びアリーナに轟音が轟く。

誰もがトップランカーの勝利で勝負が決まったと思った。
『右碗部、損傷』

観客が予想外の事態にどよめきだす。
『ほう、やるじゃねぇか』
なんと負傷していたのは「ライトニング」の方だった。
「それはどうも…」
―危なかった…
バロンには上から奇襲してくる事が予測出来ていた。
長年一緒に依頼をこなしてきた経験を活かし、彼の行動パターンを予測して攻撃を回避しながらマシンガンとライフルで迎撃したのだ。
ほぼゼロ距離いう至近距離でマシンガンとライフルを撃つ事が出来たので今度は致命的なダメージを与えられたようだ。「ライトニング」がふらつく。
―これならいける!
そう確信した時だ。
思わぬ事をマグナが言いだした。
『流石俺の相棒だ。流石に一筋縄ではいかねぇな…久々に本気でいかせてもらおう!』
そう言うとおもむろにカラサワ、エネルギーライフル、肩のキャノンをパージ。
そしてコアの格納部からリボルバー型のハンドガンとブレードを取り出した。
―ここにきて武装の切り替え…?
『悪いなバロン、俺はこっちが本来の姿だ』
「そんなバカな!?貴方はいつも遠距離主体の戦術では!」
『あぁ、昔は昔接近戦を得意としていた』
『接近戦はいい。だがな、しかしリスクも高い。お前がさっき突撃を仕掛けたようにな』
『遠距離に切り替えたのは…死ねなくなったからだ』
―だからあのようなデタラメな機体構成を…しかし、死ねなくとは…?
『今のお前のように、ただ強くなろうとする奴だけには理解できねーだろうな』
『お前にも守るべきものが出来ればわかるさ。お前と組むことになって遠距離にもしっかり馴染んで、何事も無ければこのままで過ごすつもりだったが…お前が相手なら仕方ねぇ。さぁて、続きといこうぜ!』
その言葉と同時に「ライトニング」は名前の通り光になった。
―く、捉えきれない!?
先ほどまで辛うじて捉えられていた程度だったのに武装をパージした今は完璧に捉えられなくなった。
「く、これでは!」
機体構成が大幅に変わったことで今までの経験も通用しなくなった。
光の様に高速で動く「ライトニング」からハンドガンとの無数の弾丸が浴びせられる。
回避する事も許されない。
捉える事も出来ず攻撃を一方的に受ける。
更にブレードの一閃。
『左碗部、破損』
「ナイトエンド」の左腕がライフルごと吹っ飛んだ。
『AP30%、危険です』
機体が悲鳴を上げる。
この状況がどれほど絶望的か。
素人でもわかる光景だ。
―なんて動きだ。こんな無茶苦茶な動きをすれば人体が耐えられるGをとうに超えているはずだ!
―いや、それよりもこの絶望的な状況を、覆す方法…
はっと方法がひらめく。
―この戦術に賭ける!
「私もこのまま終わるつもりはありません!全力で行きます!」
『こい!』
バロンは肩に積んであるマイクロミサイルと連動ミサイルをパージした。
『そんな軽量で俺に追いつくつもりか、甘いな!』
「いえ…」
「狙いはこちらです!」
『何だと!?』
バロンはマシンガンのトリガーを引いた。
「ライトニング」に向けてではない。
自分がパージしたミサイルに。
レーザーキャノンの轟音以上の爆音がアリーナに響いた。
一発も使わないままパージしたミサイルが全て爆発したのだ。
巨大な噴煙と共にアリーナが煙に包まれる。
『お前…ミサイルを煙幕代わりに…』
真っ暗だ。
会場はどよめき、誰にも戦況が見えない…はずだった。
「これでイーブン…いや、私に有利になりましたね」
バロンには常人には無い優れた能力があった。
どんな悪天候でも、光が当たらない暗闇でもかすかな変化も見過ごさないすぐれた洞察眼。
それが夜間戦や砂塵の中では無敗の「ナイトエンド」の由来だった。
『くっ…』
一方的な銃撃から一転、沈黙がアリーナを包む。
―…そこだっ!
その沈黙を破って激しい銃声がアリーナに響いた。
何も見えないはずなのにバロンは一点のみを見つめて容赦なく銃弾を叩き込んだのだ。
激しい震動で煙が徐々に晴れていく。
そこに立っていたのは…
弾丸の雨を受けてボロボロになった「ライトニング」だった。
「ライトニング」の両腕はかなり損傷していた。
左腕は完璧に破損しており動きそうにない。
動く右腕の方も手に持っていたハンドガンが破損しており「ライトニング」の攻撃手段は無くなったのだ。
「これで決めるつもりでしたが…あの攻撃に反応してコアを防ぐとは…」
両腕がボロボロなのはコアを防ぐために盾にしたためだ。
「ですが…これで終わりです!」
バロンがゆっくりと「ライトニング」に近づき銃口を突き付ける。
『ふ、ふはははははは!』
「何がおかしいんですか!」
マグナが急に笑い出す。
『いやいや、楽しくてつい笑っちまった。正直ここまで追い詰められるとは思ってなかったしな』
『だがな…ツメがあめぇんだよ!!!』
「!?」
それは一瞬の出来事だった。
「ライトニング」が格納していたブレードを右腕に装着し一閃したのだ。
「そんな…」
―あの、煙の中での攻撃を予測してブレードを格納、そして攻撃手段が無いように見せかけた所を不意打ちだと…!
『脚部、破損』
バロンの駆る「ナイトエンド」の左足が切り落とされた。
バランスを崩し、倒れる「ナイトエンド」
『だから言っただろう。こっち(接近戦)が本来の姿だとな』
「く…」
勝敗は決した。
―私が…負けた?
『まぁ、久々に楽しめたぜ…流石俺の相棒だな』
マグナはうれしそうにそう言った。
「マグナ…悔しいですがこれは負けを認めるしかありませんね…」
『おぅ、これからも精進しやがれ』
歓声と拍手が巻き起こり、アナウンスが流れる。
『決まったぁぁあ!!世紀の一戦を制したのは…』
司会がそう喋りかけた時だった。
別のアナウンスが響き渡り、そして事態は急変する。
『緊急事態です。アリーナ地下ガレージにて火災が発生。繰り返します。アリーナ地下ガレージにて火災が発生。観客の皆さまは従業員の指示に従って脱出してください』
それは地下ガレージの火災警報だった。
観客の声が歓声からどよめきに変わる。
慌てて出口に向かう観客達。
『緊急事態により、防衛システムを起動します』
システムが誤作動を起こしたのか、本来は観客の安全を確保するためのフィールドがアリーナと客席の間に貼られてしまいバロンとマグナはアリーナに取り残されてしまった。
『おいおい何がどうなってんだ…』
「地下ガレージで事故でも起きたのでしょうか?」
『いや…これは…とてつもなく嫌な予感がしやがる!』
マグナがそう言った時だった。
アリーナの扉が突然開かれた。
―あそこは確か、ガレージからアリーナへ移動するための昇降エレベーターの入り口…
そこから現れたのは「赤いAC」だった。
ただの赤では無い。
それは返り血を浴びたかのような鮮やかな赤色のACだった。
『こんな時に来るか…ちったぁ空気ってもんを読みやがれ!』
「面識があるのですか?」
『あぁ、嫌ってくらいにな!』
そう言うとマグナは赤い機体に向けてブーストを吹かして接近する。
『こんなところで死んでたまるか!』
ブレードを振りおろす、が。
『な…!』
先ほどの戦闘のダメージが来たのだろう、右腕がブレードをおろすスピードに耐え切れず破損してしまった。
『…なんてこった…』
その間に赤いACは容赦なく右腕のパルスガンを発射する。
恐ろしい連射スピードだ。
「マグナ!」
「ライトニング」は回避行動を取ろうとするが思うように動けない。
何発か被弾する。
『ぐぁぁぁあ!』
「ライトニング」が崩れ落ちた。
「マグナ!しっかりして下さいマグナ!」
「くそ、動け!動けナイトエンド!」
「ナイトエンド」は先ほどの戦闘で全く動けなくなっていた。
加勢する事も出来ず、戦闘を見つめる事しか出来ない。
『すまねぇバロン…どうやら俺はここまでのようだ』
ゆっくりと赤いACが「ライトニング」に近づいてくる。
「何を言っているんですか!貴方らしくない!」
『ふっ、そうだな…俺らしくねぇ…だが…もし俺に何かあったら娘を…ミニムを…』
―娘…あの子か!
何度かマグナに誘われて自宅にお邪魔した事がある。
『秘密の隠れ家なんだよ』とマグナが紹介してくれた時だ。
チャンピオンの家とは思えないようなボロ家だったが。
―人見知りでマグナにベッタリ、最初はなかなか喋ってくれなかったが最近はなついてきてくれるようになったあの子…
「あの子に必要なのは貴方なんです!だから…だから諦めないで下さい!」
赤いACが「ライトニング」にパルスガンを突き付けた。
『…すまんな相棒、後はたの…』
パルスガンの銃声と共に爆音が轟く。
そこで通信が途切れた。
「マグナ…マグナァァァアア!!!」
ガバッ!
「はぁ…はぁ…」
―ここは…寝室…今のは…夢か…?
ベッドから起き上がって周囲を見渡す。
ミニムと目が合った。
「大丈夫?ずっとうなされていたけど…」
ミニムが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫じゃありませんよ…どこかの誰かさんがいきなりフライパンをフルスイングするから…」
―また頭がヅキヅキしてきた
見た目はフランス人形のような美少女なのだが、その粗暴さは父親譲りのようだ。
「ぅ、でもバロンが悪いんじゃん…」
ミニムが目をそらす。
「…綺麗に整備してくれた機体をあんな事にしてしまってすみません」
「違う!」
「私が怒っているのは機体の事じゃない!」
―では何をそんなに…
「バロンが勝手に危険な依頼を受けて私に何も言わずに行っちゃった事なの!」
「またパパみたいに急に居なくなるのは嫌なの…だから…だから私は一生懸命に機体を整備するの」
―なるほど…そういう事でしたか…
「すみませんでした…今度はこんな事が無いようにきっちりと告げてから出撃します」
「危険な依頼もダメ!」
「待って下さい。それはちょっと難しいですよ。私は強くなってマグナの仇を討ちたいんです」
「だからってバロンが死んじゃ意味ないでしょ!」
―マグナはよくこの子の機嫌を取りながら出撃出来たものです…
「わかりました、努力しましょう…」
―危険じゃない依頼なんて無いんですがね…
バロンはガックリと項垂れた。
「それでよろしい!」
ミニムは無い胸を張ってニカッと笑った。
「じゃ、早速機体整備してくるね!」
そう言って彼女は駈け出して行った。
「お願いします」
今まではミラージュに所属していたため整備にも不自由しなかったが、あの事件以降急に契約を打ち切られ、今では整備を彼女にすべて任せている。
最初は不安だったが、今までの整備とは比べ物にならないくらい快適に機体が動かせる。
ミニムにそんな才能があったのは意外だったが、大いに助かっている。
―さて、ミニムに整備を任せている間に代わりの武器の注文をしなければ…
そう思い連絡を入れようとした時だった。
急にメールが届いた。
『ミラージュから依頼が届いています』
『依頼内容はサンドゲイルの襲撃及び、可能であればターゲットの確保です』
「はぁ…またミニムを怒らせる事になりそうですね…」
バロンの苦難はまだまだ続きそうだ。

-終-


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