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*③*


これで多少は掛かるGが軽減される筈だ。
セントラルタワーを目指し、興行区画のメインストリートを疾走していくと、横道から1機の四脚型パルヴァライザーが滑るように姿を現した。
パルヴァライザーは両肩のレーザーキャノンの砲口をこちらに向けるが、それよりも速く高速徹甲弾がパルヴァライザーの頭部を射抜いていた。
ソリテュードはスナイパーライフルによる精密射撃でパルヴァライザーを一撃で沈黙させる。
閣座する機体を横目にセントラルタワーを目指しながら、先ほどのパルヴァライザーの挙動に少なからず違和感を覚える。
何というか、機動が甘いような気がする。
もちろん一撃で仕留めるつもりだったが、あそこまでまともに食らうとは思っていなかった。
違和感は拭いきれなかったが、目的地であるセントラルタワーが目前に迫っていたため、思考を脇に追いやる。
ゆっくりとスロットルを絞り、徐々に減速する。普段ならこのままジャンプしてタワーの頂上を目指すのだが、今回ばかりはそうもいかない。
一度停止すると、エネルギープールが十分に回復するのを待ってから、ジャンプによる垂直上昇に移行する。
セントラルタワーはエデンⅣの中でもひと際大きい建造物で、アリーナと並ぶ興行区画のシンボルの一つになっている。
その高さもエデン随一で、頂上付近にある展望室からはエデン全域が一望できる。
屋上には複数のヘリポートが設置されており、ACが乗ってもびくともしない堅牢さを誇っていた。
眼下にはエデンの街並みが広がっており、そこかしこでパルヴァライザーとACやMT、その他兵器群が交戦している。
暗闇を人間と機械の戦火が禍々しく染め上げる。
その様子は地獄を照らす篝火のようだ。
レーダーで敵の位置と分布を確認し、一番数が多い方面へと機体を向ける。
パルヴァライザーは全て同一の方向から放射状に各地域へと侵攻しており、その中心と思われる場所は他とは明らかに違う点があった。
エデンⅣをすっぽりと覆う巨大な天蓋がそこだけ大きく穿たれており、そこから皮肉にも本物の朝の陽光が零れ、辺りを神々しく照らしていた。
あたかも、そちら側が本当の楽園であると主張するかのように。
――どうやら、あそこから侵入したようだな。だが、ミランダが言うとおり、増援はないようだ。特攻兵器も入ってきていないようだし、これならなんとかなるか・・・。
目標を確認し、両手に持ったスナイパーライフルを構え、狙撃態勢に移行。
長距離FCSが、こちらにまだ気付いていないパルヴァライザーを素早く捉え、ソリテュードは静かに、しかし力強く右のトリガーを引いた。
強力な炸薬火薬によって撃ちだされた高速徹甲弾が遥かに離れた距離など無かったかのように飛来し、パルヴァライザーの無防備な頭部を穿つ。
着弾と同時にターゲットを変更し、別のパルヴァライザーをサイティングすると、すぐさま左のスナイパーライフルが火を噴き、パルヴァライザーは何の抵抗もできないまま沈黙する。
過去に多くのパルヴァライザーと交戦し、古代遺跡を沈黙させた実績を持つソリテュードは、パルヴァライザーについての情報と構造を熟知していた。
パルヴァライザーもACと同じく頭部のカメラアイやセンサーに外部情報収集の大部分を依存しており、そこを破壊されると著しく機能が低下する。
また自律兵器であるため、搭載されたCPUによって稼働するのだが、そのメインCPUが頭部に収められていることが多く、頭部を丸ごと吹き飛ばされてしまうと機能を停止してしまう。
つまり、頭部をピンポイントで狙える状況と貫通あるいは吹き飛ばしてしまえる武装があれば、パルヴァライザーを比較的容易に沈黙させることができる。
通常ではAC並みか、それ以上の機動力をもつパルヴァライザーに対して、そのような戦術を取るのは難しいが、今回のような限定的な状況とソリテュードの腕前が、それを可能にしていた。
ACの装甲をも撃ち抜くスナイパーライフルの高速徹甲弾はパルヴァライザーのカメラとセンサー、メインCPUを易々と貫いてゆく。
ライフルよりも長いリロード時間を短縮するために2丁構えで交互に射撃する。
高速徹甲弾のつるべ撃ちはパルヴァライザーを次々と沈黙させ、大群は成す術もなく降り注ぐ弾丸の雨にその身を貫かれていった。
途中、偵察と情報収集が目的の小型の飛行型パルヴァライザーがこちらに接近してきたが、素早く武装を切り替えミサイルの連続射出で返り討ちにする。
6機来襲してきた内、半数くらいは潜り抜けてくるかと思っていたが、その全てがミサイルの直撃を受け、墜ちて行った。
その様子を見て、さっき感じた違和感が再びよぎる。
――やはりコントロールが甘い。インターネサインに使役されたパルヴァライザーはもっと動きがいい筈だ。増援が来ないことも考えると、コイツら・・・遺跡から生み出されてここまで来たんじゃないのかもしれない。
だとすれば、数に反して手ごたえが感じられないのにも説明がつく。
自分を過小評価するわけではないが、ここまで容易く撃破できるというのはいささか虫が良すぎる。
射程圏内の敵を一掃したことで、手を止めて思考を巡らせていたソリテュードは突然のアラート音で我に返る。
――ロックされている!?
レーダーロックの照射を受けている方向へ視線を向けると、いつの間にか第二波が迫っていた。
慌てることなく照準を合わせ、迎撃する。
動きは依然として変わらなかったが、今度はさっきよりも数が多い。
ライフルの残弾カウンタに目をやると、すでに半分を撃ち切ってしまっていた。
――まずいな、このままではジリ貧だ。
格納武器でパルスライフルとブレードも搭載してきたが、それだと機動戦をせざるを得なくなる。それだけはできれば避けたかった。
残弾が1/3を切ったところで、ようやく第二波を片づけることができたが、レーダーを確認した瞬間、ソリテュードは息をのんだ。
「な、に・・・!?」
レーダー上の敵は自分の周囲を取り囲むように表示されており、現実もそれと同じだった。
セントラルタワーを中心に、エデンⅣ全域のパルヴァライザーが集結しているのではないかと思わせるくらいの数だった。
想定外の事態に驚きを隠せないソリテュードだったが、今まで黙っていたアリスが自分のパイロットスーツをギュッと握っていることに気付き、冷静さを取り戻す。
「くる・・・また、くるよぅ。わたしを、うばいに。いや・・・あそこには、もどりたくない」
すがり付いてくるアリスの背中を左手で撫でつつ、近づいてくるパルヴァライザーを優先的に迎撃する。
――何なんだ、コイツら!・・・まさか、パルヴァライザーの目的もアリスだっていうのか!?
焦らず確実にパルヴァライザーを撃破していくが、数が多く対応しきれない。
こちらへの砲火も激しくなり、残弾も心ともなくなってきた。
――まずい、このままでは!
そこへ緊迫した様子のミランダの通信が入ってきた。
「レイヴン!敵に囲まれています!!このままでは押し切られてしまいます。そこから退避してください!」
「ああ、どうやらここを維持するのは困難のようだ。どこか敵勢力の手薄な場所はないか探してくれ」
「すでに検索済みです。商業区画方面へ退避してください。あちらは、ほぼ掃討が完了しています。早く!」
「了解。助かる」
射撃を止め、怯えるアリスへ語りかける。
「アリス、今からオーバード・ブーストで緊急回避する。かなりのGが掛るが我慢してくれ」
俺の言葉にアリスは顔を上げ、
「うん、だいじょうぶ」
そう弱々しく答えた。
アリスが投げ出されないよう、左腕でしっかり体を抱き留め、オーバード・ブーストを起動する。
ブリューナグの背部に搭載されているオーバード・ブーストのハッチがバクンと開き、4基のブースターノズルが顔を覗かせる。
独特の起動音と共に機体が前方へと投げ出され、光の翼を背にブリューナグは闇を切り裂くように空へと舞った。
浮遊感が体を襲い、興行区画のビル群を飛び越えてゆく。
エネルギーが底を着く直前にオーバード・ブーストを解除、慣性と落下スピードを利用して滑空し、商業区画の入口の大通りへとブーストを断続的に吹かして軟着陸する。
これでかなりの距離と時間が稼げた筈だ。
エネルギー回復を待ちつつ、興行区画と商業区画を繋ぐメインストリート上で迎撃態勢を整える。
パルヴァライザーは機械だ。だから無駄というプロセスを極力排除しようとする。
しかも、今回は相手にとって数で押す集団戦なので、最短距離を侵攻してくる可能性が高い。
なので、このメインストリートを選択すると踏んだのだ。
左右を高いビル群で囲まれたこの場所なら、興行区画の方面から来る敵の迎撃にのみ集中すれば良く、しかもパルヴァライザーに回避するスペースが無いので、こちらが有利になる。
また、後方に退避スペースもあり、左右からの攻撃をさほど気にする必要もないので、迎撃戦には打ってつけの場所だ。先ほどの激戦が嘘のように静寂が辺りを包む。
呼吸を整え、気持ちを落ち着けつつ、アリスへ目を向ける。
「大丈夫か、どこか痛いところは無いか」
髪を撫でつつ、自分の胸元で縮こまっていた少女へと問う。
「うん、へいき」
「そうか、もう少しの辛抱だ。ヤツらを仕留めたら、家へ帰ろうな」
そう言うと、意識せず笑みがこぼれた。
それにアリスも微笑みながらこくんと頷き、応えてくれる。
「よし」
もうすぐ迫ってくるだろうパルヴァライザーを迎撃するイメージを頭に思い描いているとミランダから再び通信が入った。
「レイヴン、そちらへ先ほどのパルヴァライザー部隊が向かっています。しかし、そのうち半数はコーテックスのACが迎撃しています。そちらへ到達できるのは半数に満たないでしょう。ですが、依然レイヴンが一人で相手をするには数が多すぎます。ですので、コーテックスのランカーレイヴンを増援として派遣しました。到着するまで持ちこたえてください」
「了解。パルヴァライザーの残数はあとどれくらいだ」
「すでに各地域で掃討が完了しつつあります。こちらへ向かってくるパルヴァライザーを撃破すれば、エデンⅣ全域での掃討がほぼ完了するでしょう。あと少しですレイヴン」
敵残数が残り少ないということと、増援が来るということに多少の安堵を覚えたソリテュードは、この戦いを終わらせるべく再度、意識を集中しコントロールレバーを握りこむ。
「パルヴァライザー部隊、商業区画の手前に差し掛かりました。間もなくこちらに到達します。増援が到着するまであと少しです、持ちこたえてレイヴン」
ミランダの通信を聞き、レーダーへ目を移すと、さっきよりは数が大幅に減ったものの、それでも今の状態のまま一人で相手をするには少々厳しい数のパルヴァライザーが押し寄せてくるのが見て取れた。
残弾カウンタを確認すると右腕のスナイパーライフルは7発しか弾が残っていない。
左腕のスナイパーライフルも13発と余裕が無かった。
加えて先ほどとは違い、同高度で複数の目標を同時に相手にしないといけないので、こちらから一方的に攻撃することはできない。
機動力の高い四脚型パルヴァライザーを複数相手にするとなれば、さすがに急所をピンポイントで狙うのは困難だ。
なので、必然的に撃破するのに数発の弾丸を消費することになる。
加えて遮蔽物が無いため、攻撃を受けないようにするには後退しながら長射程を活かして迎撃する以外に手段が無い。
それがこの場所の唯一のウィークポイントだった。
――そこまで上手話はないよな。さて、問題は最初の攻撃でどれだけ撃破できるかだが。
接近されれば不利になる。そうされない為には敵が密集している時にまとめてダメージを与えるのが効果的だが、生憎グレネードの様な広域で爆散するタイプの武装が無い。
――いや、待てよ。密集しているところにミサイルを連続射出して残り全弾叩き込めば誘爆効果でダメージを与えられるかもしれない。
ミサイルはスナイパーライフルに比べるとロックに多少時間がかかる。
後退しながら戦わなければならないので、ミサイルは序盤で使い切ってしまった方がいい。
それに弾幕効果も見込めるだろうから、時間稼ぎにもなる。
戦い方が纏まったところで、タイミングよくパルヴァライザー部隊の先頭集団が姿を現した。
やはり集団戦法でこちらを追い詰めようと、密集して近づいてくる。
予め切り替えておいたミサイルで集団の先頭に位置するパルヴァライザーをロックする。
ロック完了と同時に後退しつつ有効射程ギリギリのところでトリガーを引き、ミサイルを撃ち放つ。
ミサイルは接近してくるパルヴァライザーと相対的に距離を急速に縮め、先頭にいた機体は回避しようにも閉所で密集しているため動くことができず直撃を食らい、紅蓮の炎に包まれ爆散した。
そのミサイルとパルヴァライザーの爆発は隣接する他の機体に決して少なくないダメージを与え、動きが鈍る。
――狙い通りだ。この隙に少しでも動きを止める!
同じ要領で別の機体にサイティングしてロックし、ミサイルを次々と連続射出してゆく。
誘爆効果でパルヴァライザーは次々と撃破され先頭集団はあっという間に瓦解した。
だが、後ろに控える別の集団が鉄屑と化した仲間を躊躇いもなく踏み越え、こちらに迫ってくる。撃ち切ったミサイルをパージし、慎重に狙いを定め、相手の射程圏内に入られる前にスナイパーライフルで迎撃する。
頭部や胴体部分のジェネレーターを狙い撃つが、やはり一撃で沈黙しない機体もあり、残弾は急速に減っていった。
ついに右腕のスナイパーライフルが弾切れとなり、即座にパージして格納しておいたパルスライフルに持ち替える。
パルスライフルで牽制しながら、左腕のスナイパーライフルで止めを刺してゆくが、視界に入るパルヴァライザーの数よりも残弾が明らかに下回っていた。
「クソっ、やはりそう上手くはいかないか」
愚痴をこぼしても状況は変わらない。徐々にソリテュードの心に焦りが芽生え始める。
とうとう左腕のスナイパーライフルも弾切れとなった。
最後の弾丸は先頭のパルヴァライザーの頭部を吹き飛ばしたが、それでもまだ多くの機体がその後ろに控えていた。
パルヴァライザーは頭部のセンサーを妖しく光らせ、にじり寄ってくる。
左腕のスナイパーライフルもパージし、ブレードを取り出す。
迫り来るパルヴァライザーを見据え、接近戦を覚悟したその時、ブリューナグの背後から雷鳴のような轟音が響き、一閃の光弾が複数の機体をなぎ倒していった。
「ソリッド、下がって!」
突如現れた第三者の声に弾かれる様に反応し、フルブーストで後退する。
後退するブリューナグの横を黄色いシルエットが駆け抜け、入れ替わるようにパルヴァライザーの前に立ちはだかった。
現れた黄色の重装四脚ACは肩に搭載されたレールキャノンでさらにパルヴァライザーをなぎ倒してゆく。
しかし、それでもパルヴァライザーは前進を止めない。
距離が徐々に詰まってくると、今度はもう片方の肩に搭載されたデュアルミサイルに切り替え、エクステンションの垂直式連動ミサイルと共に多方向からの弾幕を展開する。
自分達を取り囲むようなミサイルの雨に成す術もなく大半のパルヴァライザーは撃破されていったが、それでも3機が弾幕を潜り抜け重装四脚ACに肉薄しようと接近してきた。
だが、重装四脚ACはそれに臆することもなく、マシンガンタイプのイクシード・オービットを展開し、近づいてきたパルヴァライザーを腕部のマシンガンとライフルを合わせた高密度射撃によって蜂の巣にする。
近づいてきた最後の1機をジャンクへと変えた重装四脚ACはこちらへ向き直ると、映像での通信を要請してきた。
ソリテュードは先ほどの声とACの姿を見て、誰が救援に来たのか既に見当がついていたが、それでも要請に応えて回線を開いた。
ディスプレイに通信用ウィンドウが開いた途端、底抜けに明るい声がコクピット内に響いた。
「やっほー、ソリッド。どうやら無事みたいね。私が来たからには、もう大丈夫!このシャオランさまにどーんと任せて!!」
ディスプレイに映し出された若い女性レイヴンはヘルメット越しでも分かるほど顔立ちの整った美人だった。鮮やかな赤い髪が目を引く。
彼女はグローバルコーテックスのランカーレイヴン、シャオラン(小蘭)。
機動力と火力を両立させた重装四脚ACファンロン(黄龍)を駆る腕のいいレイヴンだ。
アリーナでのランクはBクラスで現在2位。
その美貌と持ち前の明るい性格がメディアに受けが良く、アリーナの花形レイヴンとして活躍している。
俺がプライベートで付き合いのある数少ない友人の一人だ。
そしてミランダと同様、アリスの存在と正体を知る数少ない人物でもある。
「メイファ・・・お前な」
さっきまでの緊迫した空気が嘘のように弛緩していった。
最近忙しくて会っていなかったが、コイツの底抜けに明るい性格は相変わらずのようだ。
しかしミランダのヤツ、よりにもよってシャオランを増援によこすなんて。
まあ、他のレイヴンにアリスの存在がバレないようにというミランダの配慮なのだろうが。
そんな俺の思いをよそに、シャオランは異様に高いテンションのまま話を続ける。
「やだー。レイヴンネームじゃなくて、まだ本名で呼んでくれるの?」
『きゃー』なんて両手を頬にあてながら、わざとらしく照れるリアクションをするシャオランを見て自分が彼女を本名で呼んでいたことに気付いた。
「うるさい。今のは咄嗟に出ちまったんだよ。まったく、相変わらず緊張感がないなお前は」
数少ない友人が救援に来たことにより、俺まで緊張が緩んでしまったようで、ついいつもの調子で話してしまった。
どうも今日は調子が狂いっぱなしだ。
ちなみにシャオランは本名をシャン・メイファ(香美花)という。
俺の言葉にメイファは子供のように頬を膨らませる。
「むー、ひどーい。せっかくミランダさんにご指名を受けて急いで助けに来てあげたっていうのに。ふん、いいよーだ。助けに来たのはソリッドのためだけじゃないんだから」
そう言うと、メイファはディスプレイ越しに目線を少し下げ、俺の膝の上にちょこんと座っている少女に話しかけた。
「きゃー!アリスちゃん、久しぶりー!!もう、相変わらずぷりちーなんだから。でも大丈夫、怪我してない?」
そんなテンション激高のメイファを前にして、アリスはいつもと変わらない調子で応える。
「うん、だいじょうぶ。メイファおねーちゃん、きてくれて、ありがとう」
いや、アリスも知り合いのレイヴンが救援に来たのが嬉しいのか、微笑んでいた。
そんな普段は滅多にお目にかかれないアリスの笑顔を見て、ますますテンションが上がるメイファ。
「あーん、もう、ラブリー!!今すぐぎゅーってしたいわ。ねえソリッド、私と変わってよ」
「バカ言ってねえで、周囲を警戒しろよ!まだ終わっちゃいねえんだぞ」
俺がそう言った時には既にメイファはレイヴンの顔に戻っており、機体をパルヴァライザーが侵攻してくる方向へと向けた。
「分かってる。後続部隊、確認。どうやらこれで最後みたいね。機数7。さっさと片づけちゃいましょうか」
こちらもレーダーで確認する。メイファの言うとおり、今レーダーで表示されているパルヴァライザーがこちらに向かってくる最後の部隊のようだ。
「7機か、多いな」
「そう?これくらいなら私とソリッドで楽勝だと思うけど。あ、でもそうか。アリスちゃんがいるんじゃハデな機動はできないわよね。なら私に任せて。これくらい、ちゃちゃっと片づけちゃうから。でも援護射撃くらいしてくれると嬉しいかな」
「ああ、了解だ。すまん、今回はお前に頼ることになる」
強がることはせず、素直にそう伝えた。今の俺に有効な手段が無いのは事実だ。
「いいって、私とソリッドの仲じゃない。一時は特別なカンケイだったんだから」
そう言って、ウィンクをかましてくるメイファ。
「だから、そういうコトをこういう状況下で言うなって」
「んふふ、テレちゃって」
コイツと一時期恋人関係にあったことは、俺の気の迷いとしか言いようが無い。
まあ、俺もまだ青かったし、若気の至りということか。
ちなみに余談ではあるが、俺の事をソリッドと呼び出したのはメイファが先で、アリスもいつの間にかそれを真似して俺をそう呼ぶようになった。
さらにどうでもいい事だが、アリスの服をゴスロリファッションにしたのもメイファの仕業だ。どこからともなく突然手に入れてきてメイファが勝手に着せたら、以外にもアリス自身がその服装を気に入ってしまったのだ。
おかげで、ただでさえ手に入りにくいフリルドレスを買い揃えるハメになり、出費がかさんだことはいうまでもない。

メイファのファンロンを前衛にした攻撃態勢を整えたところで、最後のパルヴァライザー部隊が迫ってきた。
視認できる距離ではあるが、まだパルヴァライザーの射程圏内には入っていない。
だが、こちらはファンロンに搭載された長射程と凄まじい弾速を誇るレールキャノンがある。
すでにキャノンは展開されており、独特のエネルギー充填音と共に砲身に青白い電気の帯が走る。
「射程に入ったわ。いくわよ!」
メイファの声と共に、凄まじい電荷を帯びた弾丸が雷鳴のごとき轟音を響かせながら射出され、先頭にいたパルヴァライザーは回避する間もなくその身を射抜かれる。
パルヴァライザーを撃ち抜いた弾丸は威力を少しも衰えさせることなく、その後ろに控えていた機体の装甲を穿ち、ジェネレーターをごっそりと抉ったところで役目を終えた。
「残り5機。ああもう、チャージングがもどかしいわね!」
メイファは左腕のマシンガンで牽制射撃をしながらレールキャノンのエネルギーを再充填させる。
レールキャノンの唯一の欠点はエネルギーのチャージに時間がかかることだ。ゆえに接近戦には向かない。
一度に2機の僚機を失っても躊躇うことなくパルヴァライザーは侵攻してくる。
自律機動兵器の恐ろしいところは、人間のように迷ったり躊躇ったりすることが一切ない所だ。目的を達成するべく機能停止するまで破壊行動を続ける。
距離がだんだんと詰まってきたので、ファンロンと共に後退し、距離を稼ぐ。
レールキャノンの攻撃が有効なのはこれくらいの距離が限界だろう。
ブースト機動で後退しつつ、じりじりと迫るパルヴァライザーを見据えていたメイファはディスプレイの端にcharge completeの表示を認める。
「チャージ完了、いっけえぇぇっ!」
メイファは有効射程ギリギリのところで、迫ってきた2機のうち一番突出していたパルヴァライザーを狙い、トリガーを引いた。
レールキャノンの一撃はパルヴァライザーを易々と貫いて木っ端微塵にし、その右隣にいた機体は、爆風のあおりを受け左半身に大きなダメージを負う。
その瞬間を見逃さず、ソリテュードは装甲が吹き飛んでフレームが剥き出しになったパルヴァライザーの左側面にパルスライフルの速射を浴びせかける。
パルヴァライザーは、たった数発のエネルギー弾で内部機構を悉く破壊され抗うこともできぬまま沈黙した。
「残機3。あと少しだ」
「ナイスフォロー!さっすがソリッドね」
「機動戦は無理でも、これくらいはなんとかなるさ」
「オッケー、じゃあラストは派手なのお見舞いしてやるんだから!」
そう言うとメイファは機体を更に後退させ、俺もそれに続き、距離を保つ。
メイファが何をするつもりか大体予想できたので、パルスライフルによる牽制射撃で時間を稼ぐ。
パルヴァライザーは自分たちの戦力が減ったことで警戒し始めたのか、追撃速度は落ちていた。
――好機だ、これを逃す手は無い。
メイファもそう判断したのだろう。予想通り、ファンロンは俺のブリューナグの少し前で停止し、デュアルミサイルと垂直式連動ミサイルを展開する。
直後、射出音の多重奏と共に敵から見れば自分たちを覆い囲むかのようなミサイルの弾幕が残りのパルヴァライザーに襲い掛かった。
レーザーでミサイルの迎撃を試みるも満足に撃ち落とせず、その身を焼かれるパルヴァライザー。
もはやこれまでと判断したのか、3機は共に中破しながらも最後の突撃を仕掛けてきた。
しかし、こちらはそれすらも予測済みだ。
メイファのファンロンは既にイクシード・オービットを展開しており、彼女の止めの十八番であるライフル、マシンガン、イクシード・オービットの同時射撃による弾丸の嵐がパルヴァライザーを襲う。
嵐が過ぎ去った後には3体の奇怪なオブジェが鎮座していた。
「ふう、一丁上がり。前みたいにはいかないんだから」
「俺の出る幕なんてほとんどなかったな」
「当たり前でしょ。救援される側に活躍されちゃったら私の立つ瀬がないじゃない」
「まあ、そりゃそうだが。しかし今日は色々な人間に借りを作っちまったな。返すのが大変だ」
実に3人もの人物に大きな借りができてしまった。しかも全員女性というのがやりづらい。
むむ、と眉根にしわを寄せていると、メイファはにまっと、含みがあるような笑顔を見せる。
「私への個人的報酬ならデート1回でいいわよ。もちろん費用は全額ソリッド持ちで」
「なんでそうなるんだよ!大体、別れた男とデートなんてするか普通!?」
「私は別れたって思ってないんだけどなぁ。じゃなければ、今でもソリッドの家に遊びに行ったりしないって。まあ、アリスちゃんが心配っていうのもあるけど・・・って、ちょっとアリスちゃんどうしたの、大丈夫!?」
今まで笑顔だったメイファの表情が急に緊迫したものになる。
その反応を見て、胸元のアリスに目を向けると、さっきとは比べ物にならないくらい怯えた様子で小さな体を震わせていた。
「どうした、アリス!おい、大丈夫か!?」
アリスはおずおずと顔を上げると弱々しく答えた。
「くる・・・なにかわからないけど、すごくいやなのが」
そして、それを証明するかのように緊迫したミランダから通信が入る。
「レイヴン、そちらに所属不明のACが向かっています。通常では有り得ない驚異的な速度です!戦闘能力も既存のACを凌駕しており、既に2名のコーテックスのランカーレイヴンが撃破されています。すぐにそこから離脱してください。時間がありません、早く!」
ミランダの言葉を聞いて、ソリテュードは一つの可能性に行きついた。
統一政府の組織が、今回の件を引き起こした張本人なら、こちらへ向かってくるACは一つしかない。
ブリューナグに搭載された長距離レーダーは既に機影を捉えていた。自分との距離がみるみる詰まり、一直線にこちらへ向かっているのが分かる。
「レーダーで確認!な、なにコイツ。オーバード・ブーストでもこんな速度出ないでしょ!?」
メイファも明らかに困惑していた。
――今の状態で戦っても勝てる相手じゃない。だが、逃げ切れるか・・・。
そう思いつつも、素早く行動を開始する。
「メイファ、お前も離脱しろ。こちらから手を出さなければ襲ってくることは無いだろう。狙いは俺だけだ」
言いながらオーバード・ブーストを起動する。今は逃げるしかない。
「あ、ちょっと・・・!?」
メイファの返事も聞かぬまま、前方からの強烈なGと背中からの加速度に板挟みになりながら商業区画のメインストリートを駆け抜ける。

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