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*④/ /第十三話


――ガレージに戻って武装を整えるしか手が無いな。
ミランダにガレージへの最短ルートの検索を頼もうとしたその時、嫌な予感がしてアリスを庇いながら咄嗟にフルブレーキングする。
直後、目の前で大爆発が起き、路面を大きく抉り返し、爆風と瓦礫がブリューナグを震わせる。
背後に迫る無機質な殺気を感じ、振り向くと、そこには1機の赤いACが立ちはだかっていた。
――やはりな、とうとう現れやがったか。
「ナインボール・・・コピーか」
―ナインボール・コピー―
統一政府がイレギュラーと認定したレイヴンを抹殺するために暗躍する、ネクスト技術を取り入れたAC。完全自律制御で、オリジナルよりもデチューンされているとはいえ、既存のACを凌駕する性能を持っている。
「な、ナイン・・・ボール、ですって?有り得ません!ソリテュードがイレギュラー認定されるなど!!」
さすがのミランダもナインボールの登場に動揺を隠せない。
しかし、ソリテュードは驚くほど冷静だった。
――なりふり構っていられなくなったって事か。それともこれも計画の範囲内なのか・・・。まあ、そんなことはどうでもいいか。
ナインボールは己の獲物を仕留めるべく、パルスライフルを構えながら腰を落とす。
「いや、ナインボールの狙いは俺じゃない」
「え・・・?」
状況を飲み込めないミランダを置き去りにしてブリューナグとナインボールの戦いの火蓋が切って落とされた。
ナインボールはマイクロミサイルを射出し、弾幕と共に突っ込んできた。
こうなれば、もう機動戦は避けられない。アリスを左腕で抱きかかえながら、右腕の武器だけで迎え撃つ。
エクステンションの迎撃ミサイルがマイクロミサイルをたたき落とす。
後退しながらパルスライフルの速射で応戦するものの、狙撃仕様にしていたためFCSも長距離様でサイトが狭く狙いづらい。
その上、ナインボールの機動力は尋常ではなく、軽量二脚やフロートも軽く凌駕する速度でこちらを撹乱してくる。
「クソ、当たらない!」
圧倒的不利というよりは話にならない、と言った方がいいだろう。
パルスライフルを撃ち尽くしてしまえば、残る武器はブレードのみ。
運良く当てられたとしても、射程重視のロングブレードでは一撃で切り伏せられまい。
有効打を与えられないまま、パルスライフルの残弾は急速に減っていく。
ナインボールは左右に急速に切り返しながら、マイクロミサイルでこちらを揺さぶりつつ様子を窺っているようだったが、突如ミサイルでの攻撃を止め、一直線に突っ込んできた。
「っ!まずい!!」
全速で後退しながら、少しでも速度を稼ぐため迎撃ミサイルをパージし、パルスライフルをトリガー引きっぱなしでナインボールに叩き込むが、多少の被弾などものともせずナインボールもパルスライフルで攻撃してくる。
こちらに有効な攻撃手段が無いと判断し、一気にケリをつけるつもりなのだろう。
ナインボールのパルスライフルは試作品なのか、見たこともないシルエットで、弾速も威力も桁違いだった。
凄まじい弾幕を前に避けきれず、ついに被弾する。
エネルギー弾なので衝撃はあまり無いが、装甲が焼け焦げ、機体温度が急上昇する。
『AP70%に低下』
「何っ!?」
AIの告げる事実に耳を疑う。
ほぼ100%あったAPが、たった数発の被弾で30%以上削られた。
「化け物め!」
残弾が0になったパルスライフルをパージし、回避に専念するが、猛烈な弾幕にその身を徐々に削られていく。
危機的状況は変わらず、悪化の一途をたどるばかりで打開策が見出せない。
「レイヴン!今、救援を向かわせています。どうにか持ちこたえて!!」
ミランダの悲痛な声が耳に響く。
そんなミランダの思いも裏切るようにAIは事実を淡々と告げる。
『AP50%に低下。左腕、破損。ブレード使用不可』
エネルギー供給装置が破損したのか、ブレードそのものが破壊されたのかは分からないが、大した違いは無い。
とうとう打つ手が無くなった。いくら腕に自信があっても、武器がなければ戦えない。
――俺も、ここまでだったってことか?結局俺は誰も護れないのか・・・。
体も機体もまだ動く。だが絶望的な状況は変わらない。
自然と体から力が抜け、視界がぼやけるような感覚に襲われる。
その時、不意に胸元に違和感を覚えた。
視線を下げると、そこには俺のパイロットスーツをきゅっと掴みながら澄んだ赤い瞳で見上げてくる一人の少女が居た。
その瞳は俺を真っ直ぐに見詰めている。俺を信じるように。それを見て俺は自分を恥じた。
――なんてバカだ。護るべき人がすぐ傍にいるっていうのに。
再びコントロールレバーを握る手に力を込め、ディスプレイをキッと見据える。
――そうだ、諦めるのは死んだ後でいいじゃねぇか!
ソリテュードの心の消えかかっていた闘争心に再び火が灯る。
「アリス。悪いが、支えていられなくなった。俺はこれから全力でヤツに挑む。だからアリスも全力で俺にしがみ付いていてくれ」
俺の言葉にアリスも力強く頷く。
「うん、がんばる。だからソリッドも、がんばって」
「ああ、当たり前だ。コイツを倒して二人で一緒に帰ろう」
アリスが俺の体に回している手に力が込められるのを感じてから、操縦に全神経を集中する。
――武器がないなら、調達するまでだ。だが、どうするか・・・。
断続的なブーストによる左右の切り返しと、短いオーバード・ブーストを織り交ぜながらナインボールの熾烈な攻撃をやり過ごす。
武装をほぼ全てパージしてしまったことにより、機動力だけは上がっている。
被弾も幸い左腕が破損したに留まっているため、回避に支障は無い。
――このままでは、ジリ貧だ。なんとかして・・・ん?あれは・・・
回避しつつ思考を巡らすソリテュードの目に入ったのは荷物運搬用の業務用エレベーターであった。
このエレベーターは地下の商業・工業用リニアの路線に繋がっており、自動でコンテナや運搬車両を運び、地上へ搬出できる造りになっている。
この運搬システムはエデンⅣに入っている企業なら共同で運用できるようになっており、グローバルコーテックスも、その例に漏れていない。
それを見た瞬間、ソリテュードの脳裏に閃きが走った。
――コイツを使えば、いけるか!?確かアレを購入して、まだコンテナに入れっぱなしだった筈だ。ヤツに唯一対抗できる武器が。
一縷の望みに掛け、迷うことなくミランダに回線を開く。
「ミランダ、単刀直入に聞くぞ。俺のガレージから、コンテナに入ったACパーツを企業共有の業務用エレベーターを使って地上に搬出できるか?」
俺の突拍子もない質問に少々面食らいながらも、冷静にミランダは答える。
「え?ええ、可能ですが・・・。搬出先を指定して下されば、運搬用リニアの路線を使用して搬出できる筈です。しかし、今までにそういった使用は例が無く・・・」
「できるんなら、やってくれ!ガレージの倉庫にミラージュのコンテナが1個ある。この前、業者から購入してリニアで搬入してそのままだから、話が早い筈だ。違約金だろうが追加料金だろうが、いくらでも払うから大至急頼む!俺はこんな所で死ぬわけにはいかない!!」
「了解しました。大至急手配します!」
俺の気持ちを察してくれたのか、力強く答えてくれるミランダ。
「頼む。搬出先は・・・」
「それには及びません。こちらでレイヴンがいる最寄りのエレベーターを検索して搬出します。それまで、持ちこたえて」
「ああ、持ちこたえて見せるさ」
希望が見えてきたことで余計なことを考える必要が無くなり、操縦はより精度を増していく。
だが、それでも圧倒的不利な条件は覆らない。
『AP30%。機体損傷度、増加しています』
「くっ・・・」
さっきよりは被弾の頻度は低下したものの、全て避けられるほど都合のいい話は無く、徐々に追い込まれていく。
しかし、ナインボールはパルスライフルでの攻撃を突然止め、距離を取った。
何事かと思った次の瞬間、背筋が凍りついた。
ナインボールは左肩のグレネードキャノンを展開し、砲口をこちらに向け、発射態勢に移っていた。
一撃でも直撃すれば、撃破は免れない。
回避しようにも、周りを高いビル群に囲まれた商業区画では上手く回避行動が取れない。
パルヴァライザーの時とは逆の立場になり、窮地に立たされる。
――まずいぞ、どうする!
グレネードキャノンが火を噴こうとしたその時、ナインボールの後方から超高速の弾丸が轟音とともに飛来する。
咄嗟の回避行動を取ったナインボールに続けざまに多方向からのミサイル弾幕が襲い掛かる。
「ソリッド!今よ、逃げて!!」
ミサイルを回避しようとするナインボールにライフルとマシンガンの追い打ちをかける黄色の重装四脚AC。
ファンロンは立ち止ることなく、器用に切り返しながら連続砲火をナインボールに浴びせかける。
「メイファ、手を出せば狙われるぞ!お前一人じゃ勝てない、逃げろ!!」
「できる訳ないでしょ、そんなこと!」
ナインボールは驚異的な機動力でファンロンからの攻撃を悉く回避するが、積極的に反撃してこない。
「この、バカにして!」
ライフルとイクシード・オービットで攻撃を絶やすことなくレールキャノンを連続で発射するが、そのどれもが避けられてしまう。
その機動力にメイファは戦慄した。
「なんてヤツなの、有効射程圏内なのに掠りもしないなんて」
それでも、ソリテュードが離脱する時間を稼ぐため、攻撃の手を緩めることなく立ち向かっていく。
――私はまだ、あの時の恩を返してない。だから今度は私がソリッドを助けなきゃ!
決意を胸に赤いACを見据え、全神経を集中して攻撃を加え続ける。
「コイツ!ソリッドとアリスちゃんから離れろっ!!」
その執拗な攻撃に、ナインボールはファンロンを障害と認識し、突如攻撃を加えてきた。
今まで回避するだけだったのが一転、苛烈な攻撃を開始したナインボールを前にファンロンは後退を余儀なくされる。
「くっ、まず!」
ファンロンの機体構成は火力と機動力に優れる反面、防御力はあまり考慮されておらず、コアや腕部は軽量級のパーツを使用しているため撃たれ弱いという欠点がある。
ブーストで後退しつつ、自分を追ってくるナインボールにライフル、マシンガン、イクシード・オービットの高密度射撃を見舞うが、怯むことのない赤い機体はファンロンとの距離を詰め、パルスライフルでその装甲を剥ぎ取っていった。
「きゃあっ!う、嘘でしょ、これでも止まらないなんて!?」
圧倒的な力の前に、瞬く間に追い詰められるファンロン。
機体は既にボロボロで装甲は焼け焦げ、右腕は肘から吹き飛ばされ、左腕のマシンガンはエネルギー弾の直撃を受けて爆散し、ミサイルも接近されすぎて撃てず、レールキャノンも近すぎて狙えない。
既に満身創痍で満足に動くこともままならないファンロンにナインボールは無慈悲にブレードによる止めを刺した。
前方右脚部を焼き切られ、閣座するファンロン。
「メイファ!」
「ご・・・めん、ね。役に、立てなくて・・・。アリスちゃん連れて、逃げて」
「バカ野郎!ンなことできるか!!」
「メイファおねえちゃん!」
しかしナインボールは閣座したファンロンにそれ以上、追撃を加えることなく再度ブリューナグの方へ向き直る。
戦闘能力を失った敵にこれ以上無駄弾を使う必要は無い。機械ゆえの合理的な判断だった。
ファンロンがブリューナグと反対方向へ後退したことにより、かなりの距離が離れていたが、それでも逃げ切るには十分な距離とは言えない。
メイファはまだ生きている。今なら無事に助け出せるかもしれない。
だが、それを実現させるにはナインボールを倒して自分が生き延びなければならない。
ソリテュードの胸を焦燥感が襲う。
――ミランダ、まだなのか!?メイファが命がけで稼いでくれた時間が・・・
無駄になってしまう――そう思いかけた時。
「レイヴン、指定のコンテナが間もなく到着します!場所は現在位置の右後方すぐの所にあるエレベーターです。見えますか!?」
ミランダの声に弾かれる様に機体を巡らせると、さっき見たエレベーターの搬出口が視界に飛び込んできた。
「確認した。今すぐ向かう!」
「搬出口は自動的に開放されます・・・只今到着しました!」
ミランダの言葉通り、エレベーターの搬出口のゲートが開放され、ドーリーに乗ったコンテナがせり出てきた。
それを見て、ソリテュードはオーバード・ブーストを起動し、一気に距離を詰める。
だが、ブリューナグに再び狙いを定めたナインボールが、もうすぐそこまで迫っていた。
ナインボールはブリューナグを仕留めるべくグレネードキャノンを展開し追い縋ってくる。
――間に合うか!?いや、間に合わせて見せる!!
コンテナが目前に迫り、ロック解除のパスコードを送信すると同時にブリューナグの右腕を伸ばす。
が、次の瞬間、ソリテュードの視界は白い閃光に包まれ、一拍遅れて轟音と衝撃が激しく体を揺さぶった。
ブリューナグとコンテナ、エレベーターの周囲は黒々とした爆煙に覆われ周囲の視界は遮られる。
束の間の静寂が辺りを包み、もうもうと立ちこめていた煙が徐々に薄れていく。
ナインボールは目標の沈黙を確かめるため、ブリューナグの残骸があるだろう爆発の中心点に近づこうとした。
しかし次の瞬間、煙を掻き消しながら蒼い光弾が閃き、ナインボールの右肘から下をパルスライフルごと吹き飛ばした。
その高性能AIでさえ予測しなかった事態にナインボールは慌てたように距離を取るが、それを許さぬかの如く、続けざまに2発の蒼い閃光が直撃し、ぐらりとバランスを崩す。
煙を吹き飛ばしながらフルブーストで躍り出たブリューナグの右腕には巨大なレーザーライフルが握られていた。
―WH04HL-KRSW―
ハイレーザーライフル、通称カラサワ。設計者の名前が冠されたACの歴史に名を残す名銃。高い機体負荷と引き換えに得られる火力は絶大で、これだけで戦況を覆す能力がある。
敵を追い込むための武器であるパルスライフルを失ったナインボールは、グレネードキャノンを直撃させようと左右に切り返しながら距離を取るべく後退を試みるが、ブリューナグのカラサワによる追撃を受け、急速に動きを鈍らせていく。
――逃がすか!一気にケリを付けてやる!!
確かな手ごたえを感じ、ソリテュードはナインボールを攻め続ける。
さっきまで防戦一方だったのが嘘のようにカラサワの高出力レーザーはナインボールの装甲を貫いていく。
しかし、これには理由があった。
カラサワの性能が優れているのはもちろんだが、ソリテュードには幾つかの幸運が味方していた。
まず一つ目は、グレネードキャノンの直撃を免れたこと。
砲弾はエレベーターの搬出口に直撃し、ブリューナグにダメージが及ばなかったのだ。
そして、二つ目はエレベーターの搬出口が破壊されたことによって、派手にまき上がった爆煙が煙幕代わりになりナインボールに誤解を与え、時間が稼げたこと。
そして最後はアリスの手によるものだった。

カラサワを装備して今まさに打って出ようとした時、アリスは俺を制するように右腕をくいと引っ張った。
「どうして止めるんだ?これならヤツに対抗できる」
「うん、でもそれだけじゃ、だめ。FCSのサイトはんいがせますぎて、ソリッドとこのこがついていけてない。これじゃ、ナインボールにあたらない」
アリスの的確な発言に正直、面食らってしまった。
「あ、ああ。だが、こればっかりはどうしようもない。後は腕で何とかするしか・・・」
「ううん、だいじょうぶ。こんどは、わたしがおてつだいするばん。このコンソールからシステムにアクセスできる?」
アリスが何をする気か分からないが、正直モタモタしている時間は無い。
だが、俺はこの少女に託してみたいと思った。今この瞬間、運命を共にしている者の熱意を無碍にしたくは無い。
「ああ、できる筈だ。コンソールにタッチパネル式のキーボードがある。それを使ってアクセスできると思うが、どうするんだ?」
「うん、じかんがないからせつめいできないけど、FCSをかきかえて、サイトはんいとロックそくどをはやくするの」
アリスの突拍子もない発言を聞いて耳を疑う。
「なっ!?そんなことできるわけが・・・」
「できるよ。だってわたし、せいたいCPUだもの」
「アリス・・・」
その言葉を聞いて、胸が締め付けられるような思いがした。アリス自らそんな風に言ってほしくは無かった。しかし同時に、それは自分の身勝手なエゴだと認識する。
そんな俺の心を見透かしたようにアリスは微笑んだ。
「わたし、もっといろんなことがしりたい。ソリッドやメイファおねえちゃん、ミランダさんにいろんなこと、もっとおしえてもらいたい。いろいろべんきょうして、みんなみたいに、なりたいの。だから、ナインボールをはかいするための、おてつだいするの」
そうしてアリスは俺の膝の上からコンソールに向かい、パネルを操作し始めた。
「ブリューナグ、ごめんね。きもちわるいかもしれないけど、がまんしてね」
自分のぬいぐるみに話しかけていたように優しく語りかけると、まるで何度も操作したことがあるような手際でシステムを呼び出した。
そこから先は夢でも見ているかのようだった。
少女の繊細な指先が精密機械のように超高速で正確にキーボードを叩き、瞬く間にFCSが書き換えられていく。
そして、戦闘システムが一旦フェイルし、再起動した瞬間、俺は自分の目を疑わざるを得なかった。
あれだけ狭かったサイトがディスプレイほぼいっぱいまで広がっていたからだ。
「う、嘘だろ・・・?」
「ロックきょりは、すこしみじかくなったけど、サイトはんいとロックそくどは、はやくなってるから」
そうして、アリスは再び俺にぎゅっとしがみ付いた。
「ソリッド、あいつをやっつけて」
アリスの努力と期待を裏切る訳にはいかない。
俺自身も意識を集中する。準備は整った。後は実行するだけだ。
「ああ、任せておけ」
そう言って、レーダーに表示されている方向に向き直り、薄れゆく煙越しにナインボールをロックオンすると同時にトリガーを力強く引いた。

白いACと赤いACが、まるでダンスでも踊っているかのように激しい機動戦を展開する。
凄まじいブーストの風圧で、商業ビル群の窓ガラスが吹き飛んでいく。
ナインボールは少しでも被弾率を低下させるため、空中での機動を展開していた。
通常のACよりも余裕のあるジェネレーター出力を持つナインボールは、普通では有り得ない滞空時間を実現し、自在に空を舞う。
そして、空中からの強烈なグレネードキャノンをブリューナグへ放つが、ソリテュードは巧みにこれを回避する。
ナインボールは規格外の性能を持つが、実体弾兵装の弾薬自体は既存の標準のものを使っているとソリテュードは見抜いていた。
グレネードキャノンの弾速は速い方だが、光学兵器と比べればその速度は劣る。
タイミングさえ誤らなければ、フルブーストの回避機動で十分避けられるのだ。
対するソリテュードの方はアリスの恩恵によるサイティング能力の大幅な向上により、ナインボールを捉え続けていた。
しかし無駄弾は撃たず、向こうが攻撃を仕掛けてくる時の僅かな隙を狙って確実に命中弾を当てて行く。
ここまでの戦闘で、既にソリテュードは10発もの命中弾をナインボールに与えていた。
通常のACであれば大破、重量級やタンクでも大破寸前のダメージを与えられているはずであるが、ナインボールは所々の装甲を吹き飛ばされつつも、動きはまだまだ衰えてはいなかった。
――クソっ、一体どんな装甲してやがるんだ。
胸中で毒づくが、それとは裏腹に思考は冷静だった。
残弾カウンタに目を向けると、残り21発。ほぼ半分を撃ち切ったことになる。
――命中率は50%といったところか。ヤツに対してこの数値は上等だが・・・全弾撃ち切るまでに沈黙させることができるか微妙だな。やはり接近してコアを撃ち抜くしかないか・・・。
しかし、それには大きなリスクが伴う。
ソリテュードは接近戦を避け、こちらの有効射程を保ちつつ、ここまで戦ってきた。
武器はもうカラサワしかなく、ブレードも破損しているため、近づかれれば圧倒的に不利になる。
一番危惧するべきは相手のブレードによる攻撃だった。
ブレードを受けてしまった場合、衝撃による硬直で、一瞬身動きが取れなくなってしまい、そこを至近距離からのグレネードキャノンで狙われれば確実に撃破されてしまう。
――今仕掛けるのはまずい。残弾が10発を切るまでは・・・ん!?
戦略を纏めかけていたソリテュードの目に、それまで空中を飛び交いつつグレネードキャノンを連射していたナインボールからマイクロミサイルが射出されるのが映った。
「チッ」
既に撃ち切っていたと思っていたマイクロミサイルの牽制に思い描いていた戦闘のイメージを崩され苛立つ。
――やはり一筋縄ではいかないな。
マイクロミサイルといえど、現状の残りAPで直撃を食らえばひとたまりもない。
全弾回避するため、それまで封じていたブーストジャンプで上空へ飛び上がりミサイルを引き付ける。
ミサイルの束が目前に迫ったところでブーストをカットし、自由落下による急激な軌道の変化でやりすごす。
続けて放たれていた第二波はオーバード・ブーストを起動し、無理やり引き離した。
回避する間もナインボールから目を離さず、狙いを定め続ける。
――ミサイルに泡を食っているところを狙い撃つ算段だろうが、そうはいくか。
未だ滞空し続けるナインボールの足元に潜り込むように路面を滑走し、グレネードキャノンの射角から逃れつつ、無防備な胴体にロックする。
「これでどうだ」
コアを撃ち抜くべくトリガーを引こうとした瞬間、赤いシルエットが視界から掻き消えた。
「何っ!?」
ナインボールは瞬間的にオーバード・ブーストを起動し、あろうことかブリューナグの背後に回り込んだ。
――ちくしょう、なんてヤツだ!
咄嗟に旋回し、レーダーの示す方へ視界を巡らすと、そこには自分を見下ろしつつ完全に捉えたナインボールがグレネードキャノンの砲口をこちらへ向けていた。
その姿は死を運ぶ悪魔を連想させる。
直撃を覚悟し身構えたその時、轟音が鳴り響いて赤いACがぐらりとその身を震わせた。
何事かと思ったソリテュードの視線の先に、満身創痍ながらもレールキャノンを構えるファンロンの姿が見えた。
ファンロンは完全に機能を停止していた訳ではなく、閣座しただけであり、前部右脚を破壊され歩行不可能だったものの、残る3つの脚部で機体をなんとか立ち上げ、レールキャノンによる最後の一撃を放ったのだ。
「ソリッド・・・そいつ、ぶっ殺し、て」
薄れる意識を全身全霊で繋ぎ止め、必中の一撃を放ったメイファはゆっくりと暗い闇に落ちていった。
「メイファ!しっかりしろ!!」
呼びかけに応えないメイファを気にかけつつも、今はナインボールを仕留めることに全力を注ぐ。
ここでヤツを倒さなければ、メイファの努力が無駄になってしまう。
背部にレールキャノンの直撃を受けたナインボールは、急速に高度を下げていく。
今の一撃で、ブースターの片方を破壊され、十分な推力を得られなくなったためだ。
――しめた、チャンスだ!
迷うことなくフルブーストで落下予測地点まで距離を詰める。
そして、ナインボールが着地する寸前の隙を突いて、脚部を狙い3発のレーザーを撃ち放った。
ほとばしる3発の蒼い閃光は赤いACの機体を掠め、装甲を焼き焦がしていき、最後の1発が右膝関節を直撃する。
その直後、着地したナインボールは突然右側に大きくバランスを崩し、膝をつく様な形で停止した。
着地寸前に破損した右膝関節に着地の衝撃が加わり、完全に破壊されたためだった。
閣座したナインボールを前に、ソリテュードは努めて冷静に照準を合わせる。
「これで、終わりだ」
コアをロックオンサイトに収め、トリガーを引こうとした瞬間、ナインボールのカメラアイが妖しく光った。
只ならぬものを感じた直後、ナインボールの背後に不気味な光が灯るのが目に飛び込んできた。
――まずい!
敵の意図を瞬時に理解し、咄嗟に後退を試みたソリテュード目掛けてナインボールはオーバード・ブーストを起動し、赤い弾丸と化して突っ込んでくる。
捨て身の特攻。人間同士の戦いならば相討ちになるが、機械であるナインボールは目標をどのような形であれ、撃破できれば勝ちなのだ。
一切の迷いのない特攻にソリテュードは恐怖を感じた。
目前に迫る赤いACは燃えるようなオレンジ色のブレードを展開し、ブリューナグを断ち切らんとその腕を振りかぶる。
――しまった、予測できていたのに!
死をも覚悟したソリテュードの胸に、ぎゅっとしがみ付いてくる体温が伝わり、心と体を踏みとどまらせる。
キッとディスプレイいっぱいに映し出されるナインボールを見据え、フルブレーキングをかけると同時に、左半身を突き出し迎え撃つ体制を取った。
光の刃が展開された左腕が振り払われる瞬間、ナインボールのカメラアイと自分の視線が交差するような錯覚に襲われる。
直後、激しい衝撃がコクピットを襲い、体を揺さぶった。
視界の端に、ブリューナグの左腕が吹き飛ばされていくのが映る。
衝撃でシェイクされた脳が意識を刈り取り、視界をぼやけさせるが、それでも冴え冴えと映る赤色を逃すことなく、右のコントロールレバーを強く握る。
白いACと赤いACは互いに敵へ止めを刺すべく必殺の武器を構える。
共に零距離。逃れられる道理は無い。
もはや両足で立っていられなくなったナインボールは、確実に命中させるために膝立ちの状態でグレネードキャノンを構え、その砲口をブリューナグのコアへ向ける。
が、それよりも速く、ブリューナグの右腕に握られるカラサワの銃口はナインボールのコアの真中を捉えていた。
人間の決死の判断と機械の合理的な判断。
そのどちらが正しいのかは永遠に分からない。
しかし、この瞬間だけは人間の思いが勝った。
「くたばりやがれ!」
激しい衝撃音と共に蒼い閃光はコアを貫き、赤いACは二度と立ち上がることは無かった。

ソリテュードはブリューナグを閣座したファンロンの横に着け、機体から降りると、ファンロンのコクピットハッチにある外部エジェクトレバーを操作して、外からコクピットを強制開放した。
「メイファ、無事か!?」
メイファは気を失い、首をうな垂れていたが、ソリテュードの呼びかけにゆっくりと顔を上げた。
「ん・・・ソリッド?どうして、ここに・・・」
少し朦朧としているようだが、意識はあるようだ。その様子にソリテュードは心底安堵した。
「そりゃ、ナインボールを倒したからに決まってるだろ」
「たお、した・・・。じゃあ、終わったの?」
「ああ、全部終わった。俺たちの勝ちだ」
俺の言葉にほっとしたように顔を緩めるメイファ。
「よかった・・・、そうだ、アリスちゃんは無事?」
本当に心配していたのだろう、さっきよりもはっきりとした口調で聞いてくる。
「ああ、大したケガもしてないし、大丈夫だ。今は眠ってる。相当疲れたんだろうな」
「そう、よかった」
「お前の方こそケガはないか?」
「ん、もしかしたら肋骨が2~3本折れてるかもしれないけど、他は平気っぽい」
表情を見る限り、必要以上の無理をしているようには見えない。機体がこれだけ損傷していて、この程度のケガで済んだのは僥倖だろう。
「そうか、よかった」
「心配してくれるんだ」
何が嬉しいのか、顔をほころばせるメイファ。
ヘルメットを取り、鮮やかな赤い髪が広がると、ふわっと女性の柔らかな匂いが香った。
「当たり前だろう、助けに来てくれた知り合いに死なれたら寝覚めが悪い」
メイファの女性らしさを目の当たりにして、思わず目を逸らしてしまう。
「んふふ、ありがと。嬉しい」
素っ気ない態度を取っている俺に、見透かしたように花のような笑顔を向ける。
そんな仕草を見て、不覚にもどきりとし、気まずくなって頭を掻く。
コイツの前だとどうも調子が狂う。
目を逸らした先には、赤々と炎が立ち上り、ついさっきまで死闘を繰り広げていたACをこの世から葬り去っていた。
ナインボールを撃破し、メイファの安否を確かめるためファンロンに近づいたとき、突然自爆したのだ。
機密保持のための処置なのだろうが、もしあの自爆に巻き込まれていたらと思うとゾッとする。
何処かに行方を暗ましているハスラーワンの亡霊の残滓を見つめながら、今回の戦いを振り返る。
考えること、やることは山積みだが、今は休息して地盤を再構築するのが先決だ。自身が反省すべき点も数えきれない。
「ねぇ、ソリッド」
目を閉じ、そんな事を考えていた俺をメイファの声が引き戻す。
「ん?」
「私、役に立てた?」
先ほどとは違い神妙な顔つきでメイファは聞いてきた。
何故、今さらそんなことを聞くのだろうか。
「ああ、お前が来てくれなかったら、確実に殺られていた」
「ホント?」
「嘘ついてどうする。今回は本当に感謝してるよ」
「そっか・・・」
そうして、また普段の明るい顔つきに戻ったと思った途端。
「じゃあ、ごほうびちょうだい」
そう言って、今度は悪戯っぽい表情へと変わる。ホント、よく表情が変わる女だ。
「はぁ?なんだよ、ごほうびって」
俺の問いには答えず、静かに目を閉じて、わずかに柔らかな唇を突き出すメイファ。
――ったく。男である以上、後に引けねぇじゃねえか。
そう思いつつ、彼女の望みを叶える。
昔のように優しく唇を重ねると、当時の思い出が俄かに甦る。
全く、今日は何て日だ。

遠くから、ヘリのローター音が近づいてくる。コーテックスの救援部隊だろう。
「メイファ、悪いが一旦離れるぞ。アリスを他の人間に知られる訳にはいかない。俺はこのままガレージまで帰還する。後日、個人的に礼をしに行くよ」
「うん、期待して待ってるね」
悪戯っぽい笑みを浮かべるメイファに俺も口元を緩ませて応える。
「ああ、期待しとけ」
ファンロンからブリューナグに乗り移り、アリスを起こさぬよう膝の上に乗せて機体を立ち上げる。
するとタイミングよくミランダが通信を入れてきた。
「レイヴン、お疲れ様です。今回は色々なことがありましたが、まずはゆっくり休んでください。シャオランのメディカルチェックは手配済みです。ファンロン回収はこちらで引き受けますので、レイヴンはガレージへ帰還してください」
「ああ、頼んだ。後は任せる。それと、ありがとうミランダ。君の支援が無ければ勝てなかった」
俺の謝礼にミランダは柔らかな笑みを浮かべる。
「いえ、オペレーターとして当然のことをしたまでです。レイヴンをサポートするのが私たちの役目ですから」
その言葉を聞いて心強いものを感じつつ、ガレージへの帰路へつく。
長かった一日は、これにて終焉を迎えた。
膝の上で可愛らしい寝息を立てる少女の髪を優しく撫でつつ、ソリテュードも暫しその羽を休めるのだった。


 第十二話 終

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