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設定:時間軸は祭囃しの後。羽入は存在しているが梨花の前に姿を見せない(澪尽しの状態)。




 鷹野の企みを打ち破って平穏な日々を送れる、と毎朝目が覚めるたびに心が躍った。早起きした方が競って破る日めくりカレンダーで日にちを見るのが毎日楽しみだった。毎日が笑って過ごせて、隣には沙都子がいて。本当に幸せだった。

 ――だが、いつからだっただろうか。
 沙都子が私に目を合わさなくなったのは。
 沙都子が私に触れなくなったのは。
 沙都子が私から離れていったのは。

 ――沙都子が家に帰るなりすぐ出かけるようになったのは――。




 その日もまた帰宅してものの数分で私服に着替えた沙都子は私が部屋の換気を行っている隙に出かけようとしていた。

「沙都子?」
「何ですの、梨花…私急いでいるんですのよ」

 少し気まずそうな表情をしながら振り返る。

「…どこかに出かけるのですか?」
「え、ええ! 裏山にいって以前仕掛けたトラップの確認をしに―」

 確か昨日も似たような事を言っていた。ああ確か診療所に仕掛けたトラップを確認するって言ってたんだっけ…。昨日はなんで断られたんだっけ、そうそう私が夕食当番だったから。

「ならボクも一緒に行きますです」
「いっ…いえ! 梨花には危険ですし私一人で行きますからっ」
「でも沙都子、今日の夕食当番は沙都子です。だからボクは沙都子が帰って来ないと飢え死にしてしまうのです。」
「ええ、ですからトラップを確認してから買い物にいくつもりでしたのよ?」

 この反応は予想の内だった。だから私は昨日のうちにあらかじめ食材を買っていた。

「買い物は昨日済ませておいたのです。今日は何も買わなくてもいいのです、にぱ~☆」
「そ、そうでしたわね……あ、あぁ! 私詩音さんに―」
「沙都子」
「なっ、なんですの?」
「…みー、どうしてそんなにボクから逃げるのですか?」
「逃げてなんていませんわよっ!」
「逃げているのです」
「逃げてませんわっ!」

 図星をつかれたのか沙都子の声が段々と大きくなっていた。

「みー…沙都子はボクのこと嫌いなのですか?」
「はっ!? な、何を言ってるんですの梨花!?」
「沙都子はボクと目を合わせてくれないのです…」

 はっ、と息を呑む音がしたと同時に目が泳ぎ始める。

「そそ、そんなことないですわ! 梨花の気にしすぎなんですのよ!」
「…みぃ、沙都子。嘘は良くないのです」
「嘘なんて言ってませんわ、何なんですの梨花さっきから―」
「ボクは沙都子の親友です。だから沙都子がいつもと違うことくらい分かります」
「…っ」

 俯き口を紡ぐ沙都子。
 ――ねえ沙都子、どうして目を合わせてくれないの?

「何か悩んでることがあるのですか?」
「…」

 ――私にも言えない事なの?

「みー…何か沙都子を傷つけることをしてしまってましたか?」
「いえ」
「ではどうして? 沙都子はボクからいつも逃げようとするのですか?」
「…親友でも、いえ親友だからこそ…知らなくてもいいことだってあるんですわ」
「みぃ? どういう意味なのです?」

 その問いかけに返事はなく、もう言う事はないとばかりに踵を返し裏山へ向かおうとした。

「沙都子っ!」
「…梨花を飢え死にさせないように、ちゃんと帰ってきますから」

 私の呼びかけに顔だけ振り返ってみせ、そう言うと走り出した。段々と小さくなっていく親友の後姿を見て、何に悩んでいるのか分からないことの悔しさと悲しさと切なさが一杯になって涙が溢れた。