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夏の終わり 「黒い靄」からの続き。


◇◇◇

 私の隣にはいつも沙都子がいた。
 どの世界でも一緒に住み始めた頃は少し余所余所しかったが、段々と自分に心を開いてくれてきていると分かるとそれが予定調和とは言いながら嬉しかった。

 今私が昭和58年の夏を超え秋を過ごそうとしているのも、100年の輪廻を繰り返しても心がボロボロになって何の感情を持たなくならなかったのも沙都子がいてくれたから。私が元気ない時は一緒に落ち込むわけじゃなく、私を元気付けようと色々な話をしてくれる。
 沙都子は私を照らす太陽みたいなもので、その明るさに目を向ける私は向日葵のようだった。沙都子がくれる暖かさを私の全てで吸収したかった。だから沙都子の元気がないと私も元気がない。大抵の事は私が傍にいる事でその元気を取り戻せていたのだが、私が傍にいることによって失われる元気もあると言うこともあり傍にいたいのにいれないという心苦しい想いをした事もあった。

 私は沙都子が好きだった。
 何度も何度も同じ運命を歩み、そして何度も殺されて記憶が曖昧なところもあるくらいなのにどんな運命の世界でも私の思いは変わらず、沙都子を好きだった。
 彼女が笑った時に見せる八重歯が好きだった。本人は食べにくいなんて言って気にしていたけど私にはとても可愛かった。八重歯だけではなく、沙都子を確立してくれるものの全てが愛しかった。
 寝ている時に言う寝言も、寝顔も、布団を蹴っ飛ばして出してしまうぷにぷにのお腹も何もかも彼女が関係しているものが好きだった。
 ―私は時を越え、ずっと沙都子に恋をしていた。

 女の子同士の恋愛は一般的には特異というものだという事は知っている。けれど私が好きなのは女の子なのではなくて、沙都子なのだ。
 女なんて周りにはいくらでもいる、魅音や詩音やレナや知恵や鷹野や他にもたくさんいる。ある世界では魅音が、詩音が、レナがそういう関係を持っていた事もあった。そういう事に興味がないわけではなかったが私は沙都子と肌を触れ合わせたかった。
 とある世界では圭一と身体の関係を持ったことがあったが、沙都子とは結ばれないんだという悲しみを紛らわすために圭一を利用しただけの事であり、仲間とは想うが恋心を抱いたことはない。そしてそういう相手との交わりはただ空しいだけで身体から生まれる性感だけで、空虚の心を埋めようと盛りのついた犬のように毎日交わっていた。

 どうせ終わる世界なのだとしたら沙都子に言い寄ってみようかと試してみたこともある。それは失敗に終わった。やはり女の子同士という異質なものに対して沙都子が嫌悪感に似た感情を覚えたのか私を嫌ってしまいそのうちに北条本宅へ戻りそこには鉄平が戻ってきてしまったという最悪な結果で終わったこともあった。
 その世界は全てのサイコロの目が1のように感じ、沙都子と一緒にいれないという事がこんなにも寂しく苦しく、悲しい世界なんだと言う事を知ってからはもう沙都子を無理やり自分のものにしようという気は失せ、代わりに沙都子にとって大切な人になろうと想い時には励まし、叱り、そして恋の相談も受けた。
 好きな子が自分じゃない誰かを好きになっていく様を見ているのはただただ切なくて、圭一が沙都子を恋愛対象としてみてくれないと泣き崩れたこともあり、苦しい恋愛をしている沙都子を見るのは生き地獄にも感じた。
 こんなにも近くで沙都子を想って心を痛めているのに、沙都子の事を誰よりも大切で誰よりもかけがえのない人と想い慕っているのに、ただ私が女ということで恋愛対象にならないという事が悔しくて。自分の性別を呪った。
 100年も生きた魔女と謳うこの私がたった一人の小娘に心捕らわれている事が滑稽だった。だけど私は例えここで不慮の事故で意識を飛ばしてしまったとしても、沙都子のために戻ろうというくらいの想いがあった。

 それは決して伝える事は出来ないけれど―――


 今いる世界は今までとは違う。今まで駒として扱っていたモノ達にもちゃんとした役割があったからこそ掴めた未来。だからループの世界で見たくても決して見れなかった世界がある。
 例えば魅音とレナが圭一を取り合っていたり、とか詩音が色々なコスチュームを持って診療所に通っているとか本当に些細な事だけども同じ生活でここまで新鮮に思えることがなかったので、それがとても楽しかった。
 そして今私が日々を刻んでいるこの世界では沙都子の様子も今まで見たことのない事になっていた。

 まず日々の生活で沙都子は私の周りに対する人への態度が刺々しかった。
 村の人たちや血の繋がらない親族のおかげで誰よりもひどい目にあっているから、人を傷つけようとする事は沙都子にとって滅多にないことなのに。
 特に赤坂に対してはとても辛辣な態度で、赤坂自身は沙都子と直接の関わりがそんなにないのだから沙都子が赤坂を一方的に好きになれないとしても、そんな事で冷たい態度をとるという結果に結びつくのは安直過ぎる。事情をよくわかってない赤坂はさすがに沙都子に避けられていると思い頭を悩ますのだが、正直なところその理由が私ですら分からないのに上っ面の言葉だけで大丈夫、という事も出来ず少し困っていた。
 反抗期なのかと思いたしなめようと沙都子に言うのだが、本人が自覚していなかったため理由を聞いても無駄、却って沙都子を余計に怒らせてしまったため逆効果に終わる。
 何か見たくないところでも見てしまったのか。だから赤坂にだけ特別冷たいのかと思いマイナスイメージを取り払ってもらいたくて赤坂とのやりとりを沙都子に話した。話は聞いてくれているもののあまり快活ではない返答がかろうじて返ってくる程度で、さもどうでもいいかのように食事を取るのだがその食事の量も今までとは段違いに少なく、いつも沙都子との会話を楽しみにしていた食事時もあまり楽しく思えなくなってしまっていた。

 ―沙都子が元気でいてくれればそれだけで幸せなのに、その幸せがなく世界が灰色になってしまった気がしていた。


 そして私への態度もおかしくなった。なんというか少し他人行儀だった。
 これもまた赤坂の時と同じように私には理由がわからなかった。知らない間に沙都子を傷つけてしまっていたのかと思い返してみても自分の中では思い当たる節が見当たらず、どうしたらいいのか分からず日々を過ごしていた。
 折角勝ち取ったループからの未来は私は見たことがないのでどうなるかも分からなかったから、ひょっとしたら沙都子とは仲が悪くなってしまうような未来だったのかもしれないと頭を悩ませ、未来を嘆いた事もあった。
 いつもは一緒に行動していたのにちょこちょこと一人で行動することが多くなり、それすらも私の心を締め付ける。そんな私たち二人を見かねたのか部活メンバーの圭一、レナ、魅音の三人が気を遣い私と沙都子の間に何があったのか聞いてきた。
 正直な話圭一や魅音に話しても分からないと思った。理由なんかなく、ただ「なんとなく」。
 だから3人一気に押しかけてきたときはなんでもないのです、と切り上げて後にレナだけを呼び出してみることにした。

 レナは鋭かった。私が沙都子に対して抱いている感情に薄々気づいていた。
 だから用件を伝えるのは容易だったのだけど、レナでやっと気づいたという事は沙都子を含め他の3人は気づいていないはず。
 レナの言い分だと私の考えは予想通りで沙都子も私が好きだというのには気づいていないようだった。あの子は人の痛みには敏感だろうけど恋愛感情がどういうものかまだ分かってないと思ったから。詩音が悟史を好きという程度の漠然としたものは分かっていても、魅音が圭一を好きだというのが多分理解できないようなもんだろう。ならば何故沙都子は私から距離をとろうとしているのか、今まで一緒にいながらそれが分からない自分が不甲斐なくて泣けてきた。
 そんな私をみてレナは優しく撫で、私に言った。

「沙都子ちゃんを信じていれば、絶対大丈夫だから」

 そう言うレナに救われた気がして素直にありがとうと言った直後の事。え?という聞き馴染みのある間の抜けた声がどこからともなく聞こえた。声の主は探さなくても分かる。だけどどうか違っていて欲しいという願いもかけて声のした方に顔を向けたら予感的中、―沙都子だった。
 その佇む沙都子の表情を見たら気づいてしまった。私とレナの会話を聞かれてしまっていた、という事。

  ワタシガ サトコヲ スキダ トイウコトガ バレテシマッタ

 頭にその情報が伝わってからその場に佇む沙都子への弁解の言葉も出てこず、レナが一生懸命弁明しようとしていた。沙都子はそれを聞かずに嘘だと叫び、その場に倒れた。沙都子に嫌われても構わない、でも沙都子の傍にいたい!そう思うが早いか沙都子の元へ走りより沙都子を抱きすくめた。元々線が細い沙都子の身体はもっと細く感じた。

 後にクラスの子が沙都子が私を探していたという事を耳に入れた。沙都子は私に何を言おうとしていたのか、それが気になった。けれどそれを聞ける日はなかった。