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◇◇◇

 私が部活メンバーからの心配を受けた日に、明らかな拒絶反応を沙都子から受けた。
 きっと聞こえていないだろうという甘い期待は見事に打ち砕かれたのだった。そうでもなかったら沙都子が私を拒絶するわけがないんだ、とそう自分に驕りがあったから…だけど。
 病院で暴れてからというもの、沙都子は一人で学校へ行くことがあったり放課後も一緒に帰らなかったりと今までそれが当たり前だったかのように二人一緒に住んでいるのに別々に行動することが増えた。会話もどこか余所余所しく、この光景どこかで感じたことがあるなと思い出すと笑えることに沙都子と同居を始めた頃のようだった。

 そんなぎこちない灰色の毎日が続いたある日の事だった。
 沙都子が買い物に行っている間日ごろの沙都子への気遣いと、昼間の体育で疲れがたまっていたのか気づけば眠りの体勢になっていた。カナカナカナカナとひぐらしの鳴く声をBGMにガチャリという異質な音と共に沙都子が買い物から帰宅した。今までは買い物は一緒、だったけどここ最近では一人で行くことが多くなったからどちらかが家に必ずいて一緒にただいまを言わなくなってもおかえりなさいを言う事も聞く事も出来たのだが。今日は梨花からのそれがない事に違和感を覚えたのか

「梨花?いないんですの?」

 疑問を投げかけながら買ってきたものを冷蔵庫に入れようとする沙都子のとたとたという足音がする。本当は飛び起きておかえりなさいと言ってあげたい。いつもの作り調子でもいいから少しでも沙都子と話したかった。
 だけどそれすらをも行動にうつせないくらいの身体のだるさで瞑っている瞼を開くことも辛かった。
 沙都子と過ごしているのにこんなにも辛い日々もあるのね、と今まで感じたこともない後悔とそれに伴って最近ちゃんとご飯食べてなかったからだわ、という生活感溢れる後悔を頭の中で反省した。
 梨花?と襖越しに小さく私を呼びかけスッと音をたてて襖が開く。

「梨花?電気もつけずに………寝てるんですの?」
「……」

 目を開けるのも気だるいくらいなので返答をする事も辛かった。だからここは寝たふりでいよう、そう思った。これだけ疲れているのだから目を瞑っていれば少しくらいは寝れるだろう、目を覚ました時には沙都子のちょっと失敗した料理を食べることが出来る。今日は何のご飯なんだろう、と働かない頭でぼんやりと考えていた。

「梨花、夏でも何かかけないと風邪ひいてしまいますわよ」

 寝ている私に声をかける沙都子の優しさがとても嬉しかった。最近はこんな事すらもなかったから嬉しくて心が熱くなる。
 返答がない私を見て溜息を吐き、仕方ないですわねと押入れからタオルケットと枕を取り出してくれた。
 全く困った梨花ですこと…なんて軽口叩きながら本当に怒っている様子ではない声色を聞いて、今のような生活になるちょっと前の沙都子との日々を思い出してどうしてこんな事になってしまったんだろうと嘆いた。

 お腹にはタオルケットが優しくかけられ、頭をゆっくりと抱え枕を敷いてくれた。
 夕食の準備をするんだろうと私も寝ようと意識を持っていったと同時に頭に何か触れる。この温かさと優しさをもつのは沙都子の手。

「ごめんなさいね、梨花。私が悪いのに梨花にまで気を使わせてしまって…」

 謝罪の言葉をボソボソと口にしながら私の頭を撫でる。
 沙都子が一体何に対して謝っているのか分からない、ただ沙都子から伝わる熱が嬉しくて切なくて嬉しくて眠るのが勿体無く感じた。少しでも長く味わっていたいその感触は頭から頬へと移動し、直接肌に沙都子のふにふにとした手が触れる。
 沙都子にこうして頬を触れてもらったのは一体いつだったっけ、ああ思い出せない…そんなにも前の事でもないというのに私はこんなにも沙都子の肌を忘れてしまっていたんだと思うと心が切なくて、今この場で力を振り絞って起きて沙都子に聞きたかった。どうして私を避けるの、と。でも以前の世界みたいに沙都子に嫌われたくないからそんな事聞けない。
 こんなにもこんなにも好きな人が今私のために断罪しているというのに私はそれを起きて許してあげることなんて出来ない。なんて、なんて弱虫な自分なんだろう…結局私は自分だけの事しか考えられないんだ。沙都子ならきっと私のように逃げないでいるだろうに。
 暗いからばれないだろうと唇をかみ締めようとすると、指の気配を感じて即座にやめる。唇の輪郭をおぼつかない動きでなぞる。今までそんなことをされた経験がなく、ましてや沙都子からの刺激となると身体の中心が熱く疼いた。

―ちゅ

 そんな私の唇に柔らかい感触を感じると同時に小さな水音がした。
 ――今の…って何?…くち、びる…?沙都子の?…え?なんで?私、キスされた…?

「…―になっ………って、ごめんなさい」

 私の枕元には涙声で謝る沙都子がいた。