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◇◇◇

 家路へ向かう足取りは軽かった。
 ぎこちない生活とは言え、梨花の食事の量が戻ってくれた。それは私が作った時に限ってだったけど、それでも嬉しかった。きっと気を遣ってくれているんだろうとは思うけど、そうやって嘘でもいいから形を作ろうとしたら本物になるんじゃないか、そういう淡い期待を抱きながら家に着いた。
 少し遅くなってしまったかも。入り口が少し暗く感じガチャリ、と鍵を開け部屋に入るといつも聞くおかえりがない。元々防災倉庫だったのだから特別広くないこの部屋だけど、梨花がいないと思えるだけでとてつもなく広く感じる。
 もしかして…バレた?いやそんなはずはない、だって今日だって普通だったじゃないか、と自分に言い聞かせ梨花を探す。あまり立派ではないけど愛着のある襖が閉まっていた、なんとなくここにいるような気がしていたけれど開いている隙間を覗けば明かりがない。物音もしなかったから多分寝ているんだろうとは思った。

 襖を開くと案の定小さな寝息を立てて梨花は寝ていた。
 …夏も過ぎてもうそろそろ秋だというのに何もかけずに寝てしまっていてはさすがに風邪までとは言わなくても体調を崩すのではないかと思い、起こしてみるも全く起きる気配がない。一つ溜息をつくとタオルケットと枕を取り出し梨花にかける。

 布団を並べて寝る夜、最近はいつも梨花に背を向けるような形で寝ていた。たまに夜中に目を覚まして梨花を覗くと、梨花はいつも私のほうを向いて寝ていた。そしてその時私の布団はかけなおされている形跡があり、梨花がしてくれたんだと思うと涙が出た。いつでも私を見守ってくれているのに、それに応えられない自分が悲しい。

 寝ている梨花の顔を覗き込んでみるが、何分部屋に明かりがないため分かりにくかった。
でも薄暗い部屋の中には私と梨花がちゃんと存在しているのが嬉しくて、ずるいなとは思ったけど少しそれに浸ることにした。寝顔はこんなに穏やかなのに起きている時はいつも悲しそうな表情を浮かばせているのが他でもない自分だという事に正直嬉しくもあり悲しくもあった。

「こんな事になってしまって…本当に申し訳ないですわね。ごめんなさい、梨花…私が悪いのに―」

 きっと眠っていて聞こえないからいつも言いたくて仕方ない謝罪をボソボソと独り言のように口走る。頑張っている梨花を慰めるかのように頭に手を乗せ撫でる。髪は相変わらずさらさらで気持ちよかった。手を這わせ頬に触れる。肌もいつもと変わらずすべすべしていて気持ちよかった。そして私はある一点のみに意識が集中される。…微かに開き小さな吐息を吐く、唇。

 ――今なら、誰も見ていない。誰にも気づかれない。大丈夫。

 そんな声が頭の中で聞くよりも先に、私は梨花の唇を求めた。柔らかかった。
 ―血が燃えた。私の中の血が燃え滾っている。
 気づいてしまった。私はもう戻れない、と。
 上っ面だけの親友でも構わない、それで梨花の傍にいられるというのならそれだけでも構わない、好きだった気持ちは忘れられる。そんな感情はもう今は微塵にもなくただ目の前の少女を自分だけのものにしたくて堪らなかった。止まらない気持ちを抑えることなんか出来るわけがない。もうこれ以上梨花の近くにはいられない、いつ梨花を傷つけてしまうかわからないくらいに梨花が好き。

 だから私は決意した。
 ――もう、この家から出よう

 好きになって、ごめんなさい―――