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夏の終わり 「温もり」からの続き。



「私を、感じたい…」
「ええ。…最初に言ったではありませんか、忘れてしまったんですの?」

 ちょっとムッとした顔で問い詰められる。今目の前にいる沙都子があられもない姿でいる事すら夢なんじゃないのかと思えるくらい幸せな事がありすぎて、頭とか胸がいっぱいでパンクしちゃいそう。だから言い訳じゃないんだけどちょっと前の発言なんて思い返すのもなんというか…自分の恥ずかしい発言を思い出すのと同時で出来れば思い出したくないんだけどそういえばそうだった、…ような気がする。

「…ほら、分かりますでしょう?」
「え?」

 部屋が暗かったおかげで悶々としている私に気づかなかったのかそっと、沙都子の柔らかい小さな手が重ねられる。夏の暑さのせいか、はたまた目の前の幸せに戸惑っているのか手にはじんわりと汗が滲んでいて、ちょっと気持ち悪いけれど、その手を掴まれそのまま沙都子の胸へと導かれる。

「ほら、分かりますでしょう?」
「なっ! ななななな何が!?」
「―ドキドキ、してます…でしょう…」
「…え、ぁ…」
「…感じませんか?」
「…ううん分かる、…そうね、すごくドキドキしてるわ」

 言葉の通り、沙都子の心臓はドクドクと早鐘を打っている。
 ――というか私の胸がさっき触っていたとは言え、こう素面の状態で沙都子の胸に触れているという事実で沙都子のよりも破裂しそうな勢いで早鐘を打っているというのは秘密。

「梨花? 突然どうかしたんですの?」
「え、え? 何が…!?」
「どこか調子でも悪いんですの? …それとも私の裸改めて見たら貧相なものだな、って思ってるなんて事はありませんわよねえ?」
「ま、まさかそんな! 寧ろ私の身体の方が貧相で羨ましいくらい!! ただ…いきなりそんな事言われるなんて、びっくりしちゃって」
「ちょっと前の梨花はもう少し自分のする事に自信を持っていたような気がしましたけど…、鷹野さん達の一件があってから何かに怯えるように生活しているんですのね」
「え…」
「梨花はもっと毅然とした態度でいてもらわないと、私もなんだか調子が狂ってしまいますわ」
「だ、だって…」

 見たことのある世界であれば誰だって毅然とした態度で物を言ったり、行動したりできると思う…けど今の今である世界は今まで望んでいても見られなかった世界で、ましてや相手が沙都子ならある意味爆弾を抱えているようなものであって…生きるか死ぬかの瀬戸際で…えっと、そのとにかく私は他の誰に対してもここまで怯えた事がないからそりゃ、沙都子が不思議に思う気持ちも分かる。
 でも沙都子が私の思いもしない事ばかりを私に与えてくれるから戸惑っちゃう自分だって…仕方ないと思うんだけどな。

「もう…、おかしな梨花ですこと。梨花から来ないんでしたら私から」
「それってどういう――」

 突然沙都子の両手が私の頬を包む。指先が耳にまで届きさわさわと動くものだから自然と首をすくませる。肩が上がったためか両頬に添えた手は更に耳元へ押し上げられる。
 ――あ、私の耳に沙都子の指が入った。自分の指ではない異質な感覚にすら身体が火照るような刺激になり、ゾクゾクという背中から来る快感と外界からの音が途切れてなんだか不思議な感覚へと追い込まれる。
 こんな暗闇の中で見つめられても輝きは失われずキラキラとしている瞳。月の光が窓から差し込み、それが瞳に反射してキラキラと綺麗。それが幻想的で目を反らす事が出来ない…私を捉えるこの眼から逃れる事が出来ない。私の全てが沙都子から離れる事を望んでいない、どんな些細な変化も見逃さないように。だから私も沙都子の緋色の瞳を見つめる。その輝きが睫毛に覆われると私の唇に柔らかい感触…優しい口付け。

「ん、ぅ」

 柔らかさが気持ちよくて鼻にかかった声をつい出してしまう。
 ぴちゃ、くちゅ、ちゅぷと沙都子の唇が開く度、私の唇から離れるたびに透き通った水音がくぐもって聞こえる…。あれなんか…変な、感じが…する―――…。

 それが何なのか分かるのは沙都子の舌をもっと深く味わいたくて顔を傾けた時、かさりと耳に違和感。
 ―そうだ、沙都子の指だ。…理解。だからこんなに私の口元で鳴っている水音が外からではなく内からの音で私の中に伝わってくるのか。私の耳には沙都子と生まれる水音しか聞こえない。沙都子の舌が口内で暴れると私の頭のてっぺんまで響く、沙都子を感じる…今舌を吸われる、柔らかい熱い塊に絡み取られて吸われ舐められる。
 ――ああだめ…なんかおかしくなっちゃいそう…あ、沙都子の甘い唾液が流れ込んできた、甘い…あ、あ…。
 目を瞑っているのに頭には白くちかちかとした光、腰が浮くような感覚がクる。全身がゾクゾクする。
 ――これ…、あぁ…あ…ダメ、頭…うま、くかいてんしてくレな…イ。ゃ、だめ、ダメだめ…だ、め――ッッ!


「…ぷはっ」
「ふ、ぁ…あ?」
「どうでしたか、梨花」
「え? …んぁ?」
「ちょっと、聞いてるんですの? 梨花ァ!?」

 あと一歩のところで、ちゅぽっという小気味のよい音と共にそれは途絶えた。
 頭がぼんやりする。絶頂寸前の余韻が残っているのか思考回路が少し鈍っている。もうちょっとでトびそうだった…沙都子ちょっとテクニック凄すぎるんじゃない? …というよりも身体……辛いわね…。

「あ、あぁ…うん、すごい気持ちよかった…ありがとう沙都子」
「い…っいえ! そんなお礼を言われるほどの事でもございませんわ!梨花が喜んでくれるなら私はそれで充分嬉しいんですから!」
「…そう、ありがとう……」
「そ、それでそれで、あの…梨花? 」
「ん? 」
「…えっと、あの……その、この後はど、どうしたら…?」
「へ?」
「…お恥ずかしい話でありますが、私そういう知識があまりなくて…こ、この後どうしたらいいのか分からないんですのよ」
「ああ…そ、そうだったわね。ごめんなさい私だけ……」
「あ、別にそういうつもりで梨花に言ったのではありませんわ。まあ確かにいつもの梨花とは違う感じがして、それはそれで新鮮で楽しいんですけれど…その、やっぱり……あの、身体がまだ熱いと言いますか……ちょっとは落ち着いたんですけど、あのあの…今その梨花にキッ……キスをしてなんだかまた身体が火照ってしまったんですの。だからその…」
「ああもう分かった! 分かったわよ…だからお願い、そんな恥ずかしすぎて脳味噌がシュークリームになりそうなくらい甘いこと言わないで…う、嬉しいけど…その恥ずかしい…」
「え、あ…と、そんなつもりではないんですけれど…ちゃんと伝えないとだめだと思って言ってるんですけど、…そうですわね少し控えますわ」
「………………でも、たまには聞きたいから言ってくれてもいいわよ」

 私の思いがけない言葉に呆気に取られる沙都子。こんな拍子抜けした顔にはポカーンという音がよく似合う。

「……梨花って、随分と我侭なんですのね」