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 ―ブルルッという寒気と夜鳥の羽ばたく羽音で目が覚める。時刻は丑三つ時を過ぎたころだろうか?窓の外を見れば月の輪郭がぼやけて心なしか明るい気がする。
 ゆっくりと起こさないように身体を起こすと、先ほどの攻めの余韻が腰にズンとくる。…ホントしぬかと思った。あの後私は何回”イッ”たのか、正直数えられない。泣きながら止めたんだけど梨花もおかしくなってたし…辛かったけど嬉しかったから、まあ…いいか。惚れた弱みってやつで。
 目線を下に落とすと口の淵に血がついている梨花が身体を起こす前の私に寄り添うように身を縮ませて眠っている。多分破瓜の際に出た血が舐めあげたため口の端につきそのままなんだろう。見れば掛け布団が見事に肌蹴ていてさすがにくっついて寝ているとは言え、やはりお互い裸だから外気に触れる部分は少し肌寒いものがあった。
 寝相の悪さを苦笑し蹴飛ばしてしまっていた掛け布団を足元から寝ている梨花の肩越しまで引き上げると、フと背中にある傷が目に付いた。…じんわりと血が滲んでいるのは私が爪を立ててしまったから。
 …いつの頃だったか、私が祭具殿に忍び込んでしまって梨花が濡れ衣を着せられ父親に折檻されているのを見た。私が悪かったのに梨花の父親の尋常じゃない形相を見て身体がすくみ、自分だと言い出せず私の代わりに泣きながら背中を叩かれている梨花の謝る声が、辛そうな表情が忘れられなかった。
 横に眠る梨花の背中には年月が経って折檻の跡は残ってないけれど、軽く背中をさすり口付けを落とす。

「…ごめんなさいね、梨花」

 ―梨花の唇へまた一つ、口付けを落として眠りにつくのだった。


◇◇◇



「おはようございますなのですよ」
「おはようございますですわー」

 小さい子の声に混ざって遠くからバタバタという足音と、悩みなんてなさそうな声が聞こえる。
 ガラッという音と共に魅音、レナ、そして圭一が入ってくる。今日もいつも通りの朝だ。

「おはよー二人とも朝から元気いいねー」
「今日は珍しく沙都子のトラップがなかったな…くそ変に身構えちまったぜ」
「をーほっほっほ! トラップは忘れた頃に張られるんですのよ、いつでもどこでも油断は禁物なんですのよー!」
「くっくっく! 圭ちゃんのトラップにかかった姿はなかなか見ものだもんねえ~?」
「あらぁ魅音さんもトラップマスターとしての片鱗があるんですもの、腕を磨いたらいいのではありません?」
「おまえらオレをダシに使うなぁああー!!!」

 ―いつもと変わらない風景。
 ―いつもと変わらない笑顔。
 もう二度と戻ってこないだろうと思っていたからこそそんないつもの日常風景に戻れて改めて幸せを感じていた。
…と、その輪から少し離れたところで圭一達を見守るような笑顔で立つレナと目が合った。

「みぃ? どうしたのですかレナ?」
「ん? ううん、なんでもないよ☆ふふふ」
「気持ち悪いレナなのですよ」
「あははごめんね、……でも良かったね梨花ちゃん」
「…え?」
「信じていて正解だったでしょ?」
「ど、どうしてそう思うのですか……?」
「どうしてだろうね?ふふふ、それは梨花ちゃん自身が気づかなくちゃだめなんじゃないかな? …かな?」
「みぃ~…意地悪なのです」
「はぅ~朝から梨花ちゃんに散々言われてるよぅ~」

 私の言葉を濁すかのように圭一達の輪の中に入っていく。
 私が自分自身で気づかなくちゃいけないこと…?何かしら?沙都子の提案で圭一達には知らせないでおこうって事だったから今まで通りに過ごしているし、それはいつもと変わらない事だったからものの数分しか話してないレナに指摘されるくらいのことって一体何?こういう時のレナは勘が鋭いからもしかして当て推量で言っている……なんてレナに限ってそういうことはなさそうだし、えええ? じゃあ一体何だって言うのよ!?
 一人悶々とレナの残した言葉を噛み砕いて理解しようとするも出来ない姿を見た圭一が疑問の声をあげる。

「なあレナ、お前なんか梨花ちゃんに言ったのか?」
「レナはな~んにも知らないんだよっ! …だよっ☆」
「その割には大分楽しそうだなぁ…、それに沙都子だってなんかいつもと違うし」
「はう~っ☆ それは乙女の秘密って事であまり深く追求したりしたらダメなんだよっ」
「乙女の秘密…ねぇ」
「くっくっく! 分かってないねぇ~圭ちゃんは。梨花ちゃんと沙都子は一緒に暮らしてるんだよ?…という事は昨日の夜に言えない何か―ぐあっ!?」

 勘がいいのかただのオヤジなのか、スパパパパーンという音の後にくわんっというタライの音。RFIとタライトラップのコンボ…か、頭上ならまだしもれなぱんを食らってから仰向けに倒れた後に落ちてくる顔面のたらいはさぞ痛かろう…南無~♪

「…魅音、お前もそろそろ学べよ…」
「お、おじさんは……ただ……ぐふッ」

 魅音も、圭一も相変わらず。それを見る沙都子とレナも相変わらず。少し前と何も変わってない事が嬉しくて顔が綻ぶ。仲間が笑顔の時間を過ごしてくれるのが嬉しい。そして沙都子が笑ってくれるのが嬉しい。
 沙都子が笑うと周りにも笑顔を与えてくれる、そんな沙都子はやっぱり太陽のようなもので私はその光を少しでもあやかりたくて太陽を追いかける向日葵のようなものだな、なんて前にも思ったけど改めてそれを今感じた。

「みぃ☆沙都子はまるで太陽のようなのです」
「…どういう意味ですの?」
「言葉の通りの意味じゃないかな、かな?」
「沙都子はみんなを明るくしてくれるのですよ、にぱー☆」
「なら梨花ちゃんは月だな」
「…圭一?」
「沙都子が周りを明るくしてくれる太陽なら、梨花ちゃんは相対する月だろ?」
「わあ…なんだかロマンチックだねっ」
「え、で…でもボクは…」
「沙都子もそう思うだろ、なあ?」
「え、ええ…そうですわね暗闇に光る月の光で夜道を照らしてくれるんですわよね」
「そういう事だぜ、梨花ちゃん」
「夜に一人でも心細くないように、だねっ☆」

 ――なんて事なのかしら。また圭一に道を教えてもらえるなんて思いもしなかった…やっぱり圭一は予想もつかないことをしてくれるから面白い。

「…ありがとう、ございますなのですよ」

 思いもがけない言葉で私の心のわだかまりがすっと解けていく。実に晴れやかな気持ち。こんな想いをしたのはいつぶりだったのかと考えるのもバカらしいくらいに清々しい。
 今日からの生活は昨日よりもっともっと楽しく過ごせるだろう、ううん…過ごせるって分かっている。だってみんながいるからきっと大丈夫だって信じてる。信じなくちゃ、始まらないんだもの。私がもし沙都子を信じないでいたら今のような気持ちにはなれなかったかもしれない、沙都子が家を出て行くと言って諦めていたかもしれない。
 今の私には沙都子がいるから、幸せになれるって信じてる。

「さぁて、梨花ぁ?今日は私たちが日直ですわよ」
「みぃっ!花壇にお水をあげるのですよー」
「では皆様、お話中に申し訳ありませんけれど失礼致しますわね」
「おう、頑張って仕事を全うしてくるがいいぜ!」
「カレー菜園の方も忘れちゃだめなんだよ?…だよ☆」
「くっくっく、次回の部活でちゃんと利用できるようにやり忘れないでよ~?」
「大丈夫なのです、沙都子がきちんと見ててくれているのです」
「梨花ぁ~?先に行ってますわよー」

 気づけばドアの近くで沙都子がまだかと言わんばかりに背中を向けててくてくと先へ歩いていく。
 ――なんとなく奇妙な違和感を感じる、沙都子はこんなにも日直の仕事を進んでやるような子だった?おかしい。いつもはどんなに急いでいても私を置いて先に行こうとしたりしない…なんで?どうして突然…?
 急ぎ足で沙都子の元へと行こうとすると、教室の入り口扉のガラスに自分の上半身がぼんやりと映し出される。…レナが言うように私を見て沙都子との関係が分かったものなんて何もないのになんでレナは分かったんだろう?やはり嘘を見抜ける力は――

 ――あ。

 気づいた時には沙都子には満面の勝利の笑み。…やられた。

「沙都子ーーーーっっ!!!」
「をーほっほっほ! 昨夜の仕返しですわーっ!」
「ちょっと…いつの間にこんな…!!!」
「知らぬが仏、ですわー☆」




 バタバタと楽しげに走り去っていく下級生達。台風が立ち去ったかのように静かになる上級生達。
 先ほどのれなぱん・タライトラップのコンボで気絶していた魅音が鼻をさすりながら起き上がると、圭一がぼんやりと下級生達の出て行った扉を向いたまま問いかける。

「なあ魅音、お前知ってるか?」
「…な、何を?」

「梨花ちゃんと沙都子の首元に痣があったの」
「……え?」

 薄く茶色がかった髪を揺らしながらレナはにこにこと微笑んでるだけだった。
 遠くから渦中の人物である梨花と沙都子の戯れる声がはしゃいで聞こえた。


 ――空は雲一つない晴天で、私たちの未来を象徴しているくらい。例え多少の雲があっても吹き飛ばしてやる。
 今日は残暑が厳しい日になりそうだ。

<夏の終わり 完結>