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眠れぬ夜に 「変化の不変」からの続きです。




 今思えば…それがいけなかったのだろうか?
 カチコチと時を刻む音が響く深夜。何度も眠りに入ろうと努力するも自然に瞼が開いてしまう。諦めて月明かりで時計を見ようとも月には薄っすらと雲がかかっていて、はっきりと明確な時刻を知る事が出来ない。短針の場所がかろうじて見えた場所は位置的に3時くらいだろう。
 隣から規則的に聞こえてくるのは沙都子の寝息。私の方を向いて寝ているからかかるその息が少しくすぐったく感じる。
「思ったより熟睡しちゃったからかしら…」
 天井に向かって吐く溜息、聞こえるか聞こえないかの声で数時間前の自分の行動を振り返る。
 羽入の力でだかなんだか忘れたけど大空をふらふらと頼りなく飛んでいる、という夢を見ていた時に満面の笑顔の沙都子に起こされた。おぼつかないもののそれなりに気分よく眠っていた(飛んでいた)のに起こされたものだから、現実で何が起こってるのかイマイチ理解するのに時間がかかったけれど、どうやら沙都子が腕によりをかけて作ってくれたもの…らしい。
 そろそろガタが来始めた小さなテーブルの上には所狭しと並んだたくさんのお皿。それを彩るものは精力のつくものばかりだった。入江からおすそわけしてもらった山芋、それに生卵や納豆やオクラなどのぬるぬるとしたもの、更には買い物に出たときに村のみんなからもらった食物の中に入っていたウナギまで見事に食卓を飾った。
 久しぶりに料理をした沙都子は「少し腕が鈍りましたわね」と少し苦笑気味だったが、一緒に暮らし始めた頃…つまり一年前よりかは大分上達していると思える。それでも沙都子が言うにはウナギのタレがまだ少し煮詰まっていないから味が薄いだの、少し焦がしてしまって似つかわしくない匂いがするだの、どこから沸いてくるんだろうかと思える勢いで言葉がマシンガンのように降り注ぐ。
 言われなければ分からない程だし、もしそうだとしてもそれはそれとして美味しく頂けるとは思うけど、こういうのは気にしてしまったらどうしようもないものだろう。沙都子もプライドは高い方だから失敗には何かしらの言い訳をつけてしまう癖がある。それもまた沙都子らしくて可愛らしく思い、留まる気配のない上ずった声で矢継ぎ早に紡がれる言い訳をBGMに愛情たっぷりの手料理を食した。
 もしかして…それがいけなかったのだろうか?
「さっきも私同じ事思ったような気がするわね…?」
 両腕を布団から抜き出して頭の後ろで組み敷いてみた。予想以外に沙都子との距離が近すぎて腕を回すだけというのに、もそもそと動いてしまったためか沙都子が軽く身じろぎをする。
「うん…? 梨花…? 」
 普段の聞く少しハスキーな沙都子の声よりもトーンが心なしか低い寝ぼけた声で話しかけられる。…起こしちゃったかな。
「…みー」
「暑かったら、言って…ください、まし…」
 むにゃむにゃと形容しても問題はないと思われる言葉を吐き、また眠りにつく沙都子は少し私から身体を離した。腕を回すのに少し不便なだけだった温もりが失われ、身体の半分がスースーする。
 全く自分勝手なものだな、と軽く鼻を鳴らして笑う。
 沙都子から与えられる温もりが失われ、私に熱を与えるものなんて何もないはずなのに身体が何だか熱く感じる。
「風邪…かしら?」
 回した腕の片割れを額に当ててみるも特に熱があるようには感じない、けれど確かに私の身体の奥底から熱い何かがどくどくと脈打っている感じがある。
「久しぶりに豪勢な食事だったから、食べ過ぎてしまったのかしらね。沙都子が腕によりをかけて作ってくれた――」
 そこまで口にしてはっと気づく。私が食べたものは何だったか。
 入江から貰った山芋、産みたてを貰ったという生卵、買ったばかりの新鮮な納豆やオクラ、それに村の人から貰ったウナギ。その他にも色々なものがあったけれど、全てそれに共通するものは…「精力剤として一般家庭で並ぶもの」。
「え、嘘でしょ…?」
 ふと頭の奥で、胸の奥でそれが何かを訴えた。
 この不思議な感じは忘れようもないくらいに、何度も何度も何年にも渡り私の身体にまとわりついていた覚えがある。
 そして、この感じを与えてくれる対象はどの世界でも当然沙都子しかいない。しかしそれは報われない思いを抱いていた今いる世界ではない頃の話。
 身も心も満ち足りている今、何が悲しくてこんな真夜中に身体が性感を求め始めなきゃならないのか。…と自問自答するも、当然の事ながら答えはない。
「私にどうしろっていうのよ…!」
 現状を受け入れられないうろたえる心とは裏腹に、身体はそれに気づいてしまってからというもの留まる事無く体温を上げて刺激を欲し始めていた。心臓がばくばくと鳴り、普段よりも速く脈を打つと自然に息も上がる。はあはあと息も絶え絶えになっている私を客観的に考えると、これではまるで―
「この間の沙都子のようじゃないのよ…」
 軽い酸欠でくらくらしながら思い返す。あの夜の沙都子は凄かった。「遊んであげる」と意気込んで沙都子を徹底的に攻め続けた。もう何がなんだかよく分からない感じで、正直何回イッたのかすら数え切れない程。いつも以上に絡み付いてくる沙都子の中はなんとも言えない心地よさがあった、と一週間前の事がリアルな感じで思い出せる自分が恐ろしい。
 いつもイヤイヤと言いながら求めてくる沙都子も虐めがいがあって、とても好きなのだけれどあの日のような自分で自分を慰めてしまうくらいの性欲が盛んな沙都子も風情があっていい。
 …そう、自分で自分を慰めてしまうくらいの――。
「…あ」
 どくどくと血液が流れる音が聞こえるくらい興奮している私に、天啓が閃いた。
「ここ何年と全くご無沙汰だったからすっかり忘れてたわ、…そうよ自家発電したらいいのよね」
 何度も繰り返した日々の中で私を唯一満たしてくれていた瞬間、それは沙都子を想い自身に指を走らせていた時。自らの手で与える刺激に自分の意志とは全く関係なく翻弄される身体は、何度も裏切られて擦り切れた心を持った私が「希望の見えない世界」という海に投げ出されて波に揉まれているような感覚と重なって、報われない沙都子への恋心を消化するために没頭してある種の現実逃避にもなっていた。
 乱れ狂う沙都子を抱いたあの夜、不意に触れてしまった自分の秘部から生まれてきた快感を身体が思い出しブルルと震える。
 考えてみれば私が沙都子に触れることはあっても、沙都子が私に触れたことなんてない。自慰だって沙都子がいない時にしかしていなかったし、この世界になってからは自慰する必要もなかった。だって私の欲求を沙都子が全て受け止めてくれていたから。
 心も身体も満ち足りている、だなんて嘘だったのだ。沙都子を攻めるだけで十分だと思っていた私の身体はどうやら物足りていなかったらしい。…だって私の身体は今、こんなにも快感を求めているのだから。