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 私、佐々木彩夏16歳は思う。
“夏菜子ちゃんと詩織ちゃんは付き合っているのだろうか?”と。
 だっていつだって夏菜子ちゃんは詩織ちゃんの隣にいるような気がするし、何より証拠が多すぎる。横並びで撮影なんていつもの事だけど隣にいれば手を握ってたり腰に手を回したりしてて、私だって隣にいるのにそれは決して私の方に回ってなんてこない。寧ろ私なんていないように思われてるくらいに夏菜子ちゃんは私を見てくれないし視線は反らすし、ひょっとしたら嫌われてるのかななんていう考えが生まれてくるくらい。
 夏菜子ちゃんはメンバーにべたべたくっついたりするのがあんまり得意じゃないのかなって思うけど、詩織ちゃんと一緒にいるところを見るとメンバーというよりかは詩織ちゃんだけは特別ってな感じもする。
 れにちゃんはあの通りだし好きなように振舞って嫌がってる夏菜子ちゃんにちゅーしたりとかぎゅーしたりなんて本人の意志なんて余裕で無視して行われるし、杏果はなんとなく夏菜子ちゃんとベクトルが似てるのかあんまりべたべたしたりしない。たまーに気分が盛り上がってる時とかはちゅーとかするけど、それでもほっぺにちゅってくらいだしそれは私にもしてくれるし特に気にならない。
 あかりんがいる時はそっちにいってたけどそれはなんとなくサブリーダーっていう立ち位置もあったから、仕方ないのかななんて私なりに納得してあかりんとのいちゃいちゃは容認してたところはある。色々とリーダーとして考えるところもあるんだろうし、サブリーダーのサポートあっての今の夏菜子ちゃんだからソロで活動してるあかりんでも夏菜子ちゃんとは特別濃い目に連絡しているのかなってのも分かる。あの二人には会話しなくても通じるっていう特別な絆みたいなのがあるんだろうって中学生だった頃から感じるものはあったし、ちょっと羨ましいなって思うところもありつつヤキモチみたいな感情はあんまり生まれない。私だってあかりんには色々教えてもらったり助けてもらったりしたし、素直に尊敬もしてる。目立ちたいなとかチヤホヤされたいななんて感情は当然あるものの、今のももクロメンバーが一緒にいるからその中ではしゃげる楽しさでやっていけてるんじゃないかなとも思うから、この厳しい芸能界で一人単身乗り込んでいくあかりんには敵わないのかななんて感じるところもある。まあでもそれはそれとして、私は私として頑張ってもっともっとももクロをみんなに知ってもらいたいし元気になってもらいたいし、チヤホヤされたいしキャーキャー言われたいし夢は尽きないのだけど。
 だから夏菜子ちゃんとあかりんの関係は嫉妬対象じゃなくて、少々羨望対象になるのかな。私も夏菜子ちゃんにちょっと頼ってもらいたいなとか思う時あるし。
 でも詩織ちゃんとの関係はあかりんとのそれじゃなくて、なんていうか恋するあーりんレーダーがこう…ピピッと反応するくらいに何かがひっかかる。詩織ちゃんが甘えん坊で寂しん坊だからメンバーにぎゅーとかちゅーとかするのはまあよくある事だしメンバーもそれを分かってて詩織ちゃんの好き勝手にさせているところはあるのは分かるんだけど、どーにも夏菜子ちゃんに対しての詩織ちゃんの様子がおかしい。夏菜子ちゃんの事ずーっと見てた私なんだから夏菜子ちゃんの多少の変化くらいは分かったりするもん。ちょっと嫌がってるけどでも実はウェルカムみたいな態度を見ればもしかしてって思うのも仕方ないと思う。私がたまに抱きついたりするとやたらとぎくしゃくしちゃって、嫌なのかなって思うのに! なんで!?
「夏菜子は玉井だから楽なんじゃないの?」
「どーいうことなの?」
 怒り心頭で宿題をこなす杏果に詰め寄るも、変わらず数学っぽいプリントに目線を落としたままで怒りあーりんをまだ目視してくれない。
「どーいう事ってそのままの意味──…どぅわっ!?」
 目線をよこさないのをいい事にちゅーするかしないかくらいまで顔を近づけてみた。
「そのままの意味ってなんなの!?」
「あーもう! あーりん顔近い近い! ちょっと離れろ!」
「むー」
 本気で嫌がってる顔をしてるので不承不承杏果から距離を置き、ソファーの隣にドスンと腰を落とす。
 今日は地方でのライブなのでホテルにお泊まり。お泊まりってことはつまり私が杏果の部屋にいるのは当たり前の事で、そこで杏果が学校の宿題をやっているのも当たり前の事なのです。全力勤勉少女って感じだね、杏果。数学ちょっと得意かもーなんてラジオで言っちゃったけど、杏果のやってる数Ⅲ?のプリントを見る限り「あーりんは数学得意」という印象が崩れないでいるのはちょっと難しいのかもしれないと幸先不安になってしまった。
「はあ…最近あーりん怒りっぽくない?」
「そんなことない! ていうか夏菜子ちゃんが詩織ちゃんだから楽ってどういう事なの?」
 再び詰め寄る私に観念したのか少々げんなりした表情でシャーペンをぽいっとテーブルの上に置く。
「だからさ、夏菜子はいつも詩織に抱きついたりなんだりしてるわけじゃん? だからそれで耐性が出来てるって事なんじゃないの?」
「耐性?」
「そ、耐性。詩織に比べてあーりんは夏菜子に別に抱きついたりちゅーしたりなんて少ない方なんだからまだ慣れてなかったりするんじゃないのかな?」
 ずっと前屈みの姿勢でプリントをやって背中と肩が凝り固まったのか、んっと伸びをしながら私に言う。
「なるほど…」
 プリントに熱中してるからどうせ話半分なんだろうなーなんて思いながら、私夏菜子ちゃんに嫌われてたりするのかなーとか、詩織ちゃんと夏菜子ちゃんって仲いいよねーとか。杏果のバーカとかポツポツ言ってただけなのに、ふーんとかへーとか唸りつつちゃんと聞いてくれてたんだなぁと、回答をもらったのにも関わらずそっちの方でも杏果に感心していた。
「ていうか、なんで突然夏菜子の話よ?」
「えっ!?」
「部屋に入ってくるなりそんな話してくるから何かあったの?」
 つーか杏果のバカって何だよ、と付け加えて問いかけてくる隣の小さな巨人さんは意外や意外同時に違うことが出来るのを初めて知った。
「別に特に何もないけど…つーか何もなさすぎて何もないけど?」
「は? 何それ」
「何それとか言われましても…詩織ちゃんと夏菜子ちゃんがくっついてたりするんじゃないのかなーと高校生になって少々大人になったあーりんは思いましてね」

 …返事がない。
 あれ? もしかして怒らせるような言い方しちゃったかなと焦って杏果を見ると、これまた意外に林檎だったら多分とっても甘そうなくらいに綺麗に真っ赤に顔が染まっていた。
「杏果? どしたの?」
「はっ!? どーもしねーし!」
「??? でもすごい顔赤いんですけど…」
「バッ…赤くねーし!!!!」
 どっからどー見ても顔は真っ赤になってはいるんだけど、顔が赤く見えるっていうのは多分夕焼けとか部屋のベッドサイドにあるライトが赤いからじゃねーのとかつーか、風呂上がったからもしかしてのぼせたからかもしんないしとかなんかよく分からない言い訳をやたらめったら並べてくる。今は夕陽も沈んじゃってて部屋のベッドの横にあるライトはさっき消しちゃったし、部屋に入ってきた時に今日はプリント終わってから風呂入るって言ってたから全部全部それが嘘なのも分かってたけど、なんか必死にいいわけを探してる杏果が可哀相に見えてきたので認めてあげた。
「ちょっと飲み物飲んでいい?」
 返事を待つ前に備え付けの冷蔵庫に入ってる私の差し入れちゃん達をアテにする。こっちのスイーツは後でゆっくり食べるとして、手に取った水を一口つけて杏果に渡す。少し落ち着きなさいよ、おねーちゃん。
「あ、ありがと…」
「一気に飲むとむせるから気をつけてね」
「ん…」
 おねーちゃんなのに、年下の子みたいな杏果は言いつけ通りにコクコクと静かに渡された水を飲んで一息ついた。
「暑いの落ち着いた?」
「んーまあ…」
 少し所在なさげにもじもじと動く杏果は小動物みたいで、いつもより可愛さが増す。
「あ、あのさ…あーりんは何で詩織と夏菜子がくっついてるって思ったわけ?」
「何でって言われても…」
 ずっと夏菜子ちゃんを見てるから詩織ちゃんといる時の夏菜子ちゃんだけ態度が少し違うのが分かる、なんて簡単に言えたらいいんだけどそう言えてたら最初からそう言ってるわけで。そしたら杏果にもちょっと加勢お願いする事も出来たのにそれが出来ないってことはつまりさっきの杏果みたいに言い訳を探さないといけないわけでして。でも簡単に言い訳なんか探せないし、さっきみたいに思いっきりボロが出まくる言い訳じゃダメな気がするしあああでもどうしたらいいのかな、なんて考えてたら答えを発するより先に杏果の口が開いた。
「あーりんは、その…夏菜子と詩織ってわけじゃなくて、女の子同士くっつくっていうのは変だなとか思ったりしないの?」
 そう言われてはっとなった。言われてみれば普通女の子って男の子とくっつくもんなのに、なんで夏菜子ちゃんが詩織ちゃんと恋人同士なのかもって思えたんだろう? 私が夏菜子ちゃんを好きだからそういうのってあんまり抵抗ないのかな、ってそもそも私が夏菜子ちゃんを好きっていう感情ももしかしたらおかしいのかな? でもでも、夏菜子ちゃんはちょっとていうか大分アホだけど締めるときにはバチッと締めてくれるかっこよさだってあるし、すごい可愛い声してるのに体型は筋肉質でがっしりしてるとかもいいし。これで気にならないっていうのはやっぱりおかしいなって思うんだけど、この考え方がおかしいのかな。
 でも好きなものは好きだし、夏菜子ちゃんのこと独り占め出来たらいいなって思ったりずっとずっと私と一緒にいてくれたらいいなとか私の事だけ見てて欲しいなって思うのは恋と呼ばないでなんて呼ぶんだろう?
「んー…今言われて、もしかして変なのかなってちょっと思ったかも」
「…だよね」
 両手で持っていたペットボトルをぎゅっと握りしめている杏果は少ししょげたような気がする。
「でも、女の子だから好きになっちゃったのかもしれないし、例えば夏菜子ちゃんが男だったら詩織ちゃんは夏菜子ちゃんにあんなにベタベタしないのかもしれないって考えたら、女の子だからって考えは少しおかしいのかなっても思った」
「おかしいって?」
「うーんと、多分一般的には男女の恋愛ってのが当たり前だけど海外にたまに行くようになって女の子同士手繋いで歩いてたりちゅーしてたりって他の国でもみかけるのを見て、当たり前ってのがおかしいのかなーって」
「んん? ごめん、何が言いたいか杏にはちょっとよくわかんないかも…」
 ペットボトルをテーブルの上にドンと置いて小首を傾げて考えるんだけど、私もちょっと何言ってるのかよくわからないし何より置いたテーブルの上には杏果が一生懸命やってた数学のプリントがあるんだけどそれはいいのかな…結露で濡れちゃうんじゃないかな。
「ごめん、あーりんも何が言いたいかよくわかんないかも。でも別に偏見みたいなのはないかなーって事かな」
 うん、そうだね。例えば夏菜子ちゃんが本当に詩織ちゃんと付き合ってますとかなっちゃっても、すっごくすっごく悔しいし詩織ちゃんの事いやだ! って思っちゃうかもしれない時があるかもしれないけど、えー何それ気持ち悪いとかっていう感情は沸かないなぁ。
「ふ、ふーん…じゃあそのあーりんはもし女の子に告白されてもヒイたりしないって事?」
「経験したことないから分からないけど、多分ヒカないはず」
「そうなんだ、よかった」
 隣にいるのにボソボソとしか聞こえないくらいの声で何か言ってる杏果は先ほどのしょげた顔じゃなくて、少し希望に満ち溢れた…言うなればライブ中のキリリとした中に楽しさを見出してるような顔をした。私何か言ったかなー?
 不意にケータイが鳴った。部屋に戻らなくちゃいけない時間を示すアラーム。ピチッピチのお肌を保つためには早寝早起きが大切だったりするわけだけど、泊まりなんだからママに怒られるわけでもないし今日は普通に夜更かし出来るのに早く寝なきゃなのは明日が早朝移動だからだったり。
「杏果ごめん、そろそろ私部屋に戻るね」
 そう言うが早いか腰掛けてたソファーから立ち上がる。
「えっ、あっ…やばっこんな時間か!」
 慌ててお風呂に入る準備をし始める杏果を見て、さっきの言い訳はやっぱり嘘だったんだなーと苦笑する。なんだか少し肩甲骨の辺りがしんどいのは猫背でソファー座ってたからかな、私も早く部屋に戻ってお風呂入ってマッサージして寝よう。
 バッグに手を突っ込んで着替えを出してる杏果におやすみを告げて部屋に出る。
 扉が閉まると同時に、プリントがびちゃびちゃなんだけどー!と悲痛な叫びが聞こえた気がしたけれど気にしない。私も杏果の部屋にスイーツを置いて出てきてしまったのを思い出したし、あとでそれ食べて元気出してもらおう。杏果の好みかは分からないと思うけどでも多分美味しいと思うんだよね。
 キモちゃんの待つ部屋に戻ると、電気は点いたものの物音がしない静かな部屋で少し心淋しく感じた。
 きっと詩織ちゃんは今日もまた夏菜子ちゃんの部屋に行って一緒に寝てるんだと思うと、少し切なくもなった。キモちゃんの抱き心地は最高だけど、大好きな人と眠る空間はもっともっと最高なんだろうな。
 詩織ちゃんが夏菜子ちゃんの恋人かどうかはわからないけど、でもあの二人にはあの二人の特別な何かがあるような気がする。はっきり恋人なの?なんて聞けたならどんなに楽なんだろうと思う。聞けるわけないのもよく分かってる。
 はい、そうです。ももたまいは公認カップルなだけあって公私共にいつでも一緒です、なんて聞いてしまったらきっとシュークリーム1つや2つでなんとかならないくらいの傷を負うのは分かってるから。ちょっぴりセクシー担当だけど最年少でまだまだ子供。ママにだけじゃなくてもきっと反抗期。まだ受け入れたくない現実はちょっとの反抗でガードしなくちゃやってけない。それでもきっと大人になって現実を受け入れていけるようにもっともっと頑張らなきゃね。

 ていうか…詩織ちゃんと夏菜子ちゃんがくっついてるかもって言ったとき杏果は一体何にあんなに動揺したんだろう?
 大人になれば分かるのかなぁ…?
 大人になったら夏菜子ちゃんも少しはあーりんの事頼りにしてくれるかな。