「BBS事件」(2009/12/05 (土) 03:50:42) の最新版変更点
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主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人竹内澄夫の上告理由及び上告代理人兼上告補助参加代理人竹内澄夫の上告理由について
一 本件は、ドイツ連邦共和国において上告人により製造販売された製品について、上告人が、我が国において有する特許権に基づき、いわゆる並行輸入によりこれを輸入して我が国において販売している被上告人らに対し、輸入、販売等の差止め及び損害賠償を求める訴訟であるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) 上告人は、我が国において、発明の名称を「自動車の車輪」とする特許権(昭和五八年一〇月二九日出願(一九八三年五月二七日の欧州特許庁への特許出願に基づく優先権主張)、平成二年一月一二日出願公告、平成三年一二月二〇日設定登録。特許番号一六二九八六九号)を有している(以下、右特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)。
(2) 上告人は、ドイツ連邦共和国において、本件特許発明と同一の発明につき特許権(一九八三年五月二七日同国等を指定国として欧州特許庁に出願、特許出願番号八三一〇五二五九・二号。一九八七年四月二二日登録)を有している(以下、右特許権を「対応ドイツ特許権」という。)。
(3) 被上告人ジャップオートプロダクッは、少なくとも平成四年八月ころまで第一審判決添付イ号製品目録記載の自動車用アルミホイールBBS・RS及び同ロ号製品目録記載の自動車用アルミホイールロリンザーRSKを輸入して、これを被上告人ラシメックスジャパンに販売し、同被上告人は、少なくとも同月ころまで右各製品を販売していたが、被上告人らは、今後も右各製品を輸入、販売するおそれがある(以下、既に販売済みのもの及び将来販売予定のものを含め、右各製品を併せて「本件各製品」という。)。
(4) 本件各製品は、いずれも本件特許発明の技術的範囲に属する。
(5) 本件各製品は、ドイツ連邦共和国において、対応ドイツ特許権の効力発生後に、その実施品として、上告人により製造販売されたものである。
二 本件訴訟において、被上告人らは、本件各製品についての本件特許権は、上告人がドイツ連邦共和国において本件各製品を適法に拡布したことにより、その効力を失ったから、被上告人らの本件各製品の我が国への輸入及び我が国における販売行為は本件特許権の侵害に当たらない旨の、特許権のいわゆる国際的消尽の主張をしている。
原審は、本件において、上告人は、自ら有する対応ドイツ特許権の実施品として、ドイツ連邦共和国において本件各製品を製造販売したものであって、上告人に発明公開の代償を確保する機会が一回保障されていたことが明らかであるところ、拡布の際に右代償確保の機会を法的に制約されていたとの事実は認められないから、同国における適法な拡布によって、本件特許権は本件各製品に関して消尽したと判断し、上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求を棄却した。
三 上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求がいずれも理由がない旨の原審の判断は、結論において是認することができる。その理由は、次のとおりである。
1 「千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約」(以下「パリ条約」という。)四条の二は、「(1) 同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。(2) (1)の規定は、絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。」と規定している。右規定は、特許権の相互依存を否定し、各国の特許権が、その発生、変動、消滅に関して相互に独立であること、すなわち、特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けないということを定めるものであって、一定の事情のある場合に特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、同条の定めるところではないというべきである。
また、属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。
2 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。
<そうすると>、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。
<しかし>、
特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。
<けだし>、
(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、
(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
5 これを本件についてみるに、前記の原審認定事実によれば、本件各製品は、いずれも本件特許権を有する上告人自身がドイツ連邦共和国において販売したものである。そして、本件においては、上告人が本件各製品の販売に際して、販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意したことについても、そのことを本件各製品に明示したことについても、上告人による主張立証がされていないのであるから、上告人が、本件各製品について、本件特許権に基づいて差止めないし損害賠償を求めることは許されないものというべきである。
原判決は、結論において右と同旨をいうものであるから、これを是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうか、又は原判決の結論に影響しない説示部分を非難するに帰するものであって、採用することができない。よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 大 野 正 男
裁判官 園 部 逸 夫
裁判官 千 種 秀 夫
裁判官 尾 崎 行 信
裁判官 山 口 繁
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主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人竹内澄夫の上告理由及び上告代理人兼上告補助参加代理人竹内澄夫の上告理由について
一 本件は、ドイツ連邦共和国において上告人により製造販売された製品について、上告人が、我が国において有する特許権に基づき、いわゆる並行輸入によりこれを輸入して我が国において販売している被上告人らに対し、輸入、販売等の差止め及び損害賠償を求める訴訟であるところ、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
(1) 上告人は、我が国において、発明の名称を「自動車の車輪」とする特許権(昭和五八年一〇月二九日出願(一九八三年五月二七日の欧州特許庁への特許出願に基づく優先権主張)、平成二年一月一二日出願公告、平成三年一二月二〇日設定登録。特許番号一六二九八六九号)を有している(以下、右特許権を「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)。
(2) 上告人は、ドイツ連邦共和国において、本件特許発明と同一の発明につき特許権(一九八三年五月二七日同国等を指定国として欧州特許庁に出願、特許出願番号八三一〇五二五九・二号。一九八七年四月二二日登録)を有している(以下、右特許権を「対応ドイツ特許権」という。)。
(3) 被上告人ジャップオートプロダクッは、少なくとも平成四年八月ころまで第一審判決添付イ号製品目録記載の自動車用アルミホイールBBS・RS及び同ロ号製品目録記載の自動車用アルミホイールロリンザーRSKを輸入して、これを被上告人ラシメックスジャパンに販売し、同被上告人は、少なくとも同月ころまで右各製品を販売していたが、被上告人らは、今後も右各製品を輸入、販売するおそれがある(以下、既に販売済みのもの及び将来販売予定のものを含め、右各製品を併せて「本件各製品」という。)。
(4) 本件各製品は、いずれも本件特許発明の技術的範囲に属する。
(5) 本件各製品は、ドイツ連邦共和国において、対応ドイツ特許権の効力発生後に、その実施品として、上告人により製造販売されたものである。
二 本件訴訟において、被上告人らは、本件各製品についての本件特許権は、上告人がドイツ連邦共和国において本件各製品を適法に拡布したことにより、その効力を失ったから、被上告人らの本件各製品の我が国への輸入及び我が国における販売行為は本件特許権の侵害に当たらない旨の、特許権のいわゆる国際的消尽の主張をしている。
原審は、本件において、上告人は、自ら有する対応ドイツ特許権の実施品として、ドイツ連邦共和国において本件各製品を製造販売したものであって、上告人に発明公開の代償を確保する機会が一回保障されていたことが明らかであるところ、拡布の際に右代償確保の機会を法的に制約されていたとの事実は認められないから、同国における適法な拡布によって、本件特許権は本件各製品に関して消尽したと判断し、上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求を棄却した。
三 上告人の被上告人らに対する本件特許権に基づく差止請求及び損害賠償請求がいずれも理由がない旨の原審の判断は、結論において是認することができる。その理由は、次のとおりである。
1 「千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にへーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約」(以下「パリ条約」という。)四条の二は、「(1) 同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。(2) (1)の規定は、絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。」と規定している。右規定は、特許権の相互依存を否定し、各国の特許権が、その発生、変動、消滅に関して相互に独立であること、すなわち、特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けないということを定めるものであって、一定の事情のある場合に特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、同条の定めるところではないというべきである。
また、属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。
2 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものとされているところ(特許法六八条参照)、物の発明についていえば、特許発明に係る物を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等は、特許発明の実施に該当するものとされている(同法二条三項一号参照)。
<そうすると>、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)の譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、又はこれを第三者に再議渡する行為や、譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、業として、これを使用し、又は更に他者に譲渡し若しくは貸し渡す行為等も、形式的にいえば、特許発明の実施に該当し、特許権を侵害するようにみえる。
<しかし>、
特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである。
<けだし>、
(1) 特許法による発明の保護は社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないものであるところ、
(2) 一般に譲渡においては、譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得するものであり、特許製品が市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、特許製品の円滑な流通が妨げられて、かえって特許権者自身の利益を害する結果を来し、ひいては「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」(特許法一条参照)という特許法の目的にも反することになり、(3) 他方、特許権者は、特許製品を自ら譲渡するに当たって特許発明の公開の対価を含めた譲渡代金を取得し、特許発明の実施を許諾するに当たって実施料を取得するのであるから、特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているものということができ、特許権者又は実施権者から譲渡された特許製品について、特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
5 これを本件についてみるに、前記の原審認定事実によれば、本件各製品は、いずれも本件特許権を有する上告人自身がドイツ連邦共和国において販売したものである。そして、本件においては、上告人が本件各製品の販売に際して、販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意したことについても、そのことを本件各製品に明示したことについても、上告人による主張立証がされていないのであるから、上告人が、本件各製品について、本件特許権に基づいて差止めないし損害賠償を求めることは許されないものというべきである。
原判決は、結論において右と同旨をいうものであるから、これを是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうか、又は原判決の結論に影響しない説示部分を非難するに帰するものであって、採用することができない。よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 大 野 正 男
裁判官 園 部 逸 夫
裁判官 千 種 秀 夫
裁判官 尾 崎 行 信
裁判官 山 口 繁
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