日本の不況はマスコミが引き起こした

以下国際日本人養成講座
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より転載

Media Watch: 自虐的経済報道が日本の元気を萎えさせる

 政治や歴史と同様、経済においても自虐的・悲観
的報道が、国民の自信と希望を失わせている。
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■1.悲観的・自虐的経済報道が多すぎないか■

 昨年初頭、日本経済新聞は「YEN漂流 縮む日本」という
特集を組み、「円安が進行するため日本の投資家が国内に投資
せず、海外にマネーが流出し、日本経済はシュリンク(縮小)
する」と報じた。

 しかし、その後は米国発の世界同時不況で、逆に日本円の独
歩高になった。年末には、ホンダの福井威夫社長の次のような
発言が報道された。

(円高が進めば)国内工場のリストラに追い込まれる可能
性がある。正規雇用まで危うくなる。日本の輸出産業は全
滅するだろう。[朝日新聞、H20.12.20、1,p44]

 言うまでもなく、円安にせよ円高にせよ、それぞれメリット
とディメリットがある。円安なら、家電や自動車など輸出で稼
ぐ業界の利益が底上げされる。円高になれば石油や鉄鉱石など
の輸入原材料が値下がりするので、化学、鉄鋼、電力、運輸業
界などが恩恵をこうむる。

 しかし、どうも円安の時には円安のディメリットばかりが声
高に報じられ、円高になるとその損失のみが大々的に報道され
る印象がある。どうも日本国内の経済報道は悲観的・自虐的な
ものが多すぎて、バランスを欠いているように見える。それが
結果的に消費意欲や企業の投資意欲を減退させ、日本経済の元
気を萎えさせているのではないか。

■2.麻生政権の経済対策は「大盤振る舞い」「負担のつけ回し」■

 自虐的経済報道のもう一つの典型は、世界同時不況に対する
日米の対策報道にも表れた。

 財政支出15兆円余、事業規模は57兆円。過去に例の
ない大規模な新経済対策を政府・与党がまとめた。

 米国政府に「国内総生産(GDP)の2%相当の財政刺
激」を約束した麻生首相は2%、つまり10兆円規模の財
政支出を指示していた。しかし、総選挙を控えた与党の議
員から「需要不足が20兆円超とされるのに足りない」と
いったむき出しの要求が高まり、膨れ上がった。・・・

      • 経済活性化策を打ち出すのは政府の役割である。だ
が、それにしても「大盤振る舞い」が過ぎないか。・・・

 政府案では、今年度の新たな「国の借金」(新規国債発
行額)は空前の43兆円超となる。・・・

 消費刺激型の景気対策は、将来の需要の「先食い」でも
ある。そのために政府が借金するのは、子や孫の世代へ
「負担のつけ回し」になる。一時的に景気刺激効果があっ
ても、長い目でみればマイナス面が少なくない。[2]

「米国政府に約束した」という表現は、いかにも麻生首相が米
国に命ぜられて経済対策をやっているようだし、「総選挙を控
えた与党の議員から」では、選挙目当てだという印象を与える。
そして、この「大盤振る舞い」は、「国の借金」を増やし、将
来への「負担のつけ回し」になる、と批判するのである。文章
の細部に至るまで、底意地の悪さが籠もっている。

■3.オバマ政権の経済対策は「不況の直撃を受ける人たちへの支援」■

 一方、米国の不況対策に関する報道は、こういう調子である。

 オバマ政権は1月20日の発足から1カ月以内の速いテ
ンポで、公約していた危機対策の始動にメドをつけた。た
だ、財政負担は極めて重い。日本や欧州などにいっそうの
景気対策を求める圧力も強まりそうだ。・・・

 対策全体の3分の1にあたる約2800億ドルは減税。
勤労者1人あたり最大400ドルの税還付や、企業の設備
投資を促進する税制などを盛り込んだ。残りは主に不況対
策の歳出。不況の直撃を受ける人たちへの支援関連が全体
の4割近くで、失業保険と生活補助の増額のほか、低所得
者向け公的医療保険の拡充(870億ドル)や教員の雇用
維持など州財政への補助(536億ドル)などを計上した。

 公共事業関連は全体の4分の1を占め、「長期的な米国
の競争力も向上させ、21世紀にふさわしいエネルギー・
環境対策も強化する」(オバマ大統領)狙いだ。[3]

「勤労者1人あたり最大400ドルの税還付」にも「大盤振る
舞い」との形容はつかず、「不況の直撃を受ける人たちへの支
援」と暖かい表現をし、さらにはオバマ大統領得意の「長期的
な米国の競争力」云々という名調子まで引用したりして、いか
にも好意的に報じている。日本の景気対策を論じた時の底意地
の悪さとは打って変わった文体である。

「財政負担は極めて重い」と釘を刺しながらも、この問題は
「日本や欧州などにいっそうの景気対策を求める圧力」と得意
の自虐的・悲観的表現でかわしてしまい、日本以上に深刻な米
国の財政状況(後述)は論じない。どうしてこんなに違うのか。

■4.米国の経済対策に潜むドル崩壊のリスク■

 米国の経済対策の「財政負担は極めて重い」という中身を
三橋貴明氏の近著[1]に従って、数字で見てみると、これは
「負担のつけ回し」どころか、財政破綻を招きかねない危険を
伴っていることが分かる。

 09年度の米国財政赤字予想額は、オバマ政権の財政支出を
含まない場合でも、対GDP(国内総生産)比8.3パーセン
トに相当し、前年の3.2パーセントから大幅に増大する。ち
なみに日本の09年度の財政赤字は、景気対策の財政支出拡大分
を含めてもGDP比2%程度である。[1,p148]

 この財政赤字を補うために、09年に米国は最低でも2兆ド
ルの米国債を販売する必要に迫られているという。どこの国が
これだけの米国債を買えるのか。

 08年11月に米国財務省が発表した国際資本統計によると、
9月末時点で米国債保有国のトップは中国で5850億ドル、2位
の日本が5732億ドルである。両国が現在保有している米国債を、
一挙に2倍に買い増ししても、必要な2兆ドルの半分強にしか
ならない。

 中国の米国債保有高は増加し続けているのである程度買い増
す可能性はあろうが、日本の保有高はここ4年ほどで、約18
パーセントも減少しており、日本が買い増す可能性は少ない。

 日本は過去、米国債を必死で買い支えるために、国内で異常
な低金利政策をとり、それがためにバブルが発生して、痛い目
を見た[a]。米国債の保有額を漸減させているのは、その反省
が効いているのであろう。ゆっくりとした目立たない削減ペー
スは、一気に米国債を売ってしまえば暴落して損をするので、
賢明な策と言える。かつて日本は「飼い犬のように米国債を買
い続ける国」などと揶揄されたが、中国にそういう嘲笑を投げ
つけるマスコミはないようだ。

 外国が米国債を買ってくれないのなら米政府はどうするのか。
最終手段は、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、
ドルを必要なだけ刷って米国債を買い取る、という手であり、
現にFRBは「その用意がある」と公表している。

 ドルの大量発行は、必然的にドル安を招き、それを警戒する
国々がドル資産を他の通貨に替えようとすれば、ますますドル
安が進む。これでドルの基軸通貨制度が崩壊する恐れがある。
オバマ政権の大規模な経済対策は、こういう綱渡りの上に進め
られているのであり、「財政負担は極めて重い」で済まされる
程度ではない。

 日本の財政赤字も大きな問題だが、国債の95パーセントは
国内で買い取られる。いわば、夫(政府)の使い込みを妻(国
民)の資産で補填しているようなもので、一家が外部に借金を
しているわけではない。米国は夫婦ともどもサラ金に手を出し
ているよう状況で、そのリスクとは比較にならない。

■5.日本の外需依存度は1.6パーセント■

 冒頭の円高・円安の問題に戻るが、そもそも日本経済は外需
依存度が高く、海外の経済状況に大きく左右されるという先入
観が一般的である。これも事実ではない、と、[1]の著者・三
橋貴明氏は喝破する。

 07年の日本の輸出金額は79兆7千億円余であったが、これ
のGDP515兆円に対する比率、すなわち輸出依存度は
15.5パーセントである。また輸出から輸入を差し引いた
「純輸出」のGDP比率、すなわち外需依存度は、わずかに
1.6パーセントに過ぎない。

 つまり円が1割上下しても、産業分野や企業別ではプラス
  • マイナスのバラツキはあるものの、日本経済全体としては差
し引き1.6パーセントのそのまた1割、すなわち、0.16パ
ーセントの影響に過ぎない。

 円高円安の報道にしても、まずはこういう点を抑えておかな
いと、「(円安で)日本経済はシュリンク(縮小)する」とか
「(円高で)日本の輸出産業は全滅するだろう」などという自
虐的・悲観的マスコミ報道に振り回されることになる。

 そして、こういう報道から、日本は外国、特に主要貿易相手
国であるアメリカや中国のご機嫌を取らなければ生きていけな
い国なのだ、と日本国民は思い込んでしまう。これは一種のプ
ロパガンダ(政治宣伝報道)ではないか。

 実は、外需依存度で言えば、中国の方が日本よりはるかに高
い。中国の輸出依存度は37.4パーセント、純輸出は8.9パ
ーセントに達する。GDPの中の民間最終消費支出(個人消費)
で見ても、日本は57パーセントに対して、中国はわずか35
パーセントに過ぎない

 中国は自国民の消費を低賃金で抑え込み、低価格品の輸出で
ドルを稼いでは米国債を買い、米国民のさらなる消費を支えて
いる。米国と中国とは、こうしたゆがんだ形でお互いにもたれ
合った奇妙な関係にある。これに比べれば、日本経済ははるか
に健全な構造を持っているのである。

 こういう実態も、マスコミ報道を表面的に読んでいては、な
かなか見えてこない。

■6.「強み」と「機会」に着目した国家戦略を■

 三橋氏は経営コンサルタントの資格を持つだけに、経営戦略
立案でよく使われるSWOT分析で、日本経済の戦略を分析し
ている。SWOTとは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、
Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字である。ある
企業の持つ「強み」と「弱み」、そして外部環境の与える「機
会」と「脅威」を見極めて、「強み」を「機会」に結びつけ、
「弱み」が「脅威」につながらないようにするためには、どう
いう戦略をとればよいのかを総合的に考えるアプローチである。

 たとえば、日本企業が膨大な現預金を持っている、というの
は一つの「強み」である。これを「円高」という「機会」に結
び合わせると、外国企業を有利に買収して、事業を強化する戦
略が浮かび上がってくる。

 多くの日本企業がすでにこの戦略を着々と実行中である。一
例を挙げれば、伊藤忠商事と新日本製鐵、JFEホールディン
グスなど日本の鉄鋼大手5社、および韓国の鉄鋼大手ポスコは、
共同で、ブラジルの鉄鉱石事業運営会社のナミザの株式40パ
ーセントを31百億円ほどで取得した。これにより年間2千万
トン相当の鉄鉱石権益が確保できる。

 これは「強み」と「機会」を生かしつつ、同時に資源を輸入
に頼っているという「弱み」と、今後の資源高という「脅威」
をカバーする優れた戦略である。

 悲観的・自虐的報道で、「脅威」や「弱み」だけに着目して
いては、座して死を待つだけだが、「強み」や「機会」に着目
することで、日本企業は逞しくグローバル社会を生き抜いてい
るのである。日本経済においても、「強み」「機会」に着目し
た戦略立案が必要であることは言うまでもない。

■7.日本経済の「強み」「機会」に着目した戦略■

 三橋氏は、こうした考え方から、日本経済の「強み」「機会」
に着目した戦略をいくつか提案している。

 活用すべき「強み」の一つは、世界一のエネルギー効率であ
る。GDP当たりのエネルギー消費量は、日本を1とすると、
アメリカが2.0、中国はなんと8.7である。

 人件費よりもエネルギー費の高い装置型産業などは、エネル
ギー効率が決定的な「強み」となる。鉄鋼業はその最たるもの
で、高いエネルギー効率で、しかも自動車用鋼板など高付加価
値商品を作ることができる。中国の鉄鋼業は生産トン数が多い
だけで、低付加価値製品を低いエネルギー効率で、しかも公害
をまき散らしながら製造している。今後、予想されるエネルギ
ー価格の上昇と環境規制の強化は、日本の鉄鋼業には「機会」
だが、中国の鉄鋼業にとっては重大な「脅威」である。

 さらに鉄鉱石権益を買収して、供給の安定化を図れば、鬼に
金棒だ。また、高いエネルギー効率を実現する技術やプラント
を新興国に売れば、それも収益源となる。

 現在、需要の急減でトンネルの最中にいる自動車業界も、世
界最先端を行くハイブリッド技術という「強み」を、ガソリン
価格の高騰や環境規制の強化という「機会」に生かせば、明る
い出口が見えてこよう。

■8.我が国の最大の「弱み」と「脅威」■

 麻生首相は、4月9日、今後10年間の日本の「未来開拓戦
略」を発表した。「ピンチをチャンスにかえる」との触れ込み
で、エコカーや太陽光発電などの「低炭素革命」、介護や医療
充実の「健康長寿社会」、観光、アニメやファッションなどの
「日本の魅力発揮」の3本柱からなる。その結果、10年間に
GDP120兆円増、400万人雇用創出を狙うというものだ。

 例の如く、朝日新聞は「弱体化した政権基盤を立て直して財
政再建に取り組まなければ、夢の成長戦略はそのまま夢となる
公算が大きい」[3]などと斜に構えた批評を述べている。

 自民党憎しの感情は分かるが、こういう自虐的・悲観的報道
から生まれるのは、国民の自信と希望をなくして不況の深刻化
させ、さらには「強み」「機会」に気づかずに、ビジョンも志
も持てない無気力さを蔓延させることだけであろう。

 自虐的・悲観的なマスコミ報道こそ、我が国の最大の「弱み」
と「脅威」ではないだろうか。

■リンク■
a. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
 日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
た。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog078.html
b. JOG(585) 進化する日本的経営
 日本企業は終身雇用制を武器に、バブル崩壊後も力強い進化
を続けてきた。
http://archive.mag2.com/0000000699/20090215000000000.html






平成21年5月16日

管理者  上梓





最終更新:2009年05月16日 05:20
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