反アベノミクスを斬る

反アベノミクスを斬る
産経新聞平成25年2月3日
編集委員田村秀男

安倍晋三首相の経済構想「アベノミクス」は株式市場ばかりでなく、多くの世論の支持を得ているが、平家の故事宜しく「水鳥の羽音」に備えよと言わんばかりの報道ばかりが目立つ。

代表例が日経新聞の経済論壇「経済教室」で1月16日から4回に亘って連載された「安倍政権」経済政策の課題である。
見出しは
「日本売りリスク」
「物価高騰も」
「日銀の独立性は重要」
「資産バブル招く」
三年前から安倍首相と同様の提起をしてきた者として特にこの四点を看過するわけにはいかない。


「日本売り」
とは2%のインフレ目標を設定し国債発行を増やせば国債利回りが急騰、即ち国債バブルが発生すると云う意味である。

日銀総裁の白川は昨年11月20日の記者会見で「3%」のインフレ目標では長期金利がまず上がり、国の利払い負担を引き上げ、更に国債を大量保有する金融機関に巨額の資産評価損をもたらす。と発言した。
日経の経済教室では、白川論法にバイアスを掛けて「2%」でもその恐れがあるという。
日本国債の殆どは日本国内の金融機関が保有している。国内金融機関が日本国債を一斉に売れば国債相場は暴騰するであろう。
更に加えて日本の民間金融機関は世界最大の貸し手として約200兆円の対外純債権を保有しており、日本国債を買い支える余力は充分にある。
日銀には2%のインフレ率に近づく迄、お札を発行して国債を買い上げる緩和政策を続ける役割を担っている。
米国は2008年のリーマンショック後自国通貨を3.2倍も発行。最近では長期国債を重点的に買い上げエネルギーと食料品を除く消費者物価指数(コアコアCPIと呼ばれるインフレ指数)より低い長期利回りを実現している。
小出しにしか量的緩和しない日銀の政策を転換するだけで国債暴落は避けられる。

手堅い日本国債が暴落するならば、増税の代わりに三倍以上のドル札を刷って長期国債を買い上げる世界最大の債務国アメリカ。
ユーロ札を刷ってはギリシャなどの重債務国の国債を買い上げる欧州ユーロ圏を含め世界は終わるだろう。

「物価高騰」?
米でさえ2%未満
そもそも、物価上昇率を2%以下で抑える手段とするのがインフレ目標である。
一年前に2%のインフレ目標を設定した米国FRBは、リーマン後短期間のうちにこれ迄の3.2倍もの自国通貨を発行し12年12月には更に失業率が6.5パーセントに改善するまでは、量的緩和とゼロ金利政策を続ける政策を打ち出した。元々インフレ体質の米国だからお札の大量発行は悪性インフレを招くという懸念が強いのだが、それでもインフレ率は2%未満に留まっている。

「中央銀行の独立性」
は当に金科玉条だ。日経などメディアの多くが安倍首が日銀に大胆な政策転換を求める度に連呼してきた。1998年4月の現行日銀法施行で日銀の独立性が保障されて以来、176ケ月が過ぎたが、インフレ率が前年度比でプラスになったのは九ヶ月に過ぎず、しかもゼロ%をほんの僅かに越えただけである。
日銀が独立性を盾に外部からの意見に耳を貸さずデフレ維持政策をとってきたのは明らかだ。
デフレ・円高放置により若者の就労機会を奪ってきた日銀の政策を独立性の美名のもとに援護する感覚はまともではない。国民を守って始めて独立性が正当化されるのだ。

「資産バブル」
とは何をさすのか?
株式や不動産市場が活性化する前にバブルを心配して金融緩和を止めるのは回復しかけた重病人から栄養剤を取り挙げるようなものである。しかも「株価などの値上がりの曲面で「バブル」と判定できる基準はない」とFRB幹部から聞いた。

メディアが何の判断基準も示さずに株価や地価が少し上昇しただけで「ミニバブル」と騒ぎ、日銀は待ってましたとばかり引き締めに転じデフレを長引かせることだろう。

以上のように反アベノミクス論の多くは根拠が薄弱だ。

ネガティブな印象を余に広めるメディアはこれまでの財務日銀官僚主導のデフレ円高政策の自らの誤りを認めたくないという自己弁護の心理が多分に作用しているのであろう。

それとも、官報の如く財務省幹部や白川の言い分をオウムのように繰り返してきた安直になれきってしまい独自の思考を失ったからではないだろうか。
安倍構想は図らずもメディアの不見識振りを浮かび上がらせた。




併せてお読み頂けると幸甚です。

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最終更新:2013年02月11日 20:24
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