奇眼藩国

雪祭り~奇眼藩国は燃えているか~

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

雪祭り~奇眼藩国は燃えているか~


北国は寒い。特に雪が降る季節は誰も積極的に外へ出ようとはしない。
それはこの奇眼藩国とて例外ではない。
だが、この日だけは、その常識が覆される。

そう、今日は、雪祭り。

―雪祭りの歴史はそう古くない。宗教儀礼的な祭、つまり災害の無い事を
祈念するような意味での雪祭りは古くから
あったが、現在の形態で開催されるようになったのは
シュトラウス組み立て式スコップの開発、
それに伴う工兵師団掘削部隊…国内では除雪部隊として名高い…の設立、
そして先代藩王の一言「余った雪使って何か面白い事でもやんない?」
の3点だった―

そして、今回は50回目の記念すべき祭…だというのに、
大大的に開催が告げられるでもなく、市街地のあちこちに
『第50回雪祭り開催決定!日時…』
と開催日だけが書かれたポスターが貼られているだけだ。
貼られたのは3日前。そして、今日はその前日…。

「ほら急げ!そんなんじゃ明日に間に合わないぞ!」
「隊長ぉー、上にばっか積んでも役にたたないっすよー?」

「やっぱり形にもこだわった方がいいと思うのね」
「あら、質実剛健が私達のモットーじゃないの?」

「よぉーし、出来たぞ!」
「僕らの秘密基地!」
「…でも、どうやって出るの?」
「…穴開ければいいんだよ!」
「そうか、分かった!」
さくさくさく…べしゃ。

作業は粛々と行われていた。

そう、これはただの雪祭りではない。

第50回雪祭り~犬は喜んで庭駆け回るもんだろうが!
	志願兵は隊伍組んで内戦勃発じゃぁ!~

これが正式名称。早い話が参加申請式の全国一斉雪合戦である。
この日ばかりは普段穏和な北国の血も燃え上がらずにはいられない。
この祭の為に、兵士や一般国民を問わず訓練に励む者も少なくないという。

参加者は5人一組で登録。参加者には首から下げる参加証が与えられる。

雪が集められる穀倉地帯がフィールドになり、
好きな場所を選んで防壁を作り上げる。
雪玉を一発食らえば失格、なんて生易しいルールは存在しない。
とにかく相手が音を上げるまで叩きつけろ!
(ただし、音を上げたらそれ以上の攻撃は禁止)
その場合、相手の参加証を奪えば得点として認められる。
最終的に得点を一番多く獲得したチームが勝利となる。

この祭はシュトラウス社全面協力の下、優勝チームには豪華賞品が送られる事もあって、各チームの士気は高い。
また、藩国国営放送のKHK(奇眼放送職人組合)が完全生放送で
お茶の間に届ける事でも知られている。
とにかく国を挙げた一大お祭騒ぎなので、
この一日、奇眼藩国は熱く燃え上がるのだ!

そして…、戦いの火蓋が切って落とされる!

一斉に開始が告げられた瞬間、戦場は大音声に包まれる。
『た、たった今!開戦しましたっ…うぉわっ!ちょっ…ここって安全地帯じないのぉ!!?』
お茶の間に響く第一声は、女性伝声職人(アナウンサー)の悲鳴だった。
「素人だな」
と、見ている経験者は誰もが思ったであろう。

とにかく資源量(雪)が多いので、めくらめっぽうに雪玉を投げまくるのが
風習といってもいい。故に安全地帯などあろう筈も無い。
だからこそ、こう着状態に陥りやすい。

その為、一定時間が経つと、祭を盛り上げる為の狡猾な罠が作動する―。
「とうっ!」
雪原を切り裂く鋭い掛け声一閃、緋のマントを纏った白髭の老人が
乱戦地帯のど真ん中に現れた!
「ふははははっ!優勝したくば、見事儂を討ち取ってみせい!」
「王様だ!」
子供達の声を合図として、一瞬戦場が静まり返った。
紛れも無く、百人分の参加証を首から下げた藩王その人だ。
―ボーナスキャラ―それは闘いを盛り上げる祭の華。
図ったようにその場にいる全チームの雪玉が集中砲火を浴びせ掛けた!
「甘いわぁっ!」
藩王の一喝が雪原に鳴り響いた。凄まじい軌跡を描きながら
圧倒的な弾幕を回避していく藩王。
「逃がすな!追え!」
次第にヒートアップしていく参加者達の中にはとうとう藩王の追撃に
入る者まで現れた。
もちろん、彼らが格好の的になる事は言うまでも無い。
だが的になるリスクを犯しても、藩王の撃墜には意味があるのだ。
過酷な弾幕をかいくぐり、藩王に肉薄する新米歩兵チーム!
「藩王!お覚悟!」
日頃の訓練で培った脚力を一気に全開にして、チーム全員で包囲に掛かる。
「やるな!だが、詰めが甘いぞ!」
藩王は緋のマントを翻したかと思うと、スピードを殺さず180度転進して見せた!
「!?しっ、しまtt…」
哀れ新米歩兵君たちは見事にずっこけ、付近にいた職人チームや奥様チームの集中砲火を浴びた。
「ふはは…む?!」
雪原を更に疾走する藩王の目の前に今度は巨大な柱がそびえ立っていた。
その左側面から二人の若手掘削兵が弾幕を送り込んでくる。
これでは右側面を通るしかない。
「牽制か!さすがは掘削部隊!儂の行動は読んでおるな…だが!」
藩王は更に速度を上げた!
「とぉっ!!」
華麗なる軌道で跳躍前転3回半捻りが炸裂!
白い柱はあと数センチの所を掠められた。
「しまったぁ!!!」
隊長が悔しそうに叫ぶのを尻目に、藩王は華麗なる着地まで決め、
再び走り出した瞬間、
巨大な白い塊にぶち当たった。
それは、子供チームの転がす巨大な雪玉だった。
「あれ?何か当たったよ?」
その時、終了の合図が鳴り響いた。

「…と、言う訳で、優勝は子ども会代表チーム!」
盛大に拍手が起こり、
台上には照れくさそうな男の子、女の子が並んでいた。
賞品は彼らの胸に輝く一等賞メダル。
副賞に、『塔のマーク』のパン一年分が送られた。
こうして、奇眼藩国最大の祭は幕を閉じるのだった。

祭の後は、冷えた身体を温めに、温泉や酒場に参加者が押し寄せ、
この騒々しい一日は静かに夜を迎えるのであった。

(文士・吾妻 勲)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー