奇眼藩国

浪漫飛翔士

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kiganhankoku

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浪漫飛翔士


「ジリリリリリリリ!!!」

深夜の奇眼の塔にけたたましくサイレンの音が鳴り響く。
サーチライトが点灯して、周囲を照らし出していく。
それは、奇眼藩国夜の名物の始まりであった。

「第一種制服警報発令!!繰り返す、第一種制服警報発令!!」

奇眼の塔直下のバトルメード達が一斉に出動、侵入者を捜索開始。
彼女達の身に着けるカチューシャ型ヘッドセットから、クリアーな声が流れてくる。
声の主は彼女達の指揮官、その名を木曽池春海という。

『命令。侍女敵必殺(サーチアンドデストロイ)。容赦はいらない。発見しだい掃いて捨てろ』
「「「了解しました」」」

「命令復唱、侍女敵必殺」
「発見しだい掃いて捨てましょう」
「明日は可燃ゴミの日です」
「生物(ナマモノ)は生ゴミに、しっかり分別しましょう」

サーチライトが闇を疾駆する怪しい影を照らし出す。

「目標発見!敵、世界制服研究所(誤植ではない)所属、浪漫飛翔士(ロマンサー)!攻撃を開始する!」

バトルメードたちのBS3-PA通称「リンゴ」が火を吹き、石壁に弾痕が穿たれていく。
怪しい影は不敵に笑って全弾回避、逃走する。


浪漫飛翔士(ロマンサー)、それは制服という漢のロマンを高らかに謳う者達。
セーラー服、ブレザー、ナース服、巫女服、スク水、バニースーツ、そしてメイド服……
この世のありとあらゆる制服を愛してやまない漢たちの魂のアイドレスである。



なお、電網適応アイドレスにはそんなアイドレスは存在しないのであしからず。



人間離れした機動力で銃弾を回避し、抜き打ち一発、サーチライトを破壊。一瞬訪れた暗闇にその身を隠す。
背中に背負った大きな袋は、今宵の収穫。中身はたぶん漢のロマンが詰まっている。

だが、それを追跡するバトルメードのお嬢さんたちも尋常ではない。
即座に「奇眼の猟犬」を発動、全知覚を強化して暗闇のなかを逃走する賊を追跡する。


一方その頃


特設観客席は満員御礼である。その内の半数以上は他国からの観光客であった。

「いやぁ~、今日も満員ですねぇ~」
「うむ、春海くんには悪いがいい稼ぎじゃなあ」

奇眼藩国で毎夜繰り広げられるこの追跡劇は、もはや藩国の名物となっていた。
これを見にわざわざ他国から観光客がやってくる始末である。
なにせバトルメードの勇姿をこの目で見れるのである。しかも普段の可憐な姿ではなく、戦場の雄々しくも華麗な姿を。
メイド好きにはもうたまらない。口コミの噂はあっという間に広まり、今や観光収入の乏しかった藩国の財政に寄与するまでになった。
戦っている当人たちにはたまったもんではないが、まあ奇眼藩国の財政状況を鑑みれば致し方ない話である。


話は戻る。
今宵の追跡劇にも決着がつこうとしていた。
塔のバルコニーに追い詰められる浪漫飛翔士。三人のメードたちが箒型銃を構える。

「そこまでです、無駄な抵抗はおやめください」

未だ余裕の表情で笑う男。

「まだだ、まだ終わらんよ」
「ここは地上25階ですよ?飛び降りるつもりですか?」
「そうだと言ったら?」

手すりに手をかけヒラリと飛び降りる男。慌ててバルコニーの縁に駆け寄る三人のメード。
その時、天から縄梯子が降って来た。三人の目の前で、落ちたはずの男が縄梯子に掴まって上昇する。
空を見上げれば漆黒のステルス飛行船(なんだそれは)が上空に停泊しており、そこから縄梯子が垂れていた。
下を向いて勝ち誇ったように笑う男。

「はっはっは!今日は我々の勝ちだな!!」
「……いいえ?そうでもありませんよ」

「なに?」とつぶやいたその時、彼は見た。塔の屋上にたたずむ二人のバトルメードを。

「いきます!!」

一人のバトルメードが屋上を駆ける。しかし助走をつけて跳んでもこの高さでは届かない。
だが。彼女の目の前にはもう片方のバトルメードがスタンバイしていた。

「なんだとぉ!?」

もう一人のバトルメードがトスの要領で彼女を上空へと打ち上げた。
ポーン、と軽く跳びあがるメイドさん。同じ高度で目と目があう。
にっこりと極上の笑みを浮かべ、箒をバットのように持ち替える。

「覚えておいてくださいませ。バトルメードに不得意はあっても不可能はございません」

カコーン!場外ホームラン!

あー!!と叫びながらふっ飛んでいく男。キランと夜空に消えていった。
それで今日の騒動は終わりだった。





その数時間後。世界制服研究所(誤植ではない)。

全身包帯ぐるぐる巻きの男が、プロフェッサーGの前にやって来た。
先ほど場外ホームランになった男である。

「……ただいま帰還しました、プロフェッサーG」
「G教授と呼びたまえ」

工廠内部に何故か設置されたパイプオルガンをジャジャーンと弾きながら、片眼鏡の老紳士プロフェッサーGが声をかける。
ちなみに横では戦闘員三人がえっさほいさと巨大な歯車を回していた。無駄に人力である。

「今回もまた失敗したようだねぇ、キミ」
「も、申し訳ありません!お許しくださいプロフェッサー!」

パイプオルガンを弾く手を休め、振り返る教授。片眼鏡がキラリと光る。

「まあ、我輩は寛容だ。『失敗した者には死を!』…なぁ~んてことは無いけどねえ」

「とりあえず奇眼の塔の屋上から命綱なしでバンジーしてくれたまえ」
「それ死ねゆうとるやんけ!?」
「はっはっは、水瀬クンは生き残ったよ?(参照 http://odd.s201.xrea.com/cbbs/cbbs.cgi?mode=one&namber=226&type=216&space=30&no=2 )」

教授は笑いながら、まあよいと言って指を鳴らす。一人のウェイトレスさんが銀のトレイを持ってやって来た。

「熱戦で喉が渇いたであろう。コーヒーでも飲んで落ち着きたまえ」
「は、はぁ、ありがとうございます。………!?」

その場の流れでついそう言ってしまった男は気がついた。自分が自らの死亡証明書にサインをしたことを。
ウェイトレスさん(名前は夏希ちゃん。教授の専属メイド)が持ってきた銀のトレイには、二つの磁器のコーヒーカップが置いてあった。
問題は、その中身である。どす黒いえもいわれぬ禍々しい液体が、グツグツと煮えたぎっているのである。
G教授が泥のように不味く、地獄のように熱いコーヒーを好むのは藩国内でも有名である。彼はそれを完全に失念していた。
男の顔がみるみる青ざめ、ダラダラと脂汗が流れる。どうぞ?と天使の微笑みを浮かべるウェイトレスさんの後ろに悪魔の尻尾が見えた様な気がした。

「さあ、どうしたのかね?ずずーいと飲みたまえ。遠慮はいらんよ、さあさあ」
「い、いや、あの、これは……ちょっと……」
「どうしたのかね?飲めないというのかね!?……まさか、まさかそんなことは言わないよねえぇぇぇぇ!!」

教授の片眼鏡が怪しく輝く。

「まさか、まさかまさかキミは漢のロマンを高らかに謳う浪漫飛翔士だというのに、この大正浪漫あふれる飲み物を飲めない、そんなことは言わないよねええええええ!!!」
「う、うわあああああああっ!!」

教授の無意味に圧倒的なプレッシャーに、思わずコーヒーカップを手にとって中身を一気に飲み干す男。

一瞬の静寂

「あんぎゃっぱああああああああああああああああ!!!!???」

脳天を直撃するような衝撃を受けて、謎の悲鳴を上げてぶっ倒れる男。口から魂がにょろりと顔を出す。

「はっはっは、どうかねぶっ倒れるくらいに上手いだろう?」

もう一つのカップを手に取り、こちらもガブリと一気に飲み干す教授。

「……うん、不味い!もう一杯!!」


なべてこの世は事もなし。

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