奇眼藩国

幕間、もしくは動乱の中で

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幕間、もしくは動乱の中で

”拝啓、摂政殿へ。お金がありません(ぐるぐるしつつ)”
”では働きましょう(楽しそうにぐるぐるしつつ)”

――ある日のやりとりより

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奇眼藩国は大慌てだった。
藩王と摂政二人に加え、吏族が纏めて冒険に出て帰って来たところにぽち王女からの動員令が出たのだ。
藩王は至急、各地にこの動員令を伝え、国を挙げての戦争準備が始まった。

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一方そのころ、摂政執務室。
書類の山――文字通りの――を抱えて男が入ってきた。
どうやって開けたのか、見ていてもきっと分からなかっただろう。

「失礼します。水瀬摂政、書類を……」

だが誰もいない。
珍しいな、と思った彼は机の上に一枚の紙切れを見つけた。

『一攫千金を狙って新たな冒険に出ます。探さないでください』

「摂政ぉぉぉぉー!?」

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「星見司のアイドレスで金脈探索なんて……」
「ゴッドスピード、摂政」
「また、水瀬宰相の悪い癖が出たか……」
「……さようなら」
「犬士歩兵部隊総員出動、目標は摂政の身柄確保~!」「わん!」「わん!」「ただし、噛むな!」
「――あたしから逃げられるとおもうなよ」

かくして摂政の捕獲作戦もしくは追悼儀礼が始まる。
結構余裕あるな、皆。

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その頃、渦中の摂政は。

「いやぁ……三個並列で戦争準備の報告書書くのはきついね」

一人、星見塔の屋上に登っていた。
「冒険に出ると言っておきながら、今は誰も登らない屋上に出る……やぁ、すぐばれるよな」
どうでもいいが説明的な台詞だなぁ、と呟きながら寒ー、と身体を抱える。

「追跡できないように匂いを誤魔化す為の香り袋も、そろそろ切れるなぁ……」
無駄なことに労力を使いすぎである。
「これぐらいしないと抜け出せないからなぁ」
そもそも抜け出すなという話である。

こんな時だから謎追ってみたりお茶を飲んでみたりするのも大切だと思うわけですよ、とどこともなく呟く。
要するにこれは、息抜きだった。
ぐるぐるしてるとき程休憩しないといけないのですよ、とやっぱりどこへともなく呟く。

だったら素直にそう言え、という話である。
全体として見ると息抜きになっていない、という話もある。

ふぅ、とお茶を飲んでいればわんわん!という声が近づいてくる。
「あ、気づかれた……」
慌ててはしごから自分の部屋へと飛び移ろうとする。
自分から戻ることで追求を少なくしようという考えだった。
せこい。

「あ」
強風に吹かれて、足を踏み外した。

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一つの書類を処理するには、細心の注意が必要だと少年は信じている。
それ一つに、誰かの命が懸かっているからだ。

そんな仕事を重ねていると、段々と感覚がおかしくなってくる。

そんなときは空や星を見るのだ。
自分が世界の小さな一部だと知るために。心を晴らすために。
そうしていれば、守りたいものと守るべき最初の志を思いだすのだから――

……などと、落ちた衝撃でぼろぼろになった水瀬は、ぴくぴくと痙攣しつつ、書類の山を前にして思うのだった。
全く以て締まらない光景である。

ふぇーどあうと。

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執務室から悲鳴が響く。
自業自得であった。

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(文章:水瀬悠@文族)
(協力:木曽路春海・猫神絵馬・舞花(敬称略))

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