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"還元不可能に複雑な"血液凝固系の分解


「仮説をつくる・仮説に基づく予測を作る・実験/観察によって予測を検証する」という科学のループがクールに回った例に、「血液凝固系」がある。

この血液凝固系は、インテリジェントデザイン理論家Dr. Michael Beheが自著"Darwin's Black Box"で、還元不可能に複雑(進化不可能)と論じたものである。これが分解されたことにより「還元不可能に複雑」という概念が役に立たないことも示された。

以下は、この研究をPanda's ThumbのIan Musgraveが紹介したエントリの和訳である。



Ian Musgrave : "Behe vs Lampreys: A modest proposal (2008/05/10)



インテリジェントデザイン支持者はいつもインテリジェントデザインは科学だと主張する。しかし、ヤツメウナギのゲノムについての最近の論文は、科学とインテリジェントデザインのシャープな違いを見せ付ける。インテリジェントデザインのひとつの特徴はMichael Beheの"還元不可能な複雑さ"である。1996年にBeheは血液凝固系が進化不可能であり、より単純な血液凝固系は存在し得ないと主張した。これと対照的に、1987年に進化生物学者Russell Doolittleは、血液凝固系が遺伝子重複によるコオプションによってできあがったと仮説をたてた。Doolittleは特に、魚類が哺乳類の血液凝固系のキーとなる要素(intrinsic or contact clotting system)を欠いていると予測した。その予測がどうなっていたかを見てみよう。

Russell Doolittleは最初に予測をしてから、異なる生物の血液凝固系を広範囲に調べていた。10年以上の時間をかけて、2003年までに、硬骨魚が intrinsic cltting systemを欠いていることが明らかになった。皮肉にもBeheは血液凝固系について"Darwin's Black Box"で詳細に書いていた。そして、2003年までに、Doolittleの予測に沿って、そしてBeheの主張に反して、円口類[ヤツメウナギなど] はintrinsic clotting systemのキー要素を欠いていることが明らかになった。

今や、 Doolittleは自らの予測を支持する証拠が見つかったので、それで終わりにしても良かった。しかし、Doolittleはそこで立ち止まらなかった。Doolittleと共同研究者たちは、より厳格な検証を求めて、代表的な円口類であるヤツメウナギのゲノムのトレースアーカイブから血液凝固ファクターを探索した。これは膨大な作業である。トレースアーカイブはゲノム構築前に作成された遺伝子断片すべてである。したがって、苦労して個々の推定遺伝子をくみ上げて検証しなければならなかった。そして、彼らは何を見つけたか?

円口類はファクターIXとファクターVを欠いていた。今や、これは、それらのファクターのない血液凝固系の重要な例となった。そして、クジラと硬骨魚がintrinsic clotting systemを欠いていることが明らかになって、Beheは「それらにとって、それなりに悪いことだ」と効果的に応じた。しかし、人間ではファクターIX の欠落は、血友病Bという出血性障害をもたらし、ファクターVの欠落は血友病をもたらし、その両方の欠落は深刻な出血性障害をもたらす。

還元可能な血液凝固系: 硬骨魚と円口類は、哺乳類に比べて凝固ファクターが少ない分を補うものを持っている。円口類はファクターIXとVを欠いている。そして、TissueファクターとファクターVIIが直接にトロンビンを活性化させる。爆発的血液凝固カスケードはファクターIXとVがいっしょに働くことによって起動されるにもかかわらず。ファクターVの旧称はProaccelerinであり、活性化されたファクターVはAccelerinとして知られ、凝固系の爆発的加速の役割を担っていることを示している。

ファクターIXとVは血液凝固系の周辺部分ではなく、脊椎動物で血液を凝固させるために必要とされるトロンビンを大量に生成するために重要な部分である。Beheによれば、ファクターIX とVの欠落によって深刻な出血性障害をもたらすことは、血液凝固系が、より単純なシステムから構築されえないこと示している。というのはすべての部品がそろっていないと機能し得ないからだ。

Beheのイメージで言えば、ヤツメウナギの血液凝固系は、バネのないネズミ捕りである。

それでも、円口類はファクターIXとVがなくても、うまくやっている。これが"還元不可能な複雑さ"に対して意味するところは深い。インテリジェントデザイン支持者はこう言うかも知れない「血液凝固系は真に還元不可能に複雑ではない。しかし、他のシステムは?」と。しかし、この例は「血液凝固系が還元不可能に複雑だ」という主張を反証しただけではなく、Behe の使った論そのものを反証している。Beheは「より小さなシステムは機能しないから、血液凝固系のようなシステムは直接的には進化不可能だ」と主張してきた。しかし、ヤツメウナギはの血液凝固系は、哺乳類の血液凝固系のキー要素を欠いたシステムが機能することを示している。「システムの部品を取り除けば、システムは機能しなくなるということが、より単純なシステムから直接的に進化し得ない」というBeheの論の中核部分は崩れている。ヤツメウナギについての研究は、遺伝子重複と変異により複雑なシステムが形成されるというDoolittleのモデルを支持する強力な証拠を与える。

ここで銘記すべきは、これらすべてが、進化生物学者たちが大変な仕事をしたことによって得られた結果なことである。予測とモデルを作り、多くの動物について血液凝固系を検証し、血液凝固要因のクローンを作り、データベースを検索して、最後に断片から遺伝子を組み上げた。インテリジェントデザイン支持者たちは"Darwin's Black Box"出版から12年間にわたり何をしていたのか?ほとんど何もしていない。インテリジェントデザインの主張の中心的役割を血液凝固系に与えたのだから、インテリジェントデザイン支持者たちは、血液凝固系が還元不可能であることを示すために、きつい仕事をすべきだろう。

現在、公平に見て、これらの多くは、まともな生化学研究室を必要とする専門研究である。しかし、2003年にFuguゲノムがデータベース化されてから、Fuguゲノムから血液凝固要因を検索する障害はなくなった。データベースは公開されている。自宅であまった時間で検索することもできる。インテリジェントデザイン研究をしていることを知られて同僚から差別されることを心配する必要もない。

では、インテリジェントデザイン支持者は何かしただろうか? ノーだ。進化生物学者が検証可能な仮説を出して、Fuguゲノムデータベースを検索して検証した。

今や、ナメクジウオ(amphioxus)ゲノムが見つかった。ナメクジウオは単純な、脊椎動物の前段階の脊索動物で、ヤツメウナギより単純だ。ナメクジウオの血液に相当する血リンパ(haemolymph)が凝固することと、血リンパにトロンビンのような分子があることがわかっている。進化生物学者はそれが、単純化された血液凝固系を持つと予測する。インテリジェントデザイン支持者は持たないと予測するだろう。

ここで穏健な提案がある。私はDr. Michael Beheあるいは誰かインテリジェントデザイン支持者を招いて、凝固要因がナメクジウオのゲノムのどこあるか予測してもらう。そして、ナメクジウオのゲノムデータベースを検索して、予測通りの場所に見つかったか報告してもらう。データベースはタダだ。自宅でも検索できる。コストは時間だけだ。

今度はインテリジェントデザイン支持者が科学をやる番だ。どうだい?


References

  1. Doolittle RF, Jiang Y, Nand J. Genomic evidence for a simpler clotting scheme in jawless vertebrates. J Mol Evol. 2008 Feb;66(2):185-96.
  2. Jiang Y, Doolittle RF. The evolution of vertebrate blood coagulation as viewed from a comparison of puffer fish and sea squirt genomes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Jun 24;100(13):7527-32 (full article free access)
  3. Doolittle RF.The evolution of vertebrate blood coagulation: a case of Yin and Yang. Thromb Haemost. 1993 Jul 1;70(1):24-8
  4. Doolittle RF, Feng DF.Reconstructing the evolution of vertebrate blood coagulation from a consideration of the amino acid sequences of clotting proteins.Cold Spring Harb Symp Quant Biol. 1987;52:869-74.
  5. Davidson CJ, Hirt RP, Lal K, Snell P, Elgar G, Tuddenham EG, McVey JH. (2003). Molecular evolution of the vertebrate blood coagulation network. Thromb Haemost. 89(3):420-8.
  6. Davidson CJ, Tuddenham EG, McVey JH. 450 million years of hemostasis. J Thromb Haemost. 2003 Jul;1(7):1487-94.