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Atlas of Creation -- マルサス陰謀論


そろそろ、Harun Yahya:"Altas of Creation"をながめるのも終わりにしようと思う。最後は、ちょっとした陰謀論。

でもそれを眺める前に、前提知識から...

とある悲劇の時代

1284~1311年頃のイングランドは特別に温暖で、葡萄の栽培が始まるくらいだった[1]。欧州の人口は1000~1300年の間に2~3倍に増加したと推定されている[ie 2]。しかし、1313~1317年の異常に湿潤な夏とともに、その温暖な時期は終わった[1]。そして[3]

ヨーロッパの人口が14世紀のはじめには、事実上きわどい限界に近づき、20世紀の第3世界のかなりの国々のような段階にあった…。凶作、家畜伝染病および天災は、このような条件のもとで破壊的な規模に達した。これは1315~1317年の深刻な飢饉の際に示され、それはヨーロッパの広い範囲を襲って、飢えた民衆のなかに多数の死者を出した。不順な気候 -- 長い冬、雨の多い夏、そして氾濫は、すでに1315年に若干の西ヨーロッパ諸国で不作と食糧難をもたらせたが、さらに異常に長期で深刻な飢饉にみまわれた。1315~1317年に破局的な地域は、イギリス、フランスおよびドイツからバルト海を越えてスカンジナビアや東ヨーロッパ諸国にまで、ヨーロッパ全域に及んだ。収穫は異常に悪く、穀物価格は天文学的高さに上昇し、飢えた民衆は不健康な代用品を食べた。伝染病に感染した動物にまで手を出したため、伝染病がひろがり、病気および栄養不足で死ぬ人間の数は増える一方だった。

そして、ついに1347年末にペストがフランスのマルセーユに上陸し、ヨーロッパはさらなる悲劇にみまわれることになる。

  1. Lamb: Climate history and the modern world, 1982
  2. Tables on Population in Medieval Europe
  3. レーゼナー: 農民のヨーロッパ, 1977. (via 鈴木秀夫: 気候変化と人間, 2004)


マルサス

食料の限界にまで人口が増えていなければ、悲劇にみまわれるにしても、もう少しは、ましだったかもしれない... と考えるのは特に違和感はないだろう。

そして、人口を抑制する手段は、戦争や天災のような手段ではなく、夫婦の生む子供の数を以ってすべきと考えるのも違和感はないだろう。

そして、マルサスは...

『人口論』(An essay on the principle of population as it affects the future improvement of society,1798年)を書き、理想社会の実現に関する見解を発表した。彼の〈人口法則〉によれば人口の自然増加は幾何級数をたどるが、生活資料は算術級数で増加するに過ぎないから、この過剰人口による貧困の増大は避けられない、これに対する唯一の方策は、同書第二版(1803年)に説かれているように、禁欲を伴う結婚年齢の延期、即ち〈道徳的抑制〉である。

[トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus, 1766~1834)]

ところが、Religious RightやLeftistたちは、冷酷の論理と批判する。たとえば集団遺伝学者でLeftistなRichard Lewontinは...

ダーウィン自身は、生存闘争の自分の考えの出所を自覚していました。18世紀末の牧師であり、経済学者でもあるトマス・マルサスの有名な「人口論」を呼んで、自然選択による生物進化の考えが浮かんだとダーウィンは述べています。このマルサスの書物は、当時のイギリスの貧民救済法に反対したもので、マルサスはこの法律をあまりに気前がよすぎると考えていて、貧民が子を産まず、社会不安を生みだすことがないように、貧民のよりきびしい管理を提唱していました。

[レウォンティン(川口啓明・菊池昌子訳): 遺伝子と言う神話, 大月書店, 1998], 科学は社会を反映する p.25

冷酷なのは書き記された書物ではなく、現実の方だとわからないのだろうか。


創造論系陰謀論者T.D. Hall登場

創造論者の主張に次のようなものがある。"若い地球の創造論者"もインテリジェントデザイン支持者もよく使うネタである。


これに、マルサスを加える例もある。中でもT.D. Hallはマルサスの陰謀論を唱える。


T.D. Hallはまったく論拠を示すことなく、次のような陰謀の存在を主張する。

  • 人口を抑制せよというMalthusian Mandate(マルサス指令)が存在する
  • 19世紀前半に浮上した人口問題の対処のために、欧州の支配階級が集まって、人口抑制策を論じた
  • その抑制策とは、「貧困層に衛生を推奨するかわりに、正反対の習慣を奨励するべきである。町の街路はより狭くし、家にはさらに多くの人間を詰め込み、疫病に罹った者をその中へ入るように奨励する。地方においては、澱んだため池の近くに町を造成、特に住民をじめじめとして不健康そうな場所へと追いやることが必要である」

このMalthusian Mandate(マルサス指令)という用語は、「google "Malthusian mandate"」でほとんど出現しない。T.D. Hall独自の用語らしい。


T.D.Hallを真に受けるHarun Yahya

これを真に受けたのか、Harun Yahyaの"Atlas of Creation"には次のような記述がある。

Darwin's Source of Inspiration: Malthus's Theory of Ruthlessness
ダーウィンがインスピレーションを受けた源、マルサスの“冷酷の法則”

Darwin's source of inspiration on this subject was the British economist Thomas Malthus's book An Essay on the Principle of Population. Left to their own devices, Malthus calculated that the human population increased rapidly. In his view, the main influences that kept populations under control were disasters such as war, famine and disease. In short, according to this brutal claim, some people had to die for others to live. Existence came to mean "permanent war."

進化論の主題においてダーウィンがインスピレーションを受けたのは、イギリスの経済学者トーマス・マルサスの“人口論”である。マルサスは自分自身で人間の人口の急激な増加を計算した。この観点においてマルサスは人間の人口を制御している主な影響力は、戦争、飢饉そして疾病のような災害だとしている。いわば、この乱暴な主張によれば、一部の人々は他人が生きるために死ななければならないということになる。そしてその結果として“永遠の戦争”が導かれるのである。

In the 19th century, Malthus's ideas were widely accepted. European upper class intellectuals in particular supported his cruel ideas. In the article "The Scientific Background of the Nazi 'Race Purification' Programme", the importance 19th century Europe attached to Malthus's views on population is described in this way:

19世紀、マルサスの考えは広く受け入れられた。特にヨーロッパの上流知識階級によってこの残酷な着想は支持を受ける。『ナチの“人種の浄化プログラム”の科学的背景』という論文の中で、マルサスの人口の観点に縛られた19世紀ヨーロッパの重要な身分の者は、こう記している。

In the opening half of the nineteenth century, throughout Europe, members of the ruling classes gathered to discuss the newly discovered "Population problem" and to devise ways of implementing the Malthusian mandate, to increase the mortality rate of the poor:

19世紀のうち最初の50年で、ヨーロッパ全土において、新たに浮上した“人口問題”について協議され、貧困層の死亡率を上げるためのマルサス指令を実施する方法について思案するために支配者階級のメンバーが集まった。

"Instead of recommending cleanliness to the poor, we should encourage contrary habits. In our towns we should make the streets narrower, crowd more people into the houses, and court the return of the plague. In the country we should build our villages near stagnant pools, and particularly encourage settlements in all marshy and unwholesome situations," and so forth and so on.

「貧困層に衛生を推奨するかわりに、正反対の習慣を奨励するべきである。町の街路はより狭くし、家にはさらに多くの人間を詰め込み、疫病に罹った者をその中へ入るように奨励する。地方においては、澱んだため池の近くに町を造成、特に住民をじめじめとして不健康そうな場所へと追いやることが必要である」云々と続く

[Theodore D. Hall, The Scientific Background of the Nazi "Race Purification" Program, http://www.trufax.org/avoid/nazi.html ]

As a result of this cruel policy, the weak, and those who lost the struggle for survival would be eliminated, and as a result the rapid rise in population would be balanced out. This so-called "oppression of the poor" policy was actually carried out in 19th century Britain. An industrial order was set up in which children of eight and nine were made to work sixteen hours a day in the coal mines and thousands died from the terrible conditions. The "struggle for survival" demanded by Malthus's theory led to millions of Britons leading lives full of suffering.

この残酷な方針の結果として、生存競争に負けた弱者は排除され、その結果、急激な人口の増加には歯止めがかかりバランスをもたらすとしている。これは“貧困階級の弾圧”と呼ばれるもので、19世紀のイギリスで実際に施行された方針である。産業指令が発布され、8~9歳の児童は炭鉱で16時間労働を課すように強いられており、過酷な労働条件により何千もの命が失われている。マルサスの原理によって要求された“生存競争”は、何百万人ものイギリス人の命を過酷な条件にさらす結果となった。

Influenced by these ideas, Darwin applied this concept of conflict to all of nature, and proposed that the strong and the fittest emerged victorious from this war of existence. Moreover, he claimed that the so-called struggle for survival was a justified and unchangeable law of nature. On the other hand, he invited people to abandon their religious beliefs by denying the Creation, and thus undermined at all ethical values that might prove to be obstacles to the ruthlessness of the "struggle for survival."

これらの着想に影響を受けた形で、ダーウィンはこの闘争の思想を自然界すべてに当てはめた。そしてこの生存戦争では、強者と適者のみが勝者として君臨するのだと提言している。さらに彼は、この生存競争と呼ばれるものは、正当化されており変えることのできない自然の法則なのだとしている。言い換えれば、天地創造を否定することで宗教の信仰を捨てるよう人々を促し、それにより“生存競争”の残酷さの妨げになると思われる倫理価値感に害を及ぼしたのである。

Humanity has paid a heavy price in the 20th century for the dissemination of these callous views which lead people to acts of ruthlessness and cruelty.

残酷で無慈悲な行動を人間に導いた無感覚な展望の普及により、20世紀になって人類は大きな代償を払うこととなったのである。

Vol.1 p.618

T.D.Hallの陰謀論よりも、さらに内容が増えている。もちろん、その論拠は示されない。

まあ、進化論の悪口が言えれば、論拠がなかろうが、陰謀論だろうが、トンデモだろうが、お構いなし。それが、Harun Yahyaクオリティなのだろう。





最終更新:2009年11月25日 09:22