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互いに矛盾する陰謀論を信じること


University of Kentの心理学者Karen Douglasたちが、「権力が邪悪な目的を推進するために、巨大な欺瞞を行っている」という中心的な考えによって、陰謀論者が互いに矛盾する個々の陰謀論を支持する傾向があることを示した。


理論の矛盾は陰謀論者を思いとどまらせない

ダイアナ妃は世間の目を逃れるために自らの死を偽装した? あるいは英国シークレットサービスのゴロツキに暗殺された?

もし、これらの一方の説に同感するなら、たとえ、一方の説がダイアナ妃の生存を、もう一方が死亡を主張していても、両方の説を受け入れる可能性が高まることが、新たな研究でわかった。

ひとつの陰謀論を信じる人は、別な陰謀論も同様に支持する傾向にあることが知られている。しかし、新たな研究は、たとえ複数の陰謀論が互いに矛盾していても、同様の傾向にあることを示し、その理由を提示している。

「それらの説は、『権力は我々から情報を隠蔽している』という、ある種のカバーアップが存在するという包括的な説によって説明されている。これらの説を信じているのは、人々が騙されやすく、愚かだからではない。それらの説がすべて、ひとつの同じ説明にフィットしているからだ」と、この研究を行った、英国University of Kentの心理学准教授Karen Douglasは言う。

2つの実験の一つめで、Douglas准教授と共同研究者たちは、137名の学生に対して、1997年の自動車事故によるダイアナ妃の死亡にまつわる5つの陰謀論を、どれくらい信じるか尋ねた。

「ダイアナ妃が暗殺されたというい考えを支持する学生ほど、ダイアナ妃が生きているという説を支持する傾向が見られた。そして、ダイアナ妃が暗殺されたとは考えにくいという学生ほど、ダイアナ妃が生きているという説を支持しない傾向が見られた」とDouglas准教授は述べた。

彼らはまた、昨年のオサマビンラディンの死亡について、102名の学生に質問した。学生たちは次の趣旨の文について、どれくらい支持するか回答した。「ビンラディンは米国の襲撃で死亡した」「ビンラディンは生きている」「ビンラディンは襲撃前に死亡していた」「オバマ政権は襲撃についての情報を隠蔽している」

ここでも、「ビンラディンは襲撃前に死亡していた」を支持する学生ほど「ビンラディンは生きている」を支持する傾向が見られた。統計解析により、これらのリンクは「オバマ政権は襲撃についての情報を隠蔽している」を通じて説明できることを、研究者たちは示した。

研究チームによれば「権力が邪悪な目的を推進するために、巨大な欺瞞を行っている」という中心的な考えによって、陰謀論者が互いに矛盾する個々の陰謀論を支持するようになっている。

研究者たちは「ビンラディンが今も生きていると信じることは、ビンラディンが何年も前に死亡していることを信じることの妨げとはならない」と、水曜日(2012/01/25)にocial Psychological and Personality Scienceに掲載された論文で述べている。

まったく矛盾する陰謀論を支持できるかどうかは不明だが、何らかの陰謀論を支持する人は「権力が邪悪な目的を推進するために、巨大な欺瞞を行っている」と矛盾しない陰謀論はすべて支持できてしまいそうである。


なお、以下は原論文のイントロダクションの訳である。

イントロダクション


陰謀論は「強力な人々あるいは組織が秘密裡に協調して何らかの(通常は不吉な)目的を達成するために提案されたプロット」と定義されている[Coady, 2006; Douglas & Sutton, 2008; Goertzel, 1994]。現代の人気の陰謀論には、「9/11攻撃が米国政府内の分子によって立案・遂行された[Ky 2011]」や「自閉症とワクチンの因果関係の証拠が悪徳医療業界によって隠蔽されている[Goertzel, 2010]」などがある。陰謀論の定義は間違っているかどうかにはよらない。実際、長年にわたり、本当の陰謀が白日もとにさらされてきた。民主党全国委員会本部での強盗にニクソン大統領の関与しているという疑惑は、一見風変わりな陰謀論として始まったが、真実であることが判明した[Bale 2007]。しかし、陰謀論の信念は、たとえ誤りだった場合でも、反証に強力に抵抗し、棄却された証拠の新たな断片を合理化すべく新たな陰謀の層を加えて、退化的研究プログラムとなる[Clarke, 2002, p. 136]。

新しいメディアの成長によっても拍車をかけられた陰謀論は、主要なサブカルチャー現象となった。この変化を学界は見逃していない。最近十年間に、陰謀論を信じることについての心理学研究が爆発的に行なわれてきた。これらの研究の多くは、個々の陰謀論信条の相関に関心を集中させてきた。そして、陰謀論の心理学研究が、もっとも一貫して見つけてきたことは、ある特定の陰謀論を信じる者は、たとえ表面上は無関係な陰謀論も信じる傾向があることだった[Douglas & Sutton, 2008; Goertzel, 1994; Swami, Chamorro-Premuzic, & Furnham, 2010; Swami et al., 2011]。たとえば、「米国政府が9/11攻撃の背後にいる」と信じる者は「ダイアナ妃が意図的に殺された」と信じる傾向がある。この陰謀論信条の連鎖について「ひとつの陰謀論が別の陰謀論の補強になっている」という説明が提唱されている[Goertzel, 1994]。加害者はそれぞれのケースによって異なる可能性があるにもかかわらず、ひとつの巨大で邪悪な陰謀が完璧に近い秘密裡に実行できるという事実は、同様なプロットが多く存在する可能性を示唆している。時間とともに、「世界が陰謀によって支配されている」という見方は、「あらゆる出来事について、陰謀がデフォルト説明になる」という「単一論理信念体系」として知られる「相互支援ネットワークの中で、複数の信念が一体化する、単一かつ閉鎖的世界観」へとつながっていく[Clarke, 2002; Goertzel, 1994; Swami et al., 2010, 2011]。

しかし、いくつかの陰謀論は、明らかに相互に支持していない。実際、多くの陰謀論はひとつの出来事に対して、矛盾する説明を与えている。複数の陰謀論の間にある矛盾が本論文の対象である。たとえば、ダイアナ妃死亡についての陰謀論は幅広くある。MI6に殺されたという説もあれば、Mohammed al-Fayedの商売敵により殺されたという説もある。さらにはダイアナ妃の死亡は偽装だと主張する者もいる。陰謀論を信じるオブザーバーは、これらの相反する陰謀論の存在とどう折り合いをつけるのだろうか? もし、複数の陰謀論が直接的に合致しているが故に、複数の陰謀論信条に相関があるのだとするなら、相互に排他的な陰謀論の間には相関は見られないはずである。

本研究では、我々は、「陰謀論支持者の信念体系が、一貫性がない個々の陰謀論の間の直接的な関係」によってではなく、「個々の陰謀論が世界についての高次の信念と合致している」ことによって駆動されているか判断しようとしている。たとえば、「権力は大衆に対する意図的欺瞞を行っている」という考えは、複数の陰謀論の中心であるため、陰謀論者の思考の基礎となる。非常に多くの陰謀論を信じている人々にとって、権力が根本的に欺瞞的であると考えるのは自然であり、そのような信念と照らし合わせれば、新たな陰謀論は尤もらしく見えるだろう[Read, Snow, & Simon, 2003; Simon, Snow, & Read, 2004]。実際、上述の自閉症/ワクチン関連性や、9/11政府工作のような陰謀論は、いずれも、その中心的な命題のまわりに展開されている。同様にダイアナ妃がMI6あるいはMohammed Al-Fayedの商売敵に殺されたと信じる人々は、カバーアップが両方の陰謀論を支持している(また逆に、両方のイン簿論の存在がカバーアップを支持している)と考えている。しかし、その2つの陰謀論(MI6あるいはMohammed Al-Fayed)は矛盾している。そのような矛盾は、より広い陰謀論者の世界観と整合していることによって解決され、両方の陰謀論を支持することになるのだろうか?

ステレオタイプ化に関するいくつかの論文は、強く保持している世界観との整合性は、個々の信念の間の矛盾を解決するのに十分でることを示唆している。Adorno, Frenkel, Brunswik, Levinson, & Sanford [1950]は、ユダヤ人に関する相矛盾する2つのネガティブなステレオアイプの支持に強い相関を発見している。きわめて偏見の強い被験者たちは「それら2つを、あまりに一般社会から乖離していて、あまりにも熱狂的である」と見ていた。Adornoは、この矛盾する認識が、ステレオタイプと自己矛盾と破壊性に反映している、相対的に盲目的な敵対性に根差すものだという考えを提唱した。それらの矛盾した性質にもかかわらず、ユダヤ人に対するネガティブな認識という、一つの共通する要素によって、2つのステレオタイプの両方ともが信頼できるものになり、強い正の相関をもたらう。同じことが、矛盾する陰謀論に対しても成立するかもしれない。陰謀論を主張する人々は、あまりに強く政府の公式説明に不信を持っているので、互いに矛盾していても、多くの陰謀論を支持できるのかもしれない。

全体的なコヒーレンスが局所的な矛盾を解決するという現象は、おそらく社会影響におけるThagard]1989]の説明的コヒーレンスモデル(ECHO)の文脈でもっともよく理解できる。説明的コヒーレンス理論では、説明とアクター及びイベントについて個々の証拠をコヒーレントであるか否かで特徴づける。これらの要素はコネクションネットワーク上のノードとして表現される。証拠ノード及び高次知識構造[Read, 1987]からのアクティベーションは、様々な説明へと流れ、コヒーレントであるか、矛盾しているかに依存して、それらの説明を励起あるいは阻止していく。この励起と阻止のプロセスは、システムが安定平衡状態になるまで続く。その時点で、最もアクティベートされた説明が採用され、そうでない説明は棄却される。アクティベーションは逆にも流れることも示されている。証拠や高次の知識構造の変化が説明認識を変える一方で、ネットワークに出現した結論が証拠の認識や広い世界観を変化させる[Read et al., 2003; Read & Miller, 1993]。

たとば、ある人が強く陰謀論に傾倒していて、多様な陰謀論を強く信じているとしよう。権力が根本的に欺瞞的であるという見方と、すべての陰謀論はコヒーレントであり、それらからのアクティベーションの流れは、それら自体が強く保持された確信になるまで続く。新たな陰謀論が提示されると、それは強く保持している見方と合致し、権力の公式見解と不一致なので、ただちに信頼できるものだと見える。そのような高次の信条はあまりに強いため、既に信頼できると思っている陰謀論と矛盾していても、陰謀論者の世界観を持つ者から推奨されれば、権力の公式見解と反対の立場にある陰謀論を支持する。言い換えるなら、社会的説明への説明的コヒーレンスなアプローチの自然な帰結は、「敵の敵は味方」という原則の具現化である。

これは確かに、Heider[1958]の心理バランスの理論に直接的に見られる原則であり、説明的コヒーレンスと共通の基盤を共有している。心理バランスの理論では、対象物あるいは社会的アクターについての認識は、既に評価を定めている他のアクターとの関係性に影響を受ける。たとば、既知の信頼できる情報源から推奨された新製品についての人々の評価は、その信頼できる情報源がポジティブに評価していれば、ポジティブなものになり、ネガティブな場合はネガティブになる。陰謀論の場合にも、同様のメカニズムが働くと我々は提唱する。権力を欺瞞的なものと見ている場合、さらにはおそらく積極的に悪意を持っていると考えている場合、権力が推奨する説明は信用できないものに見える。一方、これに代わる説明は最初から信頼できるものに見える。説明的コヒーレンスは、心理バランスの理論が基礎とするゲシュタルト原則の多くを自然に起動するものであることを示している[Read et al., 2003]。また、心理バランスの理論が陰謀論信条の研究に使えることをInglehart[1987]などが指摘している。

従って、我々は「陰謀論の支持の世界観を持つ人々は、世界の出来事の説明にあたって、権力の欺瞞を前提とし、メインストリームの説明に反する、いかなる理論にもほぼ合意する」と予測する。この関連性は、「世界が陰謀によって支配されているという見方をしている人々が、同じ話題について相矛盾する陰謀論を支持する」ことを予測する。Adorno et al[1950]が相矛盾するステレオタイプの間に正の相関を発見したように、我々は同じ出来事についての相矛盾する陰謀論の支持について正の相関を見出すことを予測する。たとえば、ダイアナ妃やオサマビンラディンなど、人の死亡についての陰謀の中心にいる人物が権力の欺瞞を伴う形で殺されたと信じる人は、その人物が生存しているという陰謀論を信じる傾向がある。







最終更新:2012年04月23日 22:30