北海道・山形・千葉・東海大

医学部教育は変わり得るか


北海道・千葉・山形・東海大学の医学部生の方から共同で意見書を頂きました。

医師になる志を抱き、医学部の門を叩いて5年。
講義といえば医学知識や研究成果について学ぶことがほとんどであり、
病院実習といえば検査や治療のプロセスに参加しない見学主体となっている。
また、教員の教育に対するインセンティブがないため、
系統的でない個人の厚意により成り立っており学ぶ内容の量質は各医師のやる気次第である。

もちろん最先端のトピックスや研究手法を学ぶことは医学の専門家となる上で意味があり
大切なことだと思うが、それが大半を占める現在の大学教育体制には疑問を感じる。
職能集団として例えば外科手技の習得のように「俺の背をみて育て」
という教育が重要となる場面はあると思うが、多感な学生期にはカリキュラムを柔軟に組むことで
より多くのことを学べるのではないだろうか。
さしあたって一学生として3つの問題点を提起したい。

第1 教養教育

医師は自身の医学知識のみで患者を診るわけではなく、患者の病気のとらえ方、
社会的・経済的背景、家族との関わり方などを総合的にみていく。
また社会情勢に応じた倫理観も時にして求められる。
朝から晩まで医学漬けとなってしまう臨床教育時に政治・経済・哲学・宗教・語学など
幅広く教養を学べる柔軟なカリキュラム、発展途上国でボランティアを行ったり
国際保健に携われる機会などを通じて幅の広い人間性を養うのはどうだろうか。

第2 座学の知識偏重教育

患者は例えば「急性膵炎」という病名を掲げて消化器内科に来院するわけではないし、
典型的な症候を呈してやってくる患者の方がむしろ少ない。
それよりも例えば「腹痛」を訴えてきた患者を前にしたとき、
どういう問診や検査をしたらいいか、さしあたって苦しんでいる患者を前に
心身のサポートとして何をしたらいいかということを学ぶことが重要ではないだろうか。
もちろん知識無くして知識を活用する議論はできないから、
従来学んできた内容を軽視するものではないが、そこは自己学習できることではないか。
医学知識自体の詰め込み教育はやめて知識は自己学習とし試験で厳しく評価をすればいい。
知識を実際の臨床にどう活用させるかという体系的トレーニングをほんの少し入れるだけで
学ぶモチベーションも上がるのではないか。

第3 病院実習における受動的な教育環境

手術やカンファレンスの参加・講義などに終始し、実際に鑑別のための検査過程や
治療計画の立案に携わることは全くない。手技を経験させてもらえる機会も少なく、
見学者やお客様扱いされている感は否めない。
教育をするということが評価される環境にないので多忙な各医師を責めるものではないが、
CBTやOSCEといった評価試験を突破した学生には仮免許のような形で
診療行為を実際に経験させていただけないものだろうか。
もちろん患者の心身の不利益となることを強いることを意図するものではないが、
監督者の監視のもとで医療チームの一員として働くことで
将来の人材育成につながるのではないだろうか。

座学でも病院実習でも臨床思考のトレーニングや診察手技の実践、聞く技術・伝える技術、
患者を総合的に診るトレーニングを主体にすることが大切ではないだろうか。
医師国家試験を通過したら研修医という形ではあるものの
社会的使命を帯びた一医師として働くことを考えると、
知識や手技の面、患者さんとの関わり方、などなど不安は尽きない。
(北海道・千葉・山形・東海大学の医学部生)

【お詫び】
書き方に悩んでしまったため非常に不遜な言い方となっている点、また多忙な各医師のご厚意で成り立っている教育に対して
一方的な言い方をしてしまった点がございます。ご容赦ください。

【要望】  (共同提出者の意見をまとめて書きました。)

  • ベッドサイドで受けられる教育に幅を持たせて欲しい。

臨床実習の現状は手術やカンファレンス、手技の見学、患者さんから話を聞いて模擬カルテをつけるといった形だけのものであり、教員からのフィードバックをきちんと受ける体制が整っていない。
そこで、臨床実習では学べないと見切りをつけ実習を早く切り上げて国家試験の勉強にはげむ学生も増えている。

メディカルスクールという性質の違いはあるが、米国の医学生は学校卒業時点で日本の初期研修医ができる行為はできるようになっているという話を聞く機会が増えてきた。
このことも日本の医学生が現在モチベーションが上げられない理由の一つとして挙がる。
アメリカでの臨床実習は、ただそこにいるだけの日本の実習とは異なり、ラウンドやカンファレンスが学生との質疑応答の多い教育的なものであるという話を聞く。
すると、学生はどうしても心が焦ってしまい、実際に何も実践できない実習は軽視し、自主勉強に走ってしまうことになる。

4年間医学を学んできた医学生であるにも関わらず、患者さんに侵襲のない行為をする以外に、医師としての仕事をできない現状。
学ぶことに主眼をおけなくなる卒後ではなく、「学ぶ」ということに最大限の時間を割くことが出来る卒前に
現在の初期研修医が行う行為を行えるようにして教育の機会を増やしてもらいたい。
具体的には、先生が取った問診、身体診察を改めて取り直すだけの現状から「カルテ記載」「検査オーダー」「採血やルート確保」と責任がある行為も行いたいこと、各先生の自由にゆだねるのではなく経験すべきことを数で規定(例えば監督下、自分で取るエコー検査を○人のように)し、経験していない学生は進級させないなどの処置をすること、などが希望としてある。

  • 教員・生徒に双方に対し、しっかりとした評価システムを整備する。

  • 良い教育は評価され、悪い教育は淘汰されるようにフィードバックシステムを構築してほしい。

  • 受動的な教育環境ではなく、少人数で討論できるような主体的に学べる教育環境を作って欲しい。

  • 教養や社会のことを学ぶことができるように学生に時間のゆとりを持たせて欲しい。


【提案】学生同士の学び会いをカリキュラムの一部に


→実際に自身が4年生時に経験しました(3年生2人、4年生3人、5年生3人、大学院生1人)。
症例問題を考えていく形式で個々が担当を持ちながら毎週各自1症例に関する問答、
解説をしていきました。お互いが教える側となったときには、説明上の不備が起こらないよう
病態生理に基づいた理由の追究を行ったり、鑑別の仕方を考えたりすることができ、
上の学年からそれに対するフィードバックを受けることで思考のトレーニングができました。
(調べても解決できなかった問題点はお世話になっていた講座の教授よりご指導いただきました)

例「5年生のボランティアを募り、4年生5人グループに対して1人の5年生を当てる。
(以下4年生1人が3年生5人、などと順々にまわしていく)
「循環器」ならば循環器範囲の、「生化学」ならば生化学範囲の、知識と
臨床を結びつけられるような症例を用いながら行う。
総責任者として教官が1人相談にのれる体制(その場にいなくても)を作っておき、
上の学年が解決できなかった内容については質問して解決できるようにする。
個々のグループの学んだ内容や質疑応答の内容は、プリントとして配布するような形で
グループ毎もフィードバックしあえるようにする。
鑑別診断や問診・検査をどういう順番で行っていくか、
病態生理的背景はどうなっているのかを中心の症例学習とする。
実際に臨床実習をまわっている学年だからこそ、
患者さんからの視点や診察手技などのアドバイスもいれられるとなおよい。

教えるということは最大の教育となると思います。
近い学年だからこそ悩みや疑問を共有しやすいと思います。
ボランティアの教育的インセンティブとしてアンケートなどで
ベストチューター賞などを用意するのも面白いかもしれません。
現教官の負担や大学の金銭的負担(チューター室に相当する部屋がない場合には
必要になるかもしれませんが、自習室や図書室のグループ学習室などを利用する形にしても
いいかもしれません)を極力上げることなく、学生自身にとっても勉強になると思います。
現状15コマの授業の1コマだけでもこういった形の自主学習にあてることはできないものでしょうか。


【その他不満・要望】  
(同級生から聞き取った意見を改変して箇条書きしました。同様な意見はまとめています。)
(医学生として不適切な部分もあると思いますがご意見が寄せられたので掲載いたします。)


1.病院実習に関して(5~6年生時)
  • 手術の見学やカンファレンスの参加に終始しており、フィードバックを受ける体制もしかれていない。
特に担当していない患者の手術見学やカンファレンスに対しては、時間がもったいないと感じ、
実習中に別の作業をしていたりできるだけ実習をサボろうとする友人も多い。

  • 学生により診療行為に携われる機会を与えるとともに、責任を負わせるべき。
真面目に実習をしようとする学生に関しても、見学 だけじゃ学べる内容も限られ、
効率が悪く気の毒である。ある程度の責任があって始めて、人は自主的に真剣に学べるのだと思う。

  • 患者さんに頻繁に会いにいったり、問診・診察を毎回丁寧に行っている非常にやる気のある学生が、
採血などの手技を先生の立ち会いのもとやらせてもらおうとお願いしたところ、
学生のすることではないと言われ経験させてもらえなかった。

  • 当該科ではない第三者的評価組織を学内に設けて監視する制度を作るべき。
いくら授業後のアンケートに書いても、いくらレポートに改善点をのべても
全くフィートバックが行われず、あきらめの雰囲気が漂っている。
各医師のやる気に依存していて、やる気のある医師が教育に過剰な負担をかけられ
評価されていない現状は、教わっている側としてもつらいものがある。
教育を行うことが評価される体制づくりがほしい。

  • 教員側としても、勉強をしてきた学生、やる気のある学生と
そうでない学生の判断がつかないため画一的には応じにくいとの意見を聞いた。

  • 実習を増やす傾向になっているのは良いと思う。
できたら実習もただ見るのではなくルート取ったり初診時の問診など、
簡単な手技はどんどんやらせるべき。

  • あまり何も期待していないという声も多かったが、
より主体的に診療行為に関われるならどう?と聞いてみると、
学べるならば学びたいという声が多かった。

  • フィードバックのない実習は必要がない。
しっかりとしたフィードバックがあってこそ、学生は成長できると思う。
  • 学生のポリクリ(医療実習)はもっと参加型にして、医療面接や一定の手技は
研修医になる段階で出来るようなレベルにしたらいいと思う。
  • 大学の教授が、忙しいという理由で学生と接する時間を一切とらないのは、職場放棄であり、
仕事時間の三分の一の時間は直接学生と一緒に使う時間とするべきだと考える。

  • 基礎医学は、マニアックな内容にするのではなく、臨床と絡めて教えるべき。
→2~3年次に基礎医学を学ぶのだが、必要性を感じず、忘れる学生は多い。
日本の医学部では、臨床医だけでなく、研究者の育成もしているのだから、
現状の臨床に強く絡めない教育方法でよいという意見もある。
しかし、実際臨床に関 わると実感でき、臨床応用したら患者さんを救えるという内容ではないと、
学生は研究に興味もてないと思う。基礎医学の教育は、臨床でのニーズを教えることが必要だ。
基礎医学を重視することは、研究の成果にも繋がるし、
医師がなぜそのような治療を選択すべきかを理解することで、患者の方への有害事象が減ると思う。

  • 臨床実習の期間が短い。

2.テストに関して(CBT、OSCE)

  • 共用試験(CBTとOSCE)を全大学で義務化するのであれば、
大学ごとの成績を公表する必要があると思うし、合格点を国が設定し
その点数を超えたら実習(ポリクリ)に参加できる学年にあげるとすべき。
その上で仮免許のような形で、一定の試験をパスした証明書を持って
診療行為にあたれるようにしてほしい。

  • 好成績を残しても意味のない現実があるので、全体としてやる気を出さない雰囲気がある。
ただ単に知識を問うのでなく、USMLE(米国の医師試験)のように基礎の知識を臨床に活かす内容を問いた方がいい。

  • 大学としての役割に大学間で差がある。大学の機能としてどこに重点を置くかは
もう少し検討していいと思う。もちろん国試に受かるのが最終的な目標だが、
実習をガッツリやって研修からバリバリ使えるようにしとくのも大学の役割だと思う。
そういった意味でOSCEみたいなのが出てきたのはいい傾向だと思う。

  • 国の監督下の元で受けるようにする。OSCEは一つの答えだけを求めるようなことをしたら、
人間を総合的に色々な角度から見ることを望まれている本筋からずれる。
絶対出来なければならない技術を試験して出来たら合格とすればいい。
医療面接は教授方の許容範囲で問題なければ合格でいいと思う。


3.病院実習前の教育について

  • 6年という長い枠があるにも関わらず、ほぼ画一的に(受動的に)教育を受ける体制となっていること
 専門の学期間中は朝から夕まで医学を学んでいるが、自分が挑戦してみたいことや
興味を持ったことを選択する余地が少ない。いまは時間外に研究室に通ったり、
休みの期間の活動に限られるので、自主的にいろいろなことに取り組む学生は
時間を割いて行っているが、全体として自由な時間が少ないという不満が強い。
例えば半年のスパンで「研究(各研究室への配属)、臨床(諸外国の医療の現状や地域医療を学ぶ)
ボランティア(患者団体の手伝い、他職種に配属、発展途上国の支援など)
医療問題(問題の共有化、立案過程の経験、統計処理のトレーニングなど)等
に取り組ませて報告書を意見交換するなど

  • 教養教育(特に経済・法律・宗教・哲学という一案も)の選択制を。
もっと教養をつけないと人と関わる仕事は出来ないと思う。

  • 臨床に即した講義を教授は学生に提供するべきであり、
専門学校的な知識を伝えるだけの授業は必要ないと思う。

  • 教育期間は6年間あるわけだし、スポーツに熱中したり
自分なりに興味の持てる分野に力を注ぐことのできるゆとりのある時期があっていいと思う。
今は一年次が教養でゆとりのある時期なのだが、
一年生は医学に対してのモチベーションが最も高い時期なので、
そこで基礎医学(生化学や生理学など)を教えて、
医学漬けとなっている高学年時に教養を折り込む余地を作る方がいいと思う。

  • 実践的な英語教育、意見を言う能力、プレゼンテーション能力、
自主学習能力を身につけさせるための実習を組めるようにした方が国際力をつけられていいと思う。

  • 全てを網羅しようということだけが目的化されていて、
一つ一つの内容が非常に浅いものとなっている。

  • 体系的な教育が行われていない。例えば「消化器」という一連の講義が15コマあった際に、
教員同士で重複した内容を確認しあっていないため、同じ内容を何度も聞く
一度も耳にしない範囲がたくさんある・誰かが教えていると考えている、状態になっている

  • 国立と私立で授業数の差が開きすぎている。国立は時間があって羨ましい。
しかし、みっちりやっている私立の方が国試合格率が悪い…意味の無い授業が多いと感じる。

4.その他
入学の時点での問題を述べている声はいくつかありました。
医学部の卒業までの総合的評価と国家試験の結果で、医学生が専門科を選択できるようにする
という声もありました。
最終更新:2009年01月05日 22:18
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