医学部増員・増設で問題は解決するのか(前偏)

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メンバ-の一部の意見文を雑誌「メディカルバイオ」に掲載していただけました!
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注)これはあくまで、一部のメンバーの考えを表現したもので、
  有志の会全体の考え・意見ではありません。

株式会社オーム社 雑誌『メディカルバイオ』
医療・医科学政策,ここが焦点第17 回

深刻化する医師不足とメディカルスクール 

 ~メディカルスクールは医師不足の解決策になるのか~(前編)
 NPO 法人 サイエンス・コミュニケーション

現在、医学部増設・新設の話題があちらこちらを賑わせているが、
それらの議論には「国民・患者」が不在のような気がしてならない。
国民は現在の議論を理解し、彼らの意見を発しているのだろうか?
医療提供者側の「都合」「利害」が優先され強引に進められていることはないだろうか?
「初めに結論ありき」の議論では、これまでと全く変わらない。
現在一番必要なのは、上から「何か」を押し付けるのではなく、
いろいろなオプションを提示し、それぞれの案を吟味し、
国民自身が選択過程に参画することではないだろうか?

医師不足が深刻化するにつれて、欧米のメディカルスクール制度を日本にも導入すべきではないか
という声が聞かれるようになったが、全国医学部長病院長会議*1は,
メディカルスクール導入に反対という姿勢を示している。
私達はメディカルスクールが解決策の一つになるのではないかと考えており
その点について2回に分けて記載していきたい。

メディカルスクールへの期待

 2009 年10月30日の厚生労働省,へき地保健医療検討会において,
地方500か所で診療科が閉鎖されており,医学部の70%が3000 医療機関への医師派遣を制限
(いわゆる引き上げ)しているという事実が明らかになった(1)。
5000人を超える規模の医師不足がおこっているとの指摘も出された。
このように医師不足が深刻化するなか,メディカルスクール(以下MS)という声がチラホラと
上がり始めた。

MSとは、おもにアメリカ(最近ではアジア)でおこなわれている医師養成のための4年制大学院である。
文系・理系を問わず一般の4年生大学を卒業した社会人(学士)が入学し,
医師になるために必要な知識・技術を4年間で集中的に学ぶ。
MSでは、日本の医学部のように病院の医師が診療の合間に教育をおこなうのではなく
「医学教育の専門家」が教えることで効率化が進み、経済効果を高める事ができるとされている。

MSの利点として
(1)医学に必要な科目を集中的・実践的に学ぶカリキュラム
    =>4年間で実践力のある医師を養成できる
(2)22歳以降に入学決定をおこなっているため「単に成績が良いから」という理由ではなく,
  医師になるモチベーションが高い学生を集められることが多い,などが挙げられている。

日本でもMSを創立しようという声がある。四病院団体協議会*2は,
2008年10月に報告書を発表し,MS導入を提言した(2)。
また,聖路加国際病院も,メディカルスクール構想を明らかにしている(3)。
最近では東京都が報告書でMS導入を提言している(4)。

メディカルスクール構想反対への反論

しかし,2009年9月11日,全国医学部長病院長会議は,「新政権に対する要望9項」を発表し,
その5項目に「メディカルスクール構想に反対」と明記した(5)。その理由として,
 A)現行の学士編入制度がうまくいっていない,
 B)医師の高齢化に繋がり医学研究の衰退につながる,
 C)現行の医学部卒とMS卒が混在し国民に混乱を招く,という理由が述べられていた。

はたしてメディカルスクールは害が多いものなのだろうか。
ここから,全国病院長会議の反対理由を一つずつ検証してみたい。

(1)メディカルスクール=学士編入制度だろうか?
学士編入制度(G r a d u a t e E n t r yProgramme,以下GEP)とは,
平成21年度現在日本の36 大学でおこなわれている社会人編入制度で,
6年制の医学部の3年生時(または2年時後半)に、社会人経験者を含めた学士号取得者が編入する。
1975 年からGEPを導入している大阪大学では,一般学生と比べて
教授や病院長などの管理職を務めている率が高い,10%弱が教授になるなど,
有能な人材を集めていると評価されている(6)。
GEPでは「従来の」医学部の授業に編入生が入るのであり,
MSのようにカリキュラムが実践的であったり医学教育専門の先生が教えているわけではない。
GEPはMSとはまったく性質が異なっており,同一のものとして議論できないのではないか。

またGEPが「うまくいっていない」理由として
(a)一般生となじめていない,
(b)リーダーシップを発揮していない,
(c)成績が良くないなどがよく挙げられている(7)が、

これらに対しては,高校卒業直後の若者集団80人のなかに社会人を数人投げ込んで
「うまくなじんでいない=失敗」と言っているようなものであり
(i)うまく馴染むとは何か,
(ii)どのように馴染むことが必要なのか、等を具体的に議論する必要がある。
また,「どのようにリーダーシップを発揮して欲しいのか」を編入者に明示しないまま
リーダーシップを発揮する,という抽象的な表現をするのは行動目標として適切ではないと考える。

GEP入学者が学業成績が不振であるという批判*3に対しては,
机上の筆記試験「だけ」が優秀な頭でっかちな医師にならないように、
と成績優秀者だけでなくさまざまなバックグラウンドを持った社会人を入学させているのが
GEPの目的の一つである点を考慮にいれるべきだろう。
私見ではあるが、医学部で行われている試験の多くは教授や先生の「好み・得意分野」から
出題されており「実際の現場で必要な知識を問う」試験とはかけはなれていることが多々ある。
そのような試験問題の過去問を「丸暗記」して「高得点」を取る事が「良い医師になること」にとって
本当に必要かどうかについても考える必要がある。
また、記事執筆や社会活動などを医学部在学中に行う編入生・医学生もいるが、
そのような行動の多くは医学部内では殆ど評価されないことも多い。
現行では優秀かどうかを「成績」という一つの物差でしか測っていないことが多く、
そのような状態こそ改善していく必要があると考える。

(2)研究は若くないとできないのか? 高齢の医師は悪いのか?
すべての医学部がMSであるアメリカでは,日本をはるかに凌駕するノーベル医学生理学賞受賞者を
輩出している。医師の高齢化が医学研究の衰退につながるというのは短絡的にすぎると考える。
MSやGEPのように他分野における知識をもっていれば独創的な研究に結びつけることもできるとは
考えられないだろうか?また、これからの高齢化社会には、
より高齢者の気持ちがわかる高齢医師の存在は重要ではないだろうか。
「高齢=衰退」という発想を、転換していくことこそ必要であると考える。

(3)学歴が違う医師が混在すると国民の混乱につながるか
高校卒業後医学部に入った者と,多彩な経歴を経て医学部に入った者との間で,
異なったレベルの医師が生まれることを懸念する声があるが,
だからこそ医師国家試験で医師免許の基準を設けているのではないのだろうか?
もしメディカルスクール卒業生の方が優秀で、現行の医学部の存在が危ぶまれることを
危惧しているのであれば、それは国民・患者を無視した保守的な考えと言えないだろうか?

医師-患者関係で大事なのは、その人の経歴や学歴ではなく
十分な知識・技能を有しているかどうかである。
今診察をしている医師が一般入学生か学士編入生かを気にする患者がいるというのだろうか。
MSであれCEPであれ、一般の学生と同一の国家試験を受験し合格して医師となる。
学歴を気にしているのは医師の側だけではないだろうか。

利害関係を超えた「国民」のための医学部議論を

(学士編入学試験を実施している)医学部が学士入学制度を批判するのなら,
編入者という「人」を批判するのではなく、入試方法・編入制度の運営という
「システム」に問題がなかったかと考えることが一番に必要なのではないだろうか?

へき地保健医療対策検討会では、「5000人を超える規模の医師不足だ」との意見が出された。
最近医学部の定員増加が行われているが、問題は「彼らが医師になるまでの6年間待てますか?」ということだ。
そして、現在の議論は既存の制度や損益にとらわれてはいないだろうか?
医師不足対策として本当に必要なものは何か、国民が望むものは何か、を真剣に考え
利害関係を超えた「真に国民のための」議論ができるようでありたい。

(文責:柴田・中西)
雑誌『メディカルバイオ』に投稿させて頂いたものを加筆変更
http://www.ohmsha.co.jp/medicalbio/

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【注釈】
  • 1 全国医学部長病院長会議
1967年に設立された,全医学部の医学部長,大学病院長が加盟する会議。
h t t p : / / w w w . a j m c . u m i n . j p /
  • 2 四病院団体協議会
民間病院を中心とする病院団体の会で、日本医療法人協会、
日本精神科病院協会、日本病院会、全日本病院協会で構成される。
  • 3 学士編入学を導入しているある大学では,
学士編入学で入学した学生の半数が国家試験に不合格になった年があった

【文献】
[ 1 ] 第3回へき地保健医療対策検討会 平成21年 10月30日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/s1030-12.html
[ 2 ] 四病院団体協議会:「メディカルスクール検討委員会 報告書̶
   よりよい臨床医の育成を目指して-」平成20年10月
http://www.nisseikyo.or.jp/home/info/medical-4.pdf
[ 3 ] 福井次矢、日野原重明:「メディカル・スクール導入をめぐって 医師養成のあり方」
   公衆衛生 72(2008)630-633
[ 4 ] メディカルスクール有識者検討会報告書  平成21年8月5日
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2009/08/40j86100.htm
[ 5 ] 全国医学部長病院長会議:「新政権に対する要望」2009 年9 月11 日
http://lohasmedical.jp/news/imagesgakubutyokaigi0910.pdf
[ 6 ] 清原達也,渡部健二,野口眞三郎,青笹克之:
「大阪大学医学部学士編入学制度30年の総括」 医学教育36(2005)259-264
[ 7 ] 鈴木利哉,仁田善雄,奈良信雄:「全国訪問調査に基づく学士編入学制度(GEP)の現状と
 メディカルスクール制度(MS)導入の是非について」第41回医学教育学会大会(2009年)など

★NPO 法人 サイエンス・コミュニケーション
正式名称:Science Communication Japan(略称:サイコム・ジャパン)。
「研究問題への取り組みと科学コミュニケーション振興により,
科学研究の知を駆動力とした社会をつくる」をモットーに,2003年設立。
科学技術政策の動向に関心があり,関連情報の収集,メールマガジン等での情報提供を中心に,
多彩な活動をしている。http://www.scicom.jp/
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