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おいでませ、リワマヒ藩国へ ~新国民、幻痛がオコタ魔になるまで~

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riwamahi

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SS:おいでませ、リワマヒ藩国へ ~新国民、幻痛がオコタ魔になるまで~


白衣を目印に何個目かの藩国にやってきた。
この国の名前はリワマヒ藩国。医者がいる国リストの一番下に記されている小国だ。
南国天国らしく、太陽がギラギラ照りつけ、アルコールのように血液とテンションを沸騰させる。


「この国がダメなら傍観だな…」
医師になれる国でなければ、この祭に参加する意味が無い。
南風に気持ちよさそうになびいている旗を仰ぎ見れば猫。町を歩いている人――かどうかわからないけども――
を見れば髪の間からネコミミがはみ出している。
猫より犬より、熊さんとか馬とか象とかパンダたんとか恐竜のアニキとかゴ――中略――とか、
巨大生命体が大好きな俺には棒をよじ登って旗を盗ませたり、
ネコミミにかぶりつかせる魔法は効かなかったけど、ネコミミは後ほど触らせてもらおう。

とにかく、今はそれどころではない。
急がなければ、国民募集キャンペーンが終わってしまう!
しかも、ここが最後の希望だということに加え、空腹と眠気と何も持ち寄る事ができない自分が、焦りに拍車をかける。
はやる気持ちを原動力に国民募集の受付があるだろう宮城めがけて、長城と名のつくハイウェイを全力疾走した。


            ***


国民募集所に到着したはいいが心が乱れて上手く息をすえない。
浅い呼吸で酸素が不十分になった脳では、視界いっぱいに広がる募集要項の文字列の中から、一語の意味を理解するのがやっとだった。

岩田

酸素を求めて鯉さながら開きっぱなしの口に無理やりチャックして、鼻の穴がふた周りぐらい拡張しそうなほど荒い鼻息をたてながら、その張り紙に詰め寄った。
もう一回、その単語の周辺だけ熟読してみる。

岩田を呼びたい

かっこつけてフッ、と鼻で笑ってみる。
そのすぐ後に苦しくなって、すごい勢いで入ってきた空気で豚みたいな音がしてしまったけど。
その言葉で、充分すぎる。
――――焦りと酸素不足は、冷静な思考を奪う。


その文章を一度だけ見ただけで、他の部分に目を通さずに申し込み用紙に思いつくことを片っ端から書きなぐる。



「始めまして、幻痛と申すものです。
貴国、リワマヒ藩国に国民登録をしたいと思っているのですが、右も左も分からない超初心者です。
私から持ち寄れるものがなにもない…
そんな人物なのですが、参加しても大丈夫でしょうか???」


書いた後になって、名前、連絡先、やってみたいこと、ゆずれないことの欄があることに気がつく。
後の祭り。全部一番下のゆずれないことの欄に収まっている。ペンなので、修正も効かない。
それ以前に名前以外、該当すること書いてないし。
――――焦りと酸素不足は、冷静な思考を奪う。


「フッ…」
何の達成感か、鼻で笑った。脳がやられてきているらしい。
最後に彼のモノマネでスキップをしながらきた道を戻ろうと思ったが、体が動き出す前にブラックアウトした。
――――焦りと酸素不足は、意識を奪う。

命じゃなくてよかった。


    ***


「幻痛、まだ入って日が浅いお前じゃ無理だ」
木製のライフルを肩掛けにしてる上半身裸のマッチョなお兄さん。金髪がこんなに似合ってる人初めて見た。
他に三人、同じ格好したお兄さん達が、俺を囲んでいる。
どこかで見た人たちと思ったら、この国のパンフに載っていた人たちか。
「でも、囮ぐらいはできます!」
自分自身、何を口走っているのか理解できない。
突如走り出し、止めようとするお兄さん達を吹き飛ばして森の中――これもパンフで見たやつ――から飛び出す、俺。
なぜかはよくわからないけど、走りながら泣いてた。


    ***




脳を包む暗がりを真っ赤な火の光が切り裂くのを感じて、目が覚めた。
「ああ、夕日かぁ・・・」
宮城の窓から進入した炎で、国民募集所燃えているように見えた。日が傾いたみたいだ。
自分を美化しすぎていた今の夢のせいか、真っ赤な夕日に焼かれたせいか、泣きそうになった。
この国の為なら命と心を砕いてもいい、とか分不相応なことを考えたら恥ずかしさで神経が焼ききれそうだった。


      ***


「ぐぉぉぉ!!」
気がついたら、今度は夜更けだった。さっきの異常な精神負荷のせいで再び寝こけてしまったみたいだった。
しかし・・・なんて嫌な夢だ。返事がこないまま一年が経過する夢を見た。
とにかく現在時刻を確認。書類を提出してから21時間後だ。
丸一年たってなくてよかった、と考えてから一年と21時間後だったらどうするんだと思い直して改めて戦慄が走る。
上げて落とす作戦に出たらしい、俺の夢。もといいい夢と悪い夢を見せたこの国。恐ろしい国だ。

この程度の事で動じるんじゃない。
悪夢を裂帛の気合で、振り払い損ねながらも何か変わったことはないかと恐る恐る募集所周辺をうろついてみる。
その第一歩目で、置手紙を発見。

「ウェルカム、我がリワマヒ国へ。
私は藩王の兼一王だ。位は伯爵。
皆が始めは初心者だが?そんなこと関係ないだろう。
それで連絡方法だが―――」


王様がわざわざ連絡くれるんですか。
すごいありがたい話だけど、あんな文章で大丈夫だったんだろうか。
というか連絡方法って―――


   ***

右も左も分からないこの俺は、連絡方法であるメッセンジャーというところからすでに右も左も分からなかったが、
それ用のパンフもしっかり国民募集所に、一冊だけ置いてあった。

(パンフレット表紙:シコウさん)

最後の一冊だったのか、やっぱり藩王様が置いていってくれたのだろうか。
後者だった場合、相当にフレンドリーというかローカルな王様な気がする。威厳は大丈夫だろうか?

   ***

なんてしょうもないことを考えている間にメッセンジャーを使って、会議室へ。
扉の取っ手に手をかけて瞬間に、蚤の心臓が浅く早く動き始めて、また酸素が―――

   ***

――めまして、幻痛さん。
ヤ、ヤバイ。また意識飛んでた。
「もしもーし、聞こえてますか」
酸素が足りなすぎて、朦朧とした意識の中、国民募集キャンペーンに便乗しようとしたその時から考えていた、
必殺の挨拶を今一度頭の中で唱えはじめる。

(はじめまして。このゲームのラスボスの幻痛と申すものです。)
本当にしょうもないことばかり考えている、と酸素の足りない頭では思い直すことをしようとしなかった。
人には108の煩悩があるというが、俺の中の108個は間違いなく全部彼のことで埋め尽くされているに違いない。

   ***

(……この人、話し聞いてない?それとも人を取り違えた?)
兼一王がそう思うほど長い間、目の前の男は伝家の宝刀を磨くのに必死だった。
つまり、108回。

新しい国民になるはずの目の前の男、幻痛は107回目の呟きを終え、
口と鼻で一気に息を吸い込み、目を見開いた!
(よーし、言うぞー)
「あなたが幻痛さ―――」
(はじめまして。このゲームのラスボスの幻痛と申すもので―――)
「はじめまして。幻痛と申します。超初心者ですがよろしくお願いします!」
藩王を無駄に待たせた挙句、結局言えなかった。


   ***

翌日、再び会議室に向っている。
今日は兼一王以外の国民もいるはずだ。
(昨日は初っ端だから遠慮したけど今日こそは・・・)
自分の気持ちに嘘をつきながら、
昨日と同じように会議室の扉の前で心臓が浅く早く―――
だが、今日は二回目。なんとか意識があるうちに扉を開ける事に成功した。
扉を開いたフリーズした。その理由は、二つの大きな大きな疑問。

あれ、もしかして遅刻ってやつかい?
あれ、この人たち、こんな熱いのにオコタはいってるよ?

皆下を向いて自分の仕事をやっているらしく、
鉛筆のガリガリという音と、連絡を密にする事務的な発言がその部屋を満たしていた。
しかし一番異常なのは会議に出席している修羅全員が、南国でオコタに入っている。
「あ、幻痛さん」
兼一王が扉を開いたポーズのまま、固まった俺に気付いて皆に紹介してくれている。
はじめましての嵐で意識を取り戻し、再びあの言葉を唱え始めた。
ここにくるまでに105回数えている。あと三回。

(はじめまして。このゲームのラスボスの幻痛と申すものです。)
(はじめまして。このゲームのラスボスの幻痛と申すものです。)
(はじめまして。このゲームのラスボスの幻痛と申すもので――)


この後は、想像に任せる。
しかしこの十分後、初めての会議が修羅場であったことと、周りの空気につられてやる気を出して空回りしてたこと、
そしてなにより先人の皆が大変親切であった事が重なり、幻痛は平伏しっぱなしであった。

しばらくして、足の裏を流れる水の冷たさに幸せを感じながら、オコタを誤解していたことを猛省した幻痛。
この国に心を奪われた男がここにまた一人。



結論
この日リワマヒ藩国の新しい民になった男は、自分に嘘をついてオコタを守る為にがんばる男になりそうである。
こんなダメな人でも何とかやっていけている―――今現在―――のだから、これを見ているゲームを始めていない貴方、
貴方にできないはずがない――――――


(作:幻痛)




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