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01/22 薊の手記 倉庫篇

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riwamahi

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01/22 薊の手記 倉庫篇 (作:薊)


 ここはリワマヒ国。
豊富な動植物相を誇るこの国は比較的容易に食糧を生産できる環境にあると言えるだろう。
この国の人々は古来より食に対する欲求が強く、国民総出で大量の食糧を生産し続けている。


 私こと薊はいつものように宮城のおこたの間で茶を……
飲んでいる場合ではなかった。
習慣で茶を煎れかけていた手を止め、奥に座っている猫士に声をかける。
「うにさん、倉庫のネズミ捕りの動作確認お願いできますか?」

うには情報処理能力に長けた技士であり、藩王の勅命を請けてリワマヒ国の詳細な地図の作成を手掛けている。そのため視察等で外回りをしている事が多く、宮城ではあまり姿を見かけない。
そのうにが目の前に居るのだから茶は後回しだ。とりあえず仕事を頼まなければならない。

「はい? あぁ……いいですよ」
この猫士は声だけ聞けば人間そのものだな、と思う。
発音も言葉遣いもクセのようなものは感じられない。ここまでになるには尋常ならざる努力が必要だった筈である。もしかしたら私よりも人語が達者なのではないだろうか。

「お疲れのところすみません」
さすがに快諾という訳にはいかないよなぁと内心で苦笑する。いつも藩国中を飛び回っているのだからたまにはゆっくり休みたいだろうに。
「罠のチェックは製作者のうにさんにお願いした方が安心できますので」
うにさんごめんなさい。これもお仕事なんですー。

うには内務大臣に就任し、リワマヒ国のお財布を預かる立場にいる。食糧倉庫は台所事情に直結する施設なので内装や罠の配置といった設計は総てうにが手掛けていた。
「なら早く行って済ませちゃいましょう」
やっぱりさっさと済ませて休みたいんだろうなぁ。


 うにと私は身長が殆ど変わらない。猫士は一般的に小柄だと言われているが、私が並んで歩くとそうでもないように思える。
そもそも私は移民であり生粋のリワマヒ人ではない。生まれが違うと体格も違ってくるものなのかもしれない。

倉庫へ向かう途中で医師の平 祥子に会った。
見ると果物が入ったバスケットを下げている。
「こんにちは。重そうですね。果樹園に行ってたんですか?」
「こんにちは。以前治療した方がお礼にみえて頂いたんですよ」
「おいしそうですねぇ」
「おひとつ如何ですか」
「いただきますー」

戦利品(?)はキウイが2つ。うにさんと私で1つずつ。
キウイはマタタビ科だから宮城に戻ったらシコウさんと一緒に食べようかな。


 倉庫の中を一通り見て回ったところ、どうやらネズミが侵入した形跡はないようだ。当然罠も作動していない。
「ネズミ返しが効いているようですね」
うには嬉しそうだ。

「肝心の罠の調整を忘れないで下さいね」
ネズミの痕跡がないか調べていたので私は膝をついていた。
そして立ち上がった拍子にポケットからキウイが落ちた。
「あっといけない」
卵形のキウイは不規則な転がり方をする。追い掛けていくと狙い済ましたかのように罠の仕掛けへ向かっていった。
これはギャグ漫画なら私が罠にかかる展開である。

ネズミ捕りの罠は寄せ餌を利用したもので、ネズミが餌を食べたり動かしたりすると仕掛けが作動して檻が降りてくる。
これで本当に罠が作動したらあまりにも間抜けだぞ。さすがにそれはないよな、とか思いながらキウイに手を伸ばす。

「薊さーん」
「はい?」
名前を呼ばれて思わず手が止まる。
カチッ
「ふえ?」
ゴンッ

……鈍い音と共に、後頭部に衝撃を受けた。
音の発生は衝撃によるものと思われる。しかし認識したのは同時だった。音速はすごいんだなぁ。

ネズミ捕りの罠は捕獲を目的としているため相応の重量がある。少なくともネズミが持ち上げたり引きずったりできる重量にはしていない。
薄れていく意識の中で
「その辺りに罠があるので危ないですよ」
という声が聞こえたような気がした。


 ここはリワマヒ国。
食糧倉庫に一撃必殺の罠が設置されている国。
罠は今日も正常に機能している……

<了>



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