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炊き出し舞台裏編

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リワマヒ国民:薊の手記 「炊き出し準備編」


 ここはリワマヒ国。
かつてポケット藩国と呼ばれていた国。
夏季の訪れと共に様変わりしたこの国は地味に地道に生産力の向上を推し進め、いつの間にか共和国屈指の食糧大国として急成長を遂げていた。


 私こと薊はいつものように宮城のおこたの間で茶を飲んでいる。近頃は技士のシコウと一緒に茶を飲む事が多いのだが今日は独りである。
シコウさんは猫妖精の集会にでも顔を出してるんでしょうかねぇ、とか思いながら私物の茶葉で紅茶を煎れる。


 リワマヒ国は食にこだわる国であり、《食》には当然ながら嗜好品も含まれている。
そして数ある嗜好品の中でも茶は特に重要視されている。
どんなにおいしいものを食べても食後の一服が無くては台なしになる。だから食事にはおいしいお茶が不可欠なのだ。
そんな理由からではないと思いたいが、とにかく様々な種類の茶葉が手に入るのである。


「あぢっ」
まどろみながら紅茶をすすろうとして、熱さに悲鳴をあげた。

日頃から緑茶を飲み慣れているためかもしれない。緑茶は紅茶よりも低い温度のお湯で煎れてじっくりと蒸らす。
今日は紅茶なのだから心の準備はしていたつもりだったのだが、予想以上に熱かった。
寝ぼけていて熱湯で煎れてしまったのだろうか。


「よっ、と」
「のわあぁ!?」
突如、コタツの中から人が出てきた。
おこたの間に設置されているコタツはリワマヒ国特有の冷温掘ごたつであり、今は夏季仕様として足元には水が張られている。

「東さん!? なにやってるんですかっ!!」

コタツから這い出てきた濡れネズミの人物は東 恭一郎。ちょっと奇抜な燻し銀といった様相の男である。
先日摂政に就任したこの人物は軍機大臣として有事における戦力分析や資財運用などを一手に引き受けており、言わば内務大臣うにと並ぶリワマヒ国のお財布管理者の1人である。

「ふっ。水には肩まで浸かるものだ」
盃をあおりポーズをキメる東。
「掘ごたつに浸からんでくださいな」
周囲は水びたし。あとで拭いとかなきゃなぁ。


「時に、身体の調子はどうだ?」
「ふえ?」
唐突に尋ねられたが私は健康体である。
「別段なにも……ああ、そういう意味じゃないんですね」
今更ながらようやく言葉の意味が理解できた。

のほほんとしていてすっかり忘れていたのだが、現在私は猫妖精の擬似体験をしている最中である。
なるほど。道理で紅茶が熱かった訳だ。
元から猫舌の人間が猫妖精になると極度の猫舌になるのかもしれないなぁ。

「今のところ人語に変化はないみたいですね。まだ人間気分が抜けないので同調が不充分なのかもしれませんが」
「なるほど。さすがにぶっつけ本番という訳にはいかなそうだな」
「慣れは必要かもですね。ところで、朝っぱらからお酒ですか?」

東が再び盃をあおる。
「先入観はよくないな。徳利の中の液体が必ずしも酒だとは限るまい」
「なるほど。真理ですね。……銘柄は?」
「漢一代」
「清酒ですね」
「そうとも言うな」
そうとしか言わないと思うのだが。


「当日はそのままで行くのか?」
「そのつもりですよ。夜目が利いた方が作業し易いでしょうし、噂に聞く猫妖精の娯楽も体験してみたいですしね」

共和国内外ではこのところ続けざまに戦闘が発生している。リワマヒ国でも銀の街が崩壊したりと他人事ではなく、聨合国との兼合いもあり常時臨戦体制をとり続けている。
しかし、いかに非常時とはいえ長期に渡って緊張状態を持続する事は難しい。元よりリワマヒ国は国民の少ない国であり、国民の疲弊は国の疲弊に直結するのである。
そしてリワマヒ人はごはんが食べられなくなると途端に意気消沈してしまう。先行きを不安視した兼一王は一計を案じ、慰労を兼ねて皆に食事を振る舞う事にした。
数日後には国庫を開放しての大炊き出しを行う予定となっている。

「サカサコタツ遺構の周辺は猫妖精の集会所として有名なんですよね」

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 リワマヒ国の猫妖精には自前のコタツを背負って廃墟に集まりゴロゴロする習性がある。
以前のリワマヒ国は人手不足で放置せざるをえなかった廃墟がそこかしこに存在していたのだが、近年では整地や復興が進み廃墟の数は減っている。
しかしサカサコタツ遺構の周辺は遺跡保存のために開発禁止区域となっており、猫妖精の集会には恰好の場所となっているのである。


 決行日。夜が明ける頃には臨戦準備はほぼ完了していた。
どうやら銀の街を人と猫の手だけで復興させた実績は伊達ではなかったようである。

「皆さんお疲れ様でした。一段落しましたので2人一組で交代で火の管理をしながらしばらく休憩しましょう」
兼一王の言葉で張り詰めていた空気が緩む。
「あ、では私が最初に番をしていいですか?」
せっかく遺跡街まで来ているのだから廃墟にコタツを持ち込んでみたい。実は背負子の代わりとしてコタツに荷物をくくりつけて持って来ていたりする。
「では最初は私と薊さんで番をする事にしましょう。皆さんは身体を休めてください」

という訳で、私は兼一王と一緒に火の番をする事になった。
とはいえ鍋を火にかけてからまだそれほど時間は経っていないのだから張り付いている必要はない。
とりあえず火を視認できる距離に居れば問題はないので、交代の時間まで兼一王とひたすらにぎり飯を作り続けていた。


「うにゃー!? もうこんなに列んでる!?」
兼一王の許可を獲て廃墟に行ってきた私は眼前に広がる長蛇の列に呆然とする。
行列の先を見ると、技士の和子が残像を残しながら目まぐるしく動き回って配給を始めている。
どうやら人が集まりだすのが予想以上に早かったようで、事故を防ぐために配給の開始を早める事になったようだ。これは早く戻らないとマズイ。

「すいません通してください通りますネウー」
「邪魔だよっ!」
「ふえっ?」
ドンッ

いきなり背後から突き飛ばされた。
「わっ、ぶっ、ぐえぇっ」
転んだ私を大勢の人が踏み付け、駆け抜けていく。
「ちょっ、たすけ……」
べちっ


 ここはリワマヒ国。
猫妖精が廃墟にコタツを持ち込んでゴロゴロのんびり過ごす国。
時折、路上でコタツに潰されている猫妖精を目にする事があるらしい……

<了>

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