リワマヒ国ver0.8@wiki

30 リワマヒランド炎上事件 (作:幻痛さん/室賀兼一)

最終更新:

riwamahi

- view
だれでも歓迎! 編集

01/30 リワマヒランド炎上事件 (作:幻痛さん/室賀兼一)



平和なリワマヒ国にも、スリリングな一日は存在する。


 リワマヒ国のパンフレットが新調された。
たわわに実る果物、それを収穫する娘達。
単純明快にして傑作といえる機構で鼠を捕獲する罠。
最新の医療機器の扱い方を必死に学んでいる医師たち。
新しく追加されたページにはそれら以外にもいくつかあったが、
鈍い輝きを放つ傷ついたわかばマークを手にする白衣の男、幻痛は別のページに釘付けだった。
 そのページとは、地図である。

新しい地図は前の物と比べより多くの施設が書き込まれている。
もちろん、新しく追加された施設のほとんどのことを彼は存在すら知らなかった。
特にこの国唯一の遊園地、リワマヒランドの存在を。

 宮城からリワマヒランドへ向って一つの白い影が、
毛の無い頭頂部に光を反射させながら疾駆していった。
その日の正午近くの出来事だった。


 戦時下により無料営業中、ということもあって、
リワマヒランドはリワマヒ国や近隣藩国の国民であふれていた。

特に最もスリリングといわれるアトラクション、
「デッドエンド・オブ・リワマヒ」はこのアトラクションの中毒者でにぎわっている。

幻痛 「フフフフッ、スバラシィィ! スゴクイィィィ!! ハーッハッハッハ!!」

 微振動しながら叫び声をあげ突き進む河童頭の白衣の出現に聖人の海渡りのように人垣が左右に割れ、
アトラクション入り口まで一直線に分かれていく。

幻痛 「もう、私の夢はだれにもとめられない!」

 人々は彼の周りからより遠くにはなれていった。遊園地の係員さえ、彼の進行を阻む事をしなかった。

デッドエンド・オブ・リワマヒは高さ85メートル、垂直落差80メートルの
超巨大なウォータースライダーだが、
ウォータースライダーというよりも紐無しバンジーという呼び方のほうがしっくりとくる。


幻痛 「テンション、絶好調~~!!」
幻痛の叫び声と膝の震えは激しさを増し、
下から見上げる観客には、アトラクション全体を震わせているようにも感じられた。

この時幻痛はある人物の接近に気がついてしまった。
 一人でなにかに愚痴をこぼしながら現れた男。彼の名をニンジャという。
藩王の個人部下にして国民ではない、という男である。
悔しそうな表情をそのままに近寄るニンジャ。

ニンジャ 「ストレス解消に遊園地へ足を運んでみればほとんどのアトラクションで長蛇の列。
      でもここはなんだか誰も並んでなかったみたいでよかった~。
      どうです、一緒に飛びません?」

幻痛 「フフフ、いいでしょう! もしやあなた、ワタシの運命の相方ですね!?」

 幻痛は自分の内心とは裏腹にその提案を快諾した。
二人は滝と見まごう程の濁流にその身を投じ、
ウォータースライダーをものすごいスピードで落ちていった。


/*/


15分後。

 水浸しの服(白衣)をずるずると引きずりながら、幻痛とニンジャの二人は暗闇の中を歩いていた。

ストレスも解消と笑顔のニンジャに対し、撹拌される滝つぼの流れから這い出て放心状態の幻痛。
80メートルの高さから落下した衝撃で意識が飛びそうになりつつも
休憩がてらオバケ屋敷に行こう、とのニンジャの提案に訳も分からずうなづいていた。

 そんなわけで幻痛は、オバケ屋敷内の暗闇を進むニンジャの後ろを
ほとんど無意識に近い状態で歩いていた。

ニンジャ 「あれ~、幻痛さん? あんまりゆっくりしてるとおいてっちゃいますよ~? 」

 幻痛は角を曲がったニンジャの姿を見失うと、自分を包む闇に気がついた。

幻痛 「(オバケ、、オバケがいる!)」

 実際に本物のオバケがいるわけではないアトラクションだが、この男、実はその類が苦手なのだった。

全力で後を追いかけようとする幻痛。
膝が震えて暗闇に顔面を強打、尻餅をつく。彼がぶつかった暗闇の向こうからは、
獰猛な笑みを浮かべた化け猫の姿が浮かび上がった。

幻痛 「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」

簡素なつくりに多くの人々は笑いを覚えるはずのその人形に
声をあげることもできないほどおびえた幻痛は全力疾走を始める。

闇の向こうから何度も鈍い音が響いた。


恐怖で濁った瞳に、先ほどの通路よりもいくらか狭まった空間が映る。
なにやらかかれた看板がさがっており、特別区域を思わせた。

看板を見て何かひらめいた幻痛は迷わず飛び込む。

ぺたり。
その区域に入ったとたん、何かざらっとして、粘膜のような暗灰色の物体が幻痛の頬をなでた。

ぺたり、ぺたり。
腹を、肩を、足を、顔を。

目の前にうっすらと見える古井戸からは、濡れた女の黒髪が
どこからか聞こえる泣き声と共に湧き出していた。

隙間からは猫耳と、長い舌のような……

幻痛 「(別に呪いのビデオなんて見てないのに――――)」


幻痛は涙と鼻水で顔を汚しながらその場にへたり込む。
それを遠巻きに取り囲む水虎(編注:河童のこと)に小鬼、
口裂け女や天邪鬼と、多種多様のオバケの数々。
どうでもいいがみな猫耳である。

(猫士、今は職員A)「血だ、血をよこすにゃ~~」
(猫士、今は職員B)「いいやいいや、尻小玉にゃ。よこせ~~」

 一所懸命に妖怪になりきって、お約束の文句をへたり込んだ男にかける妖怪(職員)たち。
リワマヒランドオバケ屋敷のクライマックスは、割とチープなつくりなのだった。

ここでひと笑いののち、蛍光塗料のオバケスタンプを手に押してもらってポラロイド写真を渡され、終了、
というのが通常の流れなのだが、


幻痛 「クククッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

妖怪たちは笑いながら立ち上がる男の顔を見て、

戦慄した。
幻痛 「あばりにんげんざばをなべるなよ、ようがいども!」

恐怖の向こう側にたどり着いた幻痛は、顔を脳天まで真っ赤に染め、
鼻血まじりの鼻提灯を膨らませたり割ったりしながらそううめいた。

妖怪の群れはグロテスクなその顔を見て職員用出入り口に殺到したが、
妖怪以上に妖怪めいた幻痛がその進行方向に先回りされる。

右手に掲げるのは初心者の証であるわかばマーク。
彼はそれを、自爆装置に改造していた。


幻痛 「ズバラジィィィィィ!」



大爆発。

/*/

 リワマヒの中枢、宮城の藩王執務室。通称おこたの間。
その部屋の扉が勢いよく開かれた。 入り口に立っているのは眼鏡を曇らせた、吏族の平祥子。

平 「リワマヒランドで爆発事件です!」

兼一王 「今さっき蒼燐さんから報告が届きました。
     現在メインゲートと事件現場周辺に学生歩兵の配備をお願いしています。
王猫に耳掃除をしてもらいながら答える藩王。
傍らにはいかつい携帯電話が転がっている。

兼一王 「吏族医師チームは負傷者の収容を。
     また技族文族のみなさんで調査チームを編成。現場の蒼燐さんと連携しての原因究明をお願いします」

平 「すでに手配しました」

兼一王 「さすがです」

 兼一王の顔は少しも笑っていなかった。


/*/


 事件発生から20分後、リワマヒランドメインゲートでは野次馬と学生歩兵が押し合っていた。

 藩王からの指示を受けた蒼燐は学兵たちをまとめる先生に報告する。
たとえ摂政といえど学生の身、先生の指示には従わなければいけない。

蒼燐 「メインゲート及びオバケ屋敷周囲への学生歩兵の配備、完了しました。
    兼一王は鼠一匹、猫の子一匹外にも中にもと」

先生 「幸いほとんどの生徒と先生が遊びに来ていたとはいえ、この野次馬の数はいったいなんなんだ」

 平和なこの国でこのような事件が起こることは珍しい。
しかも休日、入園料無料でにぎわう遊園地で事件が起これば数百人単位で人が集まってくるのは当然だった。


/*/


 現場の蒼燐との通信を終えた兼一王に平からも報告が入る。

平 「オバケ屋敷の職員を病院へ収容。イドさん、治療を開始しました」
幸い重傷者は一人もいなかった。



 派遣された調査チームのうにとシコウは焦げ臭さの残るオバケ屋敷で現場検証を行っている。
爆発で天井には大穴が開いていて照明を使わずともかなり明るかった。

うに 「ここが爆発の中心地ですね」

シコウ 「はい~、そうですね~」

うに 「ここにはガス管は通っていないし、もともと爆発物も置いてない。となると―――」

 だれかが故意に起こした事件か。だとすればどこの誰が? それよりもなぜオバケ屋敷を?
うにはそう考えながらも現場検証を続けた。

あるのは焼け焦げた提灯や長髪のカツラなど
オバケ屋敷内に元々あったものばかりで犯人を特定できるような物的証拠は見つからない。


/*/


兼一王「蒼燐さん、そちらの様子はどうですか?」

蒼燐 「こちら蒼燐。部隊展開完了。ですが―――」

薊 「蒼燐さん、こっち手伝ってください!」

 それに野次馬の怒号と学生達の悲鳴が続いた。

蒼燐 「そういうことです。こちらも長くは持ちません。オーヴァー」

 それで蒼燐からの通信は途絶えた。


/*/


うに 「そろそろやばそうですよ、シコウさん。 ……シコウさん?」

シコウ 「見つけました~」

 シコウはピンセットの先につまんだ緑と黄色の破片を、
うにに笑顔で見せびらかせている。

うに 「これ、なんか見覚えあるんですが……」

シコウ 「私もです~」

/*/

イド 「はい、もう大丈夫ですよ」

リワマヒランド職員 「ありがとうございました……」

 イドに手当てをしてもらったオバケ屋敷の職員は消え入りそうな声でつぶやいた。

これはアフターケアの方が大変そうだと思いながらもイドは一番意識のはっきりしている
水虎役の壮年男性に事件のいきさつについてたずねることにした。

イド 「爆発が起こった時の状況など、尋ねてもよろしいですか?」

リワマヒランド職員 「本物が現れたんです! ぬるぬるした感じの液体まみれで、それから……」

イド 「あの……」

リワマヒランド職員 「はい、なんでしょう?」

イド 「ほんものの、何ですって? 」

リワマヒランド職員 「河童です!
           突如オバケ屋敷に現れて、頭のてっぺんに毛がなくって―――」

イド 「河童……」

イドにはなんとなくだが、事件の全容が分かったような気がした。


/*/


平 「やっぱり幻痛さん、どこにも見当たりません。どうしますか?」

兼一王 「夕飯の時間には絶対帰ってきます。でも、なるべく人に悟られぬようにしましょう」


/*/


 その日の夕方、水平線の向こう沈んでいく太陽を背に幻痛は長城を歩いていた。
ただでさえ露出度の高い服装がさらにボロボロに破け、危険だ。
そんな様相でも、その手にはわずか親指の先程度の大きさにまで砕けたわかばマークを握っている。


幻痛 (やってしまった……)

自爆装置の爆発はオバケ屋敷の天井を突き破り、彼を100メートルほど離れた位置にある滝壷、
ウォータースライダーのゴールまで吹き飛ばした。
そこでおぼれかけながらも何とか這い出し、騒ぎに乗じて逃亡したのが数時間前のこと。

 それから人目につかぬようジャングルに入り
沼にははまったり、空腹に負け毒キノコを食って死にかけたり、
山菜取り名人に妖怪めと追っ払われたりしたが
なんとか夕飯の時間ギリギリに帰ってくることができた。
罪悪感を感じながらも、それと同時に空腹感も感じるので自分の欲望に正直に生きようと決意。
そして入り口の大きな扉に手をかけた。

 開かない。
 全力で押したり引いたりしたが、扉はびくともしない。

幻痛 (もしかして……しめだされた!?)

 幻痛がそう考えると同時に鈍い音と共に、後頭部に衝撃が走った。
 意識が薄れていく幻痛。


 ~歴史的補講~
 事件の顛末は捜査に関わったものには口外禁止が言い渡され、
宮城の外の人間には本物の河童の仕業とだけ伝えられた。

 技師うに作による鼠捕り罠改にて捕らえられた幻痛は
「食事は三食塩のみおにぎり」の刑を科せられた上、
復旧の段取りがつくまでオバケ屋敷で働くことが義務付けられた。


その後、“リワマヒランドのオバケ屋敷には本物の妖怪が出る”という噂が立ち、
やがてデッドエンド・オブ・リワマヒに並ぶ人気アトラクションとして
その名をリワマヒ中に轟かせる事になる。


 本物の河童こと幻痛は今日も暗闇と孤独に立ち向かいながら、
鼻水と涙を盛大に垂れ流して、訪れる客を恐怖の世界へと誘っている。


幻痛 「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
(職員A)「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
(職員B)「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」


~おわり~





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー