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食糧生産地:リワマヒ国の民話

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食糧生産地コラム:「リワマヒ国の民話」


「リワマヒ国の民話(1):小さな蛙のお話」


 昔々その昔、今よりずーっとずーっと昔、この国のとある小さな沼には今と同じように沢山の蛙たちが住んでいて、今と同じように合唱したり飛び跳ねたりしながら楽しく暮らしていました。

 ある年の夏、酷く熱い日が続き、まるで天の桶が空になったように雨も降らなくなったことがありました。勿論その沼もどんどん小さくなって、蛙たちはぬるくなった水の中で押し合いへし合いしながら、自分たちの身を思って泣きました。
国のそこここが干上がって、どこにも行けません。故郷の沼までなくなってしまったら、自分たちはどうすればいいのでしょう。
 涙に暮れた合唱に応えて、沼の女神が彼らの元に現れました。

〔お前達、なにを泣くのです〕

 美しい女神に問いかけられて、蛙たちは口々に訴えました。

『このままでは、死んでしまいます』
『どうか雨を降らせて下さい』

〔雨を降らせる、それだけでよいのですね〕

 女神の言葉に、蛙たちは飛び跳ねて喜びました。そうです、それだけでよいのです、そう声を揃えて合唱しました。

〔判りました。では天の神様に、そうお願いしましょう〕

 そう言って女神は消え、しばらくしてから雨が降り始めました。乾いた地面をあっという間に濡らし、しおれていた草花も降り注ぐ冷たい水に生き生きと顔を上げていきます。沼は昔の姿を取り戻し、蛙たちは喜び勇んで女神へ感謝の唄を歌いました。
 雨は長く降り続きました。降らなかった日々を埋めるほどに降っても、まだまだ足りないというように。沼は次第に広くなっていき、故郷が広がっていくことを蛙たちは喜び合いました。
 たった一匹の、小さな蛙を除いて。

 小さな蛙は不安でした。沼の周りの綺麗な花々も、見上げても天辺が見えない大きな木々も、いつの間にかまた辛そうに項垂れてしまっていたからです。生き生きしていたはずの世界に、いつの間にか悲しみがたれ込めている気がしたのです。
 仲間達の喜びの唄から離れ、小さな蛙は沼の外れにやってきました。そこには、少し前の自分たちと同じように、悲しみに沈む人間達の姿がありました。

「このままでは、今年の収穫どころか来年だっておぼつかない」
「種までやられた。家畜たちも病気で死んでしまった。いったいどうすればいいんだ」

 途方に暮れたような人間達に背を向けて、小さな蛙は大急ぎで沼へと戻り、仲間達に訴えました。けれど、喜びの唄に夢中になっている蛙たちには、その小さな声は届きません。小さな蛙は悲しくなったまま、沼の外れで一人歌いました。どうかどうか、この雨を止ませて下さいと。
 小さな蛙の前に、沼の女神が現れました。

〔喜びの唄に一つだけ、不揃いな声を出しているのはお前ですね〕

 不愉快そうな女神を前に、小さな蛙はすくみそうな勇気を必死で奮い起こしました。

『そうです、私です。女神さま、どうか雨を止ませて下さい』

 その訴えに、女神は美しい顔をしかめて小さな蛙を見下ろしました。

〔その望みはお前だけのものでしょう〕

『いいえ、私だけではありません。草も、木も、他の沢山の生き物も、みんな望んでいるのです』

〔私はお前達の女神です。お前達の喜びの唄が私の喜び。それで十分〕

『いいえいいえ、十分ではありません。草も木も、他の沢山の生き物も、同じ世界に住むもの達なのです。その悲しみを、どうして見過ごせるでしょうか』

 小さな蛙はそう言って泣きました。

〔雨を降らせる、それだけでいいと言ったのに、叶えた途端に不満を口にするなんて〕

 女神は怒ったようにそう言って、泣き続ける蛙を自分の手のひらに乗せました。

〔お前の望みは途方もなく大それた望み。生きとし生けるもの全てに、喜びの唄を歌わせようとするのですから〕

『そうかもしれません。それでも、諦めるのは嫌なのです。仲間達の喜びの唄の向こうから、誰かの悲しみの声が聞こえているのです。それが消え去らなければ、私は喜びの唄を歌えません』

 泣きながら訴える小さな蛙に、女神は溜息をついてからこう言いました。

〔では、天に輝いている星に、お前の自慢の足で跳んで触ってごらん。見事触れることが出来たなら、天はお前の願いを叶えるでしょう〕

『判りました。必ず、触れてみせましょう』

 天を見上げてそう言った小さな蛙の目に、もう涙は残っていませんでした。

 それから毎日、小さな蛙は空に向かって跳び続けました。仲間の蛙たちに驚かれ、心配されてもただ黙々と。もっと高い場所から跳べば届くかもしれない、そんな風に思って木に登り、星も見えない暗い空に向かって跳んでは地面に転がり落ちる、そんな毎日でした。
 ある日、いつものように木に登った小さな蛙の目に、木よりももっと高いものが見えました。遥か遠くに見えるのは、白い雪をかぶった山々の峰。その先端は突き刺さるように天に伸びています。

(あそこでなら、星に届くかもしれない)

 小さな蛙はそう思い、仲間に別れを告げました。全てのものたちの喜びの唄を聴くために、ただ一匹で山を目指したのです。
 途中で出会った生きものたちは、皆悲しみの唄を口ずさんでいました。中には、もう歌う力も残されていないものたちもおりました。その姿に、その声に、儚い勇気を奮い起こして小さな蛙は前へ前へと進み続けます。
 いつしか進む道は、緩やかな坂からきつい坂へと変わっていきました。辺りはどんどん寒くなり、降り続く雨はみぞれから雪へと変わっていきました。ユキウサギたちさえ上ってこない高い高い世界で、雪は白い牙のように、休む間もなく小さな蛙に襲いかかります。それでも凍える四肢を懸命に動かして、小さな蛙は進み続けました。空だけを見つめて前へ、ただ前へと、一心に。
 やがて、小さな蛙の目にはなにも入らなくなりました。ただ舞い散る白い雪と虚空だけが、小さな蛙の目の前にはありました。天を突き刺す山の頂に、蛙は立っていたのでした。
 疲れ切った体はがたがたで、四肢は凍えてもうぴくりとも動きそうにはありません。それでも蛙は、天を見上げて星を探しました。

(ここならきっと、星にも届く)

 そうして、耳に聞こえる悲しみの唄を終わらせることが出来る、そう信じて、小さな蛙は最後の力を震える後足に籠めました。暗い空にたった一つ見えている、輝く光に向かって、跳んだのです。

 小さな蛙は、辺りが白く染まるのを見ました。もう寒くもなく、痛みもありません。そうして暖かななにかがすぐ側にあることに、気がついたのです。

〔いと小さきものよ、よくぞ成し遂げた〕

 朗々と響く声に、小さな蛙は慌ててそちらを向きました。暖かな空間の中の、ひときわ暖かな光。

『私は、成し遂げることが出来たのですか?』

〔もちろんだ、小さきもの〕

『では、私の願いを叶えて下さいますか?』

〔叶えよう。お前に、雨の司の位を授けよう〕

 思いもよらない言葉に、小さな蛙は驚きました。

『私はただの蛙です。どうしてそのような大それた役目が果たせましょう』

〔お前は、全ての生きものたちの幸いを願い、ありとあらゆる困難を退けた。お前ならば、この力を幸いのために使うことが出来よう〕

 朗々と響く優しい声にそう告げられて、小さな蛙は目も眩む思いでひれ伏しました。

〔お前はこれよりこの天に住み、雨の司として地を見守るのだ。全ての生きものたちの幸いのために〕

 そうして小さな蛙は天より地上を見守り、雨を降らせる神様となったのです。

「リワマヒ国民話集」より





「リワマヒ国の民話(2):びんぼうにんのひつじ」


リワマヒ国は海に面しているために夏季は湿った暖気が発生し、比較的雨雲が発生しやすい環境といえる。そのために古くから農耕が盛んだったとされている。
作物は豊かな大地の恩恵を受け、海へと続くリワマヒ川の主流を水源としてすくすくと育つ。
この国に不作があるとすれば、原因は主に集中豪雨が引き起こすリワマヒ川の氾濫だった。

ある年、王は国中に布令を出した。

年の瀬に新たな年の豊穣を願う儀式を行う。羊を一頭ずつ神への供物とせよ。

しかし家畜も生き物。生命が必ずしも強く生きられるとは限らない。
奉納できる羊を持たぬ貧しい一家もあった。
一家に向かい王は言う。

羊を捧げられぬならば子を捧げよ。

事態を理解する事すらできぬ幼子は無邪気に笑い、家族は嘆き天を仰ぐ。
供物を得られぬ仕打ちとして害を為せば翌年も供物は揃えられぬ。神がそのような短慮を犯そうや。
するとどこからともなく年老いた猫妖精が現れ、白い塊を王に差し出した。
これが供物だと。

王は憤慨する。

それは羊ではない。

猫妖精は言う。

いいえ。この白い色は羊そのもの。

王は言う。

しかしそれは肉ではない。

猫妖精は答える。

これは大地の肉に海の水を混ぜたもの。大地と海の賜り物。神への供物としてこれ以上に相応しい肉がありましょうや。

固唾を飲んで事態の行方を見守っていた一同に次第に笑みが浮かび始める。
そして遂に王は折れた。

ならばそれを神へ捧げよ、と。

以来、リワマヒ国では羊の代わりに豆腐を供物として神に捧げ、翌年の豊穣を祈願するようになったと伝えられている。



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