44 :つまみな :2007/01/04(木) 03:01:51.75 ID:D6pQXmSm0
妹「ビックリしただけだから」
「……」
妹「い、嫌なわけじゃないんだよ?」
「……」
妹「ただ、体が勝手に動いちゃって」
「……」
妹「悪いとは思ってるよ?本当に。謝る気満々だから」
「……」
妹「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「意外と力があるな、お前……」
妹「ごめんなさい」
「俺もビックリしたよ。引っ叩かれた上にベッドから物凄い勢いで落とされるとは」
妹「ごめんなさい」
「うん、大丈夫大丈夫」
妹「ごめんなさい」
「もういいから、朝飯ください」
妹「ごめんなさい」




45 :つまみな :2007/01/04(木) 03:12:10.12 ID:D6pQXmSm0
「お前の休み、いつまでだったっけ?」
妹「週明けまで」
「冬休みって短いよな」
妹「うん」
「……」
妹「ねえ、今日は何時に帰ってくる?」
「いつもと同じ。夕飯の時間には遅れない」
妹「何か食べたいものとかある?」
「カレー…は食ったばっかだから、ハンバーグだな」
妹「いつも思うけど、お兄ってお子様だね」
「自覚してるよ。いいだろ、別に好物が子供っぽくても」
妹「もっと洒落た物を好物にしなよ。いつか彼女ができたときとか、笑われるよ?」
「俺の好物を聞いて笑わないやつを彼女にする」
妹「信じられない判断基準」
「ほっとけ。どうせできるもんじゃないし。何言ったっていいだろ」
妹「できない、って言い切るのって哀しくない?」
「……ほっとけ」




46 :つまみな :2007/01/04(木) 03:15:19.01 ID:D6pQXmSm0
「じゃ、行ってくる」
妹「行ってらっしゃい」
バタン

妹「……」
妹「週明け、か」




47 :つまみな :2007/01/04(木) 03:25:53.72 ID:D6pQXmSm0
「ただいま」
妹「お帰り。ご飯できてるから、さっさと着替えてきなよ」
「玄関で出迎えてくれるだけマシだが、まるで物言いが
結婚四年目以降の嫁みたいだな」
妹「なんで四年目とか特定してるの」
「俺の記憶が正しければ、の話だからあんま気にするな」
妹「もしかして、お母さんとお父さん?」
「ん、まあな」
妹「……四年目にして早くも淡白な関係だったの」
「その辺はあやふやだから、真面目に信じるな」
妹「そうだよね、お兄は三日前の昼食だって覚えてないような人だもんね」
「いや、流石にそこまで記憶力悪くは……」
妹「じゃあ何食べた?」
「……」
妹「……」
「……」
妹「冷めない内に、思い出してね」
「……」




48 :つまみな :2007/01/04(木) 03:32:12.19 ID:D6pQXmSm0
妹「思い出した?」
「いや……」
妹「だから言ったのに」
「う」
妹「変な見栄なんて張らないでよね」
「う……、う、美味いな、このハンバーグ」
妹「誰が作ったと思ってんの」
「なんか機嫌悪くないか、お前…」
妹「べっつにー」
「絶対機嫌悪いだろ」
妹「悪くないって。ほら、今日も笑顔が可愛い妹だって」
「引きつってんぞ」
妹「作り笑いは得意じゃない」
「前から知ってる」
妹「とにかく、機嫌は悪くないから」
「ならいいけど」




49 :つまみな :2007/01/04(木) 03:42:42.98 ID:D6pQXmSm0
「あ」
妹「どうした」
「いけね、牛乳一パックしか買ってなかった」
妹「ついに昨日の記憶まであやふやに…病院行く?」
「やめろよ、人を病人扱いすんなよ!お前だって
ころっと何か忘れることってあるだろ!」
妹「あるけどさー、お兄は激しすぎるんじゃない?」
「牛乳忘れた程度で激しいとか言うな」
妹「どうでもいいことばっか憶えてるくせに」
「人間そういうもんだろ!」
妹「私は違いますー、憶えておくべきことは忘れませんー」
「嘘だッ!」
妹「物忘れ皇帝が言った所で、説得力ないよ」
「最高にセンス悪いな!」
妹「お兄のダサさとシンクロしたんだよ」
「お前のネーミングセンスがか!」
妹「やめてよ」
「心底嫌そうな顔をするな!」




50 :つまみな :2007/01/04(木) 03:51:23.82 ID:D6pQXmSm0
妹「そう言えばさ、どうしてお兄は私のベッドで寝てたん?」
「不可抗力だ」
妹「は?」
「お前が中々放してくれなくてな」
妹「へ?」
「しょうがないから一緒に寝た」
妹「…寝る前の私は一体何をしたの!?」
「言った通りだ」
妹「邪推しかできないからありのまま説明してよ!」
「十分ありのままだったわけだが」
妹「嘘だと言って!」
「物忘れ皇帝が何言った所で説得力皆無なんだろ?」
妹「嘘嘘、取り消すから!あと他人の口から聞くと、最高にセンス悪いねそれ!」
「落ち着け」

57 :キャベツ :2007/01/04(木) 04:09:06.93 ID:D6pQXmSm0
妹「時が早まったような気がする」
「俺もだ。数日ぱぱっと過ぎ去った感じだ」

「まあそんなことを気にしてもしょうがないな」
妹「そうだよね。記憶がすっぽ抜けてるってわけでもないし」
「ともかくお前も今日から新学期だろ、のんびりパジャマで顔洗ってる場合か」
妹「はっ、そうだった。でもかく言うお兄もパジャマですよ」
「む、平日のこの時間ならもう着替えているはずなのに…」

妹「はい、時間ないからトーストで!」
「おう」

「「行ってきます」」



58 :キャベツ :2007/01/04(木) 04:24:16.53 ID:D6pQXmSm0
「おはよう、妹ちゃん」
「おはようございます、先生」
学校についてから私が向かう先は、教室じゃなくて保健室。
もう、これはいつものことだった。随分前から、保健室が私の教室。
保健室登校についてはお兄も知らされていたけれど、
でも、もう今は大丈夫だと言ってある。
教室でちゃんと授業を受けていると。友達と楽しくやっていると。
嘘を、吐き続けている。

60 :キャベツ :2007/01/04(木) 04:36:21.29 ID:D6pQXmSm0
昔から人付き合いが苦手で、人見知りも激しくて。
小学校や中学校では、なんとかやっていくことはできた。
顔見知りが多かったおかげで。
今振り返ると、なんとかやっていけたのはそのおかげだって解る。
けど昔はそんなこと解らなかった。だから、高校だってなんとかなるって思った。
思ってしまった。
高校に入ってから世界は変わった。
右を見ても左を見ても知らない人ばかり。戸惑っている内に、
他の子達はグループを形成してしまっていた。
私は一人。
話し掛けてくれる人はいたけど、それもなくなっていって。
気が付けば、学校に行っても口を開かない日々が日常になっていた。




62 :キャベツ :2007/01/04(木) 04:44:26.72 ID:D6pQXmSm0
行くのを止めようと思ったことは何度もある。
でも、折角お兄が行かせてくれた高校を、一年もしない内に
辞めるわけにはいかないと、その度に踏み止まった。
躓きそうになりながらも、付いていこうと気を張って、やっていこうとした。
けれどその誓いはあっさりと崩れ去る。
一学期も終わりに近付いた頃に行われた文化祭。
私はそこで躓いて、一旦、諦めてしまった。




68 :うど :2007/01/04(木) 12:27:14.23 ID:D6pQXmSm0
この高校では、生徒は必ず何らかの部に所属していなければならない。
私は特に理由もなく、演劇部に入部した。
とは言え、クラスでやっていけない私に、部活なんかできるはずもなく、
二、三回出ただけで、後はずっと幽霊部員だった。
卒業するまでずっとこのまま幽霊部員でいようと、そう決めた。
ところがそういうわけにも行かなかった。
文化祭が近付き、クラスも俄かに浮き足立った雰囲気を
持ち始めていたある日のこと。
私は、部長に呼び出された。




69 :うど :2007/01/04(木) 12:37:10.71 ID:D6pQXmSm0
――ネエ、チョット今度ノ文化祭デステージニ立ッテミナイ?
何を言われたのか解らなかった。
もう一度聞き返し意味を把握して、私はとんでもないことを
言われているのだと気付いた。
――どうして私なんですか?
――人数ガ足リナクテ。大丈夫、セリフソンナニナイカラサ!
文化祭でステージに立って劇をやるなんて、私には考えられない。
大勢の知らない人達の視線に晒されながら劇をするなんて。
断りの言葉を言おうと口を開きかけて、ふと、私は思った。
チャンスではないか。これをやり遂げたら、少しは他人という存在への
免疫ができるんじゃないか?
セリフも少ないらしいし、それくらいなら。
私は首を縦に振った。
けれど、それが間違いだった。




84 :レタス :2007/01/04(木) 21:37:55.17 ID:D6pQXmSm0
久々に部活に出ると、早速部長から台本を渡された。
聞いたことがないタイトルだから、創作だろう。
私の知識が及ばないだけかもしれないが。
今日は目を通すだけでもしておくようにとのことだった。
流し読んでみて、愕然とした。
私の役回りは、さしてセリフもないと言われたはずなのに。
――どういうことですか!?
気が付けば私は部長に詰め寄っていた。
――ゴメンゴメン、本当ノコト言ッタラ断ラレルト思ッテサ。
台本に書いてある私の役。
それは、主役だった。

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最終更新:2007年01月10日 20:55