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「Coaxial*


 執筆者:クワトロ大尉(偽)


エデンⅣ、午前9時前後。
未だ停電によって巨大な天蓋が不吉な闇を落とすその下では、地獄絵図のような激戦が繰り広げられていた。
興行区画のパルヴァライザー掃討を担当するグローバルコーテックスのランカーレイヴン、フォルディアは目前に迫った四脚型パルヴァライザーのブレード斬撃をひらりとかわし、ガラ空きの頭部めがけショットガンの零距離射撃を叩き込んだ。
パルヴァライザーは頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされ機能を停止する。
「ラストワン。これで何回目だよ」
退けるたびに押し寄せるパルヴァライザーを悉く撃破してきたフォルディアは埒の明かない防衛線に多少イラついていた。
フォルディアはキャリア10年を超えるベテランであり、依頼されたミッションのほとんどを遂行しここまで生き残ってきた猛者である。もちろんミッションを放棄する気もなければ自棄になっているわけでもない。
ようは相性の問題なのだ。
防衛戦は彼の性分に合わない。ただそれだけである。
彼の操る愛機ルーンは強襲を主目的とした半軽量二脚ACで継戦能力はあまり高くない。
それでも担当する地区の防衛ラインを一度たりとも後退させていないのは彼の腕が一流である証でもある。
レーダーで確認できた敵は全て排除したが、念のため担当エリアの索敵を開始する。
その時、同エリアの防衛を担当していた別のコーテックスのレイヴンから通信が入る。
「フォルディア、すまない。もうAPが限界ギリギリだ。これ以上はガレージに一旦下がらないと回復できない。悪いが一時撤退させてもらう」
通信を送ってきたフロート型ACは機体各所から火花を散らしており満身創痍だった。
だが、彼も今までフォルディアと一緒に最前線を維持し続けた腕のいいレイヴンだ。
自分の機体以上に防衛戦に向かない機体でここまで持たせたのは、むしろ大健闘といえるだろう。
「ああ、構わねえよ。今のうちに下がってくれ。お前のような腕のいいヤツを失うのは今の状況では痛手だからな」
「すまん。そう言ってくれると助かる。応急処置が完了したら再出撃するよ」
フロートACのレイヴンはそう言うと、ガレージへと続く地下リニアへの大型運搬用エレベーターへと姿を消した。
レーダーで周囲に敵の反応が無いのを確認してから、フォルディアは自分の専属オペレーターに通信を繋ぐ。
「グロリア、どうだ?この辺のパル共は全部ブッ潰せたか」
「担当エリアの掃討を確認。でも各地でまだまだ苦戦してるみたい。今、補給を手配したから補給完了後、別のエリアの応援お願いね」
妙に艶っぽい美声が印象的なグロリアは友人に話しかけるような気軽さでフォルディアと会話する。
その軽快な口調は、この非常事態に少しも動揺していないことの表れでもある。
「あぁ?まだやんのかよ。ったく、どっから湧いてきやがんだ一体?」
「さあ?とにかく、今はエデンⅣ全体がてんてこ舞いなんだから!文句言わずに働く働く」
「簡単に言うな。それよりソリテュードはどこに行ったんだ?アイツと俺が組めば、もっと効率よく害虫共をブッ殺せるぜ」
グロリアと会話している最中に弾薬補給車両が到着し、コーテックス整備スタッフ達がルーンの搭載する各武装に弾丸を装填していく。
「担当エリアが違うから分からないわ。ミランダちゃんともコンソールが離れてるし。でも少し前に小耳に挟んだところによると、セントラルタワー頂上に一人で陣取って狙撃してたらしいわよ」
――アイツが狙撃?らしくねぇな・・・。
「まあ、いいや。この乱戦じゃ合流も困難だろうしな」
コンソールの残弾カウンタが全武装フル装填になった事を確認すると、フォルディアはルーンを再び立ち上げる。
「ンで?次はどこへ行きゃいいんだ」
「あら、ブツブツ言ってた割にはやる気じゃない?」
「5年前のように害虫共に好き勝手やらせるかってんだよ」
「オッケー、私もそれは同じよ。そうね・・・次はココ。ウェストインターチェンジの先の、このエリア。ここが突破されるとインターチェンジ付近の友軍が挟撃されてしまうの。インターチェンジを防衛している友軍も決して万全じゃないわ」
グロリアから転送されてきたエリアマップを見ると、指定された防衛ラインが既にギリギリの状況であることが分かる。
「駄弁ってるヒマはねぇか・・・ミッション了解。これより当該地区へ向かう」
「頑張ってね。それと、弾薬費はコーテックスからのサービスだから、安心して」
悪戯っぽく言うグロリアに皮肉を込めた笑みで返す。
「当たり前だ。今の時点で弾薬費が前金を上回ってんだからな!」
フォルディアはルーンのオーバードブーストを巡航モードで起動するとビル群を貫く大通りを疾走していった。

普段は大勢の人々で賑わう興行区画のメインストリートも、今は紛争地帯のような有様だ。
数時間前までの華やかな雰囲気は見る影もない。
暫くすると、グロリアの言っていたウェストインターチェンジが近づいてきた。
頭部パーツに搭載された高性能レーダーが敵味方、双方の機影を捉える。
友軍を示す青のマーカーと敵を示す赤のマーカーが入り乱れ、一目見ただけで激戦を繰り広げているのが理解できた。
――ここもだいぶヤバイな。加勢してやりたいところだが・・・。
しかしフォルディアは脳裏に浮かんだ考えを自ら払拭した。
レイヴンは傭兵だ。依頼に基づいて行動するのが本分であり一時の感情に流されるのは三流のやることだ。
――俺はどうもムラっ気があっていけねえな・・・。
自らの性分を軽く嗜めつつ、インターチェンジを迂回し指定エリアへと急ぐ。
すると前方からコーテックス所属と思しきACが向かってくるのが見えた。
――ん?あれは・・・。
オーバードブーストを全開にしてインターチェンジ方面を一心に目指すそのACにフォルディアは見覚えがあった。
いや、正確に言えばつい数時間前のテレビ中継で見ていたのだから、見間違えようもないのだが。
クレスト社純正のパーツで構成された純白の軽量二脚ACは今朝、アリーナ本戦出場をかけてターミナル・スフィア所属のラピッドタイドと熱い接戦を繰り広げ、惜敗したブルーマーレだった。
――ほう、あの機体の損傷と自分の負傷をこの数時間でどうにかしちまうとは。やはり中々見込みのある若造じゃねえか。
そう思い、ふっと口元が緩むのを自覚する。
フォルディアはレイヴンの中でもアリーナ出場を好む方で、ランク争いを目的としないエキシビジョンマッチにも頻繁に参加していた。また見所のある若手レイヴンとアリーナで純粋に戦う事を一つの楽しみにしており、そういう若手を見るとつい嬉しくなるのを隠せなかった。
しかしそれも束の間、ルーンの高性能レーダーが敵影を捉え、警告音を発する。
すばやくレーダーへ目を走らせると、どこから潜り込んだのか、3機のパルヴァライザーがブルーマーレの死角を突こうと急接近していた。
――気付いてない!?レーダーの探知外か!
フォルディアはルーンに急制御をかけると、機体をブルーマーレの方向へ旋回させ、再びオーバードブーストを起動した。
彼我の距離は見る見るうちに縮まり、自機の有効射程距離に入る寸前、やっとパルヴァライザーの接近に気付いたブルーマーレへ通信を開く。
「オーバードブーストをカットして右へ避けろ!」
叫ぶのと同時、右肩に搭載されたトリプルロケットを先頭のパルヴァライザーに見舞う。
強力な打撃力を持つロケット弾を3発同時に真正面から食らったパルヴァライザーは派手に爆発し後続のパルヴァライザーの視界を遮る形となった。
フォルディアはオーバードブーストをカットし、慣性を利用しながら視界を遮られてもたつく2機の間へ滑り込むと、くるりと独楽のように旋回し、その内の右の1機に振り向きざまにショットガンとハンドガンの斉射を浴びせかける。
ショットガンの弾丸の雨が装甲を剥ぎ取り、ハンドガンの大口径弾丸が剥き出しになった内部機構を深く抉る。
機体内部を滅茶苦茶に破壊されたパルヴァライザーは何の抵抗もできないまま虚しく機能を停止した。
それを横目で確認しつつ、バックブーストで後退して距離を取り、素早く武装を変更、エクステンションの連動ミサイルを起動する。
連動ミサイルの射出口のシャッタと中型ミサイルのハッチが同時に開き、顔を覗かせるミサイルの弾頭が鈍い光を反射する。
そして未だこちらを捉えられない残りのパルヴァライザーの無防備な背部に威力の高い中型ミサイル2発を連動ミサイル4発と共に撃ち放った。
着弾した直後、凄まじい爆炎が巻き起こり、業火と黒煙がパルヴァライザーを包む。
煙が晴れた後には鉄屑が虚しく転がっていた。
「ハハ、ちょいとサービスしすぎたかな」
言いながらブルーマーレの方へと向き直る。
フォルディアの鮮やかな早業を前に、迎撃態勢を取ろうとしていたブルーマーレもさすがに少々呆気にとられているようだった。
それを見たフォルディアはブルーマーレへと通信を要請する。
こういう時に、つい面倒見のいい兄貴分の顔を覗かせてしまうのも彼の性分の一つであった。
少しの間を置いて、通信が開かれる。
「よう、若いの。何を急いでいるのか知らねえが、索敵には常に気を配っとけ。特に接近特化機はレーダーの探知距離も短くなりがちだ、今日の様な乱戦では尚更だぜ。まあ、余計なお節介だったかもしれんが」
「いえ、助かりました。ありがとう。あなたは・・・Aランクランカーのフォルディア!?」
ブルーマーレを駆る若きレイヴン、ジェリーはAランクランカーが自分を手助けしたという事実に多少なりとも驚いているようだった。
「俺のこと知ってんのか。まあさっきのは、ちょっとした気紛れさ。しかし、お前も負傷を押して出撃するとは中々見上げた根性じゃねえか。俺はそういうの嫌いじゃないぜ、ジェリー」
ディスプレイのウィンドウに表示されているジェリーの応急手当したままの姿を見ながらニヤリと笑う。
ジェリーの姿は痛々しいものであったが、その双眸に宿る眼光は少しも曇っていなかった。
「どうして私のことを知っているんですか!?」
またしてもジェリーは驚く。
「さっきの試合、見てたからな。中々イイ線いってたぜ」
「え!あ、ありがとうございます!!」
戦場であるにもかかわらず、ジェリーはまるで先生に褒められた生徒のように素直に返事をしてしまう。
フォルディアにしてみれば取り留めのない会話だが、ジェリーにしてみれば、自分が目標とする遥か上の世界にいる相手に腕を認めてもらえたのだから無理もない。
「ほら、行けよ。俺の方から呼び止めておいてなんだが、急いでんだろ?」
「あ、はい。どうしても助けたい人がいるんです」
その熱の籠った言葉を聞いて、カンのいいフォルディアはピンときた。
「ラピッドタイド、ヴァネッサとかいうお嬢ちゃんか」
「な!?何故それを・・・」
フォルディアは、その疑問には答えず、機体を再び指定されたエリア方面へと巡らす。
「旧知のライバルってのはいいもんだぜ。大事にしてやんな。特に女なら尚更な」
そう言って、自身の親友でありライバルでもある猛禽類のような鋭い眼光を持つ男の顔を思い浮かべる。
「・・・はい!」
ジェリーの若々しい溌剌とした返事を聞き、フォルディアはルーンの右腕を軽く上げて応える。
バックモニターで再びインターチェンジ方面へと急ぐブルーマーレの後ろ姿を見送りながら、その背中に声をかける。
「死ぬなよ、ジェリー。いつかアリーナで会おうぜ」
そうしてフォルディアもオーバードブーストを起動し、後れを取り戻すように指定エリアへの最短ルートを検索しつつメインストリートを疾走していった。
搭載AIが算出した最短ルートのガイドに沿って、巡航モードでの最大速度をもって大通りを駆け抜けていく。
この辺りは既に掃討が完了しており、先ほどの様なイレギュラーな戦闘もなく指定エリアとの距離は瞬く間に縮まっていった。
そろそろ次の戦闘エリア内に侵入するかというところでグロリアからの通信が入った。
「ちょっと、フォルディア!一体どこで油売ってんのよ!」
そんな彼女のもっともな愚痴に悪びれた風もなく返す。
「分かってるよ、だから急いでるじゃねえか。もうすぐ指定エリアに現着するから心配すんな」
「まったく、こんな余裕が無い時に・・・。咄嗟に助太刀するまでは、まあ分かるとしても、レクチャーまでしてるヒマないでしょ!?」
「あぁ?聞いてたのかよ、お前。しょうがねえだろ、ああいう若手を見るとつい面倒をみたくなっちまうんだよ」
飄々と答えるフォルディアにグロリアもため息を吐かざるを得なかった。
もっとも彼女もフォルディアのそういう性格を理解しているし、それを愛おしいとも感じているのだが。
「もう、ホントしょうがないんだからアンタは。遅れた分はきっちり働いてもらうからね!」
そう言いながら微笑むグロリアを見て、フォルディアはにやりと不敵な笑みを返す。
「おうよ、ツケはきっちり払ってやるぜ。派手に暴れてやるからよく見てろ」
そうしてレーダーへと目を走らせると、索敵圏内に友軍の反応と大多数の敵反応が確認できた。
先程とは異なり、険しい表情でフォルディアはメインディスプレイを睨む。
その貌は既に歴戦の戦士のものへと変わっていた。
「指定エリアへ到着。これより掃討戦に移行する」
フォルディアは機体を一度停止させると、エネルギーが完全に回復するのを待ち、オーバードブーストを巡航モードから戦闘モードへと切り替え、ブーストジャンプで空へと舞いあがり、同時にオーバードブーストを最大戦速で起動させ、滑空しながら津波のように押し寄せるパルヴァライザーの大群へと突撃していった。

フォルディアが向かったエリアの防衛ラインには既にレイヴンが一人しか残っておらず、その最後のタンク型ACが全身に弾丸の雨を受けつつも踏みとどまり奮戦していた。
コーテックス所属のCランクランカー、レイノルズは愛機キャノンボールの重装甲と重火力を頼りに、多少の被弾など気にもせず目前に押し寄せるパルヴァライザーを押し止めていた。
キャノンボールの主砲である右肩のグレネードキャノンで広範囲を制圧し、それを掻い潜ってきた機体を右腕のカラサワで迎撃、撃ち洩らして接近を許した場合には左肩のチェインガンで蜂の巣にし、これまで数えきれないほどのパルヴァライザーを撃破してきた。
しかし、パルヴァライザーの侵攻は止まる事は無く、ただひたすらに弾薬とAPを消耗していく。
「くっ・・・キリがない」
ここの防衛ラインに着いた時は複数いた友軍機も押し寄せるパルヴァライザーの大群に1機、また1機と撃破され、ある者は戦死し、ある者は撤退していった。
先ほどまで自分の横にいたはずのコーテックス所属のACもいつの間にか姿を消していた。
頼みの綱であるグレネードキャノンの残弾も1/3を切り、他の兵装の残弾も半分以下まで消耗し十分とは言えなくなってきた。
APには、まだ若干余裕があるとはいえ、弾薬を消費しきってしまえばタンク型ACなど的にすぎない。
キャノンボールはお世辞にも機動力に優れているとは言えず、接近を許せば迎撃に手間取ることになり、結果じりじりと後退せざるを得ない状況になっていた。
「まずいな・・・。いくらなんでも俺だけじゃ、これだけの数を抑えきるのは不可能だ」
意識せず、口から不安が零れる。
いくら迎撃してもパルヴァライザーの数は一向に減らず、逆に増えているのではないかという錯覚すら覚える。
そもそも、この防衛ラインは迎え撃つ側にとって場所が悪かった。
片側3車線という興行区画で最大級のメインストリートが交差する十字路のうち3方向から押し寄せるパルヴァライザーを迎撃せねばならず、敵の侵攻スピードと数そのものが他の防衛ラインを大きく上回っていた。
当然、政府やコーテックスもそれを見越しており、戦力の配置を多めにしておいたのだが、その侵攻の激しさは予想を遥かに超え、戦力の補充が間に合わず、増援も逐次投入せざるを得ない形となり、それが悪循環となって今の結果を招いていた。
レイノルズは切り札であるグレネードキャノンを温存するため、カラサワによる迎撃に切り替えていた。
カラサワの命中率と打撃力は素晴らしく、直撃すれば、ほぼ1発でパルヴァライザーを破壊することができた。
しかし、カラサワの装弾数は決して多くなく、無駄撃ちを避けるため精密な射撃をせざるを得ず、彼我の距離は加速度的に詰まっていく。
だがこれ以上、後退する事はできなかった。
既に防衛ラインぎりぎりまで下がってきてしまい、水際で叩く以外手段が残されていないからだ。
ここで防衛ラインを崩されれば興行区画の中心部にパルヴァライザーの大群が一気に雪崩れこむことになる。
そうなればエデンⅣの防衛戦力は更なる苦戦を強いられることになり、被害がますます拡大してしまう。
興行区画の隣は彼の家族が住む居住区画だ。シェルターに避難してくれているだろうが、決して安全とはいえない。
その家族への想いがレイノルズの、折れそうになっていた心を奮い立たせた。
――そうだ、俺がここで踏みとどまらなければ誰が妻と愛しい娘を護ってやれるんだ!
そうして最接近していたパルヴァライザーにカラサワの銃口を突き付け、力強くコントロールレバーのトリガーを引いた。
「やらせん!」
青い閃光はパルヴァライザーの装甲を易々と貫通しコアを丸ごと吹き飛ばした。
少し距離の離れた所に群がるパルヴァライザーを睨みつつ、コンソールの端に張り付けている妻と愛娘の写真を見ながら手を添える。
天使のような笑みを浮かべる幼い愛娘と、決して世間に誇れるような職ではない自分を愛してくれる妻を想い、一層決意を強く固める。
――待っていてくれ、必ず生きて帰る。
だが、皮肉にもそれが彼にとって最大の隙になってしまった。
警戒センサーのけたたましいアラーム音で我に帰り、ディスプレイを見ると2機のパルヴァライザーが猛然と加速してキャノンボールへと急接近してきたのである。
――しまった!
焦る心を落ち着かせ、向かって左の機体に照準を合わせてトリガーを引く。
カラサワの強烈な一撃はパルヴァライザーの頭部を吹き飛ばし、機能を停止させる。
既に目前まで迫っていたもう1機に狙いを定めようと右へ旋回し始めた瞬間、想定外の事態が起こった。
パルヴァライザーはいきなり逆へ切り返し、キャノンボールの左側へと回り込んだのである。
キャノンボールはその機体構成上、接近戦はあまり得意ではなく、なおかつ左腕には実体シールドを装備しているため、左側面に回り込まれると攻撃効率が下がるという弱点があった。
互いに戦闘データを共有するパルヴァライザーは、撃破された個体の戦闘データを蓄積させ、その弱点を解析したのである。
パルヴァライザーは両腕のブレード発生機からレーザーブレードを形成し、頭上高く振りかぶった。
――まずい!
右腕に搭載されるカラサワでは射角が届かず迎撃できないと判断したレイノルズは、咄嗟にエクステンションのターンブースターを起動し、無理やり左へ急旋回しつつ左肩に搭載されているチェインガンを展開する。
横方向への強烈なGが脳を揺さぶり視界が一瞬ぼやけるが、すぐに意識を集中して回復させ、今まさに自分へとブレードを振り下ろそうとするパルヴァライザーを正面に見据えると、ロックオンを待たず左トリガーを力いっぱい引き絞る。
轟音と共に大口径弾が連続して砲口から吐き出され、パルヴァライザーの装甲を引っ剥がし、振りかぶった両腕と頭部を引き千切っていった。
間一髪のところで致命的な被弾は免れたものの、後続のパルヴァライザー5機が目前まで迫っており、危機的状況は変わらなかった。
1機ずつ迎撃している時間は無く、唯一の切り札であるグレネードキャノンも距離が近すぎて有効な手段とはいえない。
最悪の場合、爆風の余波が自機を襲う可能性もあるが、かと言って他に状況を打開する手段は残されていなかった。
――コイツの装甲を信じるしかない。こうなればギリギリまで引き付けて、まとめて吹き飛ばしてやる!
レイノルズは覚悟を決め、右肩のグレネードキャノンを展開し、サイトの中心に先頭のパルヴァライザーを収めた。
そしてトリガーを引き絞ろうとしたその時、サイトに収めていたパルヴァライザーが横から巨大なハンマーで殴られたように吹き飛ばされ、構成部品を撒き散らしながら路面を転がっていき、ビルに激突して沈黙する。
部隊の先頭が撃破されたことによって動きを鈍らせたパルヴァライザーの前に、メインストリート横の路地から眩い噴射炎を吹かしながら青いACが躍り出てきた。
青いACは横滑りし、路面との摩擦で火花を散らしながら両脚で制動をかけ、パルヴァライザーの前に立ち塞がり、間髪入れず、群れをなすパルヴァライザーへと突撃を仕掛ける。
その一瞬の出来事にレイノルズはおろか、パルヴァライザーまでもが不意を突かれた形となり、残る4機のうち突出していた1機は青いACのショットガンを至近距離からモロに食らい、何の抵抗もできないまま沈黙した。
他の3機は迎撃態勢を取るべく編隊を組もうとしたが、皮肉にもそれが仇となった。
先を読んでいたのだろう、青いACは右肩のミサイルとエクステンションの連動ミサイルを展開しており、編隊を組んだために満足な回避行動を取ることができないパルヴァライザー3機のうち2機に撃ち分け、1機を撃破し、もう片方の脚部を損傷させ足止めした。
被弾を免れた最後の1機は、この距離での射撃は効果が薄いと判断し、両腕のレーザーブレードを展開して猛然と青いACへと接近戦を仕掛けてきた。
だが青いACはそれすらも予測済みだったのか、突撃を仕掛けてくるパルヴァライザーに対して回避行動を取らず、ブレードが振り下ろされる瞬間、フルブーストでパルヴァライザーの右側面へと回り込み、左腕の大口径ハンドガンを頭部へ突きつけ、3発の弾丸を撃ち込む。
頭部に風穴を開けられたパルヴァライザーは両腕をだらりと垂れ下げ、二度と動く事は無かった。
そして、脚部を破壊されなんとか機体を持ち上げようともがく残りの1機にロケット弾を撃ち放ち、引導を渡した。
その鮮やかな早業にレイノルズは無意識に見惚れていた。
目の前で5機のパルヴァライザーが、ほとんど何の抵抗もできないまま1分も経たないうちに撃破されたのだ。
――信じられん。ああも簡単にパルヴァライザーを撃破するとは。
呆然とするレイノルズは通信要請を知らせるアラームを聞いて我に帰ると、慌てて回線を開いた。
「よう、無事かい?遅れてすまなかったな」
その余裕すら感じられる口調に、レイノルズも落ち着きを取り戻し、返答する。
「ああ、助かった。救援、感謝する。君は確か・・・Aランクランカーのフォルディアだったな」
レイノルズは青いACの姿を間近で見て、初めて自分を助けたのが誰なのかを知り、同時に先ほど目の前で起こった事実を納得することができた。
Aランク4位の実力を持ち、エデンⅣ支部トップクラスのランカーレイヴンであれば、あの程度の数など何でもないだろう。
「アンタも俺の事知ってんのか?まあ、話が早いから別にいいけどな」
だがレイノルズは納得すると同時に少し拍子抜けしていた。
自分より遥か上の実力を持つAランクランカーが、こんなにもフランクな人物だとは思いもよらなかったからだ。
しかし、フォルディアの雰囲気はふざけているわけでもなければ、油断しているのでもないとうことが、そのACを通して出る佇まいから理解できた。
――彼は信頼できる。先ほどまで隣にいたあのレイヴンなど比べ物にならない。
「申し遅れた。俺はCランク18位のレイノルズだ。君と実力は比べるべくもないが、火力と装甲には自信がある。火力支援は任せてくれ」
そのレイノルズの力強い発言にフォルディアは好感を持った。
戦場で自分をわきまえている人間は信頼できる。彼がそうであるとフォルディアは直感した。
「アリーナのランクと戦場での強さは別物さ。下位ランクでも腕のいいヤツは大勢いる。アンタのようにな。その火力はアテにしてるぜ」
そうフォルディアが言い終わるのを見計らったかのようにレーダーの警戒センサーが敵性反応の接近を知らせる。
レーダーに表示された敵は10機を優に超え、その数はさらに増えつつあった。
「おいでなすったぜ。まったく、何処からともなく湧いてきやがって。ホント害虫だな、コイツら」
吐き捨てるように言うフォルディアだったが、少しも慌てている様子は無い。
むしろ相手にするのが飽きたとでもいうような印象をレイノルズは受けた。
「んじゃ、俺は突っ込んでいって手当たり次第ブっ潰していくから、アンタは火力支援とラインの防衛を頼む。見ての通り防戦は得意じゃねえんだわ、性格的にもな」
フォルディアはハハッと自らのジョークを軽快に笑いながらオーバードブーストを展開し、臆することなく猛然とパルヴァライザーの大群へ突っ込んでいった。
それに合わせるようにレイノルズもキャノンボールのグレネードキャノンを展開して先制攻撃を仕掛ける。
大口径の榴弾は最前列に着弾し、先頭にいた機体を木端微塵にすると共に、周囲の機体へ爆風による二次損害を与え、その凄まじい衝撃力を持って集団を足止めした。
盛大に巻き起こった爆炎と爆風によって怯んだパルヴァライザーの頭上に今度は弾丸の雨が降り注ぐ。

→Next…


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