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Intermission -Imitation summer-*②」




 メイファは頼りなさげにプールへと入って行くアリスに手を差し伸べ、その手を取ると、寄り添うように歩き、アリスの腰くらいまでの深さの所まで連れてくる。
「これくらいなら、怖くないでしょ。どう?アリスちゃん。初めてのプールは」
「みず、つめたい。でも、きもちいい」
「よかった。じゃあ早速、水遊びの入門編!まずはコレね」
 そう言うと、メイファは唐突に手ですくった水をアリスへ振りまいた。
「きゃ!?」
 突然、顔と上半身に水をかけられたアリスは何が起こったか分からず、きょとんとして固まっていた。
「ほら、アリスちゃんも私にやりかえさなきゃ。えい!」
 そうして、先程と同じようにアリスへ水をかけるメイファ。
「ふみゃ!?・・・ん、えい」
 やっとアリスも要領を得たのか、見よう見まねで小さな手を懸命に動かしてメイファへと水をかけ返す。
「きゃはは。そうそう、その感じ!どう?これだけでも楽しいでしょ」
「うん、たのしい。みず、きもちいい」
 ぱしゃぱしゃと軽やかな音をたてながら水をかけあうアリスとメイファ。二人は本当に楽しそうで、まるで本物の姉妹の様だ。
 自然に微笑むアリスを見ると、ここに来てよかったと改めて思う。
――メイファに感謝しなくちゃな。アリスも、こうやって一つずつ人間らしい楽しみを知っていってくれれば・・・。
 一人、思案を巡らせていた俺に、再び水しぶきが襲う。しかも今度のは、さっきと比べて威力と量が段違いに高く、若干痛い。
「ぶわっ!?な、何すんだ・・・」
「美少女二人をほったらかしにして、一人でぼーっとしてるのが悪いのよ!アリスちゃん、悪者のソリッドやっつけちゃおう!」
「うん、ソリッドやっつける」
 アリスも加わり、より水の勢いが増す。しかもアリスもけっこう器用に水をかけてくる。この短時間でコツを掴むとは生体CPU恐るべし。
 メイファに至っては手でなく、足で水面を蹴り上げ大量の水を浴びせかけてくる。おい待て、お前の蹴りは反則級の威力だろ!
 すでにずぶ濡れとなった俺には成す術もなく、反撃できる理由もない。
「分かった、降参だ。もう・・・うわっぷ!か、勘弁してくれ」
 降参の意思表示のため両腕を上げた所に、トドメの同時攻撃を顔面に食らった俺は、あっさりと敗北を認める。
「やったね、私たちの勝ち!」
「かちー」
 仲良くハイタッチまでかますアリスとメイファ。なんだか若干、疎外感を感じるのは気のせいか?
「なになに~、さみしくなっちゃったの?じゃあ、今度こそ三人で遊びましょ」
 どうやら表情を読まれたらしい。こんなことで顔に出るとは・・・。
 メイファはアリスの手を引きながら、こちらへ近づいてくる。
 ずぶ濡れになった髪を何気なくかき上げ、雫を払うと、何故かメイファがこちらをじっと見ているのに気付いた。
「・・・なんだよ。俺の顔に何か付いてるか?」
「水も滴るいい男って、こういうことを言うのね」
 だから、そういうことを真顔で言うな。
 うんうんと頷いて勝手に納得するメイファにツッコもうとするが、メイファは突然、踵を返すと浜辺のパラソルの方へ小走りで行ってしまった。
「持ってくるものがあるから、ちょっと待っててね」
 反撃の機を逸して、しばし呆然としてしまう。どうやら今日も盛大に振り回される運命のようだ。
 するとアリスが俺の手を、くいと引っ張った。
「ん?」
「ソリッド。みずもしたたるいいおとこって、どういういみ?」
 俺は盛大に脱力すると、肩を落としてアリスに呟くように言う。
「悪いが、それはメイファに聞いてくれ。とても俺には答えられない」
 アリスは小首を傾げて黙ってしまう。言われた意味が、よく分からないといった風だ。
 そんなやり取りをしているうちに、メイファが戻って来る。
「お待たせー!次はコレよ。やっぱりビーチで遊ぶならコレは外せないでしょ!」
 得意げにメイファが差し出したのは、カラフルなビニール製のボールだった。つまりビーチボールだ。
「なるほど。それならアリスもすぐに遊べるな」
 定番すぎるが、水遊びが初めてのアリスには丁度いいだろう。
「アリスちゃん、どういう風に遊ぶか教えるから、ちょっと見ててね。ソリッド、いくよ~。それ!」
 メイファが軽くトスを上げ、ビーチボールは綺麗な放物線を描きながら俺の頭上に落ちてくる。これなら移動する必要は無い。
「ほっ!」
 タイミングを合わせ、メイファへとトスを返す。
「ナイストス!・・・それ!」
「よっと」
 しばらくトスのリレーを続ける。単純な動作の筈だが、何故かこれだけで面白く感じるのが不思議だ。
 数回のリレーの後、俺が返したボールをメイファがキャッチしてアリスへと向き直る。
「こんな感じで遊ぶんだけど・・・分かった?」
「うん、わかった。わたしもやる」
「よーし、じゃあみんな広がって円になって。落としたらダメだからね」
 三人、ほぼ等間隔で円を作り、互いに向かいあう格好になる。
「じゃあ、始めるね。アリスちゃん、いくよ~・・・それ!」
 メイファは、やんわりとボールがあまり高く上がらないように優しくトスを出す。
 ボールは、先程と同じように綺麗な放物線を描いて、アリスの頭上に吸い込まれる様に落ちていく。
 アリスはそれをトスし返そうと、思いっきり腕を突き出すが、ものの見事にタイミングがずれ、柔らかいボールはゆっくりと小さな顔面に吸い込まれる様に落ちていった。
「ふみゅ!?・・・う~」
 びっくりしたのか、小さな手で鼻先をさするアリス。あれくらいの勢いなら痛くはない筈だが。
 それを見て心配そうに駆け寄るメイファ。俺もアリスの傍まで歩いて行く。
「大丈夫、アリスちゃん?」
「へいき。もくそくをあやまっただけ」
 やっぱりアリスには荷が重かっただろうかと思った矢先。
「もういっかいやる」
 そうはっきり言うと、今度は自分からメイファへとトスを上げる。
 だが今度は勢いが弱く、ボールは小さな弧を描いただけで、力なくメイファの手前に落ち、そのまま波にゆらゆら揺れる結果となった。
「・・・あれ?」
「ちょっと勢いが足りなかったみたいね」
 メイファが波に揺られるボールを拾い上げ、苦笑いする。
 するとアリスは表情を強張らせてボールをじっと眺めていた。
「おかしい・・・メイファおねーちゃんのうごきをトレースしたのに、どうして?」
 どうやらメイファの動きを模倣してボールを放ったのに上手くいかなかったのが不満らしい。
「アリス。メイファの動きを真似るのはいいが、力や背が違うんだ。そこらへんも考慮しないと、上手くいかないぞ」
 俺の言葉にアリスはハっとなり、眼を丸くして俺に向き直った。
「それをけいさんにいれるのをわすれてた・・・やっぱりソリッドはすごい」
 そしてメイファのところへ近づいて行き、もういっかいやる、と言ってボールを受け取る。
 アリスがこんなにも一つの事に集中するのは珍しい。この初めての水遊びがよほど興味深いのだろう。
「いくよ?メイファおねーちゃん」
「おっけ~、いつでもいいわよ。あんまり力まないでね」
「・・・えい」
 アリスが放ったボールは弱々しいながらも、ちゃんとした放物線を描き、なんとかメイファの手元へと届いた。
「・・・とどいた」
「そうそう、その調子!もう一回やってごらん」
「うん」
 ボールを再び受け取ったアリスは先程の感覚を忘れないように、すぐに投げ返す。
 今度もボールは無事にメイファの手元へと届く。しかも先程より勢いが良くなり放物線も綺麗な軌跡を描いていた。
「上手よ、アリスちゃん!」
「・・・うん!」
 褒められたのが嬉しいのか、微笑みながら何度もボールをメイファへと投げるアリス。
 何度も繰り返すたび精度は上がっていき、ものの10数分で要領を飲み込んでしまったようだ。
「じゃあ、今度はトスのリレーね。私も投げ返すから、タイミングを合わせてトスを返してね」
「わかった」
 最初アリスがメイファへとトスを上げ、それをメイファが優しく返し、再びボールはゆっくりとアリスの頭上へ落ちていく。
 アリスは終始ボールから眼を離さず、軌跡を追い、絶妙なタイミングで腕を突き出した。
 小さな手に弾かれたボールは、まるでビデオの巻き戻しのようにメイファの手元へと返っていく。
「やったね、アリスちゃん!もうカンペキ」
「やった。できた」
 アリスはにっこりと微笑んで両手を高く上げる。それは年相応の可愛らしいリアクションだった。
 しかし、初体験だったことを短時間で習得してしまったアリスを見てふと思う。
――アリスはどんなことでも学習能力が高いな・・・これも生体CPUの能力なんだろうか。
 そんな考えが頭を過ったが、メイファの俺を呼ぶ声で現実に引き戻される。
「じゃあ、今度こそ三人でやりましょ。みんな広がって」
 再び間隔を取って広がり、ボール遊びを始める。
 メイファを起点に、俺とアリスへ交互にトスのリレーをし、数回に一回、俺からアリスへとボールを回すという単純なものだが、それだけでも十分に楽しい。
 アリスはボールが来るたび、ぴょんと小さく跳びはね、小さな体を最大限に使ってボールを返す。
 まるで小さなウサギがぴょこぴょこ跳んでいるようで、とても可愛らしく、そんな姿を見ると、ふっと頬が緩んでしまう。
 それと対照的に、メイファの姿は目に毒というか、刺激が強すぎる。
メイファがトスを上げるたび、彼女の豊かな胸がたゆんと揺れ動き、どうしても眼が行ってしまう。
そのせいで何度かボールを取り落としそうになり、慌ててリカバーする。
「ちょっと、ソリッド。集中してるの?」
「・・・ああ」
 口ではそう言ってみるものの、全然集中などできていない。
 しかし、それを悟られまいと必死にポーカーフェイスを作り、視線をどうにかメイファの胸元から逸らす。
 そうしてアリスからきたボールをメイファにトスすると、彼女は何故か一度ボールを真上にトスし、次の瞬間、高くジャンプした。
 その伸びやかな肢体に眼を奪われた次の瞬間。
「そりゃ!アターック!!」
「ぐあ!?」
 いきなりメイファが放ったスパイクを顔面にモロに食らい、俺は水の中へと倒れこむ。正直、痛い。
「んふふ、私のおっぱいばっかり見てるからイケナイのよ。もう、ソリッドのえっち」
 わざとらしく恥ずかしがるような仕草で、悪戯っぽくアカンベーをするメイファ。
 ばれてたか・・・。
「もう、ホント男ってしょうがない生き物ね」
「本能なんでな。理解してくれるとありがたい」
 笑いながら言うメイファに自身の男としての性を隠すことなく吐露する。今の自分達の関係では、今更なやり取りだが、こんなのも楽しみの一つだろう。

 しばらくボール遊びを楽しんだ後、休憩のためパラソルへと戻り、オーダーしたジュースを傾ける。
 オレンジジュースの爽やかな風味が喉に心地いい。
 喉の渇きは潤したが、今度は空腹感を覚えたので腕時計に眼を移すと、いつの間にか昼に差し掛かろうとしていた。
 楽しい時間は経過するのが本当に早い。
「そろそろ昼飯時だが・・・どうするか」
 俺の一言にメイファが即座に反応する。
「あ、お腹減った?アリスちゃんは?」
「ちょっと、おなかへった」
「じゃあ一度、休憩スペースに戻りましょ。お昼ごはんのことなら心配しないで」
 自信満々に言うメイファは俺とアリスを促して席を立つ。
 俺はパーカーを羽織って、小物を取りまとめ、その後に続く。
 先に手を繋いで歩いていたメイファとアリスが立ち止って俺を待っていたので、素早く合流すると、アリスがもう片方の手を無言で差し伸べてきた。
 小さな手をすぐに握り返し、ゆっくりと並んで歩く。
 他人の目から見たら、俺たちはどういう風に映るのだろうか・・・。

 休憩スペースに着くと、メイファはトートバックからレジャーシートを取り出して広げる。
「ソリッド、ちょっとそっち伸ばしてくれる?」
「ああ、わかった」
 言われた通りレジャーシートを広げ終わると、メイファは大きなバスケットを中心にドンと置き、蓋を開けた。
 バスケットを覗きこむとそこには、おにぎりや唐揚げ、卵焼き、タコさんウィンナーなど色とりどりの料理がぎっしり詰まっていた。
「これお弁当だったのか」
「うん。せっかく三人揃ってのバカンスなんだからと思って作って来ちゃった」
 メイファの想いに胸を打たれる。これを喜ばないヤツなどこの世にいるだろうか。
「すごい。おいしそう」
 アリスも眼を輝かせながらバスケットを覗きこんでいる。
「ふふ、ありがと。さ、食べよう?いっぱい作ってきたから、たくさん食べてね」
 優しく微笑みながら料理を取り分けてくれるメイファ。
 プラスチック製の皿に盛られた料理を一つずつ、ゆっくりと口に運ぶ。どれも美味い。
 料理としてみれば、そこまで手が込んでいる訳ではないが、丁寧に作られており、ほっとするような味が広がる。おかずと共に食べるおにぎりは塩味が絶妙で旨味をより一層引き立てていた。
「うん、美味い。たまにはこういうのもいいな」
「メイファおねーちゃん。おべんとう、すごくおいしい」
 アリスもにこにこ笑いながらおにぎりや卵焼きをほおばる。その姿がなんとも可愛らしい。
「ありがとう、二人とも。やっぱり外で食べると一味違うわね」
 そう言いつつ、メイファも自身の料理に手を付ける。にこやかな表情をしているあたり、自身でも満足のいく出来だったようだ。
 午前中、時間も忘れて遊んだせいか、自分らで思っていたよりも腹が減っていたらしく、バスケットにぎっしり詰まっていたお弁当は三人で全て平らげてしまった。
「あ、デザートもあるんだけど・・・まだ食べられる?」
 メイファの手にはタッパに入ったカットフルーツが乗せられていた。リンゴやオレンジ、パイナップルとデザートにはもってこいのチョイスだ。
「もちろんだ。いただくよ」
「わたしもたべる」
 フルーツの爽やかな甘みと酸味が食後の口内をさっぱりとリフレッシュしてくれる。
 ロケーションも南国風なので、少し贅沢な気分になる。
 普段は戦場に生きる俺だが、たまにはこんなありふれた幸せな日常に浸ってもバチは当たらないだろう。
 そんな益体のないことを考えつつ、至福の一時を過ごした。

 食事の後、少し時間を置いてから、再び遊びに繰り出す。
 アリスはプールに来るのは今回が初めてであり、当然泳いだ事はない。
 なので、アリスに水泳を教えようということになり、普通の底が浅い子供用プールに移動し、泳ぎの基礎を俺とメイファの二人で一通りレクチャーする。
 しかし、さすがのアリスもこればっかりは一朝一夕とはいかず、俺やメイファが手を持って牽引し、バタ足を習得させるのにとどまった。
「すいえい、むずかしい。でも、たのしい」
 微笑みながら言うアリスは、泳ぐ時の独特の浮遊感や水の流れを体全体で感じることに楽しさを覚えたようで、もっと泳げるようになりたいと意欲を示していた。
 浜辺のパラソルへ戻り、飲み物を飲みながら休憩しつつ、ふと時計を見ると針はもうすぐ午後4時に差し掛かろうとしていた。
――もうこんな時間か。そろそろ帰り時を考慮しとかないとな。
 俺やメイファはモチベーションも体力も問題ないが、アリスはそうもいかない。
 アリスも楽しそうにしているが、若干遊び疲れた感じが窺える。
――まあ、今回限りという訳ではないし、ここならまた来てもいい。今日のところは、そろそろ帰るか。
 そう結論付け、メイファにそれを伝えようとした時、彼女方が先に口を開いた。
「ねえソリッド、この後どうしようか?」
 どうやらメイファも同じような事を考えていたらしい。
「そうだな・・・名残惜しいが、今日はそろそろ帰ろう」
「そうね。アリスちゃんも少し疲れてるみたいだし。でも、その前にもう一つだけ遊んで行かない?」
 唇に人差し指をあてながら、おねだりするようなポーズをするメイファ。
「もう一つ?別に構わないが、一体何を?」
「決まりね!何か、は目的地に着けば分かるから。アリスちゃんも行こ」
 アリスもこくんと頷きメイファと手を繋いで歩いて行く。その後を要領を得ないままついて行った。

「じゃーん!アレよ、アレ!やっぱりアクアリゾートに来たならアレを体験していかなきゃ!!」
 メイファが指差した先には、太いチューブが幾重にもとぐろを巻いたような巨大な施設だった。
「業界史上最大級のウォータースライダー『メガスライダー』よ。ココのもう一つのウリになってて凄い面白いんだって!」
 確かに一般に見聞きするよりも二周りくらい規模が大きい。
「確かに凄い規模だが・・・コレ、アリスは遊べるのか?」
「へ?」
素っ頓狂な声を出して俺の質問に虚を突かれるメイファ。やっぱりな。
「この規模はどう見ても成人用だろう。子供用もあるだろうが、最初から最後までとはさすがにいかないんじゃないのか」
 俺の指摘に一転して暗い表情になり、肩を落とす。
「あ・・・そうか。そこまで考えてなかった」
「まあ、もしかしたら保護者同伴なら可能かもしれない。とりあえずスタッフにでも聞いてみよう」
 とりあえずウォータースライダーの受付まで移動し、スタッフに事情を説明する。
「申し訳ありませんが、15歳未満のお子様は子供用レーンでしかご利用ができません」
 アリスは便宜上13歳ということになっているため無理だ。背も小さいので誤魔化せないだろう。
「ですが、成人用のノーマルコースであれば、保護者同伴でご利用が可能です。お二人までとなりますが」
 それを聞いてメイファの顔がぱっと明るくなる。彼女自身もアリスと一緒に楽しみたかったのだろう。
「じゃあ、私とこの子が一緒なら大丈夫なんですね?」
「はい、娘さんとご一緒にお楽しみいただけますよ」
 メイファの質問に朗らかな女性スタッフが若干の誤解と共に笑顔で答える。
「え!む、娘!?」
 朝の一件と同じように顔を真っ赤にするメイファ。
「ほら、行くぞ。別にいいだろ、保護者って事に変わりは無いんだ」
「や、やだ・・・娘だなんて。やっぱり他人から見れば、私たちそういう風にみえるのかしら・・・」
 赤面しながらぶつぶつ言うメイファの手を引き、一旦受付から距離を取る。成人男女と小さな子供が一緒に居れば家族と見られたって不思議ではない。
 そんなメイファを見上げながら、アリスは笑顔で彼女の手をきゅっと握る。
「わたし・・・メイファおねーちゃんが、おかあさんだったら・・・とってもうれしい」
 アリスの言葉を聞いたメイファは一瞬固まった後、眼から一筋の雫を流した。見れば眼が潤んでいる。
そうして膝立ちになり、アリスに目線を合わせると、周りを気にもせずにぎゅっと抱きしめた。
「もう!アリスちゃんって本当に可愛いんだから!!私も、アリスちゃんのこと大好きよ」
「うん。わたしも、メイファおねーちゃんだいすき」
「ほら、俺はここで待ってるから二人で行ってこいよ。時間も時間だ」
 微笑ましい光景だが、いつまでも人目があるところでこのままという訳にもいかないと判断し、あえて声をかける。
「あ、ごめん。じゃあ、ちょっと行ってくるね。行こう、アリスちゃん」
 涙を拭いつつ、恥ずかしそうに笑いながら仲良くアリスと手を繋ぐメイファ。
「ソリッド、いってくる」
「ああ、楽しんで来い」
 こちらに手を振りながらメイファと一緒にウォータースライダーへと向かうアリスを見送りつつ、自分の身の振り方も考えとかないといけないなと頭を掻きつつ思う。

 しばらくの後、ウォータースライダーの出口から楽しそうな黄色い声と共に勢いよく見慣れたシルエット2つが飛び出してきた。
 ずぶ濡れになったメイファとアリスは、着水用のプールから上がって来ても興奮冷めやらぬといった感じだ。
「もうサイコー!すっごい面白い!!」
「すごくはやくて、おもしろい。ACみたい」
 いや、アリス。その表現はよろしくない。
 しかし二人とも大いに満足したようだ。
「念願叶ってよかったな。じゃあ、そろそろ行くか」
「え、ソリッドは乗らないの?」
 意外というよりは残念そうな顔をするメイファ。何故、そんな表情をするのだろうか。
「俺はいいよ。アリスも満足しているようだし、やるとしたら次の機会でいいさ」
 俺の言葉を聞いたメイファは、意を決したように言葉を継いだ。
「ねえ・・・もし嫌じゃなかったら、私と一緒に乗ってくれない?」
「え?」
 見るとメイファは初な少女のように頬を赤らめ、俯き加減で俺の様子を窺っていた。
「別に嫌じゃないが・・・アリスはどうするんだ?一人で残しておくわけにもいかないだろう」
「そっか、そうだよね・・・ごめんね、わがまま言って」
 残念そうに俯くメイファを見ると、なんだか悪い事をしてしまったような気になる。
「いや、アリスさえ一人にならなければ、俺もやぶさかでないんだが」
 なんだか気まずい空気が流れ始めた時、先程の女性スタッフが声をかけてきた。
「お客様、もしよろしければ、お子さんをこちらで保護しておきますが」
「え、そんなことができるんですか!?」
 それを聞いたメイファが、ぱっと顔を上げる。
「はい。メガスライダーは性質上、どうしてもお待ちになるお客様が多いので、お客様待機所を設けております。お子様も専門スタッフが責任を持ってお世話をさせていただきます」
「わたし、おるすばんしてる。だからソリッドとメイファおねーちゃん、いってきて」
 アリスも俺たちのことを考えてくれたのだろう。その好意を無碍にはできない。
「じゃあ、ちょっと待っててくれアリス。二人で行ってくるから」
「ごめんねアリスちゃん。ちょっとだけ待っててね。じゃあ、よろしくお願いします」
「はい。待機所はすぐそこに見える建物です。お迎えの際は、入場パスをご提示ください。データを照合して確認を取りますので。では、楽しんでらしてください」
「いってらっしゃい」
 女性スタッフとアリスに見送られてウォータースライダーへと足を向ける。
 するとメイファは俺の左腕に自身の右腕を絡ませてきた。体が密着し、妙に柔らかな感触が二の腕から肘にかけて伝わる。
「え、おい!?」
「いいでしょ、たまには」
 頬を赤らめたメイファの顔を間近に見て、どきりと胸が跳ねる。
「恋人、なんだから」
「・・・ああ。そう、だな」
 それからは年甲斐もなくドキドキしっぱなしでウォータースライダーの階段を上り頂上を目指す。
 その道中、このメガスライダーにはノーマルコースとロングコースがあり、どちらも大人二人までなら一緒に滑れるそうで、ロングコースの方に一緒に行きたかったという旨をメイファから打ち明けられた。
――そういえば最近、二人きりになる機会はあまりなかったな。
 そんなことを考えているうちに頂上へとたどり着く。見下ろしてみると結構な高さだ。
「では、次がお客様の番となります。係員が合図をしましたら、出発して下さい」
 係員の誘導に従い、入口の前に立つ。
「そういえば、どっちが前だ?こういう場合、普通は女性が前だと思うが」
「どちらでも構いませんよ?特に決まりはありません。ただお二人で滑る場合は危険防止のため密着していただく必要はありますが」
――密着、だと?
「準備が整いました。では、お楽しみください」
係員の最後の言葉に思案を巡らせる暇もなくメイファに背中を押される。
「おい、ちょっと待て。何で俺が前なんだ!?」
「い・い・の!それ、しゅっぱーつ!!」
 振り向くと、そこにはいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべるメイファの顔があった。
 その表情に盛大な不安を抱くが時すでに遅し。
 メイファは俺の背中に抱きつくと、絶妙な足払いで強制射出を敢行しやがった。
「うわ!?」
「きゃーーーーっ!」
 勢いよく滑り出した俺とメイファの体は成す術もなくスピードを増し、透明なチューブを滑走していく。
 しかし俺はそのスピード感を楽しむ余裕もなく、背中に否応なしに押しつけられる柔らかい感触に終始悩まされることとなった。
 もう嬉しいやら恥ずかしいやらで平静を保っていられない。というか絶対わざとだろ、メイファ!
 そうして気付いた時には水の中に放り出され、沈んだ体が水面へ浮き上がる寸前、唇に暖かく柔らかな感触を感じ、開いた眼にメイファの妖艶な微笑みが映った時、俺の顔と脳内は沸騰した。
 もしプールの水がなければ、確実にオーバーヒートしていただろう。
 まったく、本当に彼女には敵わない・・・。

 待機所で待っていたアリスを迎えに行き、その足で休憩スペースに置いてある荷物を取って、帰り支度を整える。
 時刻は午後5時を少し過ぎたところ。室内の照明は時刻に合わせて調整され、見事なサンセットビーチが再現されていた。
「うわー、綺麗だね」
「ああ、そうだな」
「きれい・・・」
 しばし潮騒の音に耳を傾けつつ名残を惜しむように黄金色の水面を眺める。
――今日は色々と得難い経験ができたな。本当に来てよかった。
 素直にそう思えるあたり自分もまだそこまで捻くれていないらしい。
「さあ、行くか」
「そうね、帰りましょ」
「うん」
 そうして後ろ髪を引かれる思いの中、偽りの南国を後にした。

 アクアリゾートの正面ゲートから外へ出ると、冬特有の鋭い冷気が肌を指すように刺激する。
 つい先程まで南国の様な場所に居たのが夢のようだ。
 アリスの疲れを考慮して帰りはタクシーを拾う事にする。
「ねぇ、今日は楽しかった?」
タクシーの待合所で順番を待つ間、メイファが俺の顔を覗きこむように聞いてくる。その表情は何故か真剣だった。
 なぜそんなことを聞くのだろうか。
「ああ、楽しかったよ。また来てもいいと思ったくらいさ」
 嘘偽りなく、メイファの眼を見ながら答える。
 するとメイファは、ふっと表情を緩ませ優しい笑みを浮かべる。
「よかった。私もすっごく楽しかったから!」
「すごくたのしかった」
 続けて言うアリスの腕には土産コーナーで購入したペンギンの赤ちゃんのぬいぐるみが抱えられていた。
 いつものウサギのぬいぐるみ『マリー』はメイファのトートバックから上半身を覗かせている。いつもは肌身離さず持ち歩いているが、アリス曰く、今日は特別らしい。
 次にタクシーの順番が来るという時、メイファが遠慮がちに話しかけてきた。
「ソリッド。今日、泊まってもいい?」
 そんな彼女らしくない態度を横目に見つつ、俺は即答する。
「ああ、泊まっていけ」
「ホント!いいの?」
 メイファはまるで欲しいものを買ってもらった子供のように喜ぶ。
「別に断る理由が無い」
 俺たちの会話を聞いていたアリスも嬉しそうに微笑んだ。
「よるもメイファおねーちゃんといっしょ。うれしい」
 話している間にタクシーが到着し、後部座席のドアが開放され俺達を迎え入れる。
 告げた行き先は俺のマンションのみ。
「今日はずっと一緒だね」
「ずっといっしょ」
 共に微笑みながら言う二人は本当に幸せそうで、それは俺も同じだった。
 戦場を駆けるレイヴンであっても、これくらいの幸せを享受するくらいは許されるだろう。
 そんなことを思いつつ、三人一緒に家路につける喜びを噛みしめた。


 Imitation summer END 


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