第二十八話 「massacre」
あれ、あたし、何をしているんだろう。
バイト行って、学校行って、バンドに行って……
そんな充実した一日を送ったら、温かいベッドの中に入って……
そうしたら、いつの間にか教室に……ああ!
今頃、思い出すなんて……
あの女の人の名前を悲痛に叫ぶ声が、まだ耳から離れなかったんだ!
とにかく、あのポーキーは許せない!
多分、あの教室に居た、みんな(ワリオのおじ様、ナインボルト君やアシュリーちゃんの他に、犬やネズミも居た)も同じ気持ちだろう。
そう、同じだ。同じ――
ルイージは、三メートル先の女に槍を構えた。
広い草原だ。こんな場所で棒立ちしていて、目立たない訳が無い。
かえって「殺してください」と言っている様なものなのだ。
その上、支給品を出していないらしく、丸腰。
――見逃す訳が無かった。
ルイージは、距離を詰め始めた。
歩くたびに音が立つのは仕方の無い事だが、まだ相手は気付いていない。
鈍感なものだ。
そのまま、後ろから素早く突きを入れる――つもりだった。
ピシュン、と、稲妻の様な何かがルイージの足元の草を焦がす。
すると、焦げた草から突然炎が舞い上がる。
つまり、倒れる筈だった女はこちらに気付き、ルイージの足元に炎を出したあの少女は、ルイージを――
「お前、そいつに何をするつもりだった?」
そう言った、桃色の髪の少女の指はルイージを差していた。
恐らく、所謂魔法か何かで先程も炎を出したのだろう。
「……いや、聞く必要は無いみたいか。お前は教室で叫んでいた奴だな。あの姫を生き返らせる為に、お前はこんなゲームに乗った訳か」
男の様な口調で、ルイージの事を言いながら、近づく少女。
因みにルイージが殺そうとしていた女は、ただ震えていた。
「ああ……そうだよ。姫。デイジー姫を生き返らせる為に」
「やはりな」
その少女の言葉を区切りに、ルイージが動く。
槍が少女を貫くのと、少女がルイージに何かを仕掛けるのは、どちらが先だっただろうか。
明らかに少女は、既に何かを準備出来ていた。
「さいみんじゅつα!」
突然、不意に襲い掛かる眠気。
ガクッ、と、自らの意思とは無関係にルイージの膝が折れ、手から槍が落ちる。
その瞬間、ルイージの意識は途切れた。
「……その女が、大切な人だったのは分かるけどな」
槍を落とし、まどろむ緑の帽子の青年(の割には立派なヒゲだが)に、クマトラは言った。
確かに、男の行動は間違っていた。
だが、ポーキーがまさかこんな一線まで越えて、卑劣にもデイジー姫、そして『死体だった』デイジー姫までを殺したのだ。
この男が、狂っても不自然ではなかった筈。……所詮、この男も脆い、人間なのだから。
……そうクマトラは、考えた。
「大丈夫か?」
「う、うん。ちょっとビックリした。何だか、まだ訳が分からないし」
とにかく大丈夫、と、茶髪の女、モナは付け足した。
「あたしはモナ。助けてくれてありがとう」
「いや、別にいい。オレはクマトラだ」
もう少し聞きたい事はあったが、その時、何かが聞こえた。
『みんな、聞こえるか!? 俺はタケシ! このゲームを止めさせる為に、ここに集まってくれ!』
クマトラ達のかなり近くで、大きく、何かが篭った様な、独特の音が出された。――拡声器が使われている事が分かる。
拡声器は呼び込みに使うには、確かに効果があるだろう。
だが、逆に言えば、相当目立っている。つまりゲームに乗った参加者も、確実に聞こえている筈だ。
得策と言えるのだろうか。
――それは、時間が経てば分かる事だ。
『とにかく、人が人を殺すなんて、間違っている。サトシとカスミも聞こえているか? 聞いてたら、今す』
そこまで聞こえた所で、銃声と同時にブツッと、何かが切れた。
案の定、予測は当たった。かなり近い場所での銃声。
つまり、ゲームに乗った参加者がそこに居る。と言うか、既に見えていた。
その突然の状況に、焦りの回転は加速していく。
その時、まさにその時、モナが紅いものを頭から噴き出した。
「!?」
クマトラが呼びかける間も無かった。頭に穴を空けて生きていられる人間が、居るのだろうか?
そのまま地面に、倒れ込む彼女。絶命していた。それも、一瞬の内に。
正確に撃ち込まれたその穴からは、まだ血が零れている。見事に額が捉えられていたのだ。
「お前ッ!」
クマトラは即座に、銃を撃ったそれに、PSIを試みる。
十分に範囲に入っている。すぐに仇を討たねばならない。
「PKフリーズβ!」
勝負は直ぐについた。
ビシャ、と何かが草に飛び散ると、クマトラは糸が切れた人形の様に、力無く倒れた。
半分近く凍りついた右腕の氷を、ファルコは払う。
全身をとんでもなく傷つけられたが、何とか相手を全て撃ち落とす事は出来たのだ。
「……乗ってやるさ。そして、ポーキー。お前を観客席から引きずり下ろしてやるぜ」
そうは口で言ったが、頭の中にはまだ葛藤するファルコも居た。
雇われ遊撃隊の仲間達。優勝する、つまり彼らにも手をくださなければいけない。
それこそ、今の彼の頭の天秤には、『ポーキーを倒す事』と、『仲間達』が掛けられている。
そう迷うファルコの手には、リボルバー式の銃が握られており、まだ煙を吹き出していた。
――――
ファルコが立ち去った後、その場には寝息をたてる男と、三つの屍が――
「痛……クソッ……」
完全に左胸を撃たれ(ファルコから見れば、の話だが)、死んだはずだったクマトラは起き上がった。
無論、その支給品が無ければ。上体を反らしていなかったら。弾がもう少し上に来ていたら。クマトラも死体の仲間入りをしていただろう。
クマトラの服には、大部分が紅く染まったバッチが残っていた。
「絶対に……許ねえ……」
【一日目 朝 J-5-草原】
【名前:ファルコ・ランバルディ(スターフォックス)
健康状態:全身に軽い凍傷 特に右腕が重傷 葛藤
武装:コルト・ハイウェイパトロールマン@実在兵器/残り3発
所持品:支給品一式
現在位置:J-5
基本行動方針:ゲームに優勝する。が、遊撃隊メンバーの為、まだ迷っている。
最終行動方針:いずれにせよ、ポーキーを倒す。
】
【名前:クマトラ(MOTHER3)
健康状態:怒り 脇腹に重傷 疲労
武装:ナマクラヤイバー@マリオストーリー
所持品:支給品一式
現在位置:J-5
基本行動方針:リュカ達を捜す
第一行動方針:ファルコにリベンジする
第二行動方針:リュカ達を捜す
最終行動方針:ゲームを潰す
】
【名前:ルイージ・マリオ(マリオブラザーズ)
健康状態:睡眠
武装:キラーランス@FE
所持品:支給品一式
現在位置:J-5
第一行動方針:マリオ優先で人を捜し、殺す。
基本行動方針:皆殺し
最終行動方針:優勝してデイジーを生き返らせる
備考:いつ目覚めるかは不明です。】
【タケシ@ポケットモンスター 死亡確認】
【モナ@メイドインワリオ 死亡確認】
※タケシとモナの支給品(拡声器、武器含む)は放置してあります。
最終更新:2007年03月05日 20:19