双葉恋太郎、職業探偵、その実便利屋、双子の女の子と暮らす双葉探偵事務所二代目所長
探偵というものを諸君はどう見る?
世間様は、探偵といえば皆、金田一やら京極堂やらと同レベルの頭の持ち主と思い込んでいるフシがあって、事あるごとに殺人事件やら遺産相続問題やらに関わるのが定番なのだろう、とそんな「二時間ドラマの見すぎじゃないッスか?」と皮肉を言いたくなるような偏見を持たれている。
それってどうなんスかね?
実際の探偵といえばアレよ、地味なもんよ。猫探しと浮気調査は家政婦ではなく探偵の仕事だと世の皆さんに教授したいってなところでござんす。
世間様は、探偵といえば皆、金田一やら京極堂やらと同レベルの頭の持ち主と思い込んでいるフシがあって、事あるごとに殺人事件やら遺産相続問題やらに関わるのが定番なのだろう、とそんな「二時間ドラマの見すぎじゃないッスか?」と皮肉を言いたくなるような偏見を持たれている。
それってどうなんスかね?
実際の探偵といえばアレよ、地味なもんよ。猫探しと浮気調査は家政婦ではなく探偵の仕事だと世の皆さんに教授したいってなところでござんす。
さて。いま俺は、探偵らしく謎の壁にぶち当たっている。
謎の内容は「この殺し合いを脱する方法はなにか?」であり、回答は「さっぱりわかんね」の一言のみ。
二子魂川在住の俺、双葉探偵事務所二代目所長、双葉恋太郎は探偵の肩書きを背負ってはいるが、その実やってることは便利屋だ。
便利屋という家業が拉致や脅迫や殺人に対してなにをどうしてどうこうすれば、解決へと導けるのか。やっぱさっぱりわかんね。
こんな二代目を、ニコタマのみんなは不甲斐なく思うだろうか。思うんだろうなぁ。世の中、探偵ってものに夢を見すぎている気がしてならない。
いま求められているのは探偵なんかじゃない、魔法使いだ。問題をパパッと解決してくれるような。俺はそう考えるね。
二子魂川在住の俺、双葉探偵事務所二代目所長、双葉恋太郎は探偵の肩書きを背負ってはいるが、その実やってることは便利屋だ。
便利屋という家業が拉致や脅迫や殺人に対してなにをどうしてどうこうすれば、解決へと導けるのか。やっぱさっぱりわかんね。
こんな二代目を、ニコタマのみんなは不甲斐なく思うだろうか。思うんだろうなぁ。世の中、探偵ってものに夢を見すぎている気がしてならない。
いま求められているのは探偵なんかじゃない、魔法使いだ。問題をパパッと解決してくれるような。俺はそう考えるね。
――魔法使いは、どこだ?
◇ ◇ ◇
遊園地である。
メリーゴーランド、観覧車、巨大コーヒーカップ、ジェットコースター、その他諸々。
えらくファンシーな御伽の国だ。俺には似つかわしくない。というよりこんなところで一人突っ立ってるのは小っ恥ずかしい。
ここなら魔法使いの一人や二人いそうだな、と幻想に浸りつつも、まさかの展開としてネズミのきぐるみを着たおっさんでも飛び出してくるんじゃないかと俺は若干、戦々恐々とした。
メリーゴーランド、観覧車、巨大コーヒーカップ、ジェットコースター、その他諸々。
えらくファンシーな御伽の国だ。俺には似つかわしくない。というよりこんなところで一人突っ立ってるのは小っ恥ずかしい。
ここなら魔法使いの一人や二人いそうだな、と幻想に浸りつつも、まさかの展開としてネズミのきぐるみを着たおっさんでも飛び出してくるんじゃないかと俺は若干、戦々恐々とした。
踏み入ったのは、お城である。
時間が時間だったからな、アトラクション内の照明は落とされ、真っ暗闇だ。
夜な夜な遊園地を徘徊、なんて警察沙汰もいいところだが、俺は不思議と、この場所に引き込まれたんだ。
時間が時間だったからな、アトラクション内の照明は落とされ、真っ暗闇だ。
夜な夜な遊園地を徘徊、なんて警察沙汰もいいところだが、俺は不思議と、この場所に引き込まれたんだ。
悪者に襲われた少女の悲鳴でも聞きつけたのかね。相すいません。俺にそんなヒーロースキルはござんせんのだ。
ただ、結果として人はいた。どんな偶然だ、と内心驚いてはいるものの、探偵の嗅覚は人を探し当てちまった。
ただ、結果として人はいた。どんな偶然だ、と内心驚いてはいるものの、探偵の嗅覚は人を探し当てちまった。
――魔法使いか?
いや、違う。
――寂しそうに震える、子猫だった。
◇ ◇ ◇
「辻堂剛史という男を探して」
遊園地内のアトラクションには内装豪奢なお城があって、なんの気なしに暗闇の城内に迷い込んでみれば、女の子がいた。
比喩するとすればフランス人形だろうか。今どきじゃロリータファッションなんてのに分類される、ひらひらの華美な洋服を纏っている。
女の子は俺を見るや否や、おまえは誰かと聞いてきた。「双葉恋太郎。探偵ッス」と答えたら、「じゃあ」と女の子はお願いしてきた次第だ。
いやはやそれにしても、いきなりである。
比喩するとすればフランス人形だろうか。今どきじゃロリータファッションなんてのに分類される、ひらひらの華美な洋服を纏っている。
女の子は俺を見るや否や、おまえは誰かと聞いてきた。「双葉恋太郎。探偵ッス」と答えたら、「じゃあ」と女の子はお願いしてきた次第だ。
いやはやそれにしても、いきなりである。
「その前に、依頼主様の名前くらいは教えちゃくれないかね?」
「繭子よ。その名前を出せば、剛史もあなたを信用すると思うから」
「繭子よ。その名前を出せば、剛史もあなたを信用すると思うから」
繭子なる洒落た名前を持つお嬢さんは、ぶっきら棒にそう答えた。
ランタン片手に夜の遊園地を、それもファンシーなお城の中を徘徊している男相手に、よくも気丈に振舞えるものだ。
それにしたって、探偵という肩書きをすんなり信じ、こういった環境下でいきなり人探しを依頼してくるなんて、人間にしちゃできすぎている。
俺にゃ幼子を脅迫する趣味なんてないが、意地悪の一つや二つは覚悟してもらわにゃあな、へっへっへ……って、俺もなに考えてんのかね。
ランタン片手に夜の遊園地を、それもファンシーなお城の中を徘徊している男相手に、よくも気丈に振舞えるものだ。
それにしたって、探偵という肩書きをすんなり信じ、こういった環境下でいきなり人探しを依頼してくるなんて、人間にしちゃできすぎている。
俺にゃ幼子を脅迫する趣味なんてないが、意地悪の一つや二つは覚悟してもらわにゃあな、へっへっへ……って、俺もなに考えてんのかね。
しょーじき、持て余してます。
無気力っつーか、無力っつーか。
もう、なにから手をつければいいのかね。
わかんね。さっぱりわかんね。どうしよう。
双樹と沙羅は元気かねぇ。つーか……
無気力っつーか、無力っつーか。
もう、なにから手をつければいいのかね。
わかんね。さっぱりわかんね。どうしよう。
双樹と沙羅は元気かねぇ。つーか……
「……? どうしたの? なにか言いなさいよ」
「……あー……いや、相すいません」
「……あー……いや、相すいません」
そうだよ。ここにゃ双樹と沙羅もいるんだよな。
俺と同じく、双葉探偵事務所の優秀な職員であり、また大事な家族でもある双子の女の子。
配られたバッグの中に入っていた……この島にいる人間の一覧表? に、仲良く白鐘の二文字が並んでいた。
あいつらの保護者的立場にある俺としては、是が非でも助けにいくべきなんだろうなぁ。いろいろと危ない場所みたいだし。
で、そこまで考えると思うわけですよ。「双樹と沙羅はどこにいる?」ってね。……誰か、うちの双子ちゃん知りませんか?
俺と同じく、双葉探偵事務所の優秀な職員であり、また大事な家族でもある双子の女の子。
配られたバッグの中に入っていた……この島にいる人間の一覧表? に、仲良く白鐘の二文字が並んでいた。
あいつらの保護者的立場にある俺としては、是が非でも助けにいくべきなんだろうなぁ。いろいろと危ない場所みたいだし。
で、そこまで考えると思うわけですよ。「双樹と沙羅はどこにいる?」ってね。……誰か、うちの双子ちゃん知りませんか?
「実はさ、俺も俺で人を探さなきゃいけないわけよ。その、辻堂さんだっけ? 探すのは別にいいんだけどさ」
「じゃあついででもいいわ。報酬は現物で構わないわね?」
「じゃあついででもいいわ。報酬は現物で構わないわね?」
なんと交渉上手なお嬢さんだろう。繭子は傍らのバッグから武器のようなものを数点、俺に手渡し、報酬の先払いを済ませてしまった。
というか、拳銃だった。二時間ドラマの探偵だってこんなもの持ちやしない。俺にだって不相応な代物が、確かな重みとして手の中にある。
こんなんでどうしろと。暴徒と出会ったってこちとらステゴロでいく気マンマンよ。人殺しになってもいいや、なんて思えるほど俺は病んじゃいない。
というか、拳銃だった。二時間ドラマの探偵だってこんなもの持ちやしない。俺にだって不相応な代物が、確かな重みとして手の中にある。
こんなんでどうしろと。暴徒と出会ったってこちとらステゴロでいく気マンマンよ。人殺しになってもいいや、なんて思えるほど俺は病んじゃいない。
「……あのさ」
「なに?」
「なに?」
荷物の整理をしつつ、俺は小さな依頼主とのコミュニケーションに励む。
「初対面の俺に、どうしてこんなことを?」
「あなたが探偵だからでしょ?」
「いや、それにしたってですね」
「幸福な偶然とも言えるかしら」
「はぁ、さいでござんすか」
「運が悪かったら、殺されてたかもしれないから」
「そりゃごもっともで。すげぇ勇気だよ」
「一人で出歩いたって、死ぬだけだから。最後まで運試しよ」
「なんなら、エスコートの依頼だって請け負ったっていいんだけど?」
「そこまでは信用していないわ。あなた、頼りなさそうだし」
「大した観察眼ですよ。こちとら涙が出てくるね」
「あなたが探偵だからでしょ?」
「いや、それにしたってですね」
「幸福な偶然とも言えるかしら」
「はぁ、さいでござんすか」
「運が悪かったら、殺されてたかもしれないから」
「そりゃごもっともで。すげぇ勇気だよ」
「一人で出歩いたって、死ぬだけだから。最後まで運試しよ」
「なんなら、エスコートの依頼だって請け負ったっていいんだけど?」
「そこまでは信用していないわ。あなた、頼りなさそうだし」
「大した観察眼ですよ。こちとら涙が出てくるね」
そんな会話。
もうちょっと、小さな女の子用に話題のレパートリーを増やしておくべきだったろうか。
ま、こちとら探偵家業だ。無闇な詮索は嫌われる元ってね。早死ににも繋がるし。
もうちょっと、小さな女の子用に話題のレパートリーを増やしておくべきだったろうか。
ま、こちとら探偵家業だ。無闇な詮索は嫌われる元ってね。早死ににも繋がるし。
とりあえず、俺はこの殺し合いの場で探偵としての仕事を得た。
拒否をしなかったのは請われたから。請け負ったのは俺が探偵だから。
双樹と沙羅を探すついででもある。見つけてどうする。さっぱりわかんね。
辻堂さんとやらは遊園地に案内するとして、それでこの子はどうなる。どうなるのかね。
拒否をしなかったのは請われたから。請け負ったのは俺が探偵だから。
双樹と沙羅を探すついででもある。見つけてどうする。さっぱりわかんね。
辻堂さんとやらは遊園地に案内するとして、それでこの子はどうなる。どうなるのかね。
考えたら止まっちまう。
止まるのはまずいと思うから動く。
探偵の基本は足だ。操作の基本も足。
うだうだ言っても始まらない。こういうときは動くに限る。
止まるのはまずいと思うから動く。
探偵の基本は足だ。操作の基本も足。
うだうだ言っても始まらない。こういうときは動くに限る。
――俺が動いてる間に、魔法使いが全部解決してくれる展開は?
求めてもやってこないのだろう。わかる。よくわかる。人生、都合よくはいかないもんだ。
だからといって俺になにができる。考えてもわからない。考えるとやっぱり止まっちまう。
というわけで、俺は探偵として動く。人探し。いいじゃないの。探偵ってこう、平凡なもんなんだからさ。
だからといって俺になにができる。考えてもわからない。考えるとやっぱり止まっちまう。
というわけで、俺は探偵として動く。人探し。いいじゃないの。探偵ってこう、平凡なもんなんだからさ。
「んじゃ、俺はもう行くけど。くれぐれもここを離れないでくれよ、小さな依頼主さん」
「働きを期待しているわ、探偵さん。依頼人の素性については、他言無用でお願いね」
「働きを期待しているわ、探偵さん。依頼人の素性については、他言無用でお願いね」
別れるときの会話も、そんなもんだ。
なんだか妙に気疲れした。詮索屋は嫌われるが、この繭子なる少女に興味を持ってしまったのも事実。
風格からしてただもんじゃないような気もしなくはないが、やっぱり質問に移すのはやめておこう。これも職業病か。
なんだか妙に気疲れした。詮索屋は嫌われるが、この繭子なる少女に興味を持ってしまったのも事実。
風格からしてただもんじゃないような気もしなくはないが、やっぱり質問に移すのはやめておこう。これも職業病か。
城を出ても、辺りは暗いままだった。時間を確認してみたら、まだ夜の三時を過ぎた頃。日の出は遠い。
ここで夜風を楽しみつつたそがれてみる俺。広い広い島のどこかでは、誰かが殺されたり殺したりしてるのかね。
それがたとえ双樹や沙羅であったとしても、俺にはピンチのコールを聞きつけて助けに駆けつける能力なんてないわけで。
それが悔しいといえば悔しいし、不安といえば不安、実感が湧かないという気持ちもあれば、ぶっちゃけ夢でも見てる気分が少しばかり。
ここで夜風を楽しみつつたそがれてみる俺。広い広い島のどこかでは、誰かが殺されたり殺したりしてるのかね。
それがたとえ双樹や沙羅であったとしても、俺にはピンチのコールを聞きつけて助けに駆けつける能力なんてないわけで。
それが悔しいといえば悔しいし、不安といえば不安、実感が湧かないという気持ちもあれば、ぶっちゃけ夢でも見てる気分が少しばかり。
――魔法使いはまだか?
他力本願にもほどがあるって?
相すいません、俺は金田一や京極堂にはなれないようで。
相すいません、俺は金田一や京極堂にはなれないようで。
◇ ◇ ◇
窓の外から、星空を見上げる。
まるでかごの鳥。自身はここから抜け出せない。
夜が過ぎれば朝が訪れ、昼に至る。それを思えば――。
日光に焼ける我が身はそこで朽ち、誰に殺されることなく死を迎える。
不老不死は極めて限定的なもの。弱点に克服の余地はない。
嘆くは己の無力さ。諦めるのは今後の活動。
受け身に周り、騎士を待つばかりの生活。
まるでかごの鳥。自身はここから抜け出せない。
夜が過ぎれば朝が訪れ、昼に至る。それを思えば――。
日光に焼ける我が身はそこで朽ち、誰に殺されることなく死を迎える。
不老不死は極めて限定的なもの。弱点に克服の余地はない。
嘆くは己の無力さ。諦めるのは今後の活動。
受け身に周り、騎士を待つばかりの生活。
探偵は彼をつれてきてくれるだろうか。一見しただけでは手腕が見切れない。
動いても死。足掻いても死。黙しても死。そういう意味では、たった一つの希望。
双葉恋太郎が死ぬなら、神河繭子も死ぬ。これは仕様のない、妥協したゆえの連鎖。
動いても死。足掻いても死。黙しても死。そういう意味では、たった一つの希望。
双葉恋太郎が死ぬなら、神河繭子も死ぬ。これは仕様のない、妥協したゆえの連鎖。
あっさり死を受け入れようとしないことだけが、救いだったろうか。
生存の希望も持てないこの余興に、しかし自分は抵抗してみようと思ってもいる。
生存の希望も持てないこの余興に、しかし自分は抵抗してみようと思ってもいる。
探偵が彼をつれてくれば、事態は好転するのかもしれない。
これは賭け。そして運試し。賽の目はどう出るかわからない。
これは賭け。そして運試し。賽の目はどう出るかわからない。
さあ、もうすぐ朝がやって来る。
来園者は当分訪れぬだろう。探偵が口を滑らせない限りは。
来園者は当分訪れぬだろう。探偵が口を滑らせない限りは。
神河繭子はいつものとおり、ダンボールを被って部屋の隅に身を落ち着かせた。
薄暗い、〝夜禍〟が生きるための闇に溶け込む。
【H-5遊園地/園内/1日目 黎明】
【双葉恋太郎@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:コルトM1851(6/6)、ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:――魔法使いはどこだ?
1:白鐘双樹、白鐘沙羅の捜索及び保護。
2:辻堂剛史を見つけ、遊園地にいる繭子のもとへつれていく。
【装備:コルトM1851(6/6)、ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:――魔法使いはどこだ?
1:白鐘双樹、白鐘沙羅の捜索及び保護。
2:辻堂剛史を見つけ、遊園地にいる繭子のもとへつれていく。
【H-5遊園地/お城風のアトラクション内/1日目 黎明】
【神河繭子@sola】
【装備:ダンボール箱】
【所持品:支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ここを動かない。
1:探偵が剛史をつれてくるのを待つ。
【装備:ダンボール箱】
【所持品:支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ここを動かない。
1:探偵が剛史をつれてくるのを待つ。