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人殺しの話――(ひとごろし野放し)

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人殺しの話――(ひとごろし野放し) ◆EchanS1zhg



 【0】


人が死ぬ時にはね――
そこには何らかの『悪』が必然であると、『悪』に類する存在が必然であると、この私はそんなことを思うのだよ。


 【1】


朝という時間も過ぎ、街も暖め始められた午前の頃合。
本来ならば人通りも少なくないだろうに、しかしそんな気配を僅かにも感じさせない通りをひとりの少年が歩いていました。
深夜の散歩のような人気のなさと、活気を想像させる午前の風景。
その矛盾を楽しんでいるのか、足取りも軽くブロックの敷き詰められた歩道をとんとんと歩いています。

少年はかなり背が低くそして愛らしい顔をしており、それだけならば場合によっては少女と言っても通じるかも知れませんでしたが、
しかしその他の全てがそれを否定していました。
裸の上半身にそのままタクティカルベストを纏い、下はタイガーストライプのハーフパンツを穿いており、足元は物騒な安全靴。
手にはオープンフィンガーグローブと、これだけでも相当なものですが、
頭に注目してみれば、斑に染めた髪の毛。右耳には3連ピアス。左耳にはピアス代わりに携帯のストラップが吊られています。
そして、なにより少年の印象を強く変えているのが顔面の右半分に彫り込まれた凶悪なデザインの刺青でした。

顔面刺青――そんな代名詞を入れられちゃう少年の名前は零崎人識。

零崎の中の零崎。零崎と零崎の零崎。零崎の申し子。少年は――殺人鬼でした。



そんな顔面刺青であり殺人鬼でもある少年は、午後に入る前のまだ軽やかな空気を吸いながら道を行きます。
取り立てて行き先があるわけでもなく、そぞろと、なんとなしの感覚で太陽を右側に北へと向かっていました。
そして河に架かる橋に到達したというところで少年は橋の真ん中あたりに誰かがいるのに気づきました。

「何してるんだ、ありゃあ……?」

年季の入った茶色のコートと目深に被った飛行帽。
背丈はやや小柄で少年とも少女とも判別のつかないその人物は、どうやら大きな箱を橋の上から押し出そうとしているようです。
近づきながら見れば、どうやらそれはぐるぐると縄を巻かれた中ぐらいの冷蔵庫でした。

「不法投棄じゃねぇか……! おい、ちょっとそこのお前っ!」

当たり前かつ場違いなことを言いながら少年は、どちらともつかない人物へと駆け寄ってゆきます。
しかし、冷蔵庫を投棄しようとしていた人物は少年を一瞥すると、躊躇うことなくそのまま押し切り、それを落としてしまいました。
ふわりと冷蔵庫が宙に飛び出し、すぐに水面にぶつかって大きな音を立て、そして泡だけを残して沈んでゆきます。
少し濁った水面からはすぐに冷蔵庫の姿は見えなくなり、引き上げようにもできないだろうとそんな感じです。

「なにやってんだそこおおぉぉおおおっ!!」

顔面刺青であり殺人鬼でもある少年からの厳しいツッコミが何者かへとぶつけられます。
それは、こんな殺し合いの場面でという意味なのか、ただその行為に対してなのか、色々と意味を取ることはできますが、
少年にとっては後者でした。
不思議な話ではありますが、殺人鬼であっても少年はそれなり以上の常識も持ち合わせているのです。

「そういうのはリサイクル業者に頼むもんだろうがよぉ……あーあ、もうこれどうするんだ……?」

少年は冷蔵庫を落とした人物の隣まで来ると橋の欄干から河を見下ろして深い溜息をつきました。
そして、あらためてその犯人(しかも現行犯)をまじまじと観察します。

年齢は少年よりも低そうに見えました。もっとも少年自体が相当に低く見られるので傍から見れば同じくらいです。
格好は黒のジャケットに黒のズボン。その上に茶色のコートを羽織って、頭にはゴーグル付きの飛行帽。
短めの黒髪に、精悍な顔つき。ここまでだと一見すれば男性だと思ってしまいそうですが、しかしよく見れば少女でした。
そして、少女は少年よりも少しだけ背が高いようでした。

そんな少年のような少女の名前はキノ。

旅人であり、パースエイダー(注・パースエイダーは銃器)の名手。少女は――人殺しでした。



殺人鬼は人殺しに対して、いかに君が行ったこと――不法投棄は悪辣非道なことかを説きます。
どれだけ反社会的な行動で、どれくらい非エコロジーで地球環境を省みない行為なのか、滔々と語ってみせます。
そんな彼に対して人殺しの少女は、「はぁ、そうなんですか」などと曖昧な返事を繰り返すばかりでした。
じゃあ、もういっそこんな不届き者は殺して解して並べて揃えて晒してしまおうかと少年が思った時、

少年のおなかがぐぅと鳴りました。


 【2】


「”死なない”人間の首ねぇ……」

場面は変わって先ほどの橋より程近い場所にある庶民的なラーメン屋さんの中。
少年と少女は向かい合って同じテーブルにつき、朝食と昼食を兼ねた食事――お洒落に言えばブランチをいただいてました。

「変な話だな」
「ええ、ボクもそう思います。とても驚きましたし」

ラーメンをすすりながら少年は言い、少女は餃子をパクパクと平らげながら答えました。
かくかくしかじかと略さずに説明すると、先ほど少女が投棄した冷蔵庫の中には死なない人間の首が入っていたそうです。
正確に言えば、殺しても生き返る人間。なので、少女は首だけを持ち去りどこかに捨てればいいと考えたのです。

「まぁ、魔法がありならなんでもありか」
「そうなのかもしれませんね」

少年は先の放送で聞かされたことを反芻し、そして自身が出会ってきた人物達のことを思い出しました。
虎の様な少女。卑怯な軍人。超電磁砲。戦うメイド。真白なシスター。男と女と、燃えカスと魔法使い――無茶苦茶でした。
生き返る。つまりは死んだふりかもしれないし、特殊な蘇生技術かもしれないそれ。
殺し名と呪い名の名前と例をあげればある程度は理屈が考察できそうでしたが、以下省略。考えても無駄だと割り切りました。

「しかし、お前も人の情ってのがないのかよ。割り切り……いや、この場合は切り捨てのプロだな」
「うーん……」

かははと笑い少年は分厚く切った焼豚を口に放り込みました。少女は無愛想な表情でまだまだと餃子を平らげてゆきます。
ふたりは橋の上で出会った後、少年が食事をとろうといったのでここまで移動してきました。少女に断る理由はなかったからです。
そして、当たり前ですが店内は無人でしたので少年がそれなりの腕を振るって食事を並べ、
今は無言で食事を進めるのも寂しいという少年の言により、それぞれの経緯を話し合っているという訳です。
その中で少年は自身が出会ってきた変テコな人々の話を、少女は自分が切り捨てた4人の話をしました。

「なんであんたはそいつらを殺したんだ?」

全くもって誰に対しても愚問でしたが、殺人鬼は人殺しに対してそんなことを聞いてみました。

「自分が生き残るため、ですね」

少女はその理由を、そもそも理由なんか持たずに人を殺してしまう少年に答えました。少年はかははと笑います。

「最後の一人になっても生きて帰れる保障なんかないぜ? 嘘かもしれないし、その時はどうするんだ?」
「その時は、その時になってから考えます」
「気のきかない回答だな」
「ええ、そう思います」

少年は息をひとつついてまたラーメンをすすりました。少女は大量にあった餃子の最後を名残惜しそうに飲み込みます。
殺すことに関しては真逆の殺人鬼と人殺しでしたが、先の展望のなさに関しては似たもの同士でした。
そしてなにより、

「ごちそうさま」
「ごちそうさま」

ふたりはハラペコキャラでした。


 【3】


ところで、と殺人鬼は話を切り出しました。

「俺も殺すのか?」

人殺しは何も答えません。しかし場面を取り巻く空気の色が変わりました。緊張の糸がピンと張り詰めます。

「俺は別にどっちでもいいんだが……」

少年は少女を観察していました。おそらくは相手も同じです。なんてことのない食事の風景でしたが、両者ともプロのプレイヤーでした。
生粋の殺人鬼は目の前の人殺しを分析します。
4人殺したというのは本当でしょう。むしろ、ここに来る前はもっと殺していたに違いありません。それが”匂い”でわかりました。
性質としては『薄野』か、それとも『天吹』が近いのか、『零崎』と同じ殺し名を浮かべて少年は考えます。

「まぁ、俺はちょっとした契約があって自分から手は出せないんで、そっちが決めてくれ」

切欠を与えれば目の前の少女は確実に自身を殺しにかかってくる。その確信がありながら少年は緊張の糸を引きます。
はたして殺し合いが始まったとして勝てるのか?
それは少年にとって問題ではありません。問題となるのはそこではなく、やはり死色の真紅との取り決め。不殺の誓いでした。

「あぁ、別に食事を奢ったことに関しては気にしなくていーぜ。どうせ無銭飲食だしな」

だけど、あの真っ赤な鬼殺しはこの場所にはいません。未だ不明の登場人物の中にいるとも思えません。
たったこれっぽちの世界の端。開始より半日足らずも経過した今。行き遭ってないという事実が彼女の不在を証明していました。
零崎人識の物語が零時から開始したとして、未だ欠陥製品とも遭遇を果たしていない。これは零崎人識だけの番外編と断言できます。

「………………」

だったらいいんじゃないか? そんな気持ちが殺人鬼の中でむくむくと起き上がってきます。
緊急事態。殺し合いを強要され一人しか生き残れないという状況。殺害の匂いを濃く漂わす者が目の前にいるという場面。
つい先ほどもそんな存在と遭遇し、そんな現場を目の当たりにしたばかりで、みんながそうしているのを見せられて、
勿論、他人は他人、自分は自分、人の殺しは人の殺し、自身の殺しは自身の殺しと言えるのだけど、どうして我慢するのかとも思えます。

零崎にとって殺人とは生き様――ですらありません。
必要だからというわけでもなく、息をするように以下の心臓を動かすように程度の生態であり性質であり、生の有様。

生き焼かれた獣の咆哮か、魔術師の含む冷たい笑いか、旅人の見つめる無感情な目にか、

少年の中の『零崎』が僅かに”洩れ”ました。

たったそれだけで、始まりました。

殺人鬼である少年にも、人殺しである少女にも、それだけで十分だったのです。


 【4】


――さぁ、零崎を《再開》しよう。


 【5】


瞬間。少女によってテーブルが蹴り上げられ、その上に乗っていた食器ごと少年へと降りかかってきました。
瞬間。ひうんと音がして、テーブルが乗っていた食器ごとバラバラに寸断され床に派手な音を立ててばら撒かれました。

ここまでおよそ1秒。
少年はポケットになにかを仕舞うと、ゆっくりと椅子から立ち上がりながら店の奥にまで移動していた少女を見ます。
そこにはこちらへと向けられた無骨なリボルバーの銃口があり、そうだと認識する前にそれが火を噴きました。

がぃうん――と、今度はそんな奇妙な音が響きました。
見れば、何時の間にちょろまかしていたのか少年が心臓を庇うかのように分厚い中華包丁を構えています。
そしてその刃の真ん中に小さな、まるで銃弾を受け止めたかのような痕ができており、それはそのままその通りでした。
少年は発射された弾丸を見切り中華包丁でガードした――ということでした。

再び銃声。今度は奇妙な音は響かず、ただ少年の座っていた椅子の背に穴が開く音だけが小さくしました。
回避を成功させ椅子から通路へと出ていた少年の手には新しい刃物が握られており、中華包丁はもう床の上です。
3発目の銃声。これも少年には当たりません。ただ、その後ろにあった入り口のガラスを砕いただけでした。

決して少女の射撃技術が低いというわけではありません。
少女は正しく心臓や当たれば致命傷となる場所を撃ちました。避けなければ少年が死んでいたのは間違いありません。
けれども、『零崎』の少年はそれを容易く避けてみせるのです。
普通は避けれません。発射された銃弾が人間の運動能力以上の速度を持っているという現実は決して覆りません。
しかし、銃には狙いをつけて――つまりは”殺気”を発してから発射されるまでのどうしようもないタイムラグが存在します。
コンマ数秒。熟練していればそれ以下。少女は熟練者ではありましたが、しかしどうやってもそれを零にすることはできません。
そして、そのタイムラグが零でないとするならば、殺気を感じることのできる『零崎』にとっては無限にも等しい時間なのです。
故に、『零崎』に銃は通用しません。ですが、

「かはは」

少年はカウンターの上に”飛び移されて”いました。
3発目の銃撃を避けカウンターの上に飛び移ったのは紛れもなく少年の意志です。しかしそこに少女の誘導がありました。
まるで”銃弾を避ける者との戦闘の経験がある”かのように、彼女はそれを前提とした牽制射撃を行ってみせたのです。
たった2発で少年に銃撃が通用しないと知ると、
少女は3発目にお腹より少し下――大きく動かないと次の回避に支障が出るような場所を狙ったのです。
これには少年も舌を巻きました。
『零崎』の前で拳銃を構える者はことごとく屠られるだけの雑魚キャラくんでしかなかったはずなのです。
しかし、別世界からやってきたのかもしれない少女――キノは違いました。少年――人識はとても傑作なことだと思いました。

4発目の銃声が鳴り響きます。
カウンターの上を突進していた人識はそれを軽く跳躍することで回避”させられ”ます。
着地の際に発生するこれもコンマ以下のタイムラグ。
無限とは言わないまでも、キノが扉を潜って店の奥へと退くには十分な時間でした。


零崎を再開してより5秒ほど。状況は再びニュートラルなものへと戻りました。


キノは決してひとつの殺しに執着するタイプではないだろうと人識は理解しています。
”必要”の為に殺す者は不必要や無駄、それにリスクを忌諱します。ここで無理や無茶をするとは思えません。
つまり追わなければ再開した零崎は終了です。誰も殺していませんので死色の真紅の約束を破ったことにはならないでしょう。
それに、溜まっていた鬱屈も多少は晴れました。食後の運動としても今のでちょうどいい具合です。

「また、放浪するかな……?」

戦場のど真ん中で人識は余裕たっぷりに5秒ほど思考して、


その次の瞬間――爆炎に吹き飛ばされました。


再開より合わせて10秒。それで人識の零崎は完全に停止してしまいました。


 【6】


粉塵やら瓦礫やらが積もり積もった”廊下”の上に血塗れとなって横たわる人識の姿がありました。
その傍らには油断なくショットガンを構えるキノが立っています。
どうやら、致命傷を負った人識に介錯の一撃を放つか、それをキノが逡巡しているという場面のようです。

口からごぼごぼと血を吹く人識は目線だけでキノの申し出を断りました。
キノも弾丸が勿体無いからでしょうか、それを承諾して――そして抜け目なく彼のデイパックを回収してその場を去ります。
去り際にただ一言、

「あなたは今まで出会った中で最悪の敵でしたよ」

そう言い残して行ってしまいました。


これが殺人鬼と人殺しの邂逅の始まりから終わりまでの全てでした。


 【7】


ずたぼろとなった人識ですが、全身の傷は爆炎――いきなり撃ちこまれたロケット弾によるものではありません。
さすがにそれが店内に飛び込んで来た時には人識もひどく驚きましたが、そんなもので殺される彼ではありませんでした。
ロケット弾の軌道は見れば察することは容易でしたし、
そうだと解れば避けながらすれ違い、背後からくる爆風で”自身を加速させる”なんて芸当も難しくもありません。

ですが、故に人識は次のショットガンの一撃を避けることができませんでした。
なにせそこには全く”殺気”がなかったのです。
自分がどのようにして人殺し――キノにしてやられたのか、気づいた時には無数の散弾が身体にめり込んでいました。

ロケット弾は人識を仕留める為の攻撃ではありませんでした。
キノが人識と自分との間に煙幕という”目隠し”をする為の手段でしかなかったのです。
そして、ロケット弾を撃ち放ったキノはすぐさまに”煙”を撃ちました。
もし人識が突進してくるとしたならば通らざるを得ないルート。人識ではなく、あくまでルートをキノはただ無意で撃ったのです。
そこに人識がいてもいなくても関係なく、仮に人識が店から出て逃亡していたとしても関係なくキノは撃ちました。

人識がいると確信があれは殺気が生じてしまう。目で確認できてしまっても殺気が生じてしまう。
故に、キノはあえて不確定な状況をつくることで、そこにただの撃つだけ状況を作り、無意の一撃を放ったのです。
こんなものが避けられるはずがありません。意図のない弾丸。殺気のない弾丸。
ましてや人識は爆風により加速中。煙幕を抜けた時にはそれを避け得る猶予は全くの零でした。



傑作だと、人識は顔を笑いの形に歪めます。
”撃ち殺された”零崎など前代未聞もいいところでしょう。おそらく、この先にも出てくることはないと思われます。
もしも死んだ兄がこれを聞いたらどんな表情をするのか。もし大将に聞かれでもしたら殺されてしまうだろう。
そしてあの生まれたての妹がこれを知ったらあいつはどうするのか。人識は想像して、笑う代わりに血を吐きました。

自分を狙っていない弾丸――殺意ゼロの弾丸に撃ち殺される。
乗することも除することもできない零を撃ち抜くのはゼロの弾丸。まさにこれが零崎殺し。
両手が動くならば拍手喝采ものだとそう思い、そしてそれができないことが少し残念なことだと人識は思いました。



あいつは、あの欠陥製品はこないのだろうかと死に瀕した人識は思います。

もう死ぬということは避けられません。どうしようもない致命傷です。いくつかの弾丸が内臓を食い破っていました。
このまま退場して零崎人識の物語は幕を閉じる。それは避け得ないことです。
だったら、ここにあいつがこないと場がしまらないんじゃないか――なんて期待。

しかし、せっかく介錯を断ってまで苦痛に耐えているというのに、待てども待てどもその気配はありません。
まったくこちらが何度あの欠陥製品の危機に駆けつけたことか。人識は心の中で毒づきます。
もっとも約束があるわけでもなく、またこちらが駆けつけてない危機がある以上、それはお門違いもいいところなのですが。

そろそろ人識の意識も遠くなってきました。
死色の真紅と遭遇したあの時に零崎が終わっていたのだとしたら、こんなところで死ぬのがむしろ相応しいのかもしれない。
「それも悪くない」――ある零崎の言葉が人識の中に浮かんできます。

そして、最後に……自分のことを最悪だと言い残して去っていったあのキノという少女のことを思い、

「知ってるよ」

と呟いて息を引き取りました。




【零崎人識@戯言シリーズ 死亡】


 【8】


「ただいま……と言っても君は返事してくれないんだよね」

最初に人識と出会った橋のたもと。
スクーター(注・モトラドではない)を停めていた所まで戻ってくるとキノはようやくふぅと一息つきました。

「まったく、恐ろしい相手だった……」

来た道を振り返りキノは誰となしに――スクーターは返事をしてくれないので本当に誰となしに呟きました。
零崎人識――あの奇抜な格好の少年はキノが今まで出会った敵の中でも最悪のものでした。
どんな殺人者にも殺す理由というものがあります。殺すという意志がいつもこちらを向いていました。

復讐の為に刃を向ける男。
国と家族を守る為に銃を掲げる兵士。
僅かな金品の為に襲い掛かってくる野党。
感情の発露のままに酒瓶を振り上げる酔っ払い。
己のテリトリーを守る為に唸り声をあげる森の中の獣。

どれもこれもが同じようにそれを持っていましたが、しかしあの少年の殺意に指向性は零(ありません)でした。
存在そのものが殺人という現象。まるで人を怖がらせるための物語の中に登場する殺人鬼。
まだ背中に残っていた僅かな怖気にキノは身体を震わせます。

「餃子おいしかったですよ」

そういえばご馳走の礼をしていなかったことを思い出し、一応はと声にするとキノはスクータに跨りました。

「神社か……なにか手ごろな武器を調達できるといいんだけどな」

言うと、少年から人が集まっていると話を聞いていた神社へと向かいスクーターを発進させます。
そしてエルメスのものとは比べくもない軽い音をたて、太陽を背に河を右手に西へとそのまま走り去って行きました。


殺人鬼と人殺しが殺しあったなどとは想像もできない青い空がその上に広がっており、吹く風はとても爽やかなものでした。




【C-4/路上(南側)/1日目・昼】

【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
【状態】:健康
【装備】:トルベロ ネオステッド2000x(12/12)@現実、九字兼定@空の境界、スクーター@現実
【道具】:デイパックx1、支給品一式x6人分(食料だけ5人分)、空のデイパックx4
     エンフィールドNo2x(0/6)@現実、12ゲージ弾×70、暗殺用グッズ一式@キノの旅
     礼園のナイフ8本@空の境界、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、少女趣味@戯言シリーズ
【思考・状況】
 基本:生き残る為に最後の一人になる。
 1:神社に向かう。交渉か襲撃かは状況しだい。
 2:エルメスの奴、一応探してあげようかな?

[備考]
 ※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
   8巻の『悪いことができない国』の充電器のことは、知っていたのを忘れたのか、気のせいだったのかは不明です。
 ※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。
 ※零崎人識から遭遇した人間についてある程度話を聞きました。程度は後続の書き手におまかせです。



 ※
 C-4北部にあるラーメン屋さんでロケット弾が炸裂し、周囲にその音が響き、家屋の一部が倒壊しました。
 その中に零崎人識の死体が残っており、ポケットの中に「七閃用鋼糸x6/7@とある魔術の禁書目録」が入っています。

 ※
 「薬師寺天膳の生首」は冷蔵庫に入れて縄でぐるぐる巻きにした状態で河に捨てられました。


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